――――――ある日、王国から一人の少女が姿を消した。
この情報が耳に入ったのはつい最近の事。誰も、想像していなかった悲劇の始まり。
――――――――――――――――――
「…今日はどこか行くの?」
Parallelでノエルから借りていた部屋。過去を変えたことで、現在のMAINにおいてもその部屋はときのそらの所有物となっている。
そのため、時々王国に皆で戻る際には使用しているのだ。
今日は全員で王国に戻り、自分の部屋の必要な荷物をMAINの拠点へ移す作業をする日。
だが、ノエルの様子を見れば荷物をまとめず、どこかへ出かける支度をしている。
「これでも団長だからね。一応国王の元へ行って色々説明を加える。後は少し国の見回りみたいなものかな」
ノエルがそう説明をして、すでに扉に手をかけていた。
「そんじゃ、戻るまでなんか適当にしてて」
「えっ!?…わ、分かったけど」
最後の方は早口で言われ、はっきりと聞き取れなかった。この部屋からノエルがいなくなり、ときのそら一人だけとなる。そんな、彼女の心情は――
「適当って、何もすることないんじゃ…」
ただひたすらノエルか帰るまで、何もせずここで待ってれば良いのかと思っていたのだ。
――――――――――――――――――
空を見上げれば清々しく青色が広がっており、雲一つない景色が鮮明に映し出される。
「まぁ、じっとしてても退屈だしね…」
結局のとこ、荷物をまとめ終えたときのそらは、観光気分で【プラチナ聖王国】の中を歩き回ろうとしていた。
「マリンちゃんたちも荷物まとめてるのかな…」
同じ王国にそれぞれ拠点を持つマリンとるしあも、ノエルたちと一緒に来て荷物をまとめるように言われていた。
フレアに関しては、ここからは少し距離がある【フルーフ大森林】の中に拠点があり、そこの管理者はフレア自身のため荷物をまとめる必要がない。
そのため、マリンの手伝いとして、マリンと同じ拠点へと行っている。
そしてぺこらは、拠点として使ってる場所が少し遠く、一人で荷物をまとめに行ってしまった。
ココはこの国にあまり関与していないため、ロボ子さんやAZKiと一緒にMAINの島に残っている。
「…図書館?」
目的もなく道を歩いていると、ふと視界の端に捉えた建物を見て足を止める。
「こんな所にあったかな…?」
それは二階建てという、大きな面積を敷地とした図書館だった。つい最近にでも出来たのか、以前はここには何も無かったような気がする。
「折角だし入ってみるか」
ときのそらは迷う事なく、図書館の中へと入っていく。
「…すごい」
そこには多種多様の本が、規則正しく本棚に収められている。
「いらっしゃいませ。開館記念として、初回ご利用の方には一冊だけ無料で1週間の貸し出しを行っています。詳しくはレジまで声をかけてください」
館内放送のようだが、図書館ということもあって音声は控えめだ。それでも、開店記念で一冊無料で本を借りられるという。
「なんかお得…!気に入ったのがあったら借りようかな」
時間つぶしにも、読書というのは最適だろうと考えている。図書館の中をぐるぐると見渡して、面白そうな本を探している。
「…あれ、ぺこら?」
「お、そらぺこじゃん」
図書館の中を歩き回っていると、本を手に取って表紙を見ているぺこらと出会った。
「…荷物は?」
「拠点に戻ったぺこなんだけど、島の方に全部持っていってたみたいぺこ。だから軽い荷物しかなかったぺこよ」
そう言って、少し大きめのポーチを見せてくる。恐らくその中に納まる程の荷物しか無かったのだろう。
「暇だったから王国にちょっと寄ったぺこよ。そしたら見ない建物あったから入ったってわけ」
「なるほど」
ぺこらがこの図書館に来るまでの経緯を説明し終えると、手に持った本を棚へと戻した。
「そらはどうしたぺこ?」
「荷物まとめは終わって、今ノエルちゃんが戻ってくるまで暇だから王国の中を散歩しようかなと」
「なるほどぺこね。ぺこーらはもう暫くここにいるけどそらはどうするぺこ?」
「うん、私ももう少し図書館を見回ろうかな」
「おけぺこ。それならどうせだし一緒にいよぺこ」
「いいよ〜」
それから小一時間ほど、図書館の中で本を見て回っていたのだ。
――――――――――――――――――
「結局何も選ばなかったなぁ」
一冊無料貸し出しを使わず図書館を出てきてしまった。一応まだ一度も本を借りていなければ次の来館でも無料貸し出しは出来るというのが出入口に書いてあった。
「…次はなんか借りようかな」
