Hololive:Parallel   作:一応味醂

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第2章始まります。


#FORTH FANTASY
▶1「始まりは地獄」


――――――赤く染まる空に、一人の人物が落ちてくる。

 

「ぐあっ!?…なんだ、ここは…」

 

周りを見渡し、その異様な空間に驚きを隠せないでいる。

その場に立ち上がり、どこへ向かうかすら分からず、歩き出すことができない。そもそもここへ来た理由すら分からないのだ。

 

「――それ、あんた死んだからでしょ?」

 

「――っ」

 

何者かの声。声音からそれが女性だと分かると、落ちてきた人物――巨体の男が声の方向を睨みつける。

 

「…あ?誰が死んだって?」

 

「だからあんただよ。自覚ないわけ?」

 

「自覚だと?…俺はあの後逃げて、それから――」

 

少しずつ少し前のやり取りを思い出す。

かなり美人と噂の歌姫。それを拉致することが目的だった。だが、能力の正体を知っていた謎の少女と、兎女の邪魔が入ったことで置き土産を残してあの場を去ったはず。

――その後に、大きな鎌に斬り付けられたような。

 

「…っ。この盗賊団のボスである俺が死んだだと…?」

 

「お、思い出した?それは良かった。早く処罰受けに行ってよ。ここにいられると邪魔」

 

「…ここは死後の世界ってか?ならお前も死んでることになるぜ?――その舐めた口さっさと閉じた方がいいんじゃないのか?」

 

「死後ってよりここは地獄だよ?それに、ここの管理人だから死んでないわけ」

 

管理人と女が口にする。同じ場所に存在しているのに、片方は生きてて片方は死んでる。そんな馬鹿な話があるだろうか。

 

「…くっくっ。ならお前も殺してその体堪能させてもらうぜ」

 

「…どうしたらその思考になるの?」

 

突如戦闘モードに切り替わる男に、ため息をつく。

 

「…っ![密閉圧縮]!」

 

鉈の軌跡上の空気を圧縮し、目の前の少女へと斬撃を飛ばした。

 

「――っ!?」

 

だが、その攻撃が少女へ届く前に、何者かの武器――鎌によってあっさりと止められてしまった。

 

「…お前が俺を殺したやつか?」

 

その鎌には見覚えがある。その持ち主が殺した本人で間違いないだろう。

 

「――Sorry.貴方の行いは罰するべきと判断したまでよ」

 

鎌を持ち、目の前に降り立つのは謎の女性。ピンク色の長い髪に、真っ黒な服装で体を包んでいる。

 

「…いいねぇ、女が増えてよ!」

 

それでも男は笑みを浮かべ、標的を目の前に降りた女性に変える。

 

「お前を殺――」

 

「――R.I.P」

 

鉈を構え、突撃しようと姿勢を落とす。だが、その次の瞬間には、目の前から女性が姿を消していなくなっていた。

 

「――ぁ。な…なん…だ…?」

 

代わりに、物凄い勢いで体温が失われていくのを感じる。傷を負ったわけではないし、血も流れ出ていない。

――それなのに、体という器から魂という存在が抜け落ちたような感覚を味わう。

 

「…あーあ。ここで始末してどうすんの?」

 

その場に倒れ、動かなくなった男を見て少女が言う。

 

「…大丈夫ですよトワ様。この後も私がやりますので」

 

「はーい。っと、そろそろか」

 

その少女――トワ様と呼ばれた少女が上を見上げる。そこには何も無いが、やがて空にヒビが入り、白い光が差し込んでくる。

 

「…今日もやるの?暇だね」

 

「――あったりめーよ。いい加減こっちにちょっかいかけるのやめてくんない?」

 

「それは無理〜。…カリオペ、他頼んだよ」

 

「OK」

 

この場から一人の女性が去り、空から降ってくる少女とトワだけとなった。

 

「――今日も遊ぼうぜかなた!」

 

「――望むとこよ!」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…よっ、と」

 

「お、そらちゃん」

 

「マリンちゃんおはよ〜」

 

MAINに姿を表すとき、いつも誰かしらとばったり会う。

今日はマリンが一人でいるタイミングだったみたいだ。

 

「最近良く来るね」

 

「うんっ!皆に会いたいから」

 

「またまた照れること言うじゃん。拠点まで一緒に行こうか」

 

「うん!」

 

毎回【電脳桜神社】に出入りするのはこっちの世界の法律的に危ういため、ロボ子さんにお願いして自分の部屋の使っていないタンスから転移できるように力を分けてもらっていた。

そして、その日からほぼ毎日のようにこっちの世界へやって来ているのだ。

 

「――ん〜」

 

「おはよー…あれ、ロボ子さん?」

 

拠点へ戻り、2人して扉を開ける。中を見れば、丁度ロボ子さんが唸っている場面だった。

 

「…あ、そらちゃんおはよ」

 

「うん。どうかしたの?今唸っていたけど」

 

「あー、うん。ちょっと気になったことがあってね」

 

