Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶21「一縷の希望」

――――――人は死の淵に立ったり、命懸けで物事に必死になると潜在能力が発揮され、覚醒すると良く耳にする。

今マリンの身に起きているのはまさしくその通りだろう。

 

「…ぁ…マリ…ン」

 

傷口から流れ出る血を手で抑えながら、マリンに視線を向けるフレア。

だが、助けに行けるほどの余裕は今のフレアには残っていない。

 

「…はぁ…はぁ…死なせません…!」

 

先の攻撃でかなりの痛手を負ったマリン。頭から血を流し、意識が少しずつ朦朧としていく。

そんな中でも、ここで倒れるわけにはいかない。

――皆を死なせられないから。

 

「…もちろん、船長に守られる必要はない人たちですけど…」

 

自分自身も死んではいけない。

皆で生きて帰ること。それが「絶対条件」なのだから。

 

「…かはっ…っ」

 

口の中にたまる血反吐を吐き捨て、秘龍と向き直る。

予備動作無しに、いきなり目の前へと現れる秘龍。

 

「…[深淵乖離]っ!!」

 

マリンの特殊能力が覚醒される。何も無い空間に、突如渦巻き状の穴が出現する。そこから鎖がいくつも現れ、目の前の秘龍の四肢を捕らえた。

 

〈――ッッ!!〉

 

その鎖により、秘龍は足止めされる。必死に暴れるが、それでも破ることができずにいる。

 

「…はぁ…っ…」

 

血の巡りが悪くなってきた頃合いだ。そろそろマリンの限界も近づいているだろう。

それでも、まだ倒れる事はできない。

 

「…るしあが…っ…ぺこらを回復し終えるまでは…」

 

それまで耐えなければいけない。

 

「…っ!!『壊落激流』!」

 

秘龍の頭上に、再び特殊能力によって不自然に現れる黒い穴。そこから、一気に大量の水流が落下し、秘龍に直撃する。

かなりの大ダメージ。秘龍とはいえ、無傷では済まないだろう。

 

〈――ッ!!〉

 

「――ぁ…」

 

そんな中、抵抗するように反撃してくる秘龍。放たれた光に、マリンはかわすことも迎え撃つことも間に合わない。

 

「――間に合った」

 

「…っ!…ノエル…!」

 

その横からマリンの前に立つノエル。

 

「…団長の特殊能力…ここが最適!!」

 

そして、武器を片手に飛んでくる光に向かって走り出した。

 

「…ノエル…っ!」

 

止血が間に合わず、徐々に意識が薄れていくフレアがその姿を見て、必死の声を上げる。

 

「――[金剛]!」

 

真正面から光とぶつかるノエル。その瞬間に発動した特殊能力により、全身が銀色のメタル色と化する。

そこへ直撃する光によって、その姿は見えなくなるが――

 

「…効かないよっ!そして――『メテオドライブ』!!」

 

ほぼ無傷で光を突破したノエルがそのまま勢いよく秘龍の頭上へと現れ、鎖で捕縛され動けない所へ、その一撃を叩き込める。

 

〈――ァァ!!?〉

 

その強大な力に、初めて、秘龍がその場に倒れ伏したのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…マリンっ!!」

 

華麗に着地し、マリンの元へ駆け寄るノエル。

 

「…大丈夫…です…」

 

「良く耐えてくれたね。…もう、無理しないで大丈夫だよ?」

 

笑みを浮かべるノエルの目元から涙の粒がこぼれ落ちる。

そんな必死に頑張ってくれたマリンを称賛し、るしあの元へと連れていった。

 

「…るしあちゃん!」

 

「…っ!?そらちゃん!」

 

一方、るしあの方へ一足先に向かっていたときのそらがフレアを抱えてるしあと合流を果たす。

 

「…フレアっ…!」

 

ぺこらを回復しつつ、フレアにも回復の恩恵を与える。

ここにマリンも追加となればるしあの負担はかなり大きくなるだろう。

 

