Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶EX-1「在りし日の記憶」

――――――在りし日の記憶。それは、本来在ったはずの記憶。たった1人の少女だけが知っている、真実の過去。

 

「――ボクは…」

 

どうすれば良かったのか。今でもその事が頭から離れない。

 

「――」

 

だからこそ、今過去を変えるために奮闘するときのそらにどうしても期待を寄せてしまう。

 

「――」

 

もう一度、あの日々が戻ってくるように。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…ねぇねぇロボ子さん。なんか最近あの無人島おかしくない?」

 

声をかけてくるのは白銀聖騎士団団長の白銀ノエル。

 

「…ん?あー、あの黒いもやね」

 

「…国王からも言われてて、あれが危険なものだったらここが一番危ないじゃん?だから調査に行こうかなって」

 

「そうだね。ボクも行くけど…あとはいつもの皆?」

 

「うん。一応呼んでみるね」

 

「おっけ〜」

 

そんな話をして、ノエルが外へと出ていく。することも特にないため、戻ってくるまで本を読み直すロボ子さん。

――この選択が、後にロボ子さんを苦しませる「悲劇の過去」になるとも知らずに。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「よし。皆集まったね」

 

ノエルが招集したのは、ぺこら、マリン、フレア、るしあだった。

 

「…いやー久々にロボ子さん見ましたね」

 

「お久〜。これから行くんでしょ?」

 

「そうそう。とりあえずこの船借りて行くか」

 

「そうだね。んじゃ、マリン舵よろしく」

 

「はぁ?なんでマリンなんだよ、フレアやれよ」

 

「いや、お前仮にも船長ぺこだろ」

 

「仮にもってなんだよ!?船長ですぅ!」

 

「マリンうるさい…。ノエルー早く行こ?」

 

「そうだね。皆乗って〜」

 

「おいこら!船長無視すんな!」

 

いつも通り賑やかな5人。そんな微笑ましい姿を見つつも、ロボ子さんも船へと乗り込む。

 

「それじゃあ行くよ〜」

 

そうして6人で、謎の無人島へと出発する。

 

「…思ったよりも近いね」

 

そう呟くるしあ。船に乗り出して、わずか15分程で黒いもやの内側へと侵入し、無人島に上陸したのだ。

 

「…んー。なんか変な感じはするけども、特にはない?」

 

黒いもやの正体を探しに来たが、見える範囲には何も見当たらないでいる。

 

「隠れていたりする?」

 

「それか別に害がなかったりとか?」

 

「そうかもね。…戻る?」

 

10分ほど周囲を探索したが何も情報が得られずに、無人島を出るために再び船に乗り込む。

 

「それじゃあ戻るか」

 

来ただけ損だなと思いながら、この島を出ようと船を進める。だが――

 

「…あれ?出れない?」

 

黒いもやが球状にこの島全体を取り囲んでいる。そのもやの外へと出れないのだ。

 

「――え?閉じ込められた…?」

 

その言葉を聞き、全員に緊張が走るのを感じ取る。

 

「…やっぱり何かいるってことか」

 

このままでは出られない。そのため、この主犯を倒さなくてはいけないと、船の方向を変えて無人島へ戻ろうとする――

 

「――やばっ…」

 

反応が遅かった。――突如降ってくる隕石に、船ごと全員が撃ち落とされたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「――かはっ…うっ…」

 

意識を取り戻すロボ子さん。気がつけば、島へ打ち上げられていた。

 

「――なにこれ…」

 

顔を上げ周りを見れば、無人島の上空を黒い雲が妖しく漂っている。そして、この無人島へ来るまでに通った海――激しく、この無人島の周りを回るように不自然に、そして規則的に渦巻いていた。

 

「――はっ。皆はっ…!」

 

ここへやって来た他の5人。その姿が見当たらないことに気がつく。

 

「さっきので…」

 

死んだ?それともはぐれた?

