――――――何が起きたのかと、自分の両の手を見返すぺこら。
「…[白兎]!…っ」
再び能力を使おうとするが発動しない。その状況に当の本人はかなり焦っている。
「な…なんでぺこっ…!…っ!」
「ぺこら…っ」
この状況でときのそらに出来ることが無いというのも辛いこと。
「キミといるこの瞬間。大切なものにするためにーー!♪」
再び歌のサビへと入る。3回目となるこれは、ラスサビとなる状況だ。
この中で集中して歌い続けるAZKi。だが、少し表情が固くなっている。
「残りも…」
あとわずか。ぺこらの努力も虚しく、もう打開する策は残されていなかった。
「…まだぺこっ!」
「っ!?」
それでも諦めずに立ち上がるぺこら。その手にはしっかりと[ぺこットランチャー]を握って。
「でも、これ以上…」
「特殊能力は使えないかもしれねえぺこ。でも、まだこいつの力があるぺこ」
そう言ってぺこランを前へと構える。
「…ふぅ。っ!『ぺこらんだむぶれいん』!!」
かなりの魔力を溜め込み、一気にぺこランから撃ち放つ。
武器の先端に橙色のエネルギー弾が集まりだし、大きく光輝いたと思うと、瞬間、光線の如く真っ直ぐに放たれていく。
「…!すごいっ!」
そのまま衝撃波を押し返し、爆発地の中心付近まで砲撃が届いていた。ただ、先の消耗もあり爆発の衝撃との押し合いとなってしまう。
「…この爆弾、一体何なの…」
ここまで余韻が残り続けるのか?それほどまでに凶悪なこの爆弾に違和感を感じざるを得ないときのそら。
いくら悩んでも答えはでないため、すぐに頭を切り替えた。
「くっ…!まだぺこー!」
ぺこランからの衝撃に耐えつつ、あと少しで爆発地を抑えられるというところまで押し返す。あとは、このまま爆弾本体を消滅させ、相殺させることができれば――
「…キミといるから〜一人じゃないから〜♪――兎さんっ…!」
「――っ!?」
AZKiが一際大きくぺこらを呼ぶ。
――ついに曲が終わってしまう。「4分44秒間」があっという間に過ぎ去ってしまった。
――――――――――――――――――
――勢いのあったぺこらの大技。しかし、AZKiの曲が終わることにより、全員を守る力が失われた。
「ぐっ…!?」
その瞬間、今までとは全く違うものと感じるほどに強力な圧がぺこらに襲いかかった。
すぐぺこらの背後に隠れているときのそら、AZKi、助けられた女性は何とか、ぺこらの『ぺこらんだむぶれいん』の砲撃による相殺された衝撃波に飲まれることなくその命が救われている。
「ぐっ…!まだ…耐えれる…ぺこっ!」
ここまで余波が残るものなど普通では有り得ない。だが、今目の前ではその普通ではない光景が広がっている。
「…兎さんっ!…も、もう一度…」
歌い直そうとするAZKiだが、強力な力ゆえ、かなり体力が消費されている様子だ。
それに加え、すでに4曲もの歌を歌っている。もう一度歌うにしても、連続では無理だろう。
「…耐えれている間に何とかっ…」
この窮地を抜け出す方法を改めて考え直さないと。
そう思うときのそらだったが――
「…っ!?」
「――バフ効果が消えた…っ」
ぺこらとAZKiが同時に感じ取る異変。
――それは、7分間のバフ効果の終わりを告げたのと同じ意味を成していた。
「そんなっ…」
バフが消えた途端、盤面が大きく揺らいだ。
――ぺこらの技『ぺこらんだむぶれいん』が爆発の衝撃波にいとも容易く押し返されてしまう。
「――っ」
絶体絶命。すでに目前にまで爆発の光が差し迫っていた。
「…皆ごめんぺこ」
最後のぺこらの声。それに何としても返事をしようと声を振り絞った瞬間――
〈――間ニ合イマシタネ〉
「えっ?」
爆発に飲み込まれ、このParallelは失敗すると思っていたところ、空気が震えるような音に驚く。
そして――
「…ええええっ!?」
突如上から降ってくる黒い影。薄らと見えるそれは何かの生物の顔をしており、勢いよく口を開け、下にいるAZKiたち4人を丸呑みにしてしまったのだ。
――――――――――――――――――
暗闇の中、一筋の光が見える。あれから何分経ったのだろうか?真っ暗闇の中にいる理由を丁寧に思い出していく。
「…食べられたんだったっ!?」
そして思い出す。直前、謎の生物に食べられたという事実に。
「あ、起きた?」
すると、その光の向こう側から声が聞こえる。徐々に中に差し込んでくる光の量が増え、一気に視界に映る情報が増えだした。
