聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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今回はちょいと短い


51話

 

 突如として現れた外敵を撃退することに成功した聖域だが、その代償としてちょっとした怪我を俺は負うことに成ってしまった。

 とは言え、アレだけの騒ぎが有っても呑気に黄金聖闘士達を職場体験に回しておく訳にも行かない。

 

 早急に使者を送り、集合可能な黄金聖闘士を十二宮へと集めることと成った。敵がアーレスの手の者だということは解ったのだ。

 奴等が何かをしでかす前に、徹底的に叩き潰す。其のための集合、そして其のための人員を選別する会議なのだが……

 

「最高戦力のうち誰を投入するのかを決めるって会議に、オルフェは兎も角としてどうして俺が居るのかって話だ」

 

 一応とはいえ、アーレス配下の獰猛(アイトン)のレーフィンとやらを撃退した事になっているから情報源として呼ばれた可能性も無くはないのだが、それだったらオルフェも呼ばれた意味が解らない。

 

 俺の疑問の声を周りの皆は耳で拾っただろうに、ソレを一切無視してピリピリとした空気が場を支配し続けていた。

 

 因みに、教皇の間にて椅子に座る教皇を仰ぎ見る形で、俺や黄金聖闘士達が整列をしている状態だ。

 

「教皇! 聖域が敵に攻め込まれ、その敵が何者であるのかも判明しているのだっ! 奴等が何か行動を起こす前に、此方から打って出るべきではないのか!」

 

 緊張感で肩が張っている俺とは違って、怒りで血流がガンガン巡っている獅子座のアイオリアは強く抗議の声を上げる。

 

「待て、アイオリア。確かに敵が来たのであるのなら戦うべきだが、その肝心の敵が何処に居るのか解らんではどうしようもない」

「聖域で戦った敵の小宇宙の残照を追ってみてはどうだ? シャカなら出来るんじゃないか」

「流石に、既に姿を消した奴の痕跡を遡って調べるのは無理だ」

 

 声を荒げていたアイオリアを嗜める牡牛座のアルデバラン。その後に続き提案をする蠍座のミロと、ソレを否定する乙女座のシャカ。

 

「雑兵の奴等が調べに回ってるんだろ? だったらその情報待ちで良いんじゃねぇか?」

「だがアイオリアの言葉にも一理はある。どうにか先手を打ち、敵にコレ以上の行動をさせないようにするべきだと俺は思うぞ」

「かと言って、俺達が無闇に飛び出して此処の防衛を疎かにする訳にも行くまい」

「我々の様に本拠地が割れている勢力は、こういった時に不便だな」

 

 苛立つように表情を歪める蟹座のデスマスク、アイオリアに同意をする水瓶座のカミュ、現実的な意見を述べる山羊座のシュラ、軽い溜め息を吐く魚座のアフロディーテ。

 

 こうしてみると、何だかんだで危機意識や正義感を持っていることが解る。

 仲が悪いような連中も意見の交換をし合っている所を見ると、社会勉強は思いの外にいい結果を出しているんじゃないんだろうか?

 

「―――静まれ」

 

 互いに意見を言い合って居た黄金聖闘士達を、教皇は一喝して黙らせた。

 

「知っての通り、先日に聖域を攻めてきた敵はクライオスの尽力によって撃退することが出来た。先ずはクライオスの話を聞こう」

 

 ザワッと瞬間的にざわめきが起き、黄金聖闘士達の視線が此方へと注がれる。コッチに顔を向けないで欲しい。胃に穴が飽きそう。

 

「今回、聖域に攻めてきた敵は神話の時代より幾度となく女神アテナと戦いを繰り広げた軍神アーレスです。撃退した奴はアーレスの狂闘士を名乗っていました」

「軍神アーレス……」

「と言うことは、聖戦が始まるのか」

 

 一部の黄金聖闘士からアーレスという名前に対して反応があった。

 報告はしているのだから、何が攻めてきたのかくらいは把握しておいた欲しい。

 

「アーレスとの最後の聖戦は今から約1000年程前。俺が身に付けている風鳥座の聖闘士が最後に居た頃です。

 その頃のことを文献で調べましたが、アーレスを討ち取った表記はなく、しかし勝利したという物だけが目立ちます」

 

