――――――静かに、決意を込めたときのそらの発言の意図を汲み、マリンとココも表情が変わる。
「――そうですね。そらちゃんはそうやって、船長たちを助けてくれたみたいですし」
「もう関わっちゃったから他人事じゃなくなりましたもんね!…いっちょやりますか!」
2人の意思表明も終わり、あと数分で元の島へと戻る時間となる。
「…でも、一つ申し訳ないことが…」
「どうしたの?」
マリンが申し訳ないと挙手しながら2人の視線を集める。一度、咳払いをしてから言葉を続ける。
「…実は船長、明日ノエルと王国に用があるんです。なので、今日中のParallelじゃないと一緒に行けないかも知れないです。ホント申し訳ないっ」
「えっ、だ、大丈夫だよ!?そんなに謝らなくても…」
「そうですよ船長。気持ちは充分に伝わりますし、何も明日しか無いって事でもないですし」
「ありがとう2人ともっ」
今日中の転移、それが難しいようならマリンは一緒に行けないかもしれない。
だからといってマリンに非はない。
そんな事を話している内にタイムリミットとなり、再び島へと帰還することになった。
――――――――――――――――――
「…過去を救う。そらちゃんにとっては2度目だね」
島へ戻った後、ロボ子さんに事の経緯を伝える。
「でも、一度救った経験があるからって、違う人を救うのはまた違ってくるからね。気をつけるんだよ」
「うん!」
ロボ子さんとの約束通り、AZKiが帰ってくるまでの間、各々休んでいることとなった。
「…そらちゃんは一旦自分の世界に戻る?」
「…いや、一緒にここで待つよ。学校はしばらく休みだし」
すでに長期休暇に入っているときのそらは、心配ないとロボ子さんに告げて同じ島の中でAZKiを待つことにした。
「ただいまっする〜」
「…あ、ノエルちゃん!」
しばらくして、王国へ遠出していたノエルたちが島へと帰ってきた。
「お帰りるしあっ」
「ただいまマリンっ」
「そらちゃんただいま〜」
「お帰りフレアちゃん!ぺこらも!」
「ただいまぺこ〜。あれ、何か取り組み中ぺこか?」
ぺこらが、ロボ子さんとその目の前にあるモニターを見てそう口を開いた。
「丁度良かった。一応皆にもさっきの出来事伝えておくね」
と、AZKiを待つ間、ロボ子さんが帰ってきたノエルたちに先程ときのそらたち3人が体験したこと、そして新たな問題の解決を試みることを話した。
――――――――――――――――――
「そんな事が…」
話を聞き、未だに信じられないといった顔をするフレア。ノエルたちも深刻な表情を浮かべている。
「…ごめんねそらちゃん。団長これからマリンと王国に行かなきゃいけない…」
「大丈夫だよっ!マリンちゃんからも聞いたし、無理させるのも良くないからね」
ときのそらはそう伝え、それからフレアたちの方に振り返る。
「…フレアちゃんたちはどう?」
「別にこれといった予定ないし、全然手伝うよ」
「――いやぁ、きついかも」
嬉しい反応をするフレアたちに目を輝かせたが、その直後の否定の言葉に驚くときのそら。
その否定は、AZKiによるものだったから。
「ただいまそらちゃん。さっきロボ子から色々聞いたよ」
「AZKiさん!その…きついってのは?」
「さっきそらちゃんが見てきた所を救うために過去へ戻る。それは、たぶん私の能力で戻った方がいい」
「…というのはどういうことっすか?」
話の流れをいまいち理解出来ていないココが困った表情を浮かべてAZKiに聞き返す。
「この島にある【秘密の丘】。そこからParallelへ飛べるのはそらちゃんは分かるよね?」
「うん」
何度も過去のParallelへ行き、世界を救ってきたのだから。
「…そのとき、ロボ子から馴染みのある物を持っていくと狙った過去へ飛びやすいって聞いた?」
「あ…うん、一回あったような気がする」
確かフレアのParallelへ飛んだ時だろう。フレアの弓矢を持ち、Parallelへ向かったことで狙った通りの世界へ行くことができた。
「でも今回、関わり深い物を持ってる?」
「持ってないね…」
それだと必ず行けるとは限らないと言う。例え行くことが出来ても、指定時間に飛べる保証もないらしい。