後者であることを望みながら、立ち上がり皆を探しに走り始めた。

 

〈――何シニココへ来タ〉

 

「…っ!?」

 

ふと声がする。振り向けば、そこに立ち塞がるは全体的に紫色の体でその周囲を禍々しいオーラが漂う龍だった。

 

「――幻龍アヴニール…」

 

その姿から思い浮かぶのは〈五大秘龍〉の一匹、幻龍だった。

その秘龍がなぜここにいるのか。それが分からずにいる。

 

「…幻龍」

 

〈――何故イル。答エロ〉

 

その幻龍が問いかける相手、それがロボ子さん自身ではないことに今更気付く。

 

「…え?」

 

突如幻龍がこちらへ向かって急接近してくる。

そして、腕を伸ばしてきたと思えば、こちらを通り抜けその先へと突き出した。

 

「…っ?――嘘っ…」

 

その行動がなんの意味を持っていたのか、確かめるべく後ろへ振り返る。

そこには、幻龍と同じく――〈秘龍〉が尻尾を叩きつけてきていたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…これって、嘘…」

 

嘆くのも無理はない。そこにいたのは、ロボ子さんが仲間だと思っていた――〈輝龍〉なのだから。

 

〈何故イル。――輝龍クヴィネグランツ〉

 

〈――。ァァ!〉

 

だが、それには答えようとせずに攻撃を仕掛けてくる輝龍。

 

「ど、どうして…ココちゃん」

 

反応を示さない輝龍をみて、別人のように思えてくる。

目の前で起きている秘龍同士の戦い。

その隙間をくぐり抜け、いち早く他の皆を見つけなければいけない。

秘龍たちには目もくれず、一目散にこの場を去っていく。

 

「はぁっ…はぁっ…他にはいないよね…っ」

 

すでに秘龍が2匹も存在している空間。それ程までに地獄は無いだろう。

ここに他の秘龍がいるだなんて思いたくはない。

 

「…皆は…っ」

 

見た目ではそこまで大きくなかった無人島。だが、その中に入り走り回ればかなりの広さを誇っていたことを実感する。

 

――ドゴォォン。

 

「…っ!」

 

先程から不定期に起きる振動と衝撃の音。恐らく幻龍と輝龍の戦いだろう。

 

「…幻龍はよく分からないけど…」

 

輝龍の実力をロボ子さんは知っている。故に、ここから導かれる勝敗の行方。それは――

 

「…たぶん、幻龍は死ぬ」

 

秘龍同士の対決はあまり耳にしたことがない。そのため、今の状況がどう転ぶかは分からないが、輝龍の力と勘を頼りに考えた結果、幻龍は勝つことは出来ないと予想する。

 

「…そして」

 

そこから輝龍は今自我を失っているようにも見える。つまり、この後ロボ子さんたちを標的にするかもしれない。

 

「――」

 

どうしてここへ来てしまったのか。あの時止めていれば変わってたのだろうか?

だが、どう悔やんでも「過去」は変えられない。

――そらを失った時のように。

 

「――。戦わなきゃ…」

 

この地獄から抜け出す方法。それは、輝龍を倒すこと。

いち早く5人を見つけ出し、作戦を練らなければいけない。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

あれからどのくらい時が経っただろうか。

今では、不定期とはいえかなり早い頻度で聞こえていた音がピタリと止んでいる。

 

「…戦いが終わってるはず」

 

ここからは輝龍に見つかるまでの時間の問題だ。

見つかる前に先にノエルたちを見つけ――

 

〈――ガァッ!〉

 

「――っ!?」

 

――ることができなかった。

 

「…もう見つかった…!?」

 

この間に他の皆は見つかってないのだろうか?そうなればかなり不運が続いている気がする。

 

〈――ッ!!〉

 

爪を振り下ろしてくるが、それを間一髪で回避する。

そして、今目の前に〈輝龍〉が現れたということは

〈幻龍〉が敗北したことを意味する。

ロボ子さんの予想通りとなってしまったのだ。

 

「…うっ…!『グラビティ・アップ』!」

 

〈――ッ!〉

 

