――――――可愛らしく、その場にぺたんと座る美少女。美少女と言うには、少し背が高いかもしれないが、そんな美少女が周りをきょろきょろ見渡して首を傾げる。
「あれえ?私、さっきまで上にいませんでしたかね?」
その少女は周りを見渡しながらそんな呑気な事を声に出している。
「…ねぇ」
「ノ、ノエルっ!?」
そんな少女に一歩ずつ近づいていくノエル。その大胆な行動に思わず全員が止めようと声を裏返してしまう。
「…本当にさっきまでの記憶は無いの?」
「――バレちゃいましたか。記憶はあるんですよ。でも、自分を制御出来ていなかったみたいでして…」
この場にいる理由。それはしっかりと分かっていると言う少女。その場に立ち上がり、彼女もまた、ノエルに一歩ずつ近づいてくる。
「…ぼいんぼいん…」
「る、るしあさん?…その感情はまた別ではないかと」
恐らく180cmはあるだろうか?女性にしては背が高く、更には胸もノエルに匹敵する程大きい。
るしあが別の意味で嫌悪感を抱いているが、それは気にしなくても良いのだろう。
「…助けてくれてありがとうございます。いやぁ、暴走して困ってたもんで」
「…やっぱり暴走か。そらちゃんの見解が正しかったね」
2人の間にあった敵意が無くなったのを感じ取った4人。
少しずつ、4人も輝龍と思わしき少女の方へ向かっていく。
「…あなた、輝龍なの?」
「そうですよ。まぁ、私の[特殊能力]ですけどね」
フレアの問いにあっさりと自分が輝龍だと告白する少女。
「…特殊能力?」
「私の能力は[人竜変異]。同時に、人と竜の姿を持ってるんすよ」
「…なんかファンタジーっぽい…!」
「人の姿に戻れず暴走してたので、皆さんには助かりましたぁ」
「…〈五大秘龍〉の一匹がまさか人とはね」
「まぁ人の姿を持ってるって考え方のが良いっすよ」
そんな元輝龍との会話を交わし、何があったのかを聞き出す5人。
「…ん」
「あっ、そらが目覚めたぺこ!」
ぺこらの声にそれぞれが反応し、ときのそらの元へと駆け寄ってくる。
「…ん。はっ!?皆っ…!?」
「落ち着いてください」
「…ぁ」
「そらちゃんのおかげで、私たち大丈夫だよっ」
「ちゃんと、輝龍も助けましたから」
ときのそらの心配を他所に、気を失っている間に起きた出来事を次々と語り出てくる。
ただ、それだけなのに分かったことがある。
――過去は、変わったのだと。
――――――――――――――――――
「いやあ、あなたのおかげかもしれませんねっ!」
起き上がるときのそらに、元輝龍の少女が近づきながら手を差し伸べてくる。
「助けてくれてありがとうございますっ」
「…うん、良かった。…えーっと…」
手を出し、互いに握手を交わすが微妙な表情を浮かべ、首を傾げたときのそら。その顔を見て元輝龍も首を傾げる。
「どうしたんです?」
「…人の時って、なんて呼べば良いのかな?」
目が覚めた後、目の前の少女が輝龍の人の姿だと教えてもらった。だが、その人の姿に対して輝龍と呼ぶのはおかしい。
「…確か名前は」
「輝龍クヴィネグランツが私の名前ですね」
ときのそらの疑問に元輝龍がそう答える。
「クヴィネグランツからなんか取ったら?」
「んー…それじゃあ、桐生ココですねぇ」
「…あっさり決まったね。てか、どこからココ?」
「クヴィネとグランツを濁してとかどうです?」
やけに単純に自分の名前を決める元輝龍――ココの態度に全員から気が抜けるのを感じる。
「…皆さんのおかげで助かったですけど、皆さんの体が…」
ココがそれぞれの体の様子を見比べる。軽傷重傷はあれど、5人とも傷を負っているのが分かる。
特にるしあの腕は今見ても痛々しいものだ。
「…これから、私も役に立ちたいです」
「…うん。それなら、団長たちと一緒に来る?」
ノエルがそんな提案をする。もちろん、誰もその提案に反対意見は出さないだろう。
判断はココに委ねられる事となる。
「ついていかせてもらいます!皆さんに負わせた怪我も治させてもらいます!」
そう言い、ココが次々に回復してくれる。
「…るしあさんも」
「るしあは大丈夫」
「えっでも…なるほど。るしあさんの力だったんですか」
ココが回復をかける前に、すでに自分の魔力と、自身の霊の力を合わせて回復をしていたるしあ。見た目は完全まで治ってはいないが、垂れ下がっていた左腕はすでに治り、自在に動かしていたのだ。
「…これからよろしくね、ココちゃん」
「…よろしくお願いします〜!」
改めて、輝龍が――桐生ココが仲間となった。
「――うっ…?」
その瞬間、目の前が真っ白に染まる。
やがて音も消え、完全に意識が無くなった。
「ま――」
時間は待ってくれない。やがて目の前が鮮明に映し出されると――
「――」
そこは、【秘密の丘】の祭壇の上。
