聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

6 / 56
06話

 

 

「たのもーー!!…………たーのーもぉーー!!」

 

 陽が地面の下に落ちて既に2~3時間。

 真夜中と言うほどの時間ではないかも知れないが、少なくとも普通ならば騒いで良いような時間ではない。……まぁ、近所に迷惑が掛かるからな。

 

 だがそんな周囲の迷惑も何のその、俺は構わずに大きな声を張りあげていた。

 

 何せ1番近いお隣さんは、下へと向かう階段を下って『結構』離れている『磨羯宮』、

 そして反対側には上へ登る階段と真っ赤な『赤バラ(デモンローズ)』が群生している道が、只管に続いている『双魚宮』。

 

 まぁ要は、聖域の各宮の間はかなりの距離が有るので気にする必要は無い――――と、言いたかったわけだ。

 

 さて、先程の説明的な言葉でも解ると思うが、現在の俺が居る場所は処女宮ではない。

 

 この場所は宝瓶宮……の入り口。

 

 水と氷の魔術師と言われる凍気を操る黄金聖闘士、水瓶座アクエリアスのカミュが居る宮だ。

 

 俺は夕食の後片付けが終わった後、急いでこの宝瓶宮へとやってきた。

 夕食の準備をしている間に思いついたことが有り、それを実行に移そうと思ったからだ。まぁ、本当なら日を改めて来たかったのだが、残念なことに今

 

の俺には休日呼べるものが存在しない為(主にシャカとアイオリアと自業自得の所為)、こうやって手の空いた時間に押しかける形を取らざるを得ないのだ。

 

 非常識だとは思うのだけどね。

 

 因みにこの宝瓶宮に来るまでの間、

 

 天秤宮→不在、天蝎宮→不在(張り紙が貼って有り『急用のため宮を空ける』とあった)、人馬宮→アイオロスの宮のため、当然不在、磨羯宮→シュラ在宮(「勝手に通れ」と言われた)。

 

 

「留守じゃないよな?」

 

 一向に返事の帰ってこない宝瓶宮に、俺が大きく息を吸って再び声を上げようとしたその時――――ゆっくり誰かがとこちらに向かってくるのを感じた。

 

 どうやらちゃんと在宅(?)していたようである。

 

 近づいてくる相手に俺は頭を下げて

 

「夜分遅くにゴメンナサイ。実はカミュにお願いが――――」

 

 たのも束の間。

 

「誰だお前は?」

 

 何故か、目の前に現れたのは自身の宮を開けっ放しにしている蠍(ミロ)だった。しかも『青髪(重要)』。

 

「…………どうしてアンタが居るんだよ?」

 

 ついつい素の言葉使いで返事してしまった俺は、悪くはないだろう。

 

 

 

 

 第6話 これ以上は無理……!!

 

 

 

 

 シンと静まりかえる聖域の宝瓶宮。

 

 そこで顔を突き合わせているのは俺ことクライオスと、何故か自分の守護する天蝎宮を放ったままにしている黄金聖闘士。

 

 蠍座スコーピオンのミロだった。

 

「こんな夜更けに何のようだ? 気ままに訪ねて良いような時間でも無いぞ?」

「…………」

 

 若干の苛立を込めたようなミロの言葉に、俺は『自分の宮を放っておいて何いってんだ?』と少しだけ思いつつ、

 それとは別に『何してんだアンタは?』と多分に思っていた。

 

「いやいや、それはそのままそっちにも適用される事でしょうに」

「む、お前口答えを。……俺は良いんだよ、黄金聖闘士だからな。だがお前は聖闘士ですらないだろうが」

 

 いやいや、黄金だからこそ駄目なのだろうに。

 何やら良く解らない理論を展開して俺を丸め込もうとするミロだが、それが逆に俺の言葉使いを素に戻す原因と成った。

 

「良いことを教えよう、そういうのを日本では五十歩百歩って言うんだよ」

「……日本で…何だそれは?」

 

