――――――ここは、神秘的な大自然――森の中。
本来、緑色という目に優しい色合いをしているここだが、今は血色に塗り替えられている箇所がいくつか存在している。
「…いたか!?」
「こっちはいねぇ!」
「くそっ…3人もやられたか。何としても捕らえるぞ!あんな女、滅多に見ねえ貴重な存在だ!」
「あぁ!…くくっ、今から好き放題に出来ることを考えると涎が出てくるぜ」
場違いと、そう一言で片付けられそうな輩が9人いる。
「――厄介ね」
そんな9人に追われて、1人木の上に隠れ様子を窺う人物が。
「とりあえず、この森は広い。あまり単独行動しすぎても「ボス」に叱られる。一旦引くぞ!」
1人の男性の声を合図に、9人それぞれが来た道を引き返して行った。
「――ふぅ」
木の上で一部始終を見ていた人物は、周りに人の気配がないのを確認すると地面へと降り立った。
「ごめんね妖精さんたち」
物騒な輩たちに追われ、3人を迎撃したものの、代わりに多数の妖精たちを失うこととなった。
「…きんつば」
その人物が、何か名前のようなものを発する。すると、近くの淡い光が集まりだし、やがて神々しく輝き出すと中から妖精――パンダのような妖精が現れる。
「とりあえず私は休むから、また監視よろしくね」
パンダの妖精に向かってそう告げると、コクリと首を縦に振って、そのまま森の中へと飛んでいった。
「――絶対に許さない」
輩たちが騒いでいた「ボス」。この森だけじゃなく、妖精の命まで奪ったあいつらを許すことはできそうになかった。
――――――――――――――――――
また訪れる不思議な感覚。意識を取り戻し、新たな世界を前に、その閉じていた目をゆっくり開く。
――Parallel World MAINで見た、あんな惨状には絶対させないと心に決めて。
「――森?」
辺り一面には木が立っている。その木々の隙間から差し込む太陽の光だけが唯一の光源となっている。
「…夜みたい」
昼間とは思えないくらい薄暗い場所だ。
とりあえず、周囲を見渡し誰か人がいないか確認する。
「…私がノエル団長と会ったのは、半日…いや、一日くらいかかった気がする」
偶然じゃないと、ロボ子さんが証明している。
「聖騎士団の証」を持っていたから、ロボ子さんが救いたいと願う人物の一人――白銀ノエルと出会うことができた。
それならば、今は1本の弓矢を持っているため、褐色の少女に出会えるはず。
「…え。この森の中から?」
どう考えても、Parallel World MAINの森林よりも広い気がする。
そして、その中のどこに転移したのかも分からない状態。とてもじゃないが、一日ちょっとで出会えるとは思えなかった。
「…嘘」
早速絶望を感じてしまう。と、そんな時どこかで音が聞こえた気がした。
「…よし、行ってみよう」
いつもの如く、考えるより先に行動するときのそらだった。
――――――――――――――――――
音の発生源と思う方向へ進んでみたものの、全くもって何も変わらないままだ。
周りを見ても木がそびえ立つのみ。同じところを行ったり来たりしてるのではないかと錯覚してしまう。
「はぁ…はぁ…。なんか…Parallel Worldってもっとこう…」
現実では見ることの出来ない、それこそファンタジーのような世界観を思っていた。実際、【プラチナ聖王国】はそれに当てはまっている。だが、ロボ子さんと出会った所も、今現在いる所も現実で見ようと思えば見れる景色。
「…うぅ。疲れたぁ」
ここしばらく、さまよう事15分。そろそろ足の限界がやって来る。
「…それにしても、この感じ」
どこかで体験したことのあるような感覚に陥る。
「――あの森林地帯だ」
ロボ子さんと出会ったParallel World MAINにて感じ取った違和感の正体。
まさしく神秘的なそれは――
「妖精ってこと?」
この森にもあそこの森と同じように、無数の妖精が住み着いているという裏付けでもあったのだ。
――ガサッ。
「っ!?」
背後で物音がした。驚き、勢いよく振り返ると、宙に浮く物体と目が合った。
「…。パ、パンダ?」
横に細長い目を囲うように、黒色の体毛が生えている。全身は主に白色で、その色合い、耳の形、丸いしっぽから当てはまるのは「パンダ」しかいなかった。
「…んー。どうしたのきんつば?」
すると、奥から一つの人影が現れる。
「っ!!」
その顔には見覚えがあった。
――ただし、眠るように目を閉じた状態だったが。