「この後どうするぺこ?」
図書館を出たものの、目的もなく道を歩いている。
「んー。どうしようね」
あまり時間も経っていないため、まだノエルも戻ってきていないだろう。
「マリンたちのところに行ってみるぺこか?」
「あ、それいいね。そうしよ」
行く先もなかったため、ぺこらの提案に賛成し、マリンの拠点となっている家へと向かって歩き始めた。
「…あ、この花綺麗」
ふと、ぺこらが道の端にある草むらへ走っていった。
「…バラ?」
そこにあったのは鮮やかな赤色をしている美しいバラの花が咲いていた。
「へぇー。これがバラぺこか」
「見たことないの?」
「この辺だとバラはとても高価で貴重な花ぺこよ。こんな風に自然に咲いてることが驚きぺこよ」
そう言ってぺこらは立ち上がり、目的であるマリンの家へと歩いていく。
「さすがに貴重だからといって摘み取る程、ぺこらは落ちぶれちゃいないぺこよ」
「うんうん、えらいね」
そのまま他愛ない話をしながら、数十分歩き続けた。
――――――――――――――――――
「あれ?ノエルじゃねーぺこか?」
マリンの家に着き、ドアを開けると中には3人いた。
自分の荷物をまとめるマリン、その手伝いをしているフレア。それに加えて、国王の元へ向かっていたノエルが居たのだ。
「いや、思ったより話が短く済んでね。家に戻ったらそらちゃん荷物まとめ終わって出かけてたみたいだし。どうせだからマリンの所に来たわけ」
「そうだったんだ」
「あ、これそらちゃんの荷物持ってきちゃった」
「ありがと〜」
ノエルが戻ってるかもしれないと思って家へ戻ってたら二度手間になっていたところだった。
「丁度マリンの荷物もまとめ終わったよ」
「はぁ…はぁ…。ノエル、フレア、助かりました…」
「マリンほんと体力ないなぁ」
荷物をまとめるだけで少し息が上がってしまっている。
「どうする?一休みする?」
フレアがマリンにそう問いかける。
「…いや、大丈夫です。島に戻ってからゆっくり休むとします」
「…ほ、本当に大丈夫なの?」
「うぅ…船長と同じくらい体力がないと思っていたそらちゃんにまで心配されるとは…」
遠回しに悪口を言われたような気がするが、軽口で言われたことは分かっているため口出しはしなかった。
「よーし。じゃあ、皆まとめ終わったから島へと戻りますか」
ノエルがそう先陣を切って、荷物を背負いマリンの家から出ていこうとする。
だが、その発言と行動に若干の違和感を持ったときのそらがノエルに口を出す。
「…あれ、全員?――るしあちゃんはもう戻ったの?」
その発言の瞬間、ときのそら以外の全員が歩みを止め、ときのそらの方へと振り返る。
「…え、え?」
「――そらちゃん」
最初に口を開いたのはマリン。
だが――その言葉の続きを聞いてはいけなかったなどと、そのときは分からずに耳を済ましてしまった。
決して――
「――るしあ…ちゃんってそらちゃんの知り合いですか?」
――嘘でも冗談でも、言ってはいけない言葉だったのだ。
――――――――――――――――――
「――」
今、マリンは何と言ったのか分からなかった。否、分からなかったのではなく、分かろうとしなかった。発言の意味を理解することを脳が拒んだのだ。
だってそうだろう。
「…なんで…」
「そらちゃん疲れちゃってる?」
「ほら早く行くぺこよ」
「まぁ置いては行かないけど、ちょっと休んでから港に来てもらって構わないよ」
次々と、フレアが、ぺこらが、ノエルがマリンの言葉に違和感を持たず家を出ていく。
最後に、ただ一人――潤羽るしあの存在を覚えているときのそらだけが残る。
残って――
「なんで…。――マリンちゃんだけは…最初に言っちゃいけない言葉なのにっ…!」
その場に膝をつき、言ってはいけない人物が言ってしまったという事実を悔やみ、数分の間呆然としていたのだった。
マリンは、るしあにとって一番最初に出会った、るしあの生き方を変えさせた救いの人物。
それなのに――どうして覚えてないのだろうか。
「――バラ…」
ふと、今日の出来事であった不思議な現象を思い出す。ぺこらが、この付近ではバラが自然に咲いていることは有り得ないと。
そして、それだけではない。バラ以外にも、この付近にはたくさん、鮮やかな花が咲いていた。
「――」
だから何だと言うのだ。花が不自然にも咲いていたことと、るしあのことを忘れるのに関係性など――
「――っ!図書館!!」
ふと思い出した途端に、その場に立ち上がり、ぺこらと会った見たことの無い図書館へと走り去っていく。
