――――――森全体を消し飛ばそうと、最後の足掻きを見せた盗賊団の「ボス」。
何とかフレアたちの最後の一撃で、一部分だけの被害で抑えることができた。
「…妖精ちゃん」
ノエルたちがきんつばの心配をする。
フレアにとって妖精の中でも一番大切なのがきんつばだろうと、ときのそらもこの数日一緒に居て気づいている。
そんな大切なきんつばが姿を変え、決死の力を振り絞ったことはとても凄かった。その分、悲しさもあるだろう。
「…大丈夫だよ?きんつば」
そんな皆の心配を余所に、フレアが弓矢へと変わったきんつばの元へ歩いていく。
――すると、弓矢が光輝き出し、その真上には妖精のきんつばが現れたのだ。
「妖精だから、消滅さえしてなければ体力が戻れば復活するよ?」
フレアがそう言う。――さっき、少しでも切ない気持ちを感じたことは無駄だったのだろうか。
「…あれ、でもその弓矢」
能力で生まれた『金唾の矢』。だが、未だにその弓矢は力を失っていない。
「どうやら、これ特別な矢みたいでさ。実体になってるんだよ」
「実体…?」
「そう。だから消えることは無いんじゃないかな」
そうフレアが弓矢を持って答える。あれほどまで強力な力を発揮した弓矢。フレアの戦闘スタイルは、自分で弓矢を生成して攻撃するタイプだ。
たとえ1本だけだとしても、常に持ち歩かないといけないところを考えればバランスは取れているのではないだろうか。
「それか、またきんつばの力を借りるかだね。ただきんつばの力をかなり消費するから連続は無理そうだけど」
「そうだね。…あれ?」
「どうしたの?」
「いや、何でもないっ」
「とりあえずフレアの家へ戻る?もう暗くなったし団長たちもあと一日泊まって行こうかな」
「いいよ」
フレアが先頭を歩きだし、ノエル、マリン、るしあがそれに続いていく。
「――私の弓矢、どっか行った?」
元々はフレアの弓矢で、持っていていいと言われたParallel World MAINから持ってきた1本の矢。
フレアを助けるため一度投げたが、その後回収していた。
――だが、その弓矢はどこへ行ったのか。自分の服のポケットから消えていたのだ。
「…まさか、ね?」
もしかしたら――そう思ったが、深く気にする必要もないと思い込み、ときのそらも皆の後についていった。
――――――――――――――――――
再びフレアの家へと戻ってきた。
皆疲れているのか、マリンとるしあはすぐにベッドの中へと潜っていった。
「はやっ…!」
「まぁ今日はいいんじゃない?とりあえず周囲はまた妖精に任せておくからノエルも寝ちゃいな?」
「うん、そうするね」
ノエルも武器を置き、装備を外してからベッドへと潜っていく。
「そらちゃん眠い?」
「いや、まだ大丈夫っ」
今起きているのはフレアとときのそらの2人だけ。
「分かった。お茶出すね」
そう言われ、テーブルに座っていると、フレアがお茶を出して目の前に座った。
「ありがとうねそらちゃん」
「い、いやいや。私よりもノエルちゃんたちの方が役に立ってるよ」
フレアと一緒に戦ってくれたノエルたちのおかげで今こうして居られるのだと思う。
「でもそらちゃんがいたからノエルたちと敵対しなくて済んだでしょ?居なかったらあのまま無駄な争いが起きてたかもだし」
「あっ…」
それを言われて気がつく。
確かにノエルとフレアが出会った時にはお互い敵意が現れていたのかもしれない。そこに偶然――いや、必然的に居合わせたのがときのそら。前回の世界を救ったことで、この世界におけるノエルたちとも友好関係が続いていた。
それで何とかすぐに仲良くなったのだ。
「…」
つまり、ときのそらが居なかった本来の過去では、もしかしたらフレアたちは衝突していたのではないか?
