――――――強く宣言したときのそらの決意。生憎にも、ときのそらの考えを伝える時間を幼龍が与えてくれるはずも無かった。
〈――滅べ〉
無数の隕石のような塊を次々に降らせてくる。
カリオペが皆を守るために鎌を取り出し技を行使する。
「――『狂乱刃』!」
大きく鎌を横に薙ぎ払う。その軌跡上から無数の赤黒い刃が降ってくる隕石と衝突し、相殺したのだ。
「…そらちゃん」
「天国へ連れてってください!絶対にこのParallelを終わらせない!」
ときのそらの強い申し出。地獄と天国を繋ぐゲートは、それぞれの世界で権限ある者にしか使えない技だ。
この場にいる中ではカリオペとかなただが、能力を封じられたことでかなたはゲートを開くことができない。
ときのそらの気持ち、それが通るかどうかはカリオペに懸かっている。
「…分かりました。必ずこの世界を救ってくださるのですね?」
「…もちろんです!」
ときのそらの気迫に負けたカリオペが、ゲートを作ろうと意識を幼龍から逸らした。
「…っ!カリオペ!」
「っ!?」
その一瞬を見逃さなかった幼龍が猛スピードでカリオペに攻撃を仕掛けた。
いち早く動いたかなたがカリオペに届く前に自らの腕で攻撃を抑える。
「かなたちゃんっ!」
能力が封じられていても身体能力は健在のようで、幼龍の攻撃に押しつぶされずに耐えている。
「…がはっ…能力なしはきつすぎる…!」
「…そらさんすみません!幼龍の隙を作らないことにはゲートを出せないみたいです!」
だが、まともに戦えるのがカリオペ1人だと秘龍相手に隙を作るのはかなり難しいだろう。
「っ…どうする…っ!」
このまま戦闘が長引けばカリオペが先に力尽きるのは目に見えている。
トワを襲わせた4人の手下。その中に先の能力封じがいれば、そいつを倒すことで解除される可能性がある。
だが、そのためには天国へ行かなければいけない。
「…っ!」
スピード勝負となった今、果たしてどちらが先に目的を達するか。
「…天国へ戻させろ!」
かなたもいち早く天国へ戻りたいと声を荒らげる。
「落ち着くっすよ!」
「落ち着けねえよ!だいたいこの現状を打破するには天国にいる手下共ぶっ倒すのが早いんじゃねえのか?」
かなたもときのそらと同じ結論へとたどり着いていた。
「…それに」
それに、ココとときのそらは天国で最初に出会った少女の存在を知っている。かなたと面識があったことから、かなたと天国へ戻れば戦力が増やせる可能性がある。
「…はやく…!」
「はやく天国へ行かなきゃいけねーのによ!」
ときのそらとかなた、いち早く天国へ戻りたいとそう心から願う。
――カリオペがやられる前に早く解決策を出さなければ。
「――っ!」
その時、ときのそらの体に起きた異変。以前のような、何か不思議な力が湧き上がる感覚。
「――何でもいいっ!」
そんな感覚を忘れないうちに解き放つ。どんな能力だろうと今のこの状況を打破できるならば。
「――は?」
そんなときのそらの使った力――それを見たかなたが呆気に取られる。
「…えっ」
それもそのはず。ときのそらの目の前には、限られた者にしか使えない技――すなわち、ゲートが誕生していたからだ。
「お、おま…なんでそれ…」
かなたに不思議がられるが、なんて言い訳をすればいいか分からない。そもそも、ときのそら自身でさえもゲートが使えた理由が分かってないのだ。
「…せ、説明は後!かなたちゃん、天国行くよ!」
今説明をしている暇はないし、説明できるわけも無い。
かなたを急かすように言うと疑問が残りつつも天国へ行くためにゲートを通過する。
「…カリオペさんっ!絶対に救ってみせるから!」
「…頼みましたよそらさん。こいつは何とか押さえ込みます!ココさんも天国へ!」
「了解です!」
カリオペの邪魔にならないようにか、ココも天国へ逃げ込む。
――絶対にこの窮地を乗り越える。
「――待っててください!」
勢いよく、3人はゲートを通過し、この場から居なくなったのだ。
――――――――――――――――――
再び訪れる【アガペー天国界】。3人が着地したと同時、すぐに行動に移る。
「…かなたちゃんはなんでそんなに天国に?」
走りながら問いかける。逃げたいがためだけに天国へ行きたいと叫んでいたはずは無いだろう。
「…トワにとっての右腕がカリオペだとしたら、僕にもその右腕的存在がいる。でもそいつは僕の言うことしか聞けない…だから会いに行く。そうすりゃこの状況を突破できるんだよ!」
かなたにとっての右腕的存在。その人物を探すのが、かなたが天国へ戻る理由だったのだ。