 コレは正直、意味が分からない。

 レーフィンとか言うやつを撃退してから黄金聖闘士に招集を掛け、その間に聖域の資料を調べた訳だが、『アーレスを打倒した』もしくは『封印した』と言った記述が何処にもないのである。

 

 追い詰める所までは行ったようだが、其処から先がなにもない。

 コレが海王ポセイドンならばアテナの壷に封印する―――とか、冥王ハーデスならば棺に封印する―――とかの選択肢も出るのだが。

 

「なので本来ならば、情報収集を密に行い敵を追い詰めていくのが妥当とも言えるのですが……時間をかける余裕がありません」

「時間を掛けられないとは、どういうことなのだクライオス」

 

 首を左右に振った俺に、アルデバランが質問をする。

 彼は先程、慎重に行くべきだと意見をしたから尚の事だろう。

 

「現在、世界規模で犯罪の発生率が激増しています」

「犯罪の発生? だが、それ自体は珍しくも」

「些細なことで生き死にの争いにまで発展するようなことが、各地の都市で起きています。ソレは一般人は勿論として公共機関を預かる役人や交通機関で働く職員にも。現に聖域で開発中の街でも喧嘩や意図的な事故などで怪我人が急増中です。

 ―――そういった人手不足が起きているからこそ、皆さんを一遍に仕事に捻じ込む事が出来たんですが……もう少し考えるべきでした」

 

 一部、適材適所に送り込めた人材も居るが、それでも無茶な捻じ込みの連中も居たのだ。ソレをもう少しちゃんと調べておけば、黄金聖闘士を何人か残しておく選択肢も出来たのに。

 

 ……いや、『次は星矢達が成長した後だな』と、勝手に思い込んだ所為か。

 

「軍神アーレスは、女神アテナとは違い争いの神だ。恐らくはその影響が出始めているのだろう」

「待ってください、クライオス。もしかして我々白銀聖闘士が不貞聖闘士の討伐に繰り出すことが多くなったのも?」

「多分、アーレスの影響もあるだろう」

 

 教皇の言葉にオルフェが質問をしてきた。まぁ、オルフェは俺と並んで不貞聖闘士の討伐数が多く、体力と神経を擦り減らしている人物だから仕方がないのかもしれない。

 

 しかし、なんと言うか

 

「地味だな」

「あぁ、地味だ」

「仮にも神である筈なのに、やってることは限りなく地味だ」

 

 口々に黄金聖闘士達が呟き出した。

 それは俺も思うが、そうハッキリ言わないでもいいじゃないか。

 

「だが、効果は有る。クライオスが先程も言ったが世界中の人間たちが攻撃的に成ると言うことは、現代では大規模な戦争の引き金にすら成りかねない。そして今現在でのソレは、下手をすれば地球人類の死滅へと繋がる恐れさえある」

「まぁ、個人が武勇を誇っていた神話の時代とは違いますからね、今は」

 

 仮に世界中を巻き込むような戦争が始まってしまっても、泥沼に突入するくらいならまだ良い。その前に誰かが破滅へのスイッチを押してしまうかもしれない。

 そうなっては、もうどうしようもない。

 

 だが、ここまで来れば流石に楽天家の多い黄金聖闘士にも、事の重大さを理解できたようである。

 

「現在、雑兵は勿論ですが青銅聖闘士や白銀聖闘士も使って情報を収集しています。場合によっては黄金聖闘士にも情報収集の為に動いて貰う必要が出てきます。

 俺たちは早急に敵を見つけ、そして撃破する。気合を入れましょう」

「気合を入れなくちゃならねぇのはオマエだろうが。敵を撃退したっつっても、取り逃がしたんだろ? しっかりしろよな」

 

 言い放つ様に口にしてくる、デスマスクの厳しいお言葉。だが最後に戦ったのは俺じゃなくてサガだし……。

 いや、まぁ、取り逃がしたというのは間違いではないんですがね。

 

「まぁ、その辺りは今後も修行を頑張るということで。それから、近場ということで聖域内にある神々の神殿を調査させています。

 何だかんだで、神話の時代に建てられた神のための神殿は、力を振るうのに最適な場所と成っているでしょうか―――」

『―――その必要はないぞ』

 

 今後の方針の説明中に、突如教皇の間に声が響いた。

 思わず俺は視線を周囲へと向けるが、この場所には俺たち以外には誰も居ない。

 