どうしようもなくなった所へ飛んでも救うことはできない。その前の段階で過去に戻る必要があるのだ。
「私は、そのまま能力の通り過去を渡れる。狙った過去の世界へ入ることができるの」
つまり、AZKiの能力による転移の方が確実性のあるものだと言う。
「…それできついってのは」
「私の能力での転移は人数制限がある。一度に3人まで。それも、能力を使う私自身を含むから行けるのは2人だけになる」
つまり、ときのそらとココが行くことは決まっているため、これ以上人数を増やすことはできないと言うこと。
「そっか…」
「ごめんね」
「ううん、大丈夫!私とココちゃんでしっかりと解決してくる!」
「そうですね!そらちゃんと2人で片付けてきちゃいますよ」
2人ともやる気に満ち溢れており、AZKiもロボ子さんも安心したような顔をしている。
「帰ってくる時は同じように、過去を改変できたら戻るようになってるから。――本当に気をつけてね?」
「大丈夫だよ!」
最後に念押しの忠告を入れ、AZKiが能力を発動する。
「それじゃあロボ子。2人を連れていくね」
「うん。――気をつけて」
「――『時渡り』」
AZKiの能力発動により、3人の姿が同時に消えて居なくなった。
――――――――――――――――――
「…なんか不思議」
そこはまるで、狭い空間ごと次元を移動しているかのようだった。
「まぁすぐ終わるから気にしないで。とりあえず向かう先は、私も見てきたからすぐに着けると思う」
「…えっ、AZKiさんも私たちの目的分かってるの?」
「うんうん。あと、もう長い付き合いだし、さん付けはやめてよね」
「うっ…でもアイドルなんだし…」
「気にしたらダメ。分かった?そらちゃん」
「う、うん…AZKiちゃん」
名前の呼び方を今更変えることとなったところに、横からココが声をかける。
「話が脱線してますねえ。結局、AZKiさんはどこへ転移するつもりなんです?」
「うん…今から3ヶ月くらい前のとこ。そこで、分岐があったみたいだから」
そう話していると、やがて周囲が開けてきて、ある場所へと着地した。
「…ここは…」
見た感じ、【アガペー天国界】と似ている。だが、あの時に感じた悲惨な状況というのが、ここでは当たり前のように周囲に広がっている。
「――【イスキオス地獄境】だね」
ときのそらの疑問に答えるようにAZKiがこの場所の名前を口に出した。
「…っ。そこって…」
――不思議な空間の中で、森カリオペと名乗る女性と出会った。救って欲しいと願った人物――その人物が住む場所の名前だった。
「ごめんね2人とも。私も手伝いたいけどやる事があるから…」
「大丈夫っすよAZKiさん。私たちに任せてください」
「うん」
ココとときのそらの返事を受け、この場からAZKiが去る準備をする。
――MAINの3ヶ月前となるParallel。
「頑張ってね。ここ――Parallel World ROVINAで」
――――――――――――――――――
「…よし、まずはどうします?天国じゃないのが気になりますね。かなたを救うんじゃ…」
周りを見渡しながらココがそう呟く。
「…天国と地獄は関わりがあるみたいなの。先にここを救うことで天国にも影響するんじゃないかな?」
「なるほど、そうなんですね」
ときのそらの説明で納得がいった様子。
「…カリオペさんを探そう」
「…えっと?」
あの空間内での出来事を知らないココが首を傾げる。説明をし忘れていたことを思い出し、慌ててあのピンク髪の女性から言われたことを伝えた。
「…あの倒れてた人物も関係あるんすね。とりあえず向こうの方へ向かいますか」
ココが指を向けた先には、一つ大きくそびえ立つ建物のようなものが薄らと見える。まずはそこを目指そうということだ。
「そうだね。もし敵がでてきたら全部任せるねっ」
「…これはきつそうっすねぇ」
たった2人、暗い世界の中を進んで行く。
「…っ!?」
すると、目の前に複数の影が見える。
「バケモノっすね」
「ここにもいるんだ…っ」
久しぶりにバケモノと相対する。ここしばらくは、龍の姿のココ(正確にはバケモノではない)、人との戦闘があったため、バケモノの異様な威圧に驚いてしまう。
