Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶14「最後の4分44秒」

――――――男だけでなく、ぺこらとときのそらも今の光景に驚いた。

今まで全くと言って良いほど通用しなかったぺこラン。

だが、今回の威力は想定外の力を発揮した。

 

「…今の歌の効果…?」

 

予想できる事と言えばそれ以外ないだろう。

 

「そう…『フェリシア』。対象者を2人まで選んで、7分間、気力、魔力、身体能力、特殊能力全てを強化するバフ効果」

 

「…かはっ…!」

 

ろくにガードもしなかった分、直撃してしまった男。その姿はかなりのものになっていた。

――左半身がほとんど負傷しており、体の至る所から血が落ちていく。咄嗟に鉈で防ごうとしたのだろうか。片方の鉈の刀身は砕け散っていた。

 

「…もしかしたら」

 

状況を改めて確認して、1つの考えが生まれる。

それは、すでにこの世界は変わっているということ。本来の世界では、男の特殊能力ですでにAZKiとぺこらがやられていたかもしれない。

――この世界を救う1歩を踏み出せたかもしれない。

 

「…ぐっ。…こうなったら奥の手段だ」

 

そう言い、男は懐に手を突っ込んだ。

 

「――まさか」

 

前回の世界――Parallel World FORESTでの最後に見せた自爆技。それを使う気なのだろうか?

 

「…この特製の爆弾でお前たちを終わらせてやる」

 

「…っ!?」

 

その爆弾を見て、AZKiやぺこらだけでなくこの場で周囲にいた全ての人物が驚愕した。

――その瞬間、手下の1人が能力を使い「ボス」である男を捕まえこの場から去ろうとする。

 

「…お前らはもういい。消えてもらうぜAZKi。受け取れよ!…俺からの置き土産だ!」

 

その爆弾に付いているピンを外し、この戦場となった広場の中央へと落としてここから逃げていく。

 

「…あいつ!待つぺこ――っ!?」

 

追いかけようとぺこらが走り出すが、すでに爆弾が起動してしまう。ゆっくりと、爆弾のセットされた地点から周囲に衝撃波が広がっていく。

そのスピードは遅いものの、巻き込まれたステージセットや瓦礫などが跡形もなく消滅しているのを見て、周囲の人間は慌ててこの場から逃げていった。

――今この場に残っているのはAZKi、ぺこら、ときのそらの3人――

 

「…誰かっ!助けてっ!」

 

以外に1人、非能力者だろうか?瓦礫に下半身が押しつぶされ逃げれずにいた。

 

「…っ!ま、まずいぺこ!ぺこーらたちも…」

 

その声を聞き、ぺこらが逃げるかどうかを一瞬躊躇ってしまう。

 

「…そらっ!?」

 

だが、それよりも早く行動をしたときのそら。

動けずにいる女性を助けようと必死に瓦礫をどかそうとする。

そして、その2人は爆発地に最も近い。2分も経たず巻き込まれてしまうだろう。

 

「…ぺこランの吹っ飛ばしで瓦礫を――」

 

吹き飛ばそう。そう考えたぺこらが一瞬考え直す。

――不運というのは積み重なるもの。皮肉にも、AZKiのバフ効果がまだ付与されたままだった。

 

「…そんなっ…」

 

その事にAZKiも遅れながら気づいた。こんな状態で足枷になるとは思ってもみなかっただろう。

 

「…ぺこらとAZKiさんは逃げて!ここは私が何とかします!」

 

正直どうにも出来ないということは本人であるときのそらが1番分かっていた。

――だが、目の前で見捨てるなど絶対に出来ないこと。

 

「に、逃げる…」

 

その言葉に更にぺこらが考え込む。

この場合、素直に逃げるべきか。それとも一緒に救おうと努力するべきか。

 

「――やっぱり、そらちゃんだね」

 

そんな時、ふとAZKiがときのそらの側へとやってくる。

 

「…AZKiさんっ!?早く逃げないと…」

 

「それは君も一緒でしょ?…私の賭けに乗ってみない?」

 

残り1分を切るという所でそうAZKiが提案をしてきた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…賭け?」

 

「そう。今から私がとっておきの歌を歌うわ」

 

普通に何も知らないものが聞けばこの状況で何を言っているんだと思うだろう。だが、AZKiの能力は歌う歌によってあらゆる効果を付与するもの。

 

「…あ、勘違いしないでほしいんだけど、私の特殊能力じゃなくて、この武器の力だからね?」

 

「えっ、そうだったんだ」

 

つまり特殊能力は別にあるということ。今聞くのも野暮なことなので先を促した。

 

「…効果は、私が歌っている間、周囲半径3mの中にいる人物を全てから干渉されないようにすること」

 

あらゆるものから干渉されない。つまり、最初の曲のような完全無敵のようなもの。

ただ違うとこは、対象者1人ではなく半径3m以内の全ての人物ということ。

 

「…私が途中で歌を止めたり、全てを歌いきったら効果は消えるわ」

 

この状況なら歌を邪魔されることはないだろうが、通常の戦闘向けではないというのが分かる。

 

