Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶17「言葉は災いの元」

――――――目の前には動きが止まったバケモノが体を揺らしながら雄叫びを上げている。

 

「…はっ。くらえっ!『レゾナンス』!」

 

「グギャァァ!!?」

 

隙を見せたバケモノに対し、反応が遅れつつもAZKiが攻撃を仕掛ける。

『レゾナンス』――直接相手に触れ、「音」を流し込む技。魔力を込めた分だけ威力は強力になっていく。

 

「…っ!!」

 

たった数秒間。だが、それだけでも絶大な威力を発揮した。

バケモノにもかなりのダメージを負わせたと思うが、それでも反撃をするだけの余力があった。

 

「…くっ!『動くなっ』!」

 

「グァァ!!」

 

再びすいせいによる必死の叫び。それに支配されるか、二度目の行動停止に陥るバケモノ。

 

「もう一度!!『レゾナンス』!」

 

「…グァァァァー!!」

 

ついにバケモノの体の内が弾け飛び、残った下半身部分は制御を失いその場に崩れ落ちたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…まさか[言霊]かぁ。予想外だったね」

 

戦いが一段落付き、すいせいの特殊能力を再確認している。

[言霊]――それはすいせいに与えられた特殊能力だ。言葉に魔力を込めて、それをイメージしながら口にすると効果が発動するというものだった。

 

「言葉に魔力を込める、込めないを制御出来るようにしないとね」

 

「うん」

 

あれ以降なるべく声を発さないようにしたすいせい。下手に能力が発動してしまえば困ってしまうからだ。

 

「よしっ。とりあえず危険な言葉を喋らなければ大丈夫だろうし。普通に話そ」

 

「…そうだね。ところでこのマイクはどうなんだろ」

 

消す、取り出す以外の使い道と言えばそれこそアイドルのように歌うだけ。武器と言えるかは怪しくなってきた。

 

「また後で分かるかもね。それよりそろそろライブだから急ご」

 

「そうだね。…って、ぺこら?を救うってのは…」

 

最初に言われた元の世界へ戻る方法。それは、このELEMENTで兎田ぺこらを救うことと説明されたのだ。

 

「ライブをすれば人は集まる。そこでぺこらを見つけて助ければ良いんだよ」

 

「なるほど」

 

それで納得がいったのか、追求はせずにそのままAZKiの後を追いかけて歩き始めた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

ライブ開始まで10分を切る。このまま【聖歌都市カントゥス】付近の上空で、「フロートステージ」に乗って待機する。そしてぺこらを見つけてこの世界で救い出す。

――そう都合よく行けば良かった。

 

「…くっ!」

 

繰り返される砲撃を「フロートステージ」に乗りつつ回避するAZKi。それにしがみつき振り落とされないようにすいせいも避けている。

 

「…またあの盗賊団の手下かっ」

 

「すごい見つけてくるじゃん!能力?」

 

「そうかもね。ボスに報告が行ってないのを見ると、ボスの能力じゃなさそうね…」

 

このまま【聖歌都市】へ向かうとなれば、ボスに位置を教えてしまうのと同じことになる。

 

「何とか引き離せないか…」

 

「それなら私がやるよ」

 

そう言い出したのはすいせいだった。

 

「あずき1人でライブしてきて。ぺこら?を救うんでしょ?」

 

「で、でも…あれだけの人数…」

 

見ただけでもざっと10人近い。それに、ついさっきも戦ったとは非常に言いづらい戦闘をしただけ。実質、これが初戦闘になり得るだろう。

 

「…でも、あずきの願いを達成するにはそれしかない。お願い」

 

かと言って2人でこいつらを相手すれば時間に間に合わないだろう。

遅れてやって来るなどしたら、観客からの不評は絶対的となる。それでは、アピールも台無しとなり、結果ぺこらを救えるかさえ怪しくなってしまう。

 

「…分かったわ。――絶対に死んじゃ駄目だよ?」

 

「…大丈夫っ」

 

そして、低空を飛ぶ「フロートステージ」から飛び降りるすいせい。最後の激励だろうか?AZKiが一曲『オーバーライト』を歌い、すいせいへ効果を付与する。

 