「大丈夫!るしあだけじゃなく、霊の力を借りてるから。消費は少なめだよ」

 

そんなときのそらの心配に気づいてか、るしあが優しくそう答えてくる。

 

「…あの秘龍の必勝法が分かったよ」

 

そんなときのそらの一言に、意識のあるフレアとるしあが目を見開く。

 

「――操られている。だから、それを解けば大人しくなるはず」

 

そこへ、マリンを連れて戻ってきたノエルがときのそらの言葉に付け足した。

 

「…操られている?」

 

「あの秘龍…おそらく〈輝龍〉だと思うの」

 

そのノエルの言葉に両者ともに驚きを隠せないでいた。

輝龍が大人しい性格というのは、この付近の人間にとっての共通認識だったらしい。

 

「…本当に輝龍なら、操られている可能性は高いね」

 

「でも…どうやって解除するの?」

 

「…結局やり方は変わらないかもしれないけどね。恐らく体力を消耗させれば、解けるはず。あの黒いもやが証拠だろうね」

 

ノエルの言葉に全員が納得し、やる事が決まる。

攻撃することは変わらないわけで、倒すか倒さないかの違いだ。

 

「…やってやるよ!」

 

ノエルが意気込み、一人前へと立つ。

そのまま、起き上がった輝龍と睨み合う。

 

「…しぶといね。その謎の黒いもや、祓わせてもらうよ!」

 

先に動いたのはノエルだ。素早く輝龍の目の前へと駆け出し、力強く一歩踏み切り、空へと跳ぶ。

 

「…『メテオドライブ』!」

 

2度目となる、隕石が降るかのように光が輝龍目掛けて撃ち落とされる。

しかし、一度受けたからか、見た目とは裏腹に俊敏な動きで避けていく。

 

「…ノエルちゃん…」

 

一人で立ち向かうなんて馬鹿なまね、普通の皆なら止めただろう。

しかし、これは少しでも早く、多く回復してもらうための場を繋ぐための行動だ。それを分かっているからこそ、ノエルを止めるような言葉を誰も出さないでいる。

 

「私の力…」

 

まだノエルに付与されているのだろうか。それすらも分かっていない。もう一度付与しようにも、さっきのように上手くいく保証はない。

 

「…うっ!?」

 

着地する前、輝龍の風圧により更に上空へと飛ばされる。

 

「ノエルちゃん!」

 

人は空中での機動力は、地に足をつけている状態よりかなり落ちるのが普通だ。ノエルもその例から外れず、空中で身動きがままならない状態の所へ、輝龍が光を無数に放ち込んだ。

 

「…まだ使えない…っ」

 

同じように特殊能力で突破しようと考えていたノエルだが、発動できずにいる。

――このままでは絶対絶命だ。

 

「…それはさせないっ!」

 

「るしあちゃん!?」

 

3人を回復していたるしあから大量の禍々しい紫色の魔力が溢れてくる。

 

「…はぁぁぁ!――[禁術蘇生]!」

 

るしあの背後に溢れた魔力が集まりだし、その中からるしあたちの2倍以上の大きさの、人型の女性の霊が呼び出されたのだ。

 

「…グァァァ!!」

 

その女性人型霊がノエルへと放たれた光の前へと現れ、対抗するように口から禍々しい波動を放ち、上空で2つの光がぶつかり合った。

 

「…うっ!?」

 

その衝撃に尻もちをついてしまう。

 

「ノエルっ――ぐえっ!」

 

「痛たた…ご、ごめんるしあっ!?」

 

何事もなく落下してきたノエルを受け止めたるしあ。だが、受け止められずにノエルの下敷きとなってしまう。

 

「…ありがとるしあ」

 

「う、うん…ここからるしあも戦うよ」

 

ぺこらはもう充分に回復し、一命は取り留めている。

フレアとマリンに関しても、るしあの霊により回復が継続されている。

 

「分かった。…何としても輝龍を大人しくさせなきゃ」

 