「…敵意は無いみたいだね。てことはさっきの奴らとは違うのか」
その褐色の少女はこちらをまじまじと見つめ、一人納得している様子。
「…で、お嬢さんに聞きたいんだけどどうやってここにいるんだい?」
真っ当な疑問だろう。
ここで違う世界からやって来たと言うような事は言わない。
「えっと…道に迷っちゃって」
よくある言い文句だ。
とりあえず目の前にいる人物がロボ子さんが救うべき人物の一人なら、仲良くならないといけない。
とりあえず、この言葉を受けてどう反応してくれるのか。
「…ふーん。――ここ【フルーフ大森林】なんだけど。狙っていても、この森のど真ん中に来ることってほとんど不可能なんだけどね」
言葉を間違えた?雲行きが怪しくなっていくのを肌で感じ取っている。
「…迷って来れるはずないんだよ。――嘘をつくってことは、何か隠してるのかな?」
「…っ!?」
表情こそは柔らかいものの、こちらを射抜くその眼光には恐怖を感じる。
「――ふふっ。冗談だよ。そんなに怯えないで」
身を固くしているときのそらに、さっきまでの気迫はさっぱり無くなっており、笑いながら近づいてくる。
「えっと…」
「最初に言ったじゃん。敵意は無いんだねって。まぁ、本当に道に迷ったかは別として、もしかしてここに詳しくない?」
そう言いながら、近くのパンダの妖精を抱きかかえて質問してくる。
「…あ、はい。詳しくないです」
ここは嘘をつく必要もないため、素直に答えることにしよう。
「まぁそうだよね。この森、巷じゃ有名だから。目的も無く近づく人なんていないからね」
そこで、褐色の少女は、ときのそらのポケットにしまってある1本の弓矢に視線を合わせた。
「あれ。…あ、やっぱりこれ私の矢じゃん」
ごめんね。と、断りを入れてから、ときのそらのポケットにしまってあった弓矢を取り出した。
「昔どっかで会ったのかな?」
「えーと…」
怪しまれるわけじゃなく、淡々と楽観的に納得していく少女を見て、どこか団長に似ているなと思うときのそらだった。
――――――――――――――――――
一通りの説明を受けた。
ここ【フルーフ大森林】は、迷いの森、呪いの森と揶揄されているらしく、一度入ると森から出ることが出来ないと言われているらしい。
「ま、その正体はこれなんだけどね」
左手を前へ突き出すと、その周辺に淡い光が集まり始めた。
「…妖精?」
「そう。この子たちが、森を動かしたり、幻惑を見せて迷わせたりしてるんだよ」
「…えっと、あの…」
名前を呼ぼうとして気がついた。
まだ、自己紹介をしていなかったじゃないか。
「あ、えっと私は時乃 空です」
「よろしくそらちゃん!私は不知火フレアだよ」
褐色の少女――不知火フレアと名乗る少女と改めて握手を交わした。
「それで、フレアさんはここで何を?」
「さん付けしなくていいよ。何かつけたいならちゃん付けで」
「フレアちゃん」
こっちの世界の人達はみんなフレンドリーだなぁ。
「そうそう。それでさっきの話の続きね。私はこの森に住んでるんだよ」
――え?森に入ると出られない仕掛けは妖精がしていると言った。そして、その森に住んでいるというフレア。
「…私、人じゃなくてエルフだから」
ときのそらが導いた結論を裏付けるように、フレアが自分の種族について答えた。
「エルフ…」
言われれば、尖った耳が一番印象に強いだろう。
「…ちなみに普通のエルフじゃなくて、ハーフエルフなんだよ」
「ハーフエルフ?」
「そう。人間とエルフの間に生まれたからハーフエルフ」
エルフという種族について詳しくないが、ハーフとなるとやっぱり珍しいものなのだろうか。
「…えっと、そらちゃんは戦えるの?」
ときのそらがハーフについて考えていると、フレアからそんな事を聞かれる。
「…戦えないです。すみません…」
何せただの女子高校生なのだから。
「てことは、奴らと逆の方向から来たのか。運いいね」
「その…奴らってのは?」
時折話しに出てくる第三者の人物。
それには心当たりがなく、純粋な疑問を浮かべる。
「…この森を襲った、「盗賊団」だよ」
「…盗賊団?」
しかも今、森を襲ったといった。つまり、フレアは狙われたということなのだろう。
「海賊団じゃなくて?」
「え?今どき海賊団っているの?」
「……」
可哀想なマリン。知名度は思ったよりもなかったんだなと心の中でそう思ってしまった。
いや、これはきっと時代が違ったり、フレアが世間に詳しくないんだろう。マリンの名誉のためにもそう思うことにした。