――ただし、ENDではなくMAINの世界だった。
――――――――――――――――――
「…え」
最初は意味が分からなかった。
一体なぜParallel World MAINへと戻ってきたのか。
一体なぜあのタイミングなのか。
「…ロボ子さん…いない?」
この場で別れた、この世界の管理人。
ここにいないことから、恐らく拠点となる洞穴に居るのだろうと考え、迷うよりも先に行動に移していた。
「…何だか、変わった?」
少ししかこの世界から離れていないのだが、行く前より何だかこの島全体が生き生きとしている気がする。
「…あれ?人の声…?」
すると、【妖精の森林】の中から微かに声が聞こえた。
「ロボ子さんかな?」
そう思い、その声が聞こえた方へと足を進める。
この森林に入ると、いつも決まって妖精の不思議な感覚を味わっている。
それを体感する度、自分が今ここにいると改めて思うことができる。
「…あっ、ロボ子さん!」
森の中を少し歩き回ると、少し離れた位置に人の影が見える。
ここにいるのはロボ子さんだけのため、見つけた途端に歩く速度を上げ、その人物の元へ駆け寄った。
「――ん?」
振り返るロボ子さんに世界を救ったと報告を――
「――え?」
――振り返った人物。それがロボ子さんでは無いことに気が付いた。
「――ぁ」
「――そ…そら、ちゃん?」
そして、その人物が自分の良く知る人物だと言うことにも気が付いて。
「――フ…フレアちゃん…っ!」
「わわっ…!?急にどうしたのさ…。――そらちゃん、だよね?」
思わずフレアの胸の中へと飛び込んだ。それに驚きつつも受け止めてくれたフレア。その声が、少しずつ震えていくのが伝わって。
「良かった…。あの日いきなりそらちゃん倒れちゃって。家に送って次の日見に行ったら居なくなってて…」
フレアが泣きながらにあの日の状況について説明してくれる。
「…あの日。今ってあれからどれだけ経ってるの?」
「今はあの日から2年経過したところ。この無人島、結構居心地がいいから皆で住めるようにしたの」
「皆ってことは…ノエルちゃんたちも!?」
「もちろんいるよ!今は国に行ってるからまだ帰ってこないね」
このMAINの世界がENDから2年後という事が分かり、ある程度状況を飲み込めた。
――しっかりと、過去が改変し、未来が切り替わっていた。
「本当に…良かった」
「…これからそらちゃんどうするの?まだ私はこの周辺にいるけど」
「うん。――ロボ子さんに会いに行く」
フレアとの再会は名残惜しいが、まだこれからも会えるならやるべき事を先にやっておいた方がいいだろう。
「…よし、着いた」
ロボ子さんと出会い、最初に案内されたロボ子さんが住まう場所――洞穴の入口までやって来た。
「…よし」
少しだけ緊張してしまうが、一歩前へ踏み出し、その洞穴の中へと入っていく。
そして、その奥の方に1人の姿を見つけ、後ろ姿とは言え今度は間違わないではっきりと誰なのか分かる。
「――ロボ子さん」
「――っ」
声をかけると、こちらに気づいていないで驚いたのか、肩を少し跳ねさせる。そして、聞き取った声音から誰なのかを察して。
「――そら…ちゃんっ!」
勢いよくロボ子さんが抱きついてきた。それだけで、救うことができて本当に良かったと思う。
「ロボ子さん…救ったよ」
「そらちゃん…!――っ!」
それからしばらくの間、泣きに泣いたロボ子さんを慰めていたのだった。
――――――――――――――――――
2人とも落ち着き、机を挟んで椅子に座る。
「…ぁ」
「えっ…AZKiさん!?」
洞穴の更に奥の出入口から姿を現したのは、ぺこらを救う上で一緒に手伝ってくれていたAZKiだった。
「…ホントにあの世界救っちゃうなんて…そらちゃんなんだね」
「ん…?」
「深く気にしないでいいよ。それより、ありがとね。救ってくれて」
AZKiが手を差し伸べて、感謝の気持ちを伝えてくる。
「うん…これで、良かったのかな?」
「うんうん。皆救えたし、そらちゃんのおかげだよ」
そのままAZKiとは固く握手を交わした。
始まる前は長く感じたこの役目。だが、いざ終わるとなれば少し悲しくも思えてくる。
「…そらちゃん。本当にありがとう」
ロボ子さんの口から告げられる言葉。
心の底から思っている、本当の気持ち。
「…いつでも、遊びに来てね」
まだ目尻に涙を浮かべながら、笑いかけてくるロボ子さんの顔は、今までよりもずっと綺麗な笑顔で――
「――うん。また来るよ」
――その会話を区切りに、目の前が真っ白となる。
やるべき事を全て終えて、役目を果たしたから。
――――――――――――――――――
目が覚めると、いつもの光景――自分の部屋の天井が映し出される。
「…よし」