もしそうだったら、今回のように盗賊団をすぐに抑えることは出来なかったのかもしれない。
「だから、ありがとうね」
「…うん。これからもよろしくね」
ロボ子さんが救いたいという人物の1人。不知火フレア。
もしかしたら、この世界はここで終わるかもしれない。そんな予感がしていた。
「それじゃあ私たちも寝ようか」
「うんっ」
恐らく、寝たらまた現実へと戻るのだろうか。それとも直接MAINに飛ばされるのか。
どっちにしろ、残るは1人となった。
「――絶対に救わなきゃ」
その思いは常に忘れずに、深い眠りへとついた。
――――――――――――――――――
突如、目を刺激するような光が消える。
眠っている私と太陽光の間にだれかが訪れたのだろうか。
「――ん」
寝ぼけながらもゆっくりと目を開けようと努力する。
だけど、少し眠いからもう少し寝ていてもいいのではないだろうか?
「…あんた、こんなとこで寝てると死ぬぺこよ?」
「――ぺこっ!?」
初めて聞く声。それから語尾に驚き、突如眠りの底から覚醒して顔を上げる。
「…痛てっ!?」
「…!?ご、ごめんなさいっ!」
私の顔を覗き込んでいたのだろうか?思い切り顔を上げた際にその人物とぶつかって倒してしまった。
「す、すみませんっ!」
「いてて。まぁいいぺこ。…それよりこんな所で何してるぺこか?」
「え?こんな所?」
目の前の人物に少し心当たりがあるが、それよりも場所を聞かれて周囲を見渡す。
「…え?」
そこは現実でもMAINでもない、新たな場所だったのだ。
周囲の見渡しが良い――いや良すぎるくらいに何も無い。まるで平原のような場所だ。西の方には、森林のような場所の入口に見え、北の方には薄らと壁が横に広がっているように見える。
「…まさか自分がここで寝てるの忘れたのぉ?」
「…は、はい」
これは予想外の出来事だ。MAINを通さずに、違うParallelへと飛んだのだろうか?
この状況ではそう考えるしか無かった。
「仕方ねえぺこ。一緒に連れてってやるぺこよ」
そう言い、目の前の人物は大きな荷車を引いている。
その乗せ台には大きな人参と、丸い白毛玉のような――
「…兎?」
「そうぺこよ。ぺこーらの能力ぺこ」
「ぺこーら?能力?」
「あ。そういや自己紹介してないぺこね。兎田ぺこらぺこ。よろぺこ〜」
思った通り、ロボ子さんが救うための人物、5人の内の最後の1人だ。
「私はときのそらです。よろしくお願いしますっ」
「ぺこーらのことは呼び捨てで良いぺこよ」
「あっ、はい。ぺこらちゃん」
「ぺこら」
「…ぺ、ぺこら」
「良し」
ほぼ強制的に呼び捨てとなってしまったけど問題ないだろう。
「ぺこらの特殊能力は[白兎]ぺこ。今見えてるような丸い毛玉の兎を生み出せるぺこよ」
「へぇ、すごい」
フレアに引き続きぺこらの特殊能力を見ることとなった。
ちょっとした疑問だが、ノエル、マリン、るしあの特殊能力はどんななのか気になる。
「さ、荷車の乗せ台に乗るぺこよ」
「え、ぺこら1人で引いてくの?」
かなりの大きさで、乗せてある人参がぺこらよりも大きいという不思議な光景だ。
「大丈夫ぺこよ。 [白兎]にも手伝ってもらうぺこだし」
「わ、分かった」
とりあえず大人しく従おうと思い、乗せ台に乗り込んだ。
「それじゃー行くぺこー!」
目的地は北の方。ぺこらが荷車を引き、歩き始めたのだ。
――――――――――――――――――
「…ところで今どこに向かってるの?」
ついてこいとは言われたものの、どこへ向かうか全く知らない状態だ。
「それはもちろん、【聖歌都市カントゥス】ぺこよ」
「…【カントゥス】?」
初めて聞く街の名前。そもそもここの時代がいつなのかも気になっている。
