――――――強大な攻撃を受けるも、やられずに立ち上がった。そのまま、トワとムメイを相手に勝負を仕掛ける。
かなたの指示の元、次々に攻撃を繰り出すムメイ。トワが相手していた2人に、余裕がなくなってくるのが目に見えて分かる。
「あいつ何なんすか!?」
自分と同じ[透明化]を使用してくる少女に苛立ちを隠せないでいる。そのためか動きが単調になり、ムメイやトワの攻撃に当たる回数が増えてきた。
「落ち着け、模倣の能力だ。どのようにして模倣してるか分かれば対処できる」
「…ちっ!」
「…『黒魔渦』!」
「…避けろ!っ!」
トワの右手から放たれた黒いオーラが2人に向かって伸びていく。咄嗟に[透明化]によってギリギリかわすことができるが、もう1人の大柄な男は逃れられず、四肢を拘束されてしまう。
「ムメイ!」
トワの呼び声に反応し、ムメイが拘束されている男に意識を向ける。
「…俺の技は体のどこからでも出せるんだよ!『フルバースト』!」
四肢を拘束されてなお、口から再び砲撃をトワに向かって放った。
そんなトワの前にムメイが降り立ち、トワに触れると――
「…『透明化』!」
ムメイとトワの姿が一瞬にして消えて居なくなった。
「…っ!?」
「大丈夫っすか!」
[透明化]で消えていた男が目の前から居なくなった2人の隙を見て、男の拘束を解こうとしている。
「…!やめろ!離れるんだ!」
だが、拘束されている男が違和感に気づき声を荒らげる。
「今のはお前と同じ戦法だ!後ろ――」
後ろを取られている。そう伝えようとする前に事が起きた。
「っ![闇淵源]――『閃黒魔砲』!」
「――『フルバースト』!」
トワとムメイによる渾身の一撃が2人を襲う。反応した時にはすでに手遅れとなり、地形を吹き飛ばす火力で2人に直撃した。
「…ぁ」
「――ここまでか」
そのまま2つの砲撃に身を飲まれ、跡形もなく消し飛んでしまったのだ。
――――――――――――――――――
トワとムメイ側の勝負に決着がついた頃、ココ側でも変化が訪れた。
「…っ!」
「ココちゃん!」
「輝竜の鱗石」による効果が切れてしまう。動き自体はあまり変わらないものの、攻撃がほとんど通らなくなってしまった。
「ァァ!」
「おりゃ!」
「かなた!?」
死角からの攻撃。対処できないと悟ったココだったが、その間に割り込むようにかなたが代わりに防いでくれる。
「…この男が能力封じたやつだよね!?」
「そうっすよ!」
直撃すれば即死と言ってもいいレベルの打撃を、2人で協力してかわし、防御している。
2人の連携の高さから、古くからの付き合いが真実だと分かるだろう。
「…『◾️◾️◾️』」
かなたとココを狙う敵のうち、能力封じを使用していた男の背後に突如としてムメイが現れる。
そのまま力強く横腹に蹴りを入れ、男は大きく横方向へと吹き飛ばされた。
「サンキュー!」
助けてもらったかなたが礼を言い、もう片方の女へと視線を向ける。
「…ウッ!」
勢い良く飛んでくる女の攻撃をかわし、反撃のパンチをいれる。だが素の力だけでは到底敵わない。
「ココ!…『魔恵付与』!」
自身の力の一部を与える技。突っ込んでくる女を正面から受け止めたココ。トワの支援能力のおかげで互角以上となった。
「…すごい!かなたちゃんにも…」
付与すれば3対1で勝てるのではないか。そう考えるときのそらにトワが少し目を伏せながら――
「…天使は悪魔の力が使えない。逆もそうだ」
――かなたに力が渡せないと言われ、ときのそらは歯をくいしばる。
このまま2対1でも勝てるのではないかと思うが油断はできない。
男の方をムメイが1人で相手しているおかげで動きやすくなっているのだ。ムメイの力が途絶える前にこちらを早く終わらせないといけない。