「…私はトワを見つけに行きます!3人で固まっても効率が悪いっす!」
「ならそらちゃんもココについて行け」
「えっ!?そしたらかなたちゃんが…」
「あ?…今更逃げねーよ。どうせ追われる立場なんだし」
心配のつもりで言ったことだが、かなたには違う意味で捉えられてしまった。
「そ、そうじゃなくてかなたちゃんが心配だから!」
改めて伝わるように訂正すると、一瞬足が止まりかけるのが見えた。それでも足を止めず、走りながらに答える。
「――。まさかお前なんかに心配されるとはね」
「そのくらい今のかなたが切羽詰まりすぎなんすよ」
「そうかもね。…安心しろ、僕はやられない」
強く心の底から答えるかなた。その言葉が嘘偽りなどとは一切思わない。だから、ときのそらはかなたの言う通りココについて行くことに決めた。
「トワを見つけたら連絡する」
「りょーかい。すぐに向かうよ」
そうして話が終えると、ココとかなたが左右の反対方向へ走り始めた。
「…連絡って?それにトワちゃんの位置を見つけるのもかなり苦労するんじゃ…」
大袈裟に例えるなら、この天国の真逆の端同士にいた場合、連絡することもすぐに向かうことも不可能だろう。
「そこは問題ないですねぇ」
「え?」
「こんな事もあろうかと「輝竜の鱗石」を持ってきたっす」
懐から取り出したものは、ときのそらが1度見た事のある綺麗な宝石だった。
「これ…」
いつかのParallelで見たものと同じだとすぐに気付く。
「これは1度だけ強制的に輝龍の力を使えるんすよ。私自身の能力が封じられてもこの鱗石の能力は封じられてないっすからね」
そう言い、ココが足を止め周囲を見渡している。
「…どうしたの?」
「近くで誰か戦ってますね。もしかしたらトワたちかも」
そう言いココがある方向へと走りだす。
ときのそらは全く気配なんてものを感じないが、ココの進む方向へついて行くように一緒に走りだした。
「――見えた!」
しばらく進んだ先、そこにあった光景は――
「…中々手強いわね」
「連携で倒す方が良いだろう」
「…っ」
――トワと、それを囲う4人の姿が見えたのだ。
――――――――――――――――――
「…っ!あの二人…」
4人のうち、1人はついさっき対峙したバケモノ使いの男。そして、残りの内の2人にも見覚えがあった。
元のMAINで出くわした、ときのそらを殺す一歩手前の攻撃を仕掛けてきた大柄の男と、[透明化]使いの男だった。
「…トワちゃん!」
片足をつき、体力を消耗してるであろうトワに近づく。
4対1の中、耐えていたトワの実力を改めて実感した。
「…ココ!そらちゃんも!」
2人が戻ってきたことに対して、喜びと不安が重なり合う。
「…離れてて。こいつらかなり強いから」
「大丈夫っす!1度限り、制限時間10分で能力使えますよ」
ココがそう言い「輝竜の鱗石」を取り出す。
「かなたちゃんがこの状況を突破する人物を連れてくるまでの時間稼ぎだよ!今地獄でカリオペさんが幼龍と一対一をしているから!」
急がないといけないことをトワにも伝える。
「幼龍と…!?…まぁカリオペは死なないだろうけど地獄が崩壊する危険性もあるか」
「私たち2人で4人倒せれば楽っすけど保険でかなたとその仲間がやって来るっす。そしたらトワは地獄へ行ってください」
「了解」
話がまとまり、トワの横にココが並び立つ。
「…能力使えないんでしょあの秘龍の擬人化ちゃん」
1人、初めて見る女性がこちらを見据えてくる。
「間違いなく例の武器で能力封じをかけた。問題ない」
「じゃああんたと私であの秘龍やるわよ」
女性とバケモノ使いがココの方へ走り出してくる。
それと同時、大柄の男と[透明化]の男がトワと戦うことになった。
「やられんなよ!」
「当たり前っす。…「輝竜の鱗石」発動!」
ココが力強く鱗石を握りしめて、砕いた。その瞬間、鱗石から溢れ出した光のオーラがココの身を纏い、能力の底力が上昇する。
姿形は人のままだが、力の総量で言えば竜化したときとほとんど差異はない。
「…急に跳ね上がってるけど!?ホントに封じたの!?」
「さっきの石の力か…っ![化物扱]!」
目の前にバケモノが生み出され、それがココへ襲いかかる。
「――『神光』」
「――ァァ!?」
「きゃ!?」
バケモノを前に放たれた攻撃。容易く飲み込まれたバケモノは光の中へ姿を消し、それだけで威力は止まらずに後ろの2人をも飲み込んでいった。
「…す、すごい」