「…やっぱり」
図書館へ向かう道中、色々な花が咲いているがその中でも目立って多く存在しているものがある。
「…白いポピーの花」
この辺では珍しいバラに目がいってしまうが、それよりも不自然に多くを占めているのがポピーの花。しかも全て白色だ。
「…はぁ、これ貸してください!」
「初回無料貸し出しですね。返却は1週間後となります。ありがとうございました」
目当ての本を見つけ出し、本を借りて図書館を出る。
――るしあと一緒に居て分かったことがある。
るしあはとても仲間想いだ。それと同時に花が好きだった。
そんなるしあが何故みんなを裏切るような行動を取ったのか。
「るしあちゃんが消えたタイミング。そしてこの不自然な花…」
普通では関係ないように思えるが、ときのそらには何か関係があるのではと思っていた。
「…白色のポピー」
借りた本は、【花言葉総集編】というもの。そして、その中からポピーの花の欄を見つけ探し出す。
「――眠り。忘却」
それが、白色のポピーの花言葉だった。
「――」
ここはファンタジーな世界。花言葉が現実となるのも不思議じゃないだろう。
「…早く、るしあちゃんを探さなきゃ!」
そうしてときのそらは、この王国の付近に位置する【潤羽屋敷邸】へと向かって走り出した。
――――――――――――――――――
「――ない…」
道は間違っていないはず。それなのに、この場所にあったはずの屋敷が消えてなくなっている。
「――嘘…」
どうして突然と姿を消してしまったのか?
何が原因なのか、ときのそらは悩みに悩みまくる。
「――こんな所にいるだなんて」
「港とは正反対ですよ?」
「っ!…皆」
後ろから声をかけられ、振り向けばそこには港へ向かったはずの4人が立っていた。
「…ごめんそらちゃん。あの時、そらちゃんが変なこと言ったんじゃと思ってたけど…」
「なんか、私たちも心が落ち着かないのよね。何か大切なモノが抜け落ちた感じ」
そう言ってノエルとフレアが僅かな違和感に気づき始める。
「船長も…何だか、大切な記憶が抜け落ちたような…」
「ぺこーらも。ここにもう1人居た気がするぺこ」
「…皆」
「…そらちゃん。たぶん、この感じだとそらちゃんだけは覚えてるよね」
「そらちゃんが頼りになってしまいますけど、この違和感の正体に気づかないままは少し嫌です」
「…うん。皆で、探そ!」
皆忘れても、ときのそらは覚えている。
――皆の仲間を探し出さなきゃ。
――――――――――――――――――
――あれから1週間近く経とうとしている。
「…時間がない」
本を返す期限まであと12時間。るしあの手がかりは今となっては道に咲いている花のみ。花言葉から連想させて追っているが、未だに決定的な瞬間に遭遇できていない。
「…皆どう?」
「…ちゃんと覚えているよ」
この期間探して分かったことがある。まず、ときのそらは何故か記憶に干渉されず忘れていないこと。これは最初の段階で気づいている。
そして、推測だがるしあに近づくほど忘却の効果が高まっている。
皆が、ついさっきの事すらも忘れるような事が何度かあり、それを目安にるしあを追っているのだ。
「…ねぇ、誰も行かなそうな場所ってある?」
「行かなそうな場所?王国内で?」
「うん」
今まで路地裏や薄暗い森の奥、中央から離れた場所など、人がいなそうな場所を選んで探してきた。それでも、少なからずそういった場所にでも人は生息している。
「…誰も近づかないって噂の場所ならあるよね」
「あー…あそこ?」
「え、あるの?」
「うん。ちょっと地面が高くなってて、崖っぽくなってる場所があるの」
「でもそこって昔、行方不明者が続出して誰も立ち入らない場所になったぺこよね」
「…そこ行こ!」
ときのそらは説明を聞くなり立ち上がる。
「…まぁ、人を避けてるって考えならそこに居そうだけど」
「そこ行く人って、だいたい自殺目的が多いんじゃ…」
「でも行こう!まだ間に合うかも!」
1週間経ってるため、可能性は薄い。それでも、行かないよりはマシだ。
「そうだね。行こう!」
ノエルたちも、一緒についてきてくれた。そうして、ノエルに着いていき目的地の近くまでやって来た。
すると、他4人に異変が訪れる。
「…あれ、何でここに来たんでしたっけ」
「え?」
ふと、マリンがそんな事を言ったと思えば、気を失うようにその場に崩れ落ちた。
「マリンちゃん…!?」
事態はそれだけには留まらず、フレアやぺこら、ノエルまでも次々と倒れていく。その原因は――