ロボ子さんが椅子に座り直し、こちらへ椅子ごと振り返ってくる。

 

「…ココちゃんのことなんだけどね」

 

「ココちゃん?」

 

それは、最後の世界において暴走し、マリンやノエルたちと死闘を繰り広げた人物のこと。

今では暴走も収まり、仲間として一緒に行動している。

どうやらロボ子さんとAZKiだけは、昔からココと面識があったみたいだが、詳しくは教えてもらっていない。

 

「…ココちゃんがどうかしたの?」

 

「うん。そらちゃんが気づいたみたいだけど、あの時のココちゃん、何かに操られて暴走してたって感じなんでしょ?」

 

「あー。確かそんな感じだったはず」

 

忘れかけていた記憶を何とか辿り、思い出すときのそら。

 

「その操っていたのが何なのかってこと」

 

「――たまたま力が暴走したってことは?」

 

奥の部屋に居たのだろうか、扉を開けてAZKiがやって来た。

 

「それも考えた。で、調べたら他者の能力の影響が確認できたの」

 

そんな驚きの発言をいとも容易く、平然に言い放った。

 

「…それってまた探しに行った方がいい?」

 

「そうだね。一応ココちゃんに聞いたんだけど、誰かにやられたような事はなかったらしいのよね」

 

「…んー。とりあえず過去見てくる。『時渡り』!」

 

AZKiの周りを光の円環が発生し、そのままAZKiの体を包み込みこの場から消えて居なくなった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「――えっ…」

 

「あー、そらちゃんはあずきの特殊能力初めてだったね」

 

確か、Parallelにいた時に、歌うことで効果を発揮する力、それは特殊能力じゃないとは聞いていた。

 

「全く。あずきもそらちゃんに言っておけばいいのにね。前に、あずきもそらちゃんと同じようにParallelを飛んでるって話したでしょ?」

 

「あっ、うん。その話はちゃんと覚えてる」

 

「簡単に言えばそれ。あずきは自分で好きなParallel時間軸に転移できるの」

 

その話を聞いて、納得が行く。話をされなかったのは、すでにロボ子さんから聞いていると思ったのだろうか。

 

「…とりあえずあずきが確認しに行ったから、戻ってくるまで待ってるか」

 

「…私もParallelとかは?」

 

「まだないね。どこにいるか分かったら…可能性はある」

 

久しぶりのParallelとなる。過去を変え、より良い未来にするために行動をする。その役目が再び始まるかもしれないと思うと、徐々に緊張していくのが分かる。

 

「…大丈夫だよ。今回は人増えたし。そらちゃんだけじゃなく複数人でParallelへ行くことになる」

 

「えっ、そうなの!?」

 

それは何とも心強い。実際、ときのそらは戦えないわけだし、戦えるメンバーが一緒なら安心だろう。

 

「ども!あ、そらちゃん居たんすね」

 

「あ、ココちゃん!」

 

もうすぐお昼という時間で、ココが拠点へとやって来る。

 

「…あれ、何か浮かない顔してる?」

 

ロボ子さんがココの表情に反応し、声をかける。

 

「…ここしばらく周辺とか国とか見回ってるんすけど――天使どこに行ったか分かります?」

 

「え?…天使?」

 

その単語にはロボ子さんも聞き覚えが無いらしく、首を傾げて悩んでいる。

 

「…あれ?ロボ子さん天使と会ったことなかったですか?」

 

「…うん。聞いたことないな」

 

2人のやり取りを見て、その天使というのとはココだけが知り合いだと言うのが分かる。

問題は、その天使が何なのか。

 

「…その天使の名前は?」

 

「天音かなたって言うんすけど…」

 

「いやぁ分からないな」

 

名前を聞いても、身に覚えがないと謝るロボ子さん。

 

「いや謝ることじゃないっすよ。…でも、ホントどこにも居ないっすね」

 

「…天使なら天界とかにいるんじゃない?」

 

ここ、非現実的な場所であまりにも単純かつ在り来りな事を言い放つときのそら。自分で言って、そんなの当たり前だと後々から思うが遅かった。

 

「――」

 

2人ともこちらを見て黙り込んでしまった。

――よく分からないけど、なんかまずいかもしれない。

 

「――確かに!」

 

「…。え?」

 

「あー言われてみれば天界に住んでるとか言ってた気がしますねぇ」

 

「…えっ、え?」

 

理解が追いつかない。何を言われるかと思えば、2人ともその考えがまるで無かったとばかりに、ときのそらの提案を称賛しまくっている。

 

「…えぇ…普通に考えたらそうなるんじゃ…」

 

「そらちゃん。2人は色々と抜けてるんですよ、察してあげてください」

 

肩に手を置き、ため息混じりにそう呟くのは一緒に拠点に戻ってきたマリンだ。

 

「…それじゃあ天界へ行ってみる?」

 

「えっ、そんな簡単に行けるの?」

 