 ――――今のミロの言葉は、『何だその言葉は?』とも取れるし『日本って何ですか?』とも取れるが。

 まぁ、多分日本は知っていると考えて意味だけ教えてあげよう。

 

「意味は――――」

「――――どちらも大して変わらないということだ」

 

 フフンと胸を張って言おうとした俺の言葉を遮って、ミロとは違う別の人間が口を挟んできた。

 まぁ宝瓶宮に別の人間と言ったらあの人しか居ないのだが(ミロが居ると言うのは既にヨロシク無い)。

 

 その言葉通り、宮の奥から顔を出した人物は長く『碧色』の髪の毛をした水瓶座の聖闘士カミュだった。

 

「出てきたのかカミュ。こんな事は俺に任せておけば良いというのに」

「お前に任せていては火急の用件でも追い返しかねないからな……」

 

 首を回して言うミロを、カミュは軽く嗜めながら俺の方へと歩いてきた。

 

「それで、お前が訪問者だな? 確かシャカの弟子をしているクライオスだったと記憶しているが?」

 

 俺の事を見てそう言って来たカミュに、俺は無言で頷いて返事を返した。

 

「実はカミュにお願いがあって……。夜遅くに非常識だとは思ったんだけど、この時間以外には身動きが取れなくて。

 自分の都合を押し付けるようで申し訳ないのだけど……」

「ふむ……それでこの時間に私を訪ねてみれば、ミロに追い返されそうになったと」

「はい」

「ちょっと待て!? 俺は追い返そうとはしていないぞ!! ……ただ『夜も遅いからさっさと消えろ』程度の意味を込めてだな――――」

 

 カミュと俺との会話に割って入る形でミロが乱入をしてくる。

 とは言え、その内容は概ねカミュの言葉を認めた内容に成っているのだが。

 

「……まぁ、処女宮からここまで来るのは並の人間では大変だっただろう? お茶でも煎れるから中に入って寛ぐと良い」

 

 カミュはそう言ってから、俺を宝瓶宮へと促す。

 

 それに一礼をしてから付いて行く俺にワンテンポ遅れて、「ちょ、待てよ!」とミロがカミュに横に並んで歩き出した。

 

 ……この人(勿論カミュの事)、凄く良い人だな。シャカには無い人間らしさを持ってるよ。

 コレで弟子に対する偏愛がなければ理想の聖闘士なのだが……。

 

 氷河がカミュの元に弟子入りするのは後2~3年後、その前にアイザックが弟子入りする筈だから――――多分あと2年ちょいくらいでシベリアに行ってし

 

まうのか。その後は弟子を可愛がるずれた人になってしまうのだろうな。

 

 等と、そんな事を思いながら宝瓶宮の中へと進んで行く俺の耳に、前を行くミロとカミュの会話が聞こえてきたのだが、

 

「おいカミュ、 良いのか中に入れてしまって?」

「別に問題は無いだろう。特に見られて困るような物が有るわけでも無し」

「しかしだな――――」

「それから一応教えておくが、日本はユーラシア大陸の東にある島国のことだ」

「へぇ、そうなのか……って! し、知ってるよそれくらい!!」

 

 ……聞かなかった事にしよう。

 

 

 

 

 

 通された部屋は流石に処女宮と全く同じとは言わないが、似たような作りに成っているのは確かだ。

 とは言え、処女宮には殆どないような家具などの調度品が各種揃えられていて、とてもではないがシャカと同じ黄金聖闘士の宮とは思えないような雰囲気を醸し出している。

 

 まぁ、要は快適な空間だと言うことだ。

 

「それで、このカミュに用件とは一体なんだクライオス?」

 

 カミュは俺とミロ、それから自分の分の茶を煎れると其々の目の前にカップを置いてから訪ねてきた。

 俺はその言葉にカップに手を伸ばそうとしていた手を引っ込めると、自分の頬を人差し指で掻く。

 