「まぁ、盗賊団はその名の通り色んな街や国から盗賊をしている重要犯罪人たちさ。ここ数年で現れたみたい」
そこまで昔からいた存在ではないということ。
「…そして、奴らの「ボス」ってやつが女を捕まえているらしくてさ。私も狙われちゃったんだ」
「フレアちゃんも?」
「そう。ハーフエルフなんてほとんどいないからね。エルフとハーフエルフの割合は9:1くらいじゃないかな。それのせいでさっき応戦してたの」
つまりハーフエルフという貴重な存在を見つけた「ボス」というやつは、フレアを獲物として狙ったということだ。
ここにフレアがいるということは、捕まえられなかったのだろうと思う。
また、いつ襲ってくるか分からない状態だ。
「な、何か力になることがあれば手伝います!」
戦えないとさっき言ったばかりのくせに生意気だと思われるかもしれない。
それでも、ロボ子さんを悲しませないために不知火フレアは守り通さなきゃいけない。
「お、優しいね。それじゃあちょっと一緒に居ようか」
フレアも断る様子がなく、2人は共に行動することとなった。
――――――――――――――――――
フレアが拠点としているのは、この【フルーフ大森林】の中心に位置する湖――【精霊湖】と呼ばれる場所の付近だ。
よく見ると、木でできた家が一件、ぽつりと建っている。
「さ、好きにしてていいよ」
「えーっと…」
家の中へ案内されると、すぐに紅茶を差し出される。家の中にも何匹かの精霊が居座っていた。
ただ、フレア忙しく家の中をうろつき回っているため、落ち着けと言われてもできそうにない。
「そうだ、そらちゃんの持ってたこの弓矢返しとくね」
そう言い、さっきポケットから取り出したフレアの弓矢を返される。
「いやいや、これフレアちゃんのでしょ?」
「そらちゃんが持っとけば何かの役に立つかもよ?」
半ば無理やり押し付けられ、結局弓矢を元あったポケットに閉まったのだ。
その日は特に何もせず、9時頃には2人とも寝てしまった。
――そして、次の日。
「んー。…騒がしいなきんつば」
目を覚ましたフレアは、外で監視しているはずのきんつばがやけにうるさいことに気づく。
「そらちゃん起きて。ちょっと出るよ」
「んー。…はーい」
眠い目を擦りながら、何とかベッドから起きる。
やっとこ意識が覚醒し、フレアの方を見ればすでにパジャマから戦闘服へと着替えていた。
金色の髪の毛は、頭の頂点のやや下側で一つ縛り――ポニーテールにしている。また、全体的に白色の服装で、スカートの片側には大きなリボンがついている。
太もも付近まである白いハイソックスや、白手袋をつけるという肌の露出を抑えているのかと思いきや、肩部分は大きく肌を露出して、谷間と、胸の下――へその少し上部分を逆三角に開けた服を着るという、大胆な姿でもあった。
「外行くよ。昨日の奴らかも」
そう言い、武器であろう弓を持って外へと出ていった。
「…あれ、弓矢は?」
――――――――――――――――――
木の隙間から、遠くの方を覗いているフレア。
その隣に並んで同じ方向をみるが、何も見えてこない。
「まぁ人間ならしょうがないよ。とは言っても私もはっきりは見えてないけどね。…とりあえず撃ってみるか」
そう言い、フレアは弓を構える。だが、肝心の弓矢を所持していない。
「まぁ見てなって」
そんなときのそらの疑問に答えるかのように、[特殊能力]を使用する。
「――[弓変化]…『力の矢』」
そう唱えると同時、突如フレアの手の中には、赤く光り輝く矢が現れる。
「…これが、特殊能力」
実際に目にするのは初だろう。
「…この距離だとパワーないと届かなそうだし」
そう言い、標的を定め、弓を絞る。
そして――
「――ほい」
その手を離した。瞬間、弓矢は真っ直ぐに木々の隙間を抜けて標的へと向かっていく。
「さてと、どうなったか見に行きま――」
言いかけた途端、紫の魔法のようなものが飛んでくる。
間一髪、寸前のところでかわし、後ろへと距離を空ける。
「…強そうだね。奴らでは無いか」
「――見つけた。あなたが、ハーフエルフね?」
「――っ!!」
死地を共にくぐり抜け、仲間以上に大切な人物となった存在。そんな人物の死体となった姿を見てしまった後、平然と生きている状態の顔を見られるだろうか?
無理だろう。今にも心臓が飛び出そうな感覚になる。
なぜなら、そこにいたのは――本来、会いたかったはずのノエルたちだったから。