Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶2「プラチナ聖王国」

――――――目の前に見えてくるのは、左右対称――いわゆるシンメトリーで出来ている大きな屋敷だった。その建物は、周囲の自然とは不自然な程かけ離れた紫や紺色がかった色合いをしている。

と、一人未だに現状を理解出来ていない少女がいる。

 

「――何でこうなったんだろう」

 

一人静かに、こんな訳の分からない騎士団と海賊団と共に、怪しげな屋敷に訪れることになった経緯を思い出していく。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

目の前に光が戻り、少しずつ周りの情報が目に入ってくるようになる。

 

「…ん。ここは?」

 

左右に首を振ると、すぐ目の前に大きな壁がある。少し視線を下に向ければ、ゴミ箱等が置いてある。

要するに、どこかの路地裏に飛ばされたというわけだ。

 

「…何だか、建物とかの造りが古い…って、そうか。過去に戻ったんだから当たり前だよね」

 

そんな感想を抱き、路地裏から大通りに出ようと足を進める。

 

「…!うわぁ…!」

 

大通りに出ると、たくさんの人達が賑やかにしている。現代とは違い、車が走るような道路は無く馬車やら竜車がたくさんの人の中に混ざって生活している。

 

「…すごい!…って、こんな場合じゃなかった!」

 

私が過去に遡ってきた理由。それは、ロボ子さんに呼ばれて飛んだ世界――Parallel World MAINと、ロボ子さんが呼んでいた世界を救うこと。

そのために同じようで違う過去の世界へやって来たのだ。

 

「でもどうすれば…?そもそも救うって…ロボ子さんの仲間とかが居たのかな?」

 

そうだとするなら、そのロボ子さんの仲間を見つけ共に行動すれば良いのだろう。

 

「あ、でも渡された役目は「世界を見届ける」こと…」

 

「世界を見届ける」――つまるところ観測者となって、その世界の結末をしっかりとその目に映すこと。

ロボ子さんが言っていた「世界を救う」ということとは少し矛盾しているようにも感じていた。

 

「…考えても分からないし。いろいろ歩いてみるか」

 

そんな小難しい役目は後回し。今は、目の前にある現代では見ることの出来ない街づくりにかなり興味を示していたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

歩き回ること約10分。この街には現代には無いものがたくさんあり、飽きることなく隅々まで探索していた。

 

「…すごい綺麗」

 

「そうだろ?それは滅多に手に入らない宝石なんだよ」

 

街の中にある一つのお店――【ジュエリーショップ】に訪れたときのそら。そこで見たことの無い宝石を眺めていると、体つきのいい店長らしき男性が近づいて話しかけてくる。

 

「そうなんですか?…これ、なんて言う名前の宝石ですか?」

 

「こいつはなぁ、「輝竜の鱗石」って言うんだ」

 

「…輝竜の鱗石?」

 

現代では聞いたこともないような宝石の名前だった。

 

「ああ。俺が手に入れた訳じゃねえんだが…なんでも、【ドラゲ山】に住む龍の鱗から取れた宝石って噂があるんだぜ」

 

【ドラゲ山】というのも初めて聞いた。

話によると、どうやらこの付近にある山で凶暴な龍が住んでいると恐れられているみたいだ。

 

「嬢ちゃん。もしかしてこれ欲しいのか?」

 

「い、いやぁ…。欲しいですけど、流石にお金が…。」

 

滅多に手に入らないと言う宝石。値段も他とは比べ物にならないだろう。

 

「でも、嬢ちゃんも宝石みたいなもん持ってるだろ?」

 

「…え?」

 

「こう見えても勘は良い方なんさ。さっき服のポケットからチラッと見えたが、宝石のような石のようなもの持ってたろ。てことは金持ちって事じゃねえのか?」

 

そう言い店長は、私の上着服のポケットに視線を向ける。

 

「あ…。もしかして、これ…?」

 

そう言いながら取り出したのは、ロボ子さんを見つける前に拾ったまま持ってきてしまった、何かの騎士団の証のようなバッジだった。

 

「――なっ!?」

 

それを見た途端、店長は驚きのあまり、一歩後ろへ下がってしまう。

 

「も、申し訳ないです!不遜な態度を取ったこと許してください!」

 

「えっ、えっ!?」

 

急な店長の態度に、ときのそらも動揺を隠せない。

 

「ど、どういう事ですかっ!?」

 

そんな態度の店長に慌てつつ、状況判断しようと質問をする。

 

「…嬢さん、それ「聖騎士団の証」じゃないですか。それを持ってるだなんて、聖騎士団の団員だけですよ…。」

 