 当然だ。俺一人なら兎も角、ここには他にも黄金聖闘士が詰めているのだ。彼等の感知からも逃れて、この場所に入り込むなんて出来るわけがない。

 出来るわけがないのに、

 

『フフフ、フハハハハ!』

 

 教皇の間の宙空に紫電が走り、空間が歪む。

 十二宮の結界を越えて、何かが其処に現れようとしている。

 ポッカリと空いた穴から手を伸ばし、足を踏み越えて顔を出してくる何か。

 けど、その何かは、アレは、俺の知っている顔だった。

 

 何かはグルリッと周囲を見渡し、薄っすらと笑みを浮かべた。

 

「クハ、ハハハ。流石は十二宮、アテナの奴を護る結界よ。まさか顔を出すだけで一苦労とは思いもしなかったぞ」

 

 空間を捻じ曲げ、穴を開け。現れたソイツは俺の知っている顔で、俺の知らない表情を浮かべている。

 だが、俺よりもソイツのことを知っているだろう人物、山羊座のシュラは一歩前へと踏み出して、何かの名前を呼んだ。

 

「……テア? お前はテアではないか!? 無断で姿を消したかと思えば、いったい何をしに来た!」

「…………」

 

 浅黒い肌に黒い髪。俺が最後に見たときよりも髪の毛は伸びているが、間違いはない。

 その何かは、俺が聖域に連れてきた少年。テアだったのだ。

 

「答えろ、テア!」

「下がれ、人間。神の御前だぞっ」

「―――ッ!?」

 

 詰め寄ろうとしたシュラに対して、強力な小宇宙が叩きつけられる。

 空間が爆発したような一撃をシュラをマトモに受けてしまい、そのまま壁に向かって激突する。

 

「シュラ!?」

「おのれッ!? 貴様ッ!!」

「そっちもだな。喧しいぞ、人間っ!」

「なっ!?」

「く、お―――!?」

 

 シュラが吹き飛ばされ、ミロ、カミュの二人が取り押さえようと前に出る。

 だがそれも、再び放たれた小宇宙で遮られシュラと同じ様に吹き飛ばされてしまう。

 

「ふむ。幻影ではこの程度が限界か。とは言え、神に対して馴れ馴れしい態度は控えるが良い」

 

 黄金聖闘士を軽々と吹き飛ばすような奴が幻影 だと? あぁ、クソ! 言われるまで全く気が付かなかった。だが、気が付かせないだけの強靭な小宇宙を、テアはその体から発している。

 

 コレが、本当に俺の知っているアイツなのか?

 

「さて、集まっているな聖域。アテナの戦士共。既に理解していると思うが、私が軍神アーレスである」

 

 意味が分からない―――とは言わない。意味なら解る。

 見間違えではないだろう。間違いなく、目の前にいるのは俺やシュラが良く知っている『テア』という一個人だったはずだ。

 だが、肌で感じる強大な小宇宙は、神と言われても納得できる程の強さを放っている。

 

 つまり、

 

「……テアの体を使って、現代に蘇ったのか」

 

 冥王ハーデスが、アンドロメダ瞬の体を使ったのと同じだ。

 アーレスはテアの身体を、自身の依代として使っているのだろう。

 

「ほぅ。―――お前は、風鳥座の聖闘士か? この体の記憶にあるぞ。クライオスとか言ったか」

 

 ズイッと奴が動くと、その雰囲気に押されて退ってしまいそうになる。

 だが、伊達に今まで何度も彼の世と此の世を行き来してきた訳じゃない。しかも雰囲気はともかく見た目はテアだ。

 呑まれる訳には行くまい。

 

 と言うよりも、大人しくしていろ。風鳥座の聖衣っ!!