ノエルの意気込みに呼応するかのように、輝龍の放った光を押さえた女性人型霊が降りてきて、るしあの背後に位置づいた。

 

「…とりあえず輝龍を消耗させる」

 

「そして、あの黒いもやを祓うこと」

 

ノエルとるしあが目的の確認をする。そして、再び始まる輝龍との真っ向勝負。

 

「…行くよ!」

 

「うんっ!」

 

ノエルの声に合わせ、輝龍に向かって走る2人。るしあの後を追うように呼び出された女性人型霊も動き出す。

 

「…[禁術蘇生]――『幽玄虚霊』!」

 

「――ガァァァアア!!!」

 

るしあの特殊能力が本領を発揮する。女性人型霊に更なる霊魂が集まりだし、紫色のオーラを放ちながらその姿を更に一段と巨大化させ、凶暴な姿へと変貌を遂げた。

 

「よし…『怨恨』!」

 

そして、先制攻撃とばかりに、るしあが紫色の霊魂を輝龍に向かって撃ち放ったのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

るしあが増え、2対1となった戦いぶりを見守る4人。

 

「すごい…!」

 

ときのそらは率直な感想を漏らした。

一人増えただけで、戦況に変化が生まれたのだ。

防戦一方に近い戦いをしていただけだったノエルだが、今では輝龍の方が押されてきている。

 

「3人も順調に…」

 

体力が回復している。もう少しで意識を完全に取り戻すだろう。それまで2人で耐えてもらうか、願わくばそのまま輝龍を倒して欲しいところ。

 

「…ぐっ!?」

 

「っ!?るしあちゃん!」

 

鈍い音が聞こえ、一瞬にしてときのそらから笑顔が無くなる。急いで振り向けば、そこには左腕が普通ではありえない方向に折れているのが良く分かる。

そう、はっきりと――誰が見ても、もう使えなくなっていることくらい。

 

「…るしあっ!?」

 

「大丈夫っ…!…虚霊!」

 

「ガァァァ!!」

 

左腕をだらりと下に垂らしながら、特殊能力により生み出された女性人型霊――虚霊を呼ぶ。

追撃に飛んできた輝龍の爪を、同じく虚霊の爪が抑えた。

 

「…『メテオドライブ』!」

 

すかさず、ノエルが輝龍の横腹目掛けて無数の光を放出する。

虚霊に捕まれていることで避けきれず、輝龍に直撃した。

 

〈――ァァ!!〉

 

「…効いてるっ!」

 

ときのそらも一連の流れを見て、勝機を感じてきていた。今、自分にできること。たった一つあるそれを再び試す時かもしれない。

――上手く行けば、それが決定打にも。

 

「…今更干渉の事気にしても意味ないからっ!!」

 

同じように、ノエル目掛けて先の力を使おうと気合いを入れる。

その瞬間ある事に気づく。

 

「…。もしかしたら…」

 

考える前に行動するのがときのそらだ。

先の力を引き出すために集中するが、それはノエルだけでなく――るしあ、フレア、マリン、ぺこらをも含む5人に対して力を行使したのだ。

 

「――お願いっ!!」

 

「…っ!…そらちゃん」

 

「――えっ!?」

 

賭けは大成功。ノエルは先と同じ感覚に対して、真っ先にときのそらの力が使われたのだと気付く。

他4人は、いきなりの能力向上に驚きを隠せないでいた。

 

「…これ、そらちゃんが?」

 

「…これ…で――」

 

マリンもぺこらも完全に意識を取り戻し、確認のためにフレアがときのそらに問いかける。だが――

 

「…っ!そらっ!?」

 

倒れるときのそらの体を咄嗟に支えたぺこら。

ときのそらは激しい力の発揮により、気を失ってしまったのだ。

 

「…ありがとうそらちゃん。――ここからは船長達に任せてください!」

 

ときのそらの力を無駄にはできない。

力を取り戻した3人が立ち上がり、ノエルとるしあの元へと合流する。

未だ倒れない、輝龍の姿を見つめながら。

 