「…3分間の完全無敵」

 

今、すいせいに与えられた恩恵だ。

 

「つまり3分で片付けろってことね」

 

すでにAZKiは【聖歌都市】へと向かい飛んで行った。目の前のすいせいには目もくれず、そんなAZKiへ攻撃を仕掛けようとする盗賊団たち。

 

「ふぅ…」

 

大きく息を吐き、最初の一撃が肝心だと理解しているすいせい。その初撃とは――

 

「――『あずきのことを忘れろ』!!」

 

――自分の存在をアピールしたいと願うAZKiの夢を打ち砕くような、呪いの言葉だった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

その効果は絶大だ。

 

「ぐぁぁ…!」

 

10人全てが先の言葉を受け、苦しそうにもがいている。

そして、意識を取り戻したかと言うと――

 

「…なぁ、俺ら何しにここへ来たんだ?」

 

「誰かを探せってボスの命令じゃ…」

 

「それ誰のことよ」

 

完全に「AZKi」のことを忘れ去っていた。

 

「よし…」

 

これで一先ずは、今追われる心配はなくなっただろう。

 

「…あの目の前のやつ…敵か?」

 

「あいつ何かしたのか?」

 

「…いい度胸だなぁ!」

 

そして、AZKiを忘れたことにより必然的に奴らのターゲットはすいせいへと切り替わる。

 

「…こっからが本番だね」

 

まだ自分の能力[言霊]について分からないことが多すぎる。どこまでの範囲ならば、口にしたものが現実となるのか。戦いながらそれを把握していくしかない。

 

「…おらぁ!」

 

「…『お前は私に近づけないっ』!」

 

「…うっ!…なんだこれはっ」

 

「…言葉による強制効果か!?」

 

1人の男が剣を手に、こちらへ突撃してくるのを見て発した言葉。上手くいったらしく、振り下ろされた剣はすいせいへと届かずに勢いを失ってしまう。

 

「…厄介だな」

 

「声を発される前に叩くぞ!」

 

ある程度の能力を知られたところで痛手にはならない。

だが、その分相手も対策をしようと戦い方を変えてくる。

別の2人の男と1人の女が、正面と左右の3方向から攻撃を仕掛けてくる。

 

「丁度私も試したかったから助かるよっ…『止まれ』!」

 

「ぐっ…!?」

 

「なっ…!?」

 

正面と右方向の男がその体の動きを封じられる。

だが――

 

「通ったわ!――なにっ!?」

 

左方向から近づいてきた女はその影響を受けずに、すいせいへと打撃をくらわせる。――だが、びくともしないすいせいにその女は一歩引いて驚きを露わにする。

 

「…あずきの力がある間はいくらでも試せるね」

 

まだ完全無敵が消えていない状況。例え今のように抜けられてもダメージを負うことはない。

 

「どっちが能力だ…?」

 

「ダメージを抑えるくらいなら魔力消費技でもできるだろ。とりあえず言葉には優先して気をつけねえとな」

 

もちろん、今の無敵が他人の力とは知らない盗賊団たちは的はずれな憶測を立てていく。

 

「…左の女には効かなかったか…」

 

言葉を発したとき、やや右側に体が向いていた。

考えられることは、自分の正面――約150度の範囲にしか効果は及ばないのだろう。

 

「あとは…一応相手を選べるみたいね」

 

一言目のAZKiを忘れさせる言葉と、今の制止させる言葉は同じ声量――つまり、この場にいる全員に聞こえる声で発した。にも関わらず、後者の制止させる言葉は2人の男にしか効果がなかった。

これから分かるのは範囲内にいる人物から、更に対象を絞れるということ。

敵味方関係なしに発動するような能力じゃないことに一安心する。

 

「こいつっ!」

 

そして、この能力の効果時間もかなりバラバラだ。再び、今度は全員に向かって制止させることを強制させたが、1人の人物――フードを深く被り、静かに佇んでいる人物はものの数秒で動けるようになっていた。

敵との実力差、こちらの能力に上乗せした魔力量。あらゆる方面から効果時間が定まっていると見て良いだろう。

 

「…うっ!?」

 

だが、それが分かったところで倒す手段が増える訳では無い。戦闘知識が低いすいせいは相手の攻撃をかわすのに精一杯だ。

 

「やばいやばい…!」

 

そろそろ3分が過ぎてしまう。そうなれば、一撃でも受ければゲームオーバーだ。

 

「…これを試すしかない…!」

 

今までを振り返る限り、反動や代償は見当たらなかった。

ならば、この「言葉」も通じるのではないか?