「……えーっと。非常に私事で頼みにくい事なんだけど」

「構わん。良いから言ってみろ」

「そうだな、どんな事でも口にしなければ正確には伝わらん」

 

 よもやミロに後押しをされるとは思わなかったな。

 俺は少しだけ間をおくと、姿勢を正して用件を言う事にした。

 

「それじゃ言うけど。……俺が今、シャカの弟子として処女宮で生活してるのは知ってる?」

「あぁ、師と弟子は寝食を共にするものだからな」

「で、家事の一切を俺がやってるんだけど、食事の事で少し問題があって――――」

「――――あぁ……そういう事か」

「? どういう事だカミュ?」

 

 言い切る前に納得したような返事を返してきたカミュとは対象に、ミロはどういう事か解らないといった返事を返す。

 まぁ、これは別にミロが阿呆って訳ではなく、単にカミュの理解が早かったと言うことだけどな。

 

 その証拠に、

 

「詰まりだ、クライオスは食材の事で私の『力』を借りたいと言っているのだ」

「――――あぁ、そうか。詰まりは保存か」

「そういう事だ」

 

 少し言えば、しっかりとこうして理解をしている。 

 

「そんなの保存食で済ませれば良いだろ? 最近は缶詰も色々あって――――」

「ミロ……お前な」

 

 …………阿呆じゃないよ?

 

 俺は気を取り直してミロとカミュの間に割って入るように言葉を挟んだ。

 

「えーっとカミュの理解が早くて助かる。そうなんだよ、要は――――」

「私に氷の闘技を教えて欲しい……要はそういう事なのだな?」

「――――違うから。パッと処女宮まで来て、フリージングコフィンでも使って『氷の収納箱』でも作ってくれればそれで良いから」

 

 良からぬ事を言ってきたカミュの言葉を、間髪入れずに訂正する。

 もし此処で流されてしまうような台詞でも言おうものなら、『クライオスは三人目の師匠を手に入れた』ってなりそうだからな。

 

 幾ら何でもこれ以上は勘弁してもらいたい。

 

「だがなクライオス、考えても見ろ。……仮に私がお前の要請を聞き、処女宮へと出向き『氷の棺』を作ったとする」

「『棺』じゃなくて『収納箱』ね」

「――――だがその『棺』を私が作ったとして……お前はそこに達成感を見出すことが出来るのか?」

「…………」

 

 人の話を全く聞いちゃいない……。今の俺には氷の闘技を身に付けているような時間的余裕も、心のゆとりも無いというのに。

 だいたい初めから『作ってもらうこと』が目的だったので、それが成るのなら達成感は十分だと言える。

 

 此処はもう一度、キッパリと断った方が良いだろうな。

 

「カミュの言いたいことは何となく解るけれど、今の俺にはそんな余裕はないんだよ……だから――――」

「――――そうだな、確かにあまり無理強いをするものではないな。それに本来、クライオスの師はヴァルゴのシャカ……。

 そこに私が彼の許しも無く勝手なことをして良い訳が無い」

 

 おぉ、通じた!?

 

 何事も言ってみるものだな。さっきミロが言っていた『どんな事でも口にしなければ正確には伝わらん』と言うのを実践してみた甲斐があったと言うものだ。流石は黄金聖闘士蠍座のミロ。

 

 と尊敬仕掛けたのだが、

 

「あー……それだったら問題ないと思うぞ。そいつ、休日の度にアイオリアにも教えてもらってるみたいだしな」

「ちょっt――――」

「成程、そういう事なら問題は無いか。……良し、ならば時間が惜しい。早速始めるとするか」

 

 と、カミュはそう言うと、まさに光の速さでティーカップを片付けると俺の首根っこを捕まえて宝瓶宮の広間部分――――要は原作で氷河と戦ったスペースへと連れていかれてしまった。

 

 その際に、律儀にもミロがカミュの手伝いをしていたのはある意味では流石と言える。

 

 まぁ俺の意見としては

 

「な、何でだ……何でこう成るんだーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、先ず最初にだが……答えろクライオス。絶対零度とはなんだ?」

「ぜ、絶対零度とは……」

 

 広場につくなり放り投げられ地面に強かに身体を打ち付けられた俺は、打ち付けた背中をさすりながらカミュの問に頭を巡らせる。

 

 何だかこのやり取りって、氷河とカミュがやっていたような気がする。

 

 あぁ、しかし何だってこう黄金連中と言うのは『一直線』ばっかりなのだろうか?

