Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶3「見えない敵」

――――――その時は、ある日を境に終わりを告げた。

 

「…どうされましたかトワ様?」

 

ある部屋の中、じっとしていられずに動き回るトワに一人の女性が声をかける。

 

「…あー、カリオペか。…かなたがこっちに乗り込まなくなってから何日経った?」

 

「だいたい12日程ですね」

 

トワに問われ、即座に返答をするカリオペ。毎日のようにやって来てはやり返そうと戦いを申し込んできたかなただが、急に来なくなったことにトワは驚いている様子だ。

 

「…もしかして、心配――」

 

「は?そんな訳ないでしょ。…そ、そう退屈なだけよ!」

 

食い気味に心配をしているということを否定する。だが、どこからどう見ても心配しているようにしか見えないトワの姿を見て、カリオペは微笑ましく思っていた。

 

「…そうだ!いっそこっちから天国へ乗り込めばいいのよ!」

 

「それは良い提案ですね。私はここで待っていますわ。無茶はしないで下さいね」

 

「おっけー」

 

そう言うとすぐさまこの場から去ってしまう。こういった行動力においてはトワを信頼しきっているカリオペ。ただ一つ悩む点があるとすれば――

 

「――もっと自分の気持ちに素直になって欲しいですね」

 

「…くしゅん!…誰か噂してるのか?」

 

カリオペの声は、すでに居なくなったトワの耳には聞こえず、要らぬ勘違いをしているトワ。

そんなトワはすでに地獄と天国を繋ぐゲートを作り終わっていた。

――もちろん、このゲートは誰もが出来る訳では無い。天国と地獄、それぞれにおいて資格あるものにしか作り出せないものだ。地獄で言えば、トワとカリオペ。天国ではかなたしか作り出せない。

 

「…よっ…と――」

 

天国の地へと足を踏み入れたトワ。そして、目の前に広がる光景を見て言葉が出ない。

――天国とはかけ離れた、それこそ地獄のような姿に成り果てていたからだ。

 

「――お前…」

 

この状況を作り出したと思われる姿を捉え、心の底から怒りを露わにする。

 

〈――オ前ニトッテモ嬉シイノデハナイノカ?〉

 

「…ふざっけんなっ!お前らの指示に従ってたろ!守ってる間は天国に手を出さないんじゃねえのか!」

 

貯めに貯めた感情を爆発させ、怒声を上げる。それでも相手は何とも思っていない様子でこちらを見る。

 

〈――ソチラガ先ニ破ッタ。ソレダケニ過ギナイ〉

 

「…てめぇ。ふざけんなよ――〈幼龍〉がっ!!」

 

〈幼龍〉――そう呼んだ敵に対し戦闘態勢に入ったトワ。

 

〈――案ズルナ。モウオ前ニ用ハナイ。天使ト同ジ所ヘ向カワセテヤル〉

 

幼龍もまた、トワに対し牙を向けた。

――これが、トワにとっても最後の日だったのかもしれない。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

ハクの放った発言を聞き、ココたちは押し黙る。そして、一番最初に口を開いたのは質問をした本人であるマリンだった。

 

「…その、能力を教えてくれませんか?」

 

「…どうして?確か、天使さんに能力は人に言わないことが最大の武器になると言われた気がする」

 

ハクの返しに言葉が出ない。それは正論だから。完全な仲間となった訳でも無い相手に能力を話すのは危険行為と言ってもおかしくない事だからだ。

 

「…まぁマリンちゃん。とりあえずハクちゃんのおかげで助かったわけだし、今は良いんじゃない?」

 

ときのそらがマリンの肩に手を置いてそう伝える。しばらくして、マリンも落ち着きを取り戻したのか、ときのそらとハクにごめんと一言謝った。

 

「…仕切り直しですね。とりあえず天使を…天音かなたを探しましょう」

 

その提案に異論は無く、ハクも大人しく一緒についてきたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…誰一人会わないとは…」

 

かなりの時間歩き回っているが、誰一人として出会わない。

 

「…残り時間どれくらいだろ」

 

「…もう1時間切ってるはずですね…」

 

島へ戻されるタイムリミットまで1時間を切ってしまっている。

 

「…なんでそんなに慌ててるの?」

 

「私たち能力でここへ来たんだよ。それで、あと1時間しない内に能力の効果が切れて、元の場所に戻っちゃうの」

 

ハクの純粋な疑問に答えるときのそら。今ので納得したのか、なるほどと何度も頷いている。

 

「…ここと島ってどれくらい離れてるのかな?」

 

「んー。転移でやって来たんですし、それなりには遠いんじゃないですか?」

 

このまま天使――天音かなたを見つけられなければ、またハクを一人にしてしまうことになる。

 

「…一緒に連れて帰れれば良いのにね」

 

「さすがに能力の恩恵受けてないですし無理ですねぇ」

 

ココに頭から否定され肩をすくめるときのそら。周囲を探索しつつも、そんな雑談をする回数が少しずつ増えてきている。

 