 

「…っ」

 

だが万が一を恐れ、中々発することができないでいる。

 

「抑えるわっ![影手]!」

 

「うっ…!?」

 

自分の足元――足から伸びる影の中から黒い手が伸びてきて両手両足を捕まれ身動きが取れなくなってしまう。

 

「――やばい」

 

そしてタイミング悪く、3分間のバフ効果が消えてしまったのだ。

 

「でかしたぜ。…これで終わりにしてやるさ!」

 

女の能力を褒めつつ、こちらへと近づいてくる2人の男。

 

「…やるしか…」

 

腹を括り、ここで発するしか生き残る道はない。そして、その効果が発動することが生存できる最低条件。

 

「はっ。良い顔してるなぁ。…死んだ後、その体は俺が預かってやるぜぇ!!」

 

腰を落とし、一直線に腕を伸ばしてくる。その拳の先は、溢れんばかりの気力がまとわりついている。喰らえば顔面が砕けるのは確定するだろう。

 

「…っ!!」

 

もう残された選択肢は1つしかない。次に発する言葉を頭で整理し、魔力を乗せるイメージをする。

そして――

 

「――『粉々に砕けろッ』!!」

 

勢い良く、必殺の言葉を言い放った。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「――っ!?」

 

静かに戦闘を見ていただけの、フードを深く被っていた人物が、目の前の光景に初めて驚いた顔をした。

 

「ひぃ!?」

 

2人ですいせいに近寄っていたうちの、後方にいた片方の男。すぐ目前での出来事に恐怖を抱き、腰を抜かし尻もちをついてしまう。

それもそのはず。拳がすいせいに届く前に、その先端から粉々に――まるでガラスが割れるかのように脆く、体全身が砕け散っていったのだ。

 

「…勝てない。引くしかない」

 

フードの男が唐突にそう言い出す。

 

「なっ…見殺しにするのか!?」

 

「あの[特殊能力]が開花しちまえば俺たちは勝てないだろ。とりあえずボスに報告はできた。もうこいつと戦う必要はない」

 

「報告?なんのだ?」

 

「俺たちのターゲットだ」

 

「は?…そんなの目の前に…」

 

「…『止まれ』!」

 

「――っ!」

 

後方で話すフードの男と、2人の男。そいつら含めて全員に行動停止を仕掛ける。

 

「…甘いんだよォ!」

 

「――ぐっ!?」

 

だが、その背後から重い一撃を受け、前へ飛ばされ地を転がった。

 

「…中々してくれたじゃねえか。だが、そっちも体力が尽きてきたろ?」

 

「…こんなに…」

 

助けられた側のフードの男が周りに目を向ける。最初に砕かれた男含む5人が、すいせいの能力によって倒されていた。

 

「かっ…はぁ…っ」

 

今の一撃で肩が外れただろう。腕が思うように動かず垂れ下がっている。

 

「…悪い。今ここで殺るか。チャンスは今だ!」

 

考えを変え、手に剣を持ちすいせいに近づくフードの男。

 

「…っ…剣っ…」

 

衝撃でまともに動けない今、確実に斬り裂かれてしまう。それならばと、咄嗟に手を前に突き出す。その中には[シグナル]を握っていた。

こんな小さな得物で敵の剣を防げるだろうか?