「っ…あ、AZKiさんっ!?」
そこにいたのは、一緒に食べられていたAZKiだったのだ。
「あれっ…食べられたんじゃ…」
「あー。あれについては丁度兎さんも目覚めたから一緒に説明するね?とりあえずこっち来て。」
手招きされ、大人しくAZKiの指示に従う。
「…えっ、どこ?」
不思議な現象はまだまだ続く。口の中と思われた暗い空間から外へ出ると、そこには人工的に作られたかのような綺麗な自然が広がっている。
少し奥に目を向ければ、人が住めるような建物が見える。
「…移動した?」
そもそもあの爆発地はどうなったのか?このParallelがまだ続いているというのなら失敗はしていないということ。
「あっ!そらっ!」
「ぺこらっ!?うわっ!」
ぺこらと視線が合うなり、こちらへと走り出して胸の中へと飛び込んできた。
「良かったぺこぉー!」
「ぺこら…!良かった…!」
お互いがお互いの安否を確認し、無事でいたことにかなり安堵していた。
「あっ、あの女性はっ…」
必死になって助け出した女性。その姿が見当たらないことに気がつくときのそら。
「それなら私が使っている家の中で休ませてるから安心して」
AZKiから女性も無事だと言うことを伝えられ、ときのそらが深々と息を吐き、安心したような顔つきとなる。
「…さて、2人とも落ち着いたことだし。今この状況について説明するね」
自然豊かな人工芝のような空間の上には、休憩スポットでも言うような、椅子が並べられており、真ん中には丸いテーブルが置いてあった。
「…そういえば、なんか雲近くねえぺこか?」
周りをキョロキョロしていたぺこらがそんなことを呟く。
言われてみれば、確かに自分の目線よりやや上くらいに雲が見えるような気がしている。
本当はもっと高いところにあったような?
「…驚かないで聞いてほしいんだけど。今、私たちがいるのって、〈宝龍〉の上なんだよね」
――。
「…は?」
一拍置いた後、ぺこらとときのそらの疑問が綺麗に重なった。
「…まあ驚かないでってのは無理があったかなぁ…」
最も、2人の疑問はそれぞれ別角度からのものだったようで――
「〈宝龍〉ってあの〈五大秘龍〉ぺこかっ!?嘘ペこっ!!?」
と、ぺこらは今の発言を疑いつつも〈五大秘龍〉の単語に驚いている。
「…え、生き物なのにこの街づくりって…え?」
と、ときのそらは生物の基準から大幅に逸れている今のこの風景に驚いていた。
「…ま、まあ落ち着いて?宝龍は敵じゃないから」
「…秘龍なのに?」
「そうだよ。私と、すいちゃんの味方。実質、2人の味方でもあるよ」
AZKiが口にした「すいちゃん」という単語に一瞬反応する。だが、今はその話は後にしようと思い口に出さなかった。
「…名前は、宝龍イル・ヴォラーレ。今私たちがいるのはイルの能力によって生まれた場所だよ」
AZKiがまだ納得できずにいる2人にそう説明をする。
「…イル・ヴォラーレ…」
ときのそらは今自分が立っているであろう足場の存在の名前を反芻する。
「…能力?これ本体じゃねーぺこ?」
AZKiの言葉を拾い、ぺこらが疑問を投げかける。
「そうだよ。ここってだいたい家が2件くらいしか立たないような狭い土地に見えるでしょ?」
「まー、これが生き物じゃねえぺこなら狭いぺこだけど…」
生き物にしてはかなり巨大な広さに感じる。だが、今のAZKiの言葉によると――
「…宝龍はだいたいこの10倍近くは大きいよ?」
――想像を絶する程の大きさに驚くどころか声を失ってしまった。
――――――――――――――――――
「ま…まぁ、何とか落ち着いたぺこ」
あれから数分、スケールが大きすぎて、2人とも頭がパンクしてしまった。色々とAZKiから丁寧に教えてもらい、今ようやく落ち着き、納得するに至った。
「…宝龍は味方だから安心して。いざとなったら私のことを助けてくれたりするから」
念を押してAZKiがそう伝えてくる。無理もないだろう。
〈五大秘龍〉と言えばバケモノの基準において、最高危険度の「SSSランク」だ。
それが敵対しないと言われて信じるものは数少ないだろう。
「でも、AZKiさんの言うことなら信じれる…」
「ま、まぁそうぺこね…」
まだ恐怖を抱いているのか、ぺこらの返事はぎこちなかった。
「…まぁ、後で宝龍の本体と会わせてあげるね。人語話せるから安心して」
「まぁそういうことぺこなら…」
人語が話せる。前に会った幻龍も話してたことから、秘龍は皆話せるのだろうか?