「…あ、あれ人じゃない?」

 

ふと半壊した家の壁際に倒れている人物を発見する。4人とも急いで駆け寄り、その人物の姿を捉えた。

 

「――え」

 

それは、この天国には似つかわしくない格好――悪魔のような羽が生え、下半身に目を動かせば黒く細長い尻尾のようなものがついている。

 

〈――誰ダ〉

 

「…っ!」

 

鋭く冷たい声。目の前の倒れている人物の声では無いことは皆が気づいている。――この声は、別の何かによるものだ。

 

「…っ。なんでここに居るんすかね…っ」

 

その姿を見るなり、ココが動揺するのが目に見えて分かる。

 

〈――輝龍。人ト群レルトハ堕チタモノダ〉

 

その人とは言えない姿――まるで龍のような姿をしている小さいバケモノがココに対してそう皮肉を告げる。

 

「…えっ、知り合い…ってことは…」

 

その2人の様子を見ればそう思うのも無理はないだろう。知り合いという事――それはつまり、目の前のバケモノも〈秘龍〉と考えるのが当然の反応だ。

 

〈――消エテモラウ。邪魔ハサセナイ〉

 

目の前の秘龍と思わしきバケモノが、その小さな体を生かした素早い動きで、あっという間にときのそらたちの目の前に現れる。

 

「…うっ!?」

 

狙われたのは1番先頭にいたときのそら。ココたちが反応するが、バケモノの攻撃が先にときのそらへと届くだろう。

 

「――Sorry.これ以上はやらせない」

 

バケモノの攻撃がときのそらへと届く直前、どこからともなく現れた長いピンクの髪をした、黒い衣装に身を纏った女性が手に持つ大きな鎌で受け止めたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…あなたは…」

 

ときのそらたちの目の前へ突如現れた女性。それは、今まで見たことも無い、知らない人物だった。

 

「…トワ様」

 

その女性は傍らに倒れている悪魔のような人物に一瞬視線を向け、ぽつりと呟く。だが、その呟きは誰の耳にも届いていない。

 

「…貴方たちは早く逃げなさい」

 

敵の攻撃を受け止めている女性が、後ろにいる4人に声を発する。

その言葉に反応してか、タイミングが良いのか悪いのか、能力のタイムリミットが訪れてしまった。

 

「――嘘」

 

3人の体から淡い光が溢れ出し、この場から消え去ろうとしていた。

 

「なんで今なんですっ!?」

 

「タイミング悪いっすね…っ!」

 

マリンもタイミングの悪さに声を荒らげた。だが、逆に逃げてくれたと思っている女性の顔を笑っている。

 

「ま、待ってください!この子だけは逃げられなくて…えっと…理由を言う時間が足りないんですけど…っ!」

 

1人、体に何の異変も訪れていない少女――ハクの事を必死に伝えるときのそら。

 

「――ごめんなさいっ!この子だけは守ってください!」

 

ものすごく身勝手で、強欲な願いだろうと思う。それなのに、その女性は二つ返事で――

 

「――OK.次は救ってくださいね」

 

――あっさりと了承したのと同時、意味深な言葉を残した。それを聞き返す前に、周囲から色が失われ、次の瞬間には元いた島へと戻ってきていたのだ。

 

「…あ、お帰り。…浮かない顔?」

 

3人が戻ってきたことに気がついたロボ子さんが声をかけるが、3人の表情を見て首を傾げる。

 

「…見つからなかった?」

 

「いや、それよりも…」

 

手短に、そして丁寧に事の説明をロボ子さんに数十分程した。そして、終わった際には――

 

「…まずいね。秘龍の可能性があるってことは…」

 

「ねぇロボ子さん!もう1回あの場所に転移させて!」

 

ときのそらが強く前のめりになってロボ子さんへ迫りよる。その気迫に一瞬驚くロボ子さんだが、すぐに元に戻り、再び転移の準備を始めた。

 

「連続使用になるし、場所も遠いから次は30分から1時間程しか転移出来ないと思う。その後また行くなら、あずきが帰ってきてから。分かった?」

 

「うん!」

 

3人ともその条件を呑み込み、再び【アガペー天国界】へと転移していったのだ。

 

「――そらちゃん本当にお節介だね。…そこが好きなんだけども」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

再びやってきた3人は、周りの景色が鮮やかになると途端にさっきの進んだ方角へと走り出していく。

ある程度の方向へと進んでいくと、やがて視界内に半壊した家を捉える。それが記憶上にあるものと一致していることを確認すると、ときのそらは迷わず直進して家へと近づく。

 

「…ハクちゃ――っ…」

 

近づいたことで、その周囲の様子が鮮明に映し出される。そして、その様子を見たときのそらの声が途中で止まり、その場に膝から崩れて落ちていく。

 

「…っ!そらちゃん…!?」

 

後から追いかけてマリンとココもその様子を目の当たりにした。

 

「――っ」

 