「…昏睡状態」
この近くに、白色のポピーが咲いている証拠だ。
「…近くにいる!」
そう思い、4人を1箇所にまとめてから周囲を探し回る。
そしてついに――
「――いた!るしあちゃん!」
「――っ!!」
崖近くに立ち尽くし、ときのそらの声に肩を跳ねあげ、驚いた表情でこちらを振り向いてきた。
――――――――――――――――――
「るしあちゃ――」
「来ないで!!」
るしあに近づこうと、歩みを寄せるときのそらに大きな声で静止させる。
「…なんで…そらちゃんは忘れてくれないの…?」
その顔は決して良く無く、涙を流し、震えた声で問いかけてくる。
「…忘れないよ。だってもう、仲間でしょ」
ときのそらの強い言葉にるしあが目を見開く。
「…皆に、嫌われたくない」
「嫌いになんてならないよ」
「… 力が覚醒しちゃったら…きっと、前のみんなと同じになる」
前のみんな。それはマリンに語った過去の出来事の事だろう。
「…王国でもやっぱり嫌がられてて、もう無理だよ」
「…でも、私たちは絶対に嫌いにならない!悪口なんて聞いちゃダメだよ」
いまいち説得とは程遠いかもしれないが、これがときのそらに出来る精一杯の声かけだった。
「…でも、それはそらちゃんの言い分じゃ…」
「皆も同じこと言うよ。…絶対!」
力強くそう断言する。すると、るしあは手に持った一つの花を地面に落とす。それは、ここまで何度も見てきた白色のポピーの花だ。
そして、そのポピーの花から魔力が溢れてきたかと思うと、るしあの目の前で渦巻き状の塊になった。
「…それは」
「『霊代』。花に力を注いで、花言葉を実現させていた」
るしあの説明で謎が解ける。
花言葉が実現化し、周囲が忘却したのはるしあの力によるもの。るしあが消えたのと、花が増えたのにはちゃんと繋がりがあったということだ。
「…るしあ?」
「っ!」
背後から声が聞こえる。それは他の誰でもない、マリンの声だ。
今のるしあの行動により、花言葉の実現が解除されたのだろう。
「――るしあ…」
ノエルやフレア、ぺこらも後からやって来る。
「…るしあ。船長たちはるしあを嫌いにはなりませんよ。どんなるしあでも…大切な人ですから」
「…マリン」
「そうぺこよ。どこへ行っても、ずっと一緒ぺこ」
次々に皆の声を聞き、ついにるしあがその場に座り込んだ。
「…っ…みんなぁ…」
そのまま泣き崩れるるしあを4人が傍に寄り添い、優しく宥めるのだった。
――――――――――――――――――
「…ほんとどうなるかと思いましたよ。るしあもバカなこと考えるもんですね」
「別にるしあバカじゃないし!マリンの方がバカなくせに…」
「なんだとぉ!おいコラやんぞ!」
「ちょマリン狭いから暴れんなぺこ!」
王国から島へ戻る船に乗っている最中だ。行きとは違い、荷物を乗せた分一段と狭く感じる。
「あ、るしあちゃん今日誕生日だよね。これプレゼント!」
ふと思い出すときのそらが一つの花束をるしあへと渡す。
「そらちゃん覚えててくれたんだ!ありがとう〜!」
そう言って花束を受け取ったるしあは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「…バラぺこじゃん。良く手に入れたぺこね」
「奮発したからねっ」
「でもこれ何…?まだら模様?なんていうか…」
「フレア。それ以上はたぶん言っちゃダメだよ」
「分かってるけど…」
ときのそらがるしあに渡したまだら模様のバラに微妙に納得してない4人。当の本人が花束をもらい喜んでいるので、何も言わずに黙っている。
「…これからも皆一緒。例え離れ離れになっても」
「――そうですね。皆で居た事実は決して消えませんから」
全員がその言葉を噛み締め、島へと帰還するのだった。
――――――――――――――――――
「…あれ、栞挟んだままじゃん」
期限ギリギリに返された本の整理をしていると、栞が挟んだままになってることに気がつく。
「珍しいなぁ。【花言葉総集編】の本を借りるなんて」
「…ちょっと来てくれ!」
「はーい」
館長に呼ばれ、貸し出し口から離れる。机の上には、【花言葉総集編】の本が置かれており、栞が挟んであるページが開いたままとなっている。
そのページにはこう書いてあった。
――【No.122】バラの花。模様によってその花言葉の意味が変わってくる→【まだら模様】花びらに別の色がまだらに入っているものは次の意味を持っています――
「あなたを忘れない」