「…でも、この爆発がいつまで続くか…」

 

「そう。それは分からないもんね。だから、歌が終わるまでに何とか解決策を導いて欲しいんだ。…君は、その女性を見捨てる気は無いんでしょ?」

 

もし見捨てるならばこの賭けに乗る必要無く、今すぐに逃げればいい。それを確認してくるAZKi。

もちろん、ときのそらの返答は――

 

「見捨てない」

 

「だよね。…干渉を消すのは人物とそれが身にまとっているものにだけ。だからその瓦礫はこの爆発に飲み込まれて消滅すると思うよ」

 

今無理にどかそうとしなくても良いと伝えるAZKi。

 

「…分かった」

 

「賭けに乗るってことだね?」

 

「…うん。何とか時間内で解決策を導くよ!」

 

「…おほん。ぺこーらも残るぺこ」

 

「っ!ぺこら…」

 

「――逃げないぺこよ。最後まで付き合うぺこ」

 

「…ありがとうっ!」

 

ここにぺこらも加われば考える頭が増える。

 

「…それじゃあ良いね?」

 

AZKiが最終確認をしてくる。すでに到達するのに数十秒を切るくらい目前にまで迫っている中、ダメと言う者は居ないだろう。

 

「…それじゃあ行くよ。この曲の時間――4分44秒間、全てから干渉されなくなる!『without U』!」

 

AZKiの乗り物「フロートステージ」はかなり上空にまで飛んで行った。この爆発に巻き込まれないようにしたのだろう。

4色の光が放たれ、同時に演奏が聞こえ始めた。

 

「…キミがいるから〜。一人じゃないから〜♪」

 

曲が始まる。その瞬間、AZKiの周りを囲うように虹色の光が漂い始め、やがてその光に包み込まれた。

 

「…っ!」

 

その直後、爆発の衝撃波がときのそらたちを飲み込んだ。

だが、AZKiの言う通り飲み込まれただけで一切の影響を受けなかった。

 

「…あ、ありがとうございます…」

 

瓦礫は衝撃波で消し飛び、女性を助けることが出来た。

 

「…後はこの4分44秒間」

 

歌が終わるまでにこの爆発は収まるだろうか?

それを考えるよりもこの時間内で何とか全員が助かる方法を考えなくては行けない。

 

「…間に合わなければ終わり」

 

――いつも以上にもっと考えないと。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――もっと考えるんだ。頭が焼ききれるくらいに。

 

「…どうしようどうしよう」

 

この場にいるのは合計4人。その内2人は非能力者のため、考えることは出来ても実行することは出来ない。

そして、AZKiは――

 

「はじめからおしまいで〜きっとちいさなわたし♪」

 

――歌を歌い続け、この最強の力を発揮し続けている。

AZKiは歌に集中させなければ行けないため、考えること、実行することを任せる訳にはいかない。

そこから導かれるのは、能力者として残ってくれたぺこらに頼ることだ。

 

「…やっぱり能力頼り…」

 

この状況…能力者の力が必須となるだろう。

今になって、ぺこらが残ってくれてとても助かっている。正直居なければ、AZKiが歌いきる前に爆発が終わることを祈るしかできなかったかもしれない。

 

「とりあえずどうするぺこかね」

 

「そうですね。…私のせいですみません」

 

「良いってぺこよ。…ぺこーらもすぐに動けなかったのが悪かったぺこだし」

 

ぺこらと女性も一緒にこの状況を打開しようと考えてくれている。

――最初の気持ちとしてはぺこらには逃げて欲しかった。

なぜなら、ロボ子さんが救いたいと言っていた1人の人物。ぺこらが生き延びてくれれば過去を救えたかもしれないから。

その場合自分がどうなっていたかまでは分からないけど。

 

「…でも」

 

改めて気付かされるときのそらに与えられた役目。

――何も、過去の人物を頼ってはいけないというわけではなかったのだ。

 

「むしろ皆に協力してもらう…」

 

過去に深く干渉しないためには、過去の人物に本来の過去通りに動かないようにこちらが介入すれば良いのだ。

 

「――良し」

 

こんな苦悩もつかの間、気持ちを切り替えて、ぺこらたちとどうやってこの状況を打開するか。改めて考え直そう。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…あの乗り物に乗って上へ一緒に逃げれば良かったんじゃねえぺこ?」

 

ぺこらが上空にある「フロートステージ」を見ながらそう呟く。

 

「…AZKiさんの話だと半径3mって言ってたでしょ?」

 

あの「フロートステージ」はギリギリ半径3mより大きいといったところだろうか。

 

「端っこが飲み込まれたらバランス崩れちゃうかもだし。…それに、あそこに4人も乗れる?」

 

「…あーそれは確かにそうぺこね」

 

提案をしてくれたのは嬉しいが、即座に却下されてしまった。

 

「それでは、皆でAZKiさんを抱えてこの場から逃げるというのは?」

 

助けてもらった女性がそう提案をする。

 

「あー!それは良いぺこね!」

 

「…でも、「フロートステージ」から遠ざかったら曲が止まっちゃうんじゃ」

 