 

「この時代に、風鳥座の聖闘士が現れたのも運命かもしれんな。

 ―――聞け、聖闘士共よ。今日は、私自らが宣戦布告をしに来てやったぞ。私の力が世界を覆い、人間どもの意志が徐々に攻撃的に成ってきていることは既に知っているだろう。

 このまま、世界が引き返せない段階まで放って置くのも良いのだが、私は軍神アーレス。戦いの神だ。地上を護るなどと宣わう貴様らに、機会(チャンス)をくれてやる」

機会(チャンス)、だと?」

 

 冷笑を浮かべるテア―――いや、アーレスに、教皇は仮面の奥から視線をぶつける。

 

「その通りだ。戦いというのは、ただソレだけで美しいものだ。だからこそ、私はただ目的を遂げるだけなどという、つまらないことに興味はない。戦って勝利してこそ、目的を遂げる意味が出てくる。貴様らには、その演出を手伝って貰おう」

「…………」

「期限は一週間だ。―――そうだな、どうせなら演出をしてやるか。貴様らの十二宮に在る火時計。一週間後の火時計が消えるまでがタイム・リミットだ。その前に私を倒すことが出来るのなら貴様らの勝ち。だがソレを超えてしまえば、仮に私を倒したとしても手遅れだ。世界は誰が手を貸すでもなく、未曾有の戦火に見舞われるだろう」

 

 楽しんでいる、な。

 作中の雰囲気からある程度は理解していたつもりだが、やはり神という連中は俺たち人間とは違う。

 俺たちは人間という存在に重きを置くが、神からすれば俺たち人間は言葉を交わすことが出来る虫けらくらいの価値なのだろう。

 

「場所は貴様らのお膝元である、聖域内に存在するアーレス神殿だ。もっとも、現在は私が結界を張っているため貴様らが入り込むことは出来んぞ。5日後に結界は解いてやろう。ソレまでに傷を癒やすが良い」

 

 全体を見渡しつつ、アーレスは俺のことをチラッと見てきた。

 傷を癒せと言うのは、ついさっきぶっ飛ばされたシュラ、ミロ、カミュの事ではなく、俺のことか。

 

「馬鹿め! 5日後などと待ってたまるか! 今すぐに貴様の元へと行ってこの拳を叩き込んでくれる!」

「出来ると思うのなら演ってみるが良い。だが、私が直接を力を注いでいる結界だ。潔く、時間まで待った方が得策だと思うがな」

 

 アーレスの言葉に、俺は海界にあるメインブレドウィナーや嘆きの壁を思い出す。流石に其処までの強度はないだろうが、俺たちが何をしたとしても『天に唾するが如く』攻撃が還ってくる仕様なのだろう。

 

「―――む、そろそろか。ではな、聖域の聖闘士共よ。貴様らがこの軍神アーレスの勝利を彩る、有用な駒であることを願うぞ。ハ、フハハハハ」

 

 と、アーレスは高笑いを残して消えていったのだった。

 残された俺達は暫しの間、言葉を失っていた。

 

「―――此処までコケにされて、黙ってなど居られるか! 俺は行くぞ!」

 

 無言で居た俺達の中で、最初に口を開いたのはアイオリアだった。

 だがそれも他の周囲のメンバー達から、『無謀だ』とか『対策を練るべきだ』といった言葉で封殺される。

 

「コレは、前回のハーデスとの聖戦から二百数十年ぶりに起きた聖戦だ。戦力を整え、最大の力を持って戦うべきだろう」

「教皇……」

「シュラ、カミュ、ミロ。お前達も5日で身体を癒せ。あの程度でどうにか成るようなお前達ではないとは思うが、それでも念の為だ」

 

 教皇の言葉に皆が膝を付いて頭を下げた。

 何だかんだで、教皇は聖域の聖闘士たちの支柱なのだ。

 俺も含めてそうだが、聖戦なんてモノは初めての経験である。当然、教皇であるサガもそうだろうが、其処はまぁ、年の功だろう。

 

「特にクライオス。お前もしっかり身体を癒せ。5日後の総力戦には、お前にも働いて貰う事になる」

「は、はい!」

 

 返事をしてから、俺は教皇へと視線を向ける。

 仮面で隠されたその表情を伺うことは出来なかったが、しかし黄金聖闘士を投入するならば俺は居なくても良いのではないだろうか?