「聖騎士団の証」――今手に持っている、二つの剣が交差するように描かれている逆三角形の形をしたバッジのことを見て、そう説明してくる。

 

「…もしかして嬢さん。聖騎士団の新人さんかい?」

 

「えっ…。えっと…。」

 

聖騎士団と言う単語も初めて聞く。だが、ここで知らないと答えれば盗んだのかと思われてしまうだろう。

ここはなるべく話を合わせつつ、情報を聞き出すことにしよう。

 

「実は、最近来たばっかりでここに詳しくないんですよ。」

 

「…そういう事だったんだね。いいよ、なんでも聞いてくれ。」

 

一先ず変に疑われずに済んだ。まず最初に聞くのはこの街についてだろう。

 

「…えっと、この街ってどんな感じになってるんですか?」

 

「え?ここ、街じゃなくて国だよ?」

 

――。早速やらかしてしまう。街と国では規模が違う。

こんな言い間違いをして怪しく思われなければいいが。

 

「なんだ。近くの街からやって来たのか。…ここは、【プラチナ聖王国】っていう国だぞ」

 

「…あ、ありがとうございます。」

 

とりあえず納得してくれたようでホッとした。

【プラチナ聖王国】――その言葉に、少し驚く。

 

「…どうしたんだい?」

 

少し考え込む姿勢を取ると、店長が不思議がって声をかけてくる。

 

「…あ、いえ大丈夫です。あの、聖騎士団の場所ってどっちですか?」

 

聖騎士団が主に活動をする場所を聞き、そこへ向かうことにしよう。そうすればもしかしたら元の世界へ戻るための鍵が見つかるかもしれない。

 

「…あぁ、最近来たからまだこの国の配置も覚えてないのか。騎士堂なら北へ進めばあるぞ」

 

「ありがとうございますっ」

 

騎士堂と、気になる言葉も出てきたが今は追及せず【ジュエリーショップ】を出て、早速北へと向かうことにした。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「――【プラチナ聖王国】って、もしかしてこの前本で読んだ…」

 

学校で読んだ歴史の本に出てきた言葉。

かなり古い歴史が綴られていて、有名な話がたくさん載っている。その本によれば、この場所の時間軸というのは――

 

「――500年前…ってこと!?」

 

自分で答えにたどり着き、自分で勝手に驚いている。

歴史の本に書かれていた年代は、現代からおよそ500年前くらいだった。

 

「…そんな過去まで遡るだなんて…」

 

てっきり、数年から数十年の過去かと思っていただけに、改めて500年前という規模に声を失ってしまう。

ここまで昔に戻って、本当に元いた世界に戻れるのか?

 

「…いや、今更そんな考えは遅いもんね。とりあえず騎士堂?って所に向かわなきゃ」

 

色々頭の中では考えつつもしっかりと足は止めず、店長に言われた騎士堂のある方向へと進んで行ったのだ。

――国というのはだいぶ広い。北に向かえばあると言われた騎士堂。色や形は聞いていないが、いくら進んでもそれらしき建物が現れない。

 

「…方向間違えた?」

 

方向音痴と言われるほどではないと自覚している。

流石に方向間違いの可能性はないだろう。

 

「もう少し進んでみるか…」

 

そう言い、足を止めずどんどん先へと進んでいく。

――それから20分ほど歩いただろうか。

 

「…はぁ、はぁ。…もしかして、あれ?」

 

ここまで長く歩くのは久々過ぎて、体中が痛い。

そんなやっとの思いで来た結果、目の前には他の建物とは一風変わった建物があることに気がつく。

 

「もう少しで――っ!」

 

あと少しでたどり着くはず。そんな期待を込めて、一歩踏み出すが体の限界がやって来た。

思わず力尽きて、地面に倒れ伏してしまったのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…ここ、は?」

 

目が覚める度にこのセリフを言っている気がする。

 

「――目が覚めたかい?」

 

すると近くから男性の声が聞こえる。

びっくりして、体が跳ねそうになりながら起き上がりその声の主の方へと目を向ける。

 

「驚かせて悪いね。君を運んできたのは女性だから変な心配はいらないよ」

 

と、気を利かしてくれながらこちらへ微笑みかけてくる。

 

「あなたは…?」

 

「僕は白銀聖騎士団の団長さ」

 

白銀聖騎士団――おそらくさっきの話であった聖騎士団の事だろう。

さっそく証を見せて事情を説明――

 

「…あれ。無い…?」

 

ポケットに手を入れるがバッジが見当たらない。

もしかして倒れた時にでも落としたのだろうか。

 

「君が探してるのは、この証かな?」

 

そう言い、団長と名乗る男性が見せてくるのはときのそらが拾ったであろうバッジだった。

 

「大丈夫。君が盗みをしたとは思えないからね。恐らく君の親族の誰かが渡したのだろうね」

 

こちらの心配を払拭するように先回って現状の判断をしている。

 

「…あの、これから私はどうすれば…」

 

この団長がロボ子さんにとっての鍵となる人なのだろうか?