 

「…くっ!」

 

「――なにっ…!?」

 

そう思うのもつかの間、敵の漏らす声に反応し、目を向ければ手に握るのは[シグナル]ではなく――

 

「…刀?」

 

いつの間にか切り替わり、剣を受け止める刀を握っていたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…武器の力?」

 

そう思うのも無理はない。気がつけば刀へとその姿を変えている。

 

「…くっ!」

 

「っ!『触れるな』!!」

 

「ぐぅ…!こいつ…!」

 

瞬時に二撃目を繰り出す男。それに対し、[言霊]を放ち、すいせいに触れる前にその剣の勢いは停止した。

 

「魔力か…」

 

自分の武器の仕組みに気づくすいせい。気力を込めれば消すも取り出すも自由。そして、魔力を込めれば――

 

「私の思い描いた武器に切り替わる」

 

かなり強い効果だろう。操れるかは別として。

 

「…やはりここで…」

 

倒すしかないと考えるフードの男。その言葉を遮るのはすいせいではない。

 

「…これって…あずきの龍!」

 

〈オ久シブリデス。間ニ合ッテ良カッタ〉

 

AZKiと居た、宝龍イル・ヴォラーレだった。その勢いのまま、下に居たフードの男が全身ごと跡形もなく潰された。

 

「…すごい」

 

「っ…秘龍だ…」

 

誰が発したのだろうか。それは分からないが、その単語を聞き残る盗賊団たちが血相を変えて逃げ出していく。

だが、宝龍はそれを見逃さない。

 

〈罪ナ者タチヨ。――眠レ〉

 

「…っ!これは…」

 

気がつけば、辺り一面は真っ白な景色――銀世界となり変わる。

その中に埋もれた盗賊団たちは、皆等しく一瞬で凍死した。

 

〈私ノ能力[災禍]デス。アラユル災害ヲ操リ、引キ起コシマス〉

 

「中々やばいね…」

 

〈AZKiノ元ヘ連レテキマス。乗ッテ〉

 

そう言われ、目の前には小さな竜巻が複数巻き起こると同時、イルとそっくりな生物――だが、一際小さいサイズで現れた。

それでもかなりの大きさを誇っているが。

 

「こんなこともできるんだ…」

 

〈ハイ。本体ノ私ハアマリ活発ニ動ケマセン。動ク度ニ災害ガ起キテハ困リマス〉

 

「それは確かに…」

 

あまり笑えない冗談に苦笑しつつ、新たに生まれたイルに乗り出すすいせい。

 

〈意識ハ共有シテイルノデ、ソチラモ私自身デス。気軽ナク接シテクダサイ〉

 

「分かったよ。ありがとっ」

 

その言葉を交わし、宝龍はこの場から姿を消した。代わりに、小さな宝龍の背中でくつろぎながらAZKiの元へと向かっていく。

 

「…家がある」

 

生物の背中に家が建っているという不思議な状況に驚くが今更だろうと割り切ったすいせい。

 

「…うっ」

 

〈疲レガ溜マリマシタカ?少シオ休ミシテナサイ〉

 

[言霊]の乱発により体力の限界が来ていたすいせい。宝龍の言葉に甘えて、家の中にあるベッドに寝転がった。

 

「…んん。…アイドル…」

 

数分も経たない内に完全に眠りへとついたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…と、ここまで覚えてるわけ」

 

長々と語った彗星。半分聞き流したであろう巫子は、終わりの宣言を聞き徐に立ち上がる。

 

「…やっとかにぇ。長い夢だったみたいにぇ」

 

「だから夢じゃないんだって!…たぶん」

 

話しているうちに自分でも怪しくなってきたのか語尾が段々と弱まっていく。

 

「…私と同じ世界…?」

 

今の話から気づくことは、話の流れがついさっきいた世界の話に沿っているように感じた。歌姫がライブをしに【聖歌都市】へ来ていること。人を救うこと。

――何故はっきりと人物名を口にしなかったのか。

そして、恐らく自分の向かった前の世界はParallel World ELEMENTなのだろう。

そして、気になることがまた増える。それは――

 

「あー!映画遅れるにぇー!2人とも早く!」

 

そんな考えも、一際大きな声を放つ巫子にかき消され、出かける準備を急かしてきた。

 

「そうだった!空行くよっ!」

 

「えっ!?ちょっと待ってぇ!?」

 

いきなりの慌ただしさに動揺しつつ、3人仲良く家を出て映画館へと向かっていったのだ。

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