結論から言えば、そこにはもう先程いたバケモノのような〈秘龍〉の姿は居なくなっていた。

――代わりに、2つの死体が増えている。

 

「…っ…なん…で…」

 

片方は誰でも予想できるであろう、ハクの死体だった。

だが、もう1つの死体。普通に考えれば目の前で助けに来てくれたピンクの髪をした女性のだと思うはず。

 

「…逃げ…た?見捨てて…」

 

「――流石にそれは…ないんじゃないすかね」

 

ココがそのもう片方の死体へと近づいていく。

倒れていたのは、ピンクの髪ではなく、銀髪で青色のメッシュが目立つ――天使の羽をつけている少女。

 

「――かなた」

 

その少女に、ココが目的であった人物の名前を言う。もちろん反応や返事は無いが、その少女が天音かなた本人なのだろう。

 

「――救う…」

 

涙で視界がぼやけているが、それでも頭は冷静でなくてはいけない。ピンク髪の女性が残した最後の言葉――「次は救ってくださいね」これは、こうなる事が予想出来ていたから発した言葉なのだろう。

そして、気になることが1つ。この出来事を予想していたなら――

 

「――え?」

 

気がついた女性の違和感を伝えようと、涙を擦り前を向いた――だが、周囲の景色はさっきまで居た場所とは異なる、未知の場所に座っていたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…皆っ!?」

 

周りを見渡すも、ときのそら以外誰もいない。正確に言うならば、この世界には他の全てが無い。半壊した家も、焼き払われた森すらも無く、辺り一面白く光る床に紫色の霧が足元を覆い隠している不思議な空間に居たのだ。

 

「――Sorry.あなたを驚かせるためにやったわけでは無いわ」

 

ふと近づいてくる足音に女性の声。振り向けば、二度目となるピンク髪の女性との出会いとなった。

 

「…っ」

 

「あまり警戒されないでください。この空間もほんの僅かのみ。もう少しで元いた場所へ戻ります」

 

「…あなたは?何でさっきは助けてくれたんですか?…何で、ハクちゃんは助けなかったんですか…」

 

溜めていた気持ちを静かに吐き出してしまう。順序がおかしい。それは分かっていたが、止められなかったのだ。

 

「――私は森カリオペ。【イスキオス地獄境】を統括するトワ様に仕えている者です」

 

「…地獄」

 

地名は初めて聞くが、その中の1つの単語に反応する。天音かなたを探すためにやってきた場所「天国」――それの対になる場所だ。

 

「じゃあ――」

 

「違います。今、天国を襲ったのが私たちとお考えでしょう。しかし、本来地獄と天国の仲は悪くありません」

 

早とちりな結論を否定するように、先手でカリオペが事情を説明する。

 

「…第三者の仕業ってこと?」

 

「その通り。その第三者に、私たちの住む地獄も脅かされていました」

 

脅かされていた――そう、過去形で伝えてくるカリオペ。裏を返せば――

 

「…今は」

 

「――もう、終わってしまいました。天国同様に」

 

切ない現実を突きつけられ、ときのそらは絶句する。関わったことの無い場所にも関わらず、ときのそらはその悲劇さを感じ取り、同じように悲しんでいる。

 

「…優しいのですね」

 

「…そう…かな。でも、もうカリオペ…さんの事についても、私は無関係じゃなくなったし…」

 

「――次は救ってくださいね」

 

「っ!」

 

再び告げられる意味深な言葉。その引っかかりに気づき伝えようとしたらここへ呼ばれたのだ。だが、目の前に本人がいるなら確認しなくてはいけない。その言葉の意味は――

 

「――やり直せることを知ってるの?」

 

Parallelの存在を明かす行動に過ぎない。本来、ParallelはAZKiの能力の作用によってその存在を認知できたのだ。それ以外の人物が知る由は無いのではないか?

 

「――えぇもちろん。私の親友と一緒にParallelを移動した経験があります」

 

「…っ!?」

 

自分たち以外にParallel移動を体験したことのある人物がいるとは思ってもみなかった事だ。

 

「…次はってやっぱり…」

 

「――次は救ってもらいます。Parallelの過去の世界で、私を――トワ様とかなた様を助けてください」

 

目の前のカリオペが深々と頭を下げてきた。

もちろん、ときのそらはその気持ちに答えないほど冷たい人間ではない。

 

「――約束する。必ず、貴方も…お仲間さんたちも救ってみせる」

 

「…ありがとうございます」

 

「私は時乃 空。これからも宜しくね」

 

「――そらさん。ご武運を」

 

最後の言葉を区切りに、今いる空間が崩壊していき、やがて元のココたちの前へと戻ってきたのだ。

 

「…そらちゃん?」

 

おそらく、こっちでは数秒の体験だったのだろう。ゆっくりと立ち上がると、マリンとココの方を力強い瞳で見つめ――

 

「過去で――Parallelで、全部救おう」

 

確固たる意志を持って、そう2人に告げたのだ。

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