「…さあ、ここからが本番ですよ」

 

本当の本当に、6人の力が合わさった今こそが、最後の戦いになるのだろう。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――気を失うと、力を使った直後に実感した。

今更皆の安否を気にする必要はない。

自分よりも何倍も強い人たちだからこそ、死なないと思っている。

もちろん、自分の心配さえも必要ない。

人任せかもしれないが、皆が守ってくれるだろうから。

――だから、今思うことはたった一つだけ。

 

「…過去、変えられたかな」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

急激な力の増大に、輝龍でさえも驚いているだろう。その証拠に、次々と攻める5人に対して、防戦一方となっているのだ。

 

「…はぁ…はぁ」

 

「るしあっ!虚霊はもう引っ込めても良い![深淵乖離]!」

 

「わ、分かったマリン!」

 

るしあの特殊能力はかなり強力。その分、代償を伴う。

あまり長時間で使用させるのは危険と判断したマリンが、輝龍の動きを抑える役割の交代を提案する。

[深淵乖離]によって、空間に現れた幾つもの渦巻きから鎖が飛び出してきて、輝龍の体を封じる。

 

〈――ガァァ!〉

 

そんなマリンに向かって光砲を放ってくる。

だが、咄嗟にかわそうとしたマリンの前にフレアが現れた。

 

「フ、フレアっ!?」

 

「大丈夫。…私の特殊能力の本気、見せちゃうよ!」

 

そう言って飛んでくる光砲に対抗する手段は、片手を前に突き出しただけ。

 

「…ちょっ!?フレアっ!?」

 

横から支援攻撃をしているぺこらも、フレアの行動の意図が分かっていない様子。

 

「…はぁぁ!」

 

光砲を正面から受け止めるフレア。少しずつ後ろへと押されていく。

 

「…っ!![弓変化]!」

 

そのまま、特殊能力を発動する。フレアが受け止めた光砲が徐々に収縮していき、やがてフレアの手の中で1本の光り輝く弓矢となっていた。

 

「…そ、それって… 」

 

「…私の能力は、何も弓矢を作り出すだけじゃない…!触れたものから弓矢を作り出し、元の性能を維持させる事ができるのさ」

 

そう言い放ち、フレアは手に持った光砲の弓矢を輝龍へと向かって構える。

 

「――『速の矢』」

 

そう声を出し、弓矢を持つ手を離した。

 

〈――グガァ!?〉

 

――刹那、輝龍を射抜く凄まじい光が、粉々に散っていく。

 

「…え、当たっ…てない?いや…違う、のか?」

 

ノエルすらも困惑するほど。一体何が起きたのか、この場にいるフレア以外の誰しもが理解出来ていないだろう。

そして、理解する前に次の情報が与えられる。

 

「…輝龍が」

 

自分の光に当てられ、二度目の、背中から大きく倒れ込んだのだ。

 

「今のって…」

 

「『速の矢』。それこそ、光の速度で敵を射つ力だよ。当たったら砕けちゃうけど、それなりの強さはあるよ」

 

今の力についての説明をしてもらい、ようやく理解出来た4人。

 

「…また起き上がる?」

 

ノエルが倒れた輝龍を見て呟く。

 

「…どうだろうね。でも、そらちゃんの力が無かったらこの状況は訪れていなかったかもね」

 

マリンが、まだ気を失っているときのそらを見てそう感想を言う。

ときのそらの、あの力がなければこの一縷の望みすら掴み取れなかったかもしれない。

 

「ねぇ…!輝龍が…!」

 

るしあが急に声を出したため、慌てて全員が輝龍の方を振り向いた。

 

「…な、なんぺこ!?」

 

そこにいたのは――

 

「――痛てて。…お?ここどこだ?」

 

――輝龍ではなく、その輝龍が存在していたはずの場所に突如現れた、謎の角と尻尾が生えた美少女だったのだ。

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