「安心してください。こいつらはA+ランクっすよ」
A+と言われるが、あまりピンと来ない。
そう悩んでいるうちに、目の前にいたバケモノたちが一気に迫ってきた。
「!…ココちゃんっ!?」
「任せてくださいっ――『神光』」
ココが自分の正面へ手の平を向けると、かなり大きな範囲で円が地面に広がっていく。
こちらへ向かってくるバケモノ全てがその円状の光の中へと入り切ったタイミングで――
「――グァァ!!?」
「えっ!?」
凄まじい光が天へと立ち昇り、その力によってバケモノたちが灰と化したのだ。
「まぁこんなもんっすよ」
「つ、強い…」
分かっていたことだが、ココはかなりの実力者だ。それこそ、ノエルたちよりも強いのではないかと思う。
実際、〈五大秘龍〉の1人なのだから強いのは当たり前だが。
「――ん?」
「どうしましたそらちゃん?」
何かすぐ近くのどこかで、こちらを見つめる視線を受けたような気がしたが、周りを見渡すが人の姿が見当たらない。
「…いや、気のせいみたい。大丈夫」
「そうですか。とりあえず先進みましょう」
「うん」
腑に落ちない点はあるものの、今の段階ではその解決に繋がることはないため、気持ちを切り替えて当初の目的通り、カリオペを探すために再び歩き始めたのだ。
「――」
その近くで、姿の見えない人物が一人。
「――A+のバケモノ集団が簡単にやられるとは。どこの者だ」
静かに呟かれ、次の瞬間には気配すらもその場から無くなっていた。
――――――――――――――――――
あれから10分近く歩いた頃。ようやく、薄らと見えていた大きな建物がはっきりと見えるようになった。
「ようやく見えてきましたねえ」
「ここにいるかな…」
居ることを願いつつ、その建物の扉の前へとやって来る。
「…人がいますね」
その扉の前に、2人の人の姿が見える。
2人に共通しているもの、それは背中から生えている黒い翼と、地面に垂れ下がっている小さな尻尾だ。
「…あの時のあの子に似てる」
半壊した家で見た人物と容姿が似ていた。
「…ん?貴様ら、一体何者だ」
「…地獄の住人じゃないよね。誰かな?」
それぞれ屈強な体の男性と、小柄で子供のような見た目の女性。近づいてこないものの、こちらを警戒しつつ声をかけてきた。
「…えっと、人探しです!」
「人探し?こんな時期にここへ来るとは怪しいな」
「――奴らの仲間の可能性あるんじゃない?」
「…それでも2人で来るのはおかしい。一度話を通してみるか」
2人で何やら会話をしている。こちらに聞こえない程度の声で、数十秒程話したあと、改めてこちらに振り返った。
「…現時点では貴様らを判断できない。よって、これからこの中へ入ってもらう。上手く行けばその人探しの人物を見つけられるかもな」
「…これは、好印象ってことでいいんすかね?」
「とりあえず中に入れて貰えるらしいし、指示に従おう」
いきなり攻撃を仕掛けてくるような人物でないことに安堵し、言われるがままに扉へと近づいていく。
「ここの部屋で待っていろ」
「分かりました」
ときのそらとココを部屋の中に置き、2人が部屋から出ていった。
「…一体どれくらい待てばいいのかな?」
「んー。まー今回は時間制限ないですし、ゆっくりできますけど、なるべく早めが良いですね」
「――なら、早く終わらせるようにしますわ」
「っ!?」
不意に聞こえる第三者の声。ココもときのそらも肩を跳ね上げ、声のした方向へ振り向く。
「…えっ、カリオペさんっ!?」
そこにいた人物の顔を見てときのそらが声を上げる。まさしく、MAINの世界で出会い、探していた人物の一人――森カリオペと同じ容姿の人物だったのだ。
「…この人がカリオペさん?」
「…あっ」
名前を叫んだ後、自分の失態に気づく。
――この世界で会うのは初めてだ。それにも関わらず名前を知っていれば、疑われる可能性が出てきてしまう。
「えっと…!」
「心配しないでください。――そらさんのことは未来で見てきました。…救いに来てくれてありがとうございます」
カリオペの発する言葉。それを聞いてときのそらは驚いて声も出せずにいた。