 

 俺がそんな愚痴めいた事を考えていると、カミュは答えが出ないと判断したのか横で観戦モードに入っていたミロへと向き直った。

 

「――――ではミロ」

「俺か? ふむ、絶対零度とはな……………………冷たい?」

「さてクライオス、答えろ」

 

 ミロのギャグ(?)だったのだろうか? さっきの言葉は。

 とは言えそれをカミュはクールにスルーして、再び俺の方へと視線を向けてきた。

 

「……絶対零度とは、摂氏-273.15度の事をさし、物質を構成する原子核の振動が零に成った状態……だっけ?」

「その通りだ、よく知っているな」

「まぁそれくらいは……。でもカミュ、俺は別に――――」

「そして氷の闘技を使うと言うことは、小宇宙を用いてその原子核の動きを停滞させることなのだ」

 

 『氷の闘技なんて覚えたくはないんだよ!!』と声を大にして言ってやりたいのに……。

 相変わらず人の話を聞かない。

 

 拳速を上げる修業と、日々の小宇宙を増大させる修業だけで一杯だってのに。

 

「破壊の根源は原子を砕くことにある。だが、氷の闘技を身につけるためには原子を砕くのではなく原子の動きをとめるのだ。

 ――――このようにな!!」

「なッ!?」

 

 不意にかざされたカミュの掌から強力な小宇宙の波動を感じた俺は、即座にその場所から飛び退く。

 すると、今まで立っていた場所に霜が降りて凍りついている。周囲もそれに伴って気温が下がり、少しだけ肌寒さを感じる。

 もし、俺が棒立ちになってあの場所に立った侭でいたら、今頃は身体の一部が使い物に成ら無くなっていたかも知れない。

 

 コレが氷の闘技……凄い。

 

 確かに凄いが……

 

「あんた俺を殺す気か!!」

 

 何の前触れも無くこんなものを人に向けないで貰いたい!!

 

「そんな気は更々無いが、仮にあの程度の凍気をくらう様なら――――」

「聖闘士として失格だって言うんだろ……どうせ」

「良く分かっているな」

 

 この手の台詞は正直アイオリアで聞き飽きたよ。

 

 俺は溜息を吐きたい気分を必死に堪え、眉間に皺を寄せて抗議したのだが。

 どうやらそんな事ではカミュには通じないらしく、

 

「さぁ、このカミュと同等の凍気を放ってみせろ!」

 

 等と言いながら次々と周囲に凍気をばら蒔いていく。

 

 本当に堪ったものではない。

 今でさえ何とか紙一重で避け続けているが、周囲の足場は次々と凍りついてまともに踏ん張る事も出来なくなりつつある。

 

 俺は横で静観を決め込んでいるミロに目配せをすると、なんとも憐れんでいるような瞳しているではないか。

 

 そんなミロに俺はシャカとの修業で身に付けた、『小宇宙に直接語りかける術』――――要は念話を使って助けを求めた。

 

 正面から眼を逸らすと直撃をくらいそうだからな。

 

《ミロ! ミロってば!! そんな所で『可哀想に』的な顔をしてないで助けてくれ!!》

「!?」

《『!?』じゃなくてカミュを止めてくれってば!》

《……驚いたな、まさか聖闘士でも無いお前が念話を扱うとは》

《だから、そんなのはどうでも良いんだっての! カミュを止めてくれないと俺が氷漬けになる!!》

《しかしな……》

 

 と、そこでミロは念話を区切ってカミュの顔を盗み見た。

 そして、

 