逃げるロボ子さんを的確に狙ってくる輝龍。その一つの攻撃がたどり着く前に、ロボ子さんが能力を発揮する。

『グラビティ』――対象者や範囲を指定し、それに対し重力の制限を強制できる力。

『アップ』によって、その重力を2倍から50倍の間で自在に付加させることができ、『ダウン』によって、その重力を2分の1から50分の1の間で自在に付加できる。

もちろんかける付加の数値が大きいほど、魔力消費は高くなるが、ロボ子さんの特質上あまり痛手とはならない。

 

「…それでも動くか…!」

 

今、輝龍に対し一気に50倍を付加した。そのいきなりの重力の変化に対応できずに、こちらへ伸ばした腕は届かずに地面へと落とされる。

その後は、付加を20倍に下げ、自分の消費を抑えつつ輝龍から逃げ回る。

だが、20倍の付加を受けているにも関わらず、先程よりほんの少ししか動きが遅くならない。

 

「…困るなぁ…!こっちは攻撃技良いのないのに!」

 

逃げつつそんな皮肉を言い放つ。ロボ子さんのこの力はサポートとしては超万能かつ、最強の部類だろう。

だが、自ら戦うときに使うような応用はそこまで威力は発揮できない。

 

〈――ッ。『神光』〉

 

「――っ!?」

 

輝龍から放たれる言葉。それと同時にロボ子さんの足元から半径100メートルという超広範囲で円状に光が溢れてくる。

そう思った瞬間、その光が一気に空へ放出されたのだ。

 

「――ぁ」

 

その光に呑み込まれ、ロボ子さんは光とともに宙へと飛ばされる。

 

「――っ。や…」

 

やばい、と声を出した時には、すでに同じ高さにまで到達していた。その勢いのまま、片腕に光を溜め込み一気に叩きつけてくると同時、その光を放出した。

 

「――」

 

今までに受けたことの無いような一撃。このまま地面へと叩きつけられ、この命は尽きるのだろうとすでに悟っていた。

――だからこそ、最後の最後まで、自分よりも他の5人の安否を気にしたのかもしれない。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――意識がない。光が見えない。味がしない。音が聞こえない。感触がない。

 

「――」

 

自分は死んだのだろう。そう、実感することしかできない。

 

「…!」

 

薄らと、耳を刺激する音が聞こえた気がする。

 

「…ねぇ!」

 

目の前に影ができる。誰かがそこにいるのだろう。

 

「――起きて!ロボ子っ!」

 

手を握られる感触がした。

――まだ、生きているのか?

 

『――システム再起動』

 

「――っ!?」

 

謎の声が頭の中で響き渡った。

――直後、意識が完全に回復し、眩しい太陽の光が、ざらざらする土埃の味が、声をかけてくる少女の声が、温もりを感じる手の感触が、全てが鮮明に蘇ってきた。

 

「――なにこれ」

 

「…っ!良かった…ロボ子!」

 

視線を向ければ、こちらを心配していた人物がAZKiであることが分かる。

『時渡り』でここへと戻ってきたのだろうか?

だが、今はそんな事を考える余裕はない。――今起きた出来事に、ロボ子さん自身、酷く体から熱が引いていくのを感じているからだ。

 

「…?ロボ子?」

 

「あずき…」

 

目の前でこちらの様子を窺っているAZKi。ロボ子さんの、その虚ろな眼を見て一体何を思っているのだろうか。

 

「…皆…は?」

 

「――っ」

 

他の5人の安否を確認すると、AZKiの表情が一変する。

その態度から、言葉にされなくても分かってしまった。

 

「――どこにいるの」

 

それでも、もう一度だけでも皆の顔が見たい。そんな思いを込めてAZKiに問う。その意図を察してか、AZKiも何も言わずに素直にロボ子さんを皆のいる方向へと連れていった。

 

「…どうしたの?ロボ子」

 

AZKiの問いはさっきの5人の居場所を聞くロボ子さんにではない。――目が覚めてからずっと不自然なその様子についてだ。

 

「――あずき…」

 