 

 まぁ、何が在るか解らないのが此の世の中だ。

 万が一を考えておくに越したことはない。

 

 態々、敵のボスが本拠地を教えてくれたのだ。せめて雑兵や他の聖闘士たちに偵察くらいのことはさせておくとしよう。

 俺は、まぁ、怪我に響かない程度に修行と調べ物だな。

 本当に何もしないでグデェっと出来るのならそうしたいのだが、ソレが出来るような立場に無いんだよ。俺はさ。

 

 

 ※

 

 

 教皇の間を離れ、オルフェと共に執務室へと戻る。

 ココ最近の忙しさと先日の敵の襲撃も相まって、整理の追いつかない部屋乱雑としてしまていた。

 

「はぁ~。此処も、早く片付けないとな」

 

 椅子にドカッと腰を落とし、俺は肩の力を抜いた。

 何度か本気の戦いを経験してきたが、聖戦と呼べるものにこんなにも早く参加することに成るとは思いもしなかった。

 

「クライオス、今更なのですが……私があの場所に呼ばれた理由は何だったのでしょうか?」

 

 疲れたって調子を体全体で表現する俺とは違い、オルフェは紅茶の準備を始めている。何だか最近、オルフェを良いように使ってしまっている気がするよ。

 

「オルフェがあの場所に呼ばれた理由は、俺が推薦したからだよ」

「推薦? クライオスがですか?」

「そうだ。理由は幾つか有るが、一番はお前の実力が十分に聖戦でも通用すると判断したからだな」

「それは、その、有難うございます」

 

 照れたように言いながらオルフェは紅茶のはいったティーカップを俺の前へと置いてくれた。

 アフロディーテの淹れるローズティーも嫌いじゃないが、やはり紅茶の香りの方が気持ちが落ち着くな。

 

「うーん……。敵が一週間後と言ったのは、何か理由があると思うんだけどなぁ」

「理由ですか?」

「俺の勝手な解釈でも有るんだが、神というのはもっと自分勝手な連中だと思うんだよ」

「十分に自分勝手に振る舞っていたと思うのですが?」

「まぁ、それはそうなんだけどな」

 

 確かに振る舞い自体は自分勝手なものだったが、俺が疑問に思っているのはタイム・リミットを設けてゲーム性を重視しながらも、何処か聖域からの介入を遅らせようとしていた所だ。

 イメージとしては子供なんかが『正々堂々』を謳いながら、ちょっとしたズルをしているような感じだが、それとも少し違うように感じるし。

 

「普通に考えれば、敵もまだ準備が出来てないって事なんだけどな」

「流石に、ソレは無いのでは?」

「だよなぁ」

 

 幾ら何でも、其処まで考えなしではないだろう。

 そうなると、準備が問題じゃなくてもっと別の方ってことか?

 

「うん、まぁ、今の段階じゃ解らない。考えるのは諦めよう」

「考えても解らないことは解らない、ですね」

「そう。だんだんと俺の考えが判るように成ってきたな、オルフェは」

「そうでなければ、貴方の下で働いていられませんよ」

「ハハハハハ―――褒めてるんだよな、それ?」

「えぇ、勿論」

 

 ニッコリと笑みを浮かべて返事をするオルフェ。この辺りが、俺みたいな奴とイケメンに分類されるオルフェとの違いではなかろうか?

 

「取り敢えず、アーレス神殿以外の斥候は全員帰還。それから、慎重な行動が出来る奴を選んで24時間体制監視するようにしよう」

「雑兵の方々はどうしましょうか」

「連絡係に徹して貰おう。アーレスのことを調べないで済むのなら、通常の業務もして貰わなくちゃならないからな」

「不貞聖闘士が暴れまわってるのも、奴等の所為だって話でしたからね。そっちも忙しくなるんでしょうね」

「まぁ、オルフェは直接戦闘には行かないで良いよ。代わりに他の連中の割当を増やそう。何だかんだで、俺達は働きすぎだよ」

 

 蜥蜴星座のミスティやペルセウス座のアルゴルとかをもっと過酷な労働状況に追い込んでやろう。強い中間管理職が割を食う、職場体験だ。

 

「それにしても、クライオスは冷静でしたね」

「それって、敵の、アーレスのことか? 知ってる奴が敵になった位でいちいち気にしていたら、俺はとっくに精神を擦り減らして病院に担ぎ込まれてるよ」

 

 確かに気には成るが、それで戦わないなんて選択肢を選ぶほど俺はイカれちゃいない。

 女神アテナ程の力が有れば違うのだろうが、俺の一番の作戦は『いのちだいじに』だからな。

 

「ただ、何とかはしてやりたいと思ってるよ。俺が聖域に連れてこなければ、こんな事にはならなかっただろうから」

「助けられると、良いですね」

「……そうだな」

 

 俺にソレが出来るかどうかは疑問だが、助けられるに越したことはないのだろうな。

 

 

 


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