《ああも嬉しそうな顔をされては、それを止めるのは親友として忍びない》

《アンタの発揮してる友情は絶対間違ってるってんだよ!! このままじゃ俺が死ぬって言ってんだ!!》

《ハハハ、幾ら何でもカミュがそんな――――今すぐ止めよう》

 

 軽い笑いで一蹴しようとしたミロだったが、再び視界に入ったカミュの様子に態度を一変させた。

 注:今まで掌から軽く凍気を出す程度だったものが、小宇宙を高めて拳から繰り出そうとしている(要はダイヤモンド・ダスト)。

 

 

 

「待てカミュ……その、質問なのだが。それは今日一日――――と言うか、今の時間から考えると1~2時間程度やったくらいで身につくような代物なのか?」

「何を馬鹿な……そのような一朝一夕で絶対零度を身につける事など出来るはずが無い。

 そもそも、絶対零度の凍気を生み出すことなど、このカミュをもってしても不可能なのだからな」

「…………(じゃあ、やらせんなよ)それなら何も無理にやらせないでも――――」

「ミロ……君は自分の技を他の者に、後世に伝えたいとは思わないのか?」

「なに?」

 

 ピクリ……と、ミロはカミュの言葉に反応してしまい、言葉を止めてしまう。

 

 あー……嫌な予感しかしない。

 

「私達は地上の平和を守る、女神アテナの聖闘士だ。この世に蔓延る邪悪と戦う使命を持っている」

「……あぁ」

「だがそれと同時に、いつその邪悪との戦いで命を落とすやもしれん身でもある」

「それはそうだ。俺とてアテナの聖闘士、しかも88の聖闘士の頂点に立つ黄金聖闘士だ。その事は十分承知している」

「つまりだ……私達は何時、その身がこの地上から消えうせたとしても可笑しくはないという事だ」

 

 これはもう駄目かもしれない。

 カミュの言葉にミロは言い包め――――いやいや、聞き惚れ初めて居る。

 

「ならばこそ、次代担う若い者達に己の技を伝え、自らの生きた証を残したいとは思わないのか?」

「自らの生きた証!?」

「私は今回のクライオスの訪問は、そんな私達へのささやかなるアテナの思し召しでは無いかと思うのだ」

「ア……アテナの!!」

 

 コレで決定、ミロは完全にカミュの軍門に下ってしまった。

 俺の目の前で二人は――――というよりミロは、『俺が間違っていた』とか『こうなれば全力でサポートしよう』とか『何ならリストリクションで動きを止めるか?』なんて物騒なことを言っている。

 

 こんな時俺が某青銅聖闘士のS君だったら、『大丈夫か!』と颯爽と駆けつけてくれる兄貴が現れてくれるのだが、残念なことに俺は一人っ子。

 大体助けに来てくれるような人がこの聖域に居るというのなら、今までにだってそんな人が現れてくれても可笑しくはない。

 主に日々の修業や、アイオリアの扱きの時に……。

 

 要は――――

 

「自分の力で乗り切らなくてはいけない……そういう事か!」

 

 覚悟を決めた俺はその場で構えを取り、自らの小宇宙を高めて迎え撃つ準備をした。

 

「!?」

「これは!?」

 

 その俺の小宇宙を感じてか、目の前で妙なやり取りを続けていた二人は驚いたような表情を顔に浮かべてこちらへと視線を向けてくる。

 

「これは……確かにクライオスから小宇宙を感じる」

「このままでは本当に氷漬けにでもされて仕舞いそうだからな」

「良かろう。ならば、見事このカミュの凍気に打ち勝ってみせろ」

 

 バッと腕を振るってカミュも構えを取ってくる。

 

 俺は限界ギリギリに、そしてカミュは恐らく俺に合わせた程度にだろうが、俺達は向かい合う形で小宇宙を高めていった。

 とは言え、俺は少しでも凍気を防ぐ術を行えなければダメージを負う。逃げるだけではこの局面を脱する事は出きないからだ。

 

 思い出せ、氷河はどうやってカミュの凍気を防いだ? 十二宮の闘いで二人の闘いを思い出せば……。

 そうだ、氷河は確か……『カミュと同等の凍気を放って防いだ』筈だ。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 あれ? それって凍気を出せない俺には防げないって事か?