気持ちを切り替える。今日は学校があるため、その準備をする。最近元気がないと心配してくれた2人に謝らなくてはいけない。
準備を終え、いつもより早めに家を出て行った。
「…おはよーっ」
教室のドアを開け、いつものように彗星と巫子にあいさつを交わし、自分の席に座った。
「おはよ…なんか今日早いね?」
驚いた顔をしながら彗星が近づいてくる。
「うん!良いことがあったからね。最近ずっと暗くてごめんね?2人に余計な心配かけちゃってたし」
「気にすることないにぇ。暗くなることくらい誰にでもある訳だし」
「そーだよ?空がそんなに気にする事はないよ」
「すいちゃん、巫子ちゃん…ありがと…!」
優しい2人とこれからも仲良くやって行きたい。
あわよくば、ノエルちゃんたちと会わせたりとかも。
「…それじゃあまたにぇ!」
2人と別れて家の中へと入るときのそら。そのまま着替え、ベッドに入る訳ではなく、外へと出て行った。
「…これ、勝手に入っても大丈夫だよね?」
たどり着いた場所は親友の1人――桜 巫子の母親が務めている【電脳桜神社】だった。
何故ここに来たのか。その理由は言うまでもない。
「…よし」
行き方なんてものは分からない。それでも、ロボ子さん側からこっちに来ることはできた。
「…ぁ」
よく分からないが上手く行ったようだ。神社の中に立つと不思議な力を感じ取り、賽銭箱が一際大きな力を放っている。
そして、その賽銭箱に手をかざすと――
「――っ」
大きな光に包み込まれて、この場からときのそらの姿が消え去った。
――――――――――――――――――
「…来れた…」
転移できてもちゃんとMAINに行くか心配だったが、周りを見渡した感じ、しっかりと戻って来れている。
「よし」
周りはすっかり暗くなっており、森の中は特に見えなくなっている。
何度も来ているため、直感でロボ子さんの拠点に向かって足を進める。
――ガサッ。
「――え?」
不意に、背後で草が揺れる音がした。以前にも何度かこう言った場面はあったが今回は例外で、求めていない物音が聞こえる。
恐る恐る振り返ると――
「がぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!?」
大きな体に、立派な角と翼を付け、長い尻尾を揺らしている存在――龍が咆哮を上げてきた。
あまりの怖さに叫び声を上げてそのまま走り出して逃げていく。
「いやぁぁぁ!!これロボ子さんが言ってたやつ!!?」
夜になると眠っている龍が目覚める。まさか、本当の出来事だったなんて。
「――そらちゃん!冗談です!…待ってくださーい!」
「…え?」
泣き目で走るときのそらの背中にかけられる声。その声に聞き覚えがあり、足を止める。
「はぁ…はぁ。いやぁ、まさかそらちゃんが怖いもの苦手だなんて思わなかったですよ」
「――ココちゃん…」
そこにいたのは、大きな体ではあるものの、角は控えめ、尻尾が生えているが翼は生えていない――人の姿となっているココだったのだ。
「…なんだココちゃんか…驚いた…」
「んー。怖いものと言うよりビックリが苦手系だったのかな」
「…あっ!そらちゃん来ましたね!」
「――っ!」
2人の声を聞きつけて現れる人物。それは最初に出会った縁のある人物の片方、マリンだった。
「さ、ロボ子さんの拠点行きましょ!皆集合ですね!」
マリンが率先し、拠点の方向へ案内してくれる。
――これで、本当に皆を救うことができたんだ。
「…そらちゃん」
拠点へ戻ればマリンの言った通り、ロボ子さん、AZKi、ノエル、フレア、るしあ、ぺこらが待っていた。
「…本当に…ありがとっ」
「うん!ロボ子さんとの約束、果たしたよ」
駆け寄るロボ子さんを優しく抱きしめる。
これからは、こんな幸せな日々が続くのだろう。
「…さてと、皆集まったし久々に豪華なご馳走にしよっ」
そう言い、AZKiが次々に料理を運んでくる。
「あ、るしあも手伝うよ!」
皆が賑やかに騒いでいる。ときのそら含めて全員での集合はこれが初めてだ。何かの記念になるだろう。
「さて、二年も一緒にいるわけですし、そろそろ呼び捨てとかどうですかココ…」
マリンが肉を食べながら、同じく肉を食べるココに問いかける。
「…さんを付けろよデコ助野郎!」
「――。…死ねぇぇ!!」
「ちょっと2人ともっ!?」
空っぽになった皿を投げ飛ばしながらココを追いかけるマリン。それが本気ではなく、遊びだと全員が分かっていたため止める者は誰もいない。
「…ふふっ」
これが、役目を果たす上でときのそらが望んだ結末。
皆で笑い合いながら、楽しく日々を過ごしていく。
――こんな賑やかな雰囲気がこれからもずっと続きますように。
これにて第1章完結となります。この後は幕間を投稿して、第2章に入ります。これからも楽しみに待っていてください。