演奏を流しているのは、AZKiの持つマイクではなく、頭上に浮かぶ「フロートステージ」からだ。

 

「…賭けに出すぎってことぺこね」

 

あの「フロートステージ」を真上に固定したまま、一緒に移動させることができれば今の提案が飲める。だが、それについてはAZKiに確認を取っていない。

できるとしても、集中が途切れて歌が止まってしまえば終わりだ。

 

「それはBeside Uーーキミのそばにいるよ〜♪」

 

この曲2回目の盛り上がりへと入る。

恐らくこれは2番のサビ部分だろうか。

 

「…残り半分近く」

 

つまり猶予は約2分しか残されていないと言うこと。

 

「…やばいやばい」

 

焦りが先走り、考えがまとまらずにいる。

 

「そら。方法が1つあるぺこ」

 

その中で、唯一の希望とも言える方法を思いつくぺこら。

 

「えっ!?それは…?」

 

「――不幸と幸は紙一重ぺこだね。まだAZKiさんにもらったバフ効果が終わってないぺこ」

 

そう。全ての力を強化するバフ効果。7分間という長い時間に渡って続く効果。そのタイムリミットがまだやって来ていないということだった。

 

「…でも、その効果は…」

 

対象者2人。ぺこらと、自分自身であるAZKi本人に付与されている。結局ぺこら1人の力で解決しなくてはいけない。

 

「…行動を起こさなきゃ始まらねえぺこだしな。[白兎]!」

 

ぺこらが能力を使い、小さな兎たちを合計10匹。その場に出現させた。

 

「行くぺこ!ぺこラン――発射!」

 

目の前――爆発地の中央とも言える爆弾の置かれた部分めがけてぺこランを10発。かなり勢いのある連射をした。

 

「…っ!?ちょ…」

 

何をしてるのかと言いかけたときのそら。だが、バフ効果が残っているぺこらから放たれるぺこランの威力は凄まじく、男が残していった爆弾と同等とも言える程の力で爆発が起きたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「凄いっ…でもっ…」

 

悲痛な声を漏らすときのそら。

ぺこランによる攻撃での相殺。それがぺこらの思いついた1つの方法だった。

そして、爆発地はどうなったかと言うと――

 

「…くっ!少し小さくなった気がするぺこだけど、まだ足りないぺこね」

 

無意味――というほどではなかったが、それでも爆発の衝撃波を抑えるだけで精一杯。爆発の根源を相殺するまでには至らなかった。

 

「…はぁ。[白兎]!…発射!」

 

「っ!ぺこら!?」

 

それでもぺこランの10発連射を止めないぺこら。

爆発の衝撃波を抑えるが、再び装填し打ち直すまでの間に、衝撃波がぺこらたちを飲み込んでしまう。

――最初の爆発の拡大の遅さが嘘のような速さで。

 

「…はぁ…はぁ。くっ…発射っ!」

 

だが撃つのを止めないぺこら。

どうしても衝撃波に飲み込まれる方が早いため、爆発地に置かれている爆弾を相殺するまでは届かない。

ただ、同じことを繰り返すだけ。このままではジリ貧になるだけだ。むしろ――

 

「――このままじゃぺこらが動けなくなっちゃうよ!」

 

以前にフレアから聞いたが、[特殊能力]というのは何も万能ではないという。それに強力な力ほど反動や代償があると言っていた。

それを踏まえればぺこらの能力はそういった反動や代償は無いように見える。

だが、[特殊能力]は通常の力より激しく気力、魔力を消耗すると言っていた。

 

「…問題ねえぺこ」

 

「…だって…こんなの無謀だよっ…」

 

確かにこれしか方法は無かったのかもしれない。それでも、このままではぺこらを救う目的が危うくなってしまう。

 

「――諦めないぺこよ」

 

「…っ」

 

そんなときのそらに対して、未だぺこランの連射を止めないまま話しかける。

 

「…そらが、すぐにその人を助けたこと。凄いと思ってるぺこ。だから、ぺこーらはそらと隣を歩けるように…使える力は使わないといけないぺこ」

 

「…ぺこら…」

 

「諦めないぺこ。ぺこーらは弱いから…諦めたら、終わっちまうぺこ!!」

 

「――っ!」

 

その泣き叫ぶようなぺこらの言葉を聞いて、ときのそらは自分の弱さに気付かされてしまった。

 

「…ぁ」

 

無謀だと。人の努力をたった一言で否定しまったときのそら。――絶対に無理と分かってしまっていたから言ってしまった言葉。

だが、自分も同じことをしていたじゃないか。

無理と分かっていて女性を助け出したこと。

 

「…ごめんぺこら」

 

「謝るぺこなら、感謝しろぺこぉ!!」

 

「…ありがとう…!」

 

自分も弱いなりに一生懸命やってきたのだ。

ぺこらに似たものを感じ、少しでも助けになるように行動するべきだと改めて思った。

 

「…[白兎]――っ!?」

 

「ぺこらっ!?」

 

そして、その時は突然やってくる。

――ぺこらの体力の限界が遂にきたのか。能力が発動できなくなってしまった。

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