それならば、なるべくこの人と一緒に行動した方が良さそうだが。

 

「…そうだね。君を仮にだが団員として受け入れよう。我々と共に行動しながら、君の目的を一緒に達成することにしよう」

 

そう提案をされ、即答で返事をした。

それから、副団長の白銀ノエルと呼ばれる人の元へ行き、私が共に行動をする人――つまり、私の世話役にノエルが選ばれたのだ。

団長と一緒に行動できないのは困るが、ノエルの元でこの世界を見届ければ良いだろう。

 

「…世界を救う…」

 

その言葉は、どんな状況においても私が忘れてはいけない――ある意味での呪いの言葉となったのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

そして、ノエルが居るからという理由で、今現在怪しげな屋敷へと向かわされたのだ。

 

「それじゃあ、準備と…少し休憩もしよう」

 

屋敷の目の前で馬車を停止させると、屋敷へ乗り込む準備をしようとノエルが声を上げる。

 

「……」

 

――干渉したければしてもいいよ。

別れ際、ロボ子さんが言ったセリフ。私的には、「世界を見届ける」という役目がある以上、あまり深く関われば変な事が起きるのではないかと思っているのだが。

 

「…バリバリ干渉しちゃってるじゃん!」

 

こんな所まで連れてこられることになるとは。

もう既に後戻りできないとこまでこの世界に触れてきてしまっている。

 

「…どうしよう。まぁ考えても今更なんだけどね」

 

いつも通りの納得の仕方をしつつ、とりあえず屋敷の中ではあまり目立たないように立ち回ろう。

実際の所、不気味な屋敷というだけでテンションは上がるが、リアルでその屋敷に挑むとなると少し気持ちが違う。

 

「…あれ?そらちゃん、こんな所で何してるんですか?」

 

と、端で一人色々と考えていたところに、一人の少女が近づいてくる。

 

「えっと、確かマリン…さん?」

 

「さん付けは要らないですよ。ちょっと気になってきちゃったんです」

 

「あ…マリン、ちゃん。ちょっと心を落ち着かせていた感じ?かな」

 

「なるほど。ノエルから聞きましたけど新人らしいですからね。無理もないですね」

 

違う意味として捉えられたが、詳しく説明しても意味が無いだろうと思い、そのまま納得してもらう。

 

「…マリン!ちょっと話あるんだけど!」

 

と、ノエル副団長がマリンちゃんに向かって声を上げる。

 

「何?もう後は屋敷の中に入るだけじゃん」

 

「そうじゃなくて。流石にこの人数で一気に行くのも大変でしょ。何人か見張り役置いておいた方がいいと思うの」

 

確かにこの25人という大人数で屋敷へ入るとなると、統率するのは大変になってくる。

副団長ならこれくらい問題無いだろうが、基本軍隊やら団体というのは指揮を執るトップの人物の下にも、小分けして小団体の指揮を執るそれぞれのリーダー格というのがいる。

ここにいる団員は全て、そういった小団体のリーダー格の存在にすらなっていない。

「…何人くらいで乗り込むの?」

 

「…んー。私とマリンは確定でしょ?後どうしようか」

 

「いや、まぁ船長が確定なのは今更言わないけどさ。というか皆で乗り込まないならそもそもこんなに来る必要無かったんじゃね?」

 

「あー。その事は考えになかったな」

 

「つまり船長たちは邪魔者扱いされたんですかね」

 

そんな何も考えていなさそうなノエル副団長の反応に、マリンちゃんは思わずため息を吐いてしまう。

 

「まぁ何とかなるべ。マリンは海賊団の中で2人くらい呼んどいて。こっちも2人呼んで6人で乗り込もう」

 

「りょーかーい」

 

深く考えずにマリンちゃんは他の海賊団の船員がいる方へと走っていく。

 

「一応私が面倒見ることになってるけど…そらちゃんはどうしたい?」

 

マリンちゃんが居なくなったのを確認して、ノエル副団長が私に向かって話しかけてくる。

――正直迷いどころだ。馬車で待つ方が安全かもしれない。だが、もしもこのノエル副団長がロボ子さんの救う人物の一人だとしたら。

一緒に行動する方が良いのかもしれない。

 

「――行きます」

 

「…分かった。それじゃあ準備して行きましょ」

 

行くという返答にノエル副団長は微笑みかけ、ときのそらの判断を肯定してくれたのだ。


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