「ふぁ〜…」
かなり頭を使い、長い間一緒に戦った結果、今になって疲れが押し寄せてくる。
「眠い?そっちの家で休憩する?」
AZKiがそれに察したのだろうか、家の中へと案内してくれる。
「あ、ありがとうございます…」
ぼーっとしつつ、何とか自分の足で家の中へと入り、案内されたベッドの上へと横たわる。
「それじゃあ、しばらく休んでて。――おやすみそらちゃん」
最後にAZKiが声をかけ部屋を出て――
「――え」
目が半分閉じている状態で違和感に気づく。だが、その違和感に気づく前に更なる光景を目の当たりにする。
「――っ!?」
ドアの隙間。その奥を横切る影。
その見た目は見間違いようがないだろう。なぜなら、その人物は親友の――「星街すいせい」だったから。
「――ぁ…」
だが、タイミング悪く眠気が襲ってくる。
駄目だ。このまま目を閉じれば真相が確認――
――――――――――――――――――
――朝のチャイムが鳴り響き、ゆっくりとその体を起こす。目の前に現れた光景。
「――っ。戻ってる…」
そこは見慣れた、自分の部屋のベッドの上だったのだ。
すぐに目線を動かし、カレンダーの日付を見る。
「…9月4日」
前回、現実世界へと戻ってきた日から1日しか経っていない。
「でも…」
今回は少し違和感がある。
1つに、さっきの世界を救えたのかどうか。確かに、一応危機は脱した気がする。だが、あの後も何か続きそうな感じがしていたのも事実。
「…それに」
最後に感じた違和感。なぜ、AZKiが空の名前を呼んだのか。――自己紹介をしていなかったのに。
「まぁ、ぺこらが教えたとかの可能性もあるか…」
一応は納得する。そして、2つ目。それは連続でParallelを体験したこと。
なぜ、Parallel World MAINへと戻らなかったのか。
「でも、こっちはいくら考えても何も分かんないか…」
そう思い、この考えを一旦止める空。そして、時計に目を移し――
「あっ!今日学校…なかったんだった」
急いで支度をしなきゃと思うが、改めて曜日を見れば今日は土曜日。学校は休みとなっている。
「…遊びの約束はなかったよね?」
念の為スマホを取り出し、今日の予定を確認する。
そこには、午後から3人で映画を見に行く予定となっていた。
「…あ、そういえば映画があった。まだ大丈夫だしゴロゴロしてるか…」
時間に余裕があり、ゆっくりしようと思うもすぐには横にならなかった。
「――。よし」
つい先程のことがあり、ゆっくりすることはできないと思う空。すぐにスマホから連絡先を選び、電話をかける。
「…あ、もしもし?」
「ほぉーい?どうしたー?」
電話越しに聞こえてくる声。それは、いかにも寝起きを醸し出すような声だった。そして、その持ち主は空の親友の1人。
「…すいちゃん。予定より早いけど今から遊べたりする?」
星街 彗星だった。
「あー。今寝起きだから一旦みこちの家に居て?準備できたら呼ぶよ〜」
「分かった!」
そこで通話を切り、今度は巫子ちゃんへと電話を掛ける。
「あっ、巫子ちゃん遊べるよね?今から行くね」
「ちょ、人の話聞くにぇ!!…まぁ良いけども」
たった一言交わし、通話を切る。早速身支度をし、準備を完了させて家を出た。
「…よし」
何だか今すぐに2人に会いたいと、そう感じていたのだ。
すいちゃんにもタイミングがあればさっきの出来事を聞いてみよう。――さすがに人違いだとは思うけども。
「おはよー!」
「おはよう空ちゃん」
そんなこんなで巫子ちゃんの家にたどり着き、すいちゃんの準備が終わるまで2人で遊んでいた。
――――――――――――――――――
「おはよー!」
準備が終わったと連絡をもらい、巫子ちゃんと2人ですいちゃんの家にお邪魔する。
「…それにしても珍しいね。予定を前倒しするなんて」
「にぇー。みこも思った〜」
すいちゃんの部屋に入りながらそんな事を言われる。
「うん。それは…」
「タイミングばっちりだよ空!」
前倒しした理由を説明しようと口を開くと、それよりも先にすいちゃんの声に圧倒される。
「え…?何が…?」
少し引き気味ですいちゃんに答える。
「いきなりうるさいにぇ」
「ごめんごめんっ。でもこんなの初めてですぐに話したくなってさ」
「何?初めて?」
「そう!――夢かもしれないけど私、ファンタジーの世界でアイドルしてたの!」
「――え?」
それはまさに、今追求しようと思っていた内容にそっくりだったのだ。