「もちろん!Parallelを使えば、同じ時間軸で違う世界に行けるのさ」

 

「同じ時間軸…?」

 

「あずきの能力の受け売りなんだけどね。簡単に言えば、過去や未来じゃなく、現在のParallelに行くの」

 

その考えはなかった。てっきり、過去のParallelにしか行けないとばかり思っていたからだ。

 

「…まぁ軽く見てきて。人探しならそんなにかからないと思うし」

 

「戻る時は?」

 

「こっちで時間指定しておくよ。今ちょうど午後2時だから、午後7時にこの世界に戻るようにしとくね」

 

つまり探索時間は5時間。その中で、ココの言う天音かなたという天使が存在しているかを確認しなければいけない。

 

「ココちゃんにとって大切な人?」

 

「…もちろん。とても大切な天使ですよ」

 

それは何としても見つけださなければいけない。

 

「万が一今回で見つけられなくても、次はあずきと一緒に行けばもっと楽だと思うし」

 

ロボ子さんにそう言われ、少し気楽に人探しを進められるように感じた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

ココ、マリン、ロボ子さんと一緒に【秘密の丘】へとやって来る。

 

「一応Parallelとは言っても、同じ時間軸での転移だから、瞬間移動?みたいなのに近いかな」

 

ロボ子さんが最後の念押しをしてくれる。もちろん、ロボ子さんはこのMAINの管理者のため転移せず、ときのそら、マリン、ココで行くことになった。

ノエルたちがいない理由を来る途中に聞いたが、少し王国の方へ遠出をしているという事だった。

――そのため、この3人になったのだ。

 

「よし、行こ!」

 

3人とも転移する準備が整い、周りが少しずつ白く霞んできて――

 

「あっ、Parallelと違うから、死んだら本当の死を迎えることになるから気をつけて〜」

 

――最後に、とんでもない爆弾を言い残されて目の前が真っ白に染まった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

【アガペー天国界】――それが、ときのそらたちの向かった天国の名前だ。

 

「うっ…ここは――っ」

 

そこは、まさに天国と呼ぶに相応しい鮮やかな青に囲まれた世界――とはかけ離れた場所だった。

 

「…あれ、おかしいですね」

 

ココもこの異変に気付く。確かに、ロボ子さんからは天国である【アガペー天国界】へ転移すると言われていた。

だが、目の前の光景はその真逆。言うならばそこは――

 

「――地獄だ」

 

そう、表現するしかなかった。周りは火の海に沈んでおり、空も真っ赤に染まっている。

来る場所を間違えたのかとさえ思う。

 

「…でも、この人たち…」

 

マリンが視界の端に捉えた人物の影を指差す。そこには何人もが倒れているが、その全員に天使の輪っかと羽が付いていたのだ。

 

「…酷い」

 

ときのそらも、純粋な気持ちを言葉にする。そうしなければ、狂ってしまいそうだったから。

 

「…っ!?誰ですか!」

 

マリンが物音に反応し、後ろを振り向く。その声に驚いたときのそらとココも同時にマリンの向いた方向へ視線を向ける。

そこには、傷一つ付いていない、不思議な少女がこちらを見て立っていたのだ。

 

「…あれがかなたって天使?」

 

「いや、違いますね」

 

「てか、あの子天使?輪も羽も無いけど」

 

その少女には天使の輪っかも羽も付いていない。更にはボロボロの茶色いマントを付けていていかにも迷子といった感じの子だ。

 

「でも、なんでこの天国に?」

 

「ねぇ君。どうしてここにいるの?」

 

マリンがその謎の少女に問いかける。

 

「――天使に、助けられたから」

 

「天使?それってかなたって人?」

 

「――覚えてない」

 

たが、その天使が誰なのかは忘れてしまっているようだった。

 

「…一人にするのもあれですし、一緒に行動しますか」

 

「でもマリンちゃん。私たち…」

 

5時間後には3人とも元の場所に戻ってしまう。5時間以内に見つけてあげられなければまた一人にしてしまう。

 

「でも居ないよりマシでしょ。5時間以内に見つければいいのさ」

 

「…マリンちゃん」

 

確かに言う通りだ。それならば早めに行動を開始した方がいい。

 

「…えっと名前は?」

 

「――覚えてない」

 

「えっ…」

 

自分の名前すら覚えていないという少女に思わず驚いてしまう。

 

「恐らく脳に影響を受けたりとかしたんじゃないすか?」

 

ココが小声でときのそらとマリンに話しかけてくる。

 

「そうかもね。名前ないと不便だし…そうだ!ハクちゃんって呼ぼう!」

 

名前が無いということからハク。ときのそらはそう言い、少女の手を握る。

 

「単純ですが、そこがそらちゃんのいい所でもありますよね」

 

「これから一緒に探すの手伝うよ!私は時乃 空!短い間かもだけどよろしくねハクちゃん!」

 

「えっと…よろしく?」

 

困り顔をしつつ、それでもときのそらの手を取って、少女は微笑んだのだ。

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