「そうぺこよ。今日は丁度「歌姫」がやって来る日ぺこだから。差し入れとして人参届けるように言われたぺこ」
「差し入れで人参?」
「ぺこーらの人参はかなり有名ぺこよ?特に【プラチナ聖王国】では人気ぺこよ!」
「!?ねぇねぇ!白銀聖騎士団の団長って誰か知ってる!?」
聞きなれた場所の名前が出た瞬間、目の色を変えてぺこらに言い寄る。
「え?白銀ノエル団長ぺこよ?あんたどこの国出身なのぉ?」
「…やっぱりノエルちゃん。つまり…もしかして」
このParallelは前回のFORESTからそう遠くない時代なのだろうと分かる。
「…あ、歌姫って何?」
「ちょ、あんた人の話聞けぺこ!…はぁ。歌姫ってのは、色んな世界を渡る今超有名な人物ぺこよ?会えるだけでも珍しいほどの」
「その歌姫がやって来て…歌の披露をするってこと?」
「そうぺこ。【聖歌都市】にはもってこいの状況ぺこね」
「そうなんだね」
とりあえず時代が近い事が分かったことから、これから向かう街で会えないだろうか?そんな事を思いながら、ぺこらと雑談しながらゆったりと進んでいく。
――――――――――――――――――
「着いたぺこよ」
先程薄らと見えていた壁はこの街を囲う塀のような役割を果たすものだった。
「えっ、すご」
街の中に入るなりその光景に息を呑む。今まで見てきた街は、【プラチナ聖王国】、【ミリアム街】と2つしか見てないが、建築物の造り方などには一定の方向性があった。
だが、この街は違う方向性がある。
「なんていうか…現代に近い」
立体的な造りとなっており、空にも道路が架かっている近未来を感じる。
「ここは初めてぺこか?」
「あっ、うん。そうだよ」
「そうぺこか。…これから行く先あるぺこ?」
行く先というよりも、今の目的は世界を救うこと。そして、ロボ子さんが救う人物は今目の前にいる兎田ぺこらだ。
「ないから、一緒に居てもいいかな?」
ないと告げつつ、一緒に行動をしたいと言う。今回ぺこらに深く関わりのある物は持っていないはずだが、運良くぺこらの元に来ることができた。
このチャンスを逃す訳には行かない。
「まじぺこか!?それは嬉しいぺこ!」
可愛らしい笑顔を浮かべながら喜ぶぺこら。
「まぁここが初めてっていうなら少し自由にしても良いぺこよ?歌姫が来るのは夕方ぺこだからそれまでに戻ってきてくれれば」
「分かった!」
自由にしていいと言われ、早速この街の観光へと赴いた。
「…これポスター?」
いつものこの街の状態を知らないが、やけに賑やかな雰囲気がある。さっきぺこらが言っていた歌姫関連だろうとは予想がつく。
「――え?」
そのポスターを見て、驚きが隠せないでいた。
ポスターの見出しには次の文が書かれていた。
――「時空の歌姫」がついにやって来る!そして風の噂で流れてきたのは、「時空の歌姫」とユニットを組んだ1人の少女が誕生!その名は「スターの原石」星街すいせい!もしかしたら初披露になるか!?――
「…星街すいせい」
表記は平仮名となっているが、十中八九ときのそらの親友である、星街 彗星だろう。
「…この時代…じゃ、ないよね?」
この時代ではときのそらも星街すいせいも生きていない。
「時空の歌姫」、それからぺこらの話から、いくつもの時代や世界を渡っているのだと分かる。
どっちにしろ、この星街すいせいと会えば今思っている人物と同じかが分かる。
「…そういえばこの歌姫ってなんていう名前なんだろう」
見出しには名前が書かれておらず、「時空の歌姫」と呼ばれる人物の正体が分からない。
ぺこらからも名前を聞いていないためよく分からないままでいる。
「…あ」
ここで1つ気になることが出来た。
「このParallel…何を救うの?」