「――っ!?ロボ子っ!?」

 

AZKiの質問に答えるためか、何を思ったのかその身を投げ出し、崖から下へと落ちていったのだ。

 

「ロボ子っ!何して――」

 

「フロートステージ」に乗り、崖の下へと追いかけるAZKi。そのAZKiが見た光景とは――

 

『システム再起動』

 

「――っ」

 

その身が全くの無傷で、今にも泣き出しそうな、悲しげな表情でAZKiを見つめていた姿だった。

 

「…あずきぃ…っ!」

 

地へと降りたAZKiに駆け寄り、思い切り抱きしめる。胸の中へと顔を埋めたロボ子さんが漏らす声――それは泣き声以外には聞こえない。否、まさしく泣きじゃくっていたのだ。

 

「――なんで…なんでボクはこんな[特殊能力]なのっ…!?なんで今分かっちゃうんだよ!!…っ!」

 

「――」

 

「だって!だって…今更…手遅れ…じゃ…ん…っ」

 

必死に訴えるロボ子さんの辛い気持ち。AZKiには分かりたくても、人の気持ちは完全には分からない。

ただただ、泣きわめくロボ子さんの背に手を添えて、優しく抱擁するしかなかったのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

[特殊能力]――その人物、またはバケモノにだけ与えられたたった一つの固有の力。その力の使い方、応用はその人物以外には分からない。

また、その力を自覚したとき、基礎となる使い方を自然と覚えると噂されていた。

ロボ子さんに与えられし力。それは――

 

「――[生命体]…」

 

何とか心を整理させたロボ子さんから聞いた能力。それをAZKiは声に出し、反芻する。

 

「…ボクは死ぬ事が許されていない」

 

痛みなどといった感覚はあるものの、決して衰えず、そして死ぬ事がない。どんなに体が傷ついても、頭の中に響くあの音によって、元の姿に戻ってしまう。

無限に続く日々を、ただ意味もなく過ごすのみ。

 

「…もっと…早く…」

 

この力が覚醒していたなら。

ロボ子さん自身、能力が使えないことから自分には与えられていないものだと割り切って、今まで皆のサポートに徹していた。

――死ぬことを恐れながら。

 

「…ボクが…死なないんじゃ…っ」

 

だが、死ぬ事がないと知っていたら?

皆を守る盾として、もっと動き回っていたに違いない。

このタイミングで訪れる能力の覚醒。それをどれだけ恨んだか、そんな事を考える気持ちにもなれない。

 

「――ロボ子。行こう」

 

そんな全てを諦め、絶望した人物にかける言葉。

一つ間違えれば、この関係に亀裂が生まれるかもしれないのに。

 

「――救うんでしょ。…そらちゃんのことも」

 

「――っ」

 

彼女は――AZKiは、そんなロボ子さんに迷わず言葉を連ねていく。

 

「…私の[特殊能力]の恩恵。やっぱり、ロボ子にも与えたい」

 

「…それは…」

 

「できないからってやらなかったわけじゃないよ?――ロボ子に…私と同じ辛い思いをさせたくなかったから」

 

「あずき…」

 

「…今更絶望することないでしょ?…一緒に、地獄へ踏み出そ?」

 

苦笑しながら、その片方の手を差し伸べてくる。

――一緒に地獄へ行こうと、大好きな親友が誘ってくるのだ。

この手を握れば後戻りはできない。

 

「――でも…ここで終わらせるのもできないっ」

 

力強く、ロボ子さんはAZKiの手を握り返す。

 

「…ふふっ。本当は連れて行きたくないけど…」

 

「あずきは優しいね。でも、「お互い」死なない訳だし?」

 

「ふふっ、全くロボ子は。――Parallelへ行こう。「過去」を取り戻しに」

 

AZKiの背後から、周囲へ広がる光の輪が複数現れる。

 

「行くよ。『円環の理』」

 

やがてその輪が2人を包み込み、この「終わった世界」から消えていなくなったのだ。




次話は連日で、明日に投稿します。
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