 

 いや、しかし拳圧で無理矢理にでも吹き飛ばせば防ぐことは……。でもそれって最初のカミュの目的である、俺に『無理やり凍結拳を覚えさせる』ってことから大きく外れているのでは?

 

 ならば一体どうすれば――――

 

「クライオス……お前――――小宇宙を燃焼させられたのか?」

 

 俺が小宇宙を燃焼させたは良いが、どうすれば丸く治める事が出来るのかと悩んでいるときに、再び観戦モードに入ったミロがそんな事を言ってきた。

 

 というかだよ、小宇宙を燃やせないような一般人だと思っていたのか今まで!?

 更に言うなら、そんな一般人が氷漬けに成そうだったのを笑って見てたのか貴様は!?

 

 とまぁ色々と突っ込みたい気持ちに成ったのだが、そんな俺の一瞬の気の緩みをカミュは見逃してはくれなかった。

 

「行くぞ! ダイヤモンド・ダスト!!」

「なッ!?」

 

 繰り出される拳から放たれる凍気の嵐!!

 瞬間初めて氷河がダイヤモンド・ダストを放った際の、ヒドラの市の姿がフラッシュバックした。

 

 それに驚き、慌てて突き出す掌。

 だが追い詰められた事が功を奏したのか、その瞬間確かに俺は自分が何かを放った事を感じていた。それはカミュの放つ凍気と空中でぶつかり合い、其々の間で押しとどめ――――

 

「られねーーー!?」

 

 俺はその叫びを最後に気を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 次に俺が目を覚ました時は処女宮にある自分の布団の中。

 一応身体に欠損は無く、普通に動かすことが出来るようだ。

 

 その後、宮の奥で瞑想をしていたシャカに尋ねてみると。

 半ば氷漬けの状態でカミュやミロに担ぎ込まれてきた俺を、シャカが小宇宙を送り続ける事で何とか蘇生させる事に成功したのだとか。

 

 その際にカミュやミロは鎮痛の面持ちを浮かべ、『如何なる処罰も受けよう』と言っていたらしいが、

 

「ソレもコレも全てはクライオスが招いた事。言うなれば自業自得と言える」

 

 といったシャカの説得により、其々納得をして帰っていったらしい。

 何故それで納得してしまうんだ? と思わなくもないが、恐らくシャカ特有の雰囲気と言うかオーラと言うか……兎に角、そういったもので丸め込まれたのだろう。

 

 帰り際のミロの台詞は

 

「暫くは弟子を取ろうなどとは思えんな……。シャカ、お前は凄い奴だ」

 

 との感想を漏らし、カミュはと言うと、

 

「弟子か……やはり良いものだな。今度近いうちに、聖闘士候補生を受け持つことが出来るよう教皇に願ってみるか」

 

 と言っていたらしい。

 

 未来の話ではあるが、氷河の兄弟子であるアイザック(後の海将軍クラーケン)は言っていた。

 

 『ここに修業に来た奴らは、みんな直ぐに居なくなっちゃうんだ』と。

 

 多分、この時のカミュの進言のために『みんな』と形容する程の候補生が送り込まれる事に成るのではないだろうか?

 

 俺は、未だに若干冷たい手足を摩りながらそんな事を思っていた。

 

 

 今日の成果

 凍結拳もどきを身に付けた。

 それによって食料の保存技術が少し上がった。

 ただし、それ程に温度を下げられる訳ではないため戦闘には不向き。

 要修行(戦闘用にするのであれば)。

 

 今日の教訓

 暫く処女宮や獅子宮以外には近づかない方が良いような気がする。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。