今までは、ロボ子さんが救いたい人物である、ノエル、マリン、るしあ、フレアの仲や生死に関わることに対して、本来の過去を変えてよりよい未来へと繋げる役割をしてきた。
だが、はっきり言ってしまえば今回は今までより平和だ。ぺこらに襲いかかる出来事は一体何なのだろうか。
「…んー。まぁいいや。もうちょっと探索しておくか」
後で考えればいいやと思い、もう少しこの街を探索しようと歩き始めた。
――――――――――――――――――
「お、戻ってきたぺこね」
約束の時間より少し早めにぺこらの元へと戻ってきた。
「ねぇねぇ。時空の歌姫ってなんていう名前なの?」
「はぁ?あんた知らねーの?確か…AZKiってなんて読むぺこ?」
「え?えーっと…あずき?」
紙に文字を書いて見せてくれた「AZKi」という文字。
読み方は分からないがこれで一応名前を知ることが出来た。
「そうそうそれぺこよ」
「へぇー。…なんか人増えてきたね」
「まぁ滅多に見れないぺこだからね。たぶん【聖王国】からも来てる人いるんじゃねーぺこ?ここから近いぺこだし」
他の街からも人が来ていればこれだけ人が多くなるのも無理はないだろう。
それに【聖王国】から来ている人がいるなら、もしかしたらノエルたちに会えるかもしれない。
「…オホン。マイクテスト」
突然、この街に響き渡るように拡声器から男の声が聞こえる。
「…この【聖歌都市】の長ぺこね」
長が直々に姿を表すほど歌姫の存在は凄いものなのだと理解する。
「…皆さんこんばんは。【聖歌都市カントゥス】の都市長を務めさせて頂いております。えー、まもなく「時空の歌姫」AZKi様がこの場に訪れます。暫しお待ちください」
とアナウンスが入る。今いる場所は、歌姫のために用意された特設ステージが設置されている。
「いよいよぺこだね」
「…うん」
楽しみに待っていると、1つ空を見上げながら声を上げる人物がいた。それにつられて皆が上空を見上げる。
――そこには円盤状のような、空飛ぶ足場に乗って飛んでくる人物が1人。
「きたー!!!」
周りの観客の声が更に一段と大きくなる。
その空飛ぶ足場の下側は半球のような形になっており、4方向に4色の光が照らし出されながら、用意された特設ステージへと降りてくる。
「…皆さんはじめまして!「時空の歌姫」AZKiです。ちなみにこの足場は「フロートステージ」と呼ばれるオリジナルな物です!滅多に見れないと思うので私の次に良く見ておいてくださいね」
「フロートステージ」と呼ばれる物体から降りて、その人物――AZKiが自分のマイクを通して発言をする。
「残念なことに、相方は今日は休みです。楽しみにしていた方々すみません」
「おー!!!」
周囲がどんどんと盛り上がっていく。その中、相方が休みということに少し残念な気持ちを抱いた。
「…まぁ後で分かるかな」
とりあえず今はぺこらと一緒にこのAZKiをしっかりと目に焼き付けておこう。
「…それではAZKi様。今日は存分に楽しんでいってください」
司会役を担った都市長がそう挨拶を交わすと、マイクの電源を切り近くの席――特等席のような場所に座りAZKiの様子を楽しみに見ている。
「…それにしても可愛い」
歌が凄いのだろうというのはこれだけの人気ぶりから分かる。そして、実際にその姿を見てとても可愛いのだなと改めて認識した。
「――ぁ」
そう思いながらまじまじとAZKiを見ていると、ステージの上に立つAZKiと目が合ってしまった。
何か声を漏らしたように口を開いたが、周りは誰もその様子に気づいていなかった。
「んっ。――では、聞いてください。まずはこの曲『オーバーライト』」
咳払いを1つ。そして、最初の1曲目の演奏が流れ始めた。