今までの攻撃とは桁が違うことに驚く。そして、ココは光に飲まれた2人が地面に倒れているのを見て、トドメをさそうとする。
〈――[狂愛]〉
「っ!?」
ふと響き渡る声。それが発した言葉――それは倒れた2人に向けられたもので。
「…ァァ!」
「ッ!!」
先程までとは全くの別人のようなオーラを放ち、その場に立ち上がったのだ。
「…ァァ!」
「っ!」
速さや威力も段違いに強くなっており、2対1ということも相まってややココが守り多めとなってきた。
「…!あのもや…」
そんな2人に集中して見ると、体に黒いもやがかかっているのが見えた。
――まるで最後の世界で戦った輝龍にかかっていた能力の様な。
「…じゃあ!」
あの段階で輝龍は幼龍に操られていたということが分かり、謎が1つ解けた気がした。
だが、それが分かった所で今の状況は何も変わらない。
「頑張って…ココちゃん!」
応援しか出来ないことがここまで辛いこととは思いもしなかった。
そうしてココの戦いの方が進むと同時、トワの方にも動きがあった。
「――『魔眼』」
身体能力を向上させるトワ。向かってくる2人に対しカウンターを狙っているようだ。
「行くぞ」
「――[透明化]」
男の能力が発動する。2人が目の前から急に姿を消したことによって、トワの反応が遅れた。
「…『フルバースト』!」
横からトワに向かい両手を向ける。その先から凄まじいオーラの砲撃がトワに向かって放たれた。
姿を見失ったトワは、砲撃が放たれるまでその存在に気が付かなかった。
そのため、振り向いた瞬間には目の前まで攻撃が迫っており――
「…うっ!?」
「トワちゃん!!」
――かわすことができずに直撃してしまったのだ。
「…かっ…ぁ」
横たわるトワが口の端から血の塊を吐き出す。目の前を向けば、消える男が短剣を向けて距離を詰めて来ているのが分かる。
動こうにもダメージによる影響で間に合わないだろう。
そんなトワに躊躇なく飛び込んできた男がその短剣で腹を突き刺そうと――
「――っ!!」
「いけぇ!」
「…っ!?」
――不意に聞こえる声。それが、ココやときのそらとは違う声で――
「…何やられてんだよトワ」
「――かなた」
間一髪の所でかなたと謎の少女がトワを助けたのだ。
――――――――――――――――――
「…っ!ハクちゃん!」
ときのそらがやって来た2人をみて声を上げる。
片方はかなた、そしてもう片方がかなたが連れてくると言っていた人物。
まさかそれが、このParallelのきっかけの1人でもあった、最初に出会った少女――ハクだったとは思いもせず、ときのそらは驚きつつも嬉しさでいっぱいだった。
「ハク?そらちゃん知り合いなの?」
「あっ…いや、あだ名で呼んだだけ」
この世界線においてはハクと出会うのは初めてだ。かなたが不思議がるのも無理はない。当の本人であるハクはそもそもハクと呼ばれていることに興味が無いのだろうか。
「…えっと、かなたちゃんの右腕?…な、名前は…」
ときのそらは知っている。ハクは自分の名前を覚えていないと。だが、かなたなら分かるのかもしれない。そう期待を込めてかなたに聞くと――
「…この子は七詩ムメイ。能力の副作用で記憶と脳の結びつけに異常があるみたいだけどね」
「七詩ムメイ…」
改めてハクの名前を聞き、口の中で反芻する。
「…ムメイ、敵はあの変なオーラまとってる2人とこっちの男2人。――時間が惜しいから出し惜しみは無しだ」
「うん。分かった」
かなたの指示を受け、ムメイが一歩前へ出る。
ココの方は意外にもココがやや優勢を保ちながらの攻防戦を繰り広げているため、先にトワの相手2人を倒すことに決めたようだ。
「――[鏡花]…『◾️◾️◾️』!」
ムメイが目の前に手をかざし、何かを呟く。
その瞬間、手から砲撃が放たれ、勢い良く2人の男へ向かって伸びてゆく。
「なっ!?これっ…」
「ちっ…能力使え――」
咄嗟に[透明化]を使えばかわせただろうか。だが、相方の能力を完全模倣されたことに驚き、判断が遅れる。
2人を巻き込み、そのまま後ろの岩壁へと激突し、大きな爆発音をたてたのだ。
「…すごい」
改めてムメイの使う能力に驚いている。ときのそらの中での見解は「コピー」だと思っているが、恐らくほぼ合っているだろう。
「…かなた」
トワからすればかなたが助けに来たのが意外だったのだろうか、少し動揺しているのが分かる。
そんなトワを他所に、4人の敵を見つめ、未だ能力が使えないでいるかなたは笑みを浮かべ高らかに宣言した。
「意見が合っただけだ。――さぁ、反撃しようぜ」