「…なのに!」
いつになってもときのそらの謎の力は現れない。
どうすればできるのか、何もかも分からずに能力を使おうと必死になっている。
「…おりゃあ!」
必死に、能力が使えないままでもかなたが戦う。
かなたに振りかざされる攻撃はトワが代わりに防いでいた。
「礼なんて言わねえぞ」
「分かってる!…ココ!」
「…っ!」
相手の攻撃を受け止めると同時、攻撃に使われたその腕をトワが掴まえる。
がら空きとなったその背中にココが恩恵により付与された力で思い切り殴り飛ばしたのだ。
「…ァァ!?」
大きく吹き飛び、地面へと激突した女は動かなくなった。
「…倒した?」
そう思うのもつかの間、謎の黒いもやが濃く輝き、再び女が立ち上がり攻撃を仕掛けてくる。
「…っ!これじゃあ埒があかねえ!」
3対1とは言え、体力が消耗しているように思えない女を相手にしていては少しずつ不利になっていく。
「…!ココ!」
その一瞬の出来事だった。
不意を突かれたココが女の攻撃を力強く叩き込まれ、そのまま地面に倒れ動けなくなってしまった。
「ココちゃんっ!!」
ときのそらが駆け寄り、その体を抱き起こす。死んではいないが大きなダメージにより気を失っているようだった。
「…っ!」
1人離脱により更に劣勢となっていく。能力が使えないかなたはもちろん戦闘員として機能はあまりせず、トワと女の一対一となる。
トワもかなり体力を消耗しているためか、動きが少しずつ鈍くなっていってる。
「…トワ!後ろだ!」
「っ!?」
女の動きに追いつけず、後ろを振り返った際にはすでに攻撃の構えに移行していた。
「――っ!トワちゃんっ!」
ときのそらも必死に叫び、そしてその瞬間を見たくないと目を逸らした。
――数秒経った後、トワの声が聞こえないことに気づき恐る恐る目を見開いてトワの方に視線を移す。
そこには――
「…っ!ムメイちゃん!」
――女の攻撃を受け止めるムメイの姿があったのだ。
――――――――――――――――――
ムメイが手助けに入る。それが意味するのは――
「…っ!?」
男の体が内側から爆ぜたかのように見るも無惨な姿となって横たわっていたのだ。
「…ぁ。戻ってきた!」
男の死を認識したと同時、かなたが内側から溢れてくる力に気づき、先程までの曇っていた表情が一転、笑みを浮かべて女を見据えた。
「…くらえ!『天拳』!」
女に向かって拳を突き出す。その形を維持した光の弾が女へ向かって飛んで行った。
「ッ――ッ!?」
それを受け止めようと両手を広げるが、接触した瞬間、攻撃の有り得ないほどの大きな圧力に押しつぶされ、その勢いのまま壁に叩きつけられた。
「トワ!ムメイ!一気に行くぞ!」
そのままかなたは女へと向かって突っ込んでいく。その傍ら、トワが最後の力を振り絞って能力により女を拘束する。それと同時にムメイも同じようにトワと協力して女を拘束した。
暴れ回るが、拘束を抜け出すより先にかなたが懐へと迫った。
「…っ!『天破轟裂』!!」
凄まじい拳が女の腹に直撃する。その瞬間、大きな爆発音とも呼べる破裂が女の体の内側から響き渡り、背後の壁にさらに押しつぶされ、そのまま崩れ落ちたのだ。
「お…終わったの?」
ときのそらが弱々しく言葉にし、そして周りからの反応を見れば答えが見えてくる。
「…良かった…っ!」
膝から崩れ落ちるほどときのそらにとっても緊張する一戦となった。
しかし、これで全てが解決した訳では無いことに表情が険しいままだ。
「ここから地獄へ戻らないと!」
ココが気絶、かなたとトワは体力をかなり消耗している状態。
戻っても戦力として数えられるのはムメイくらいになるだろう。
「…早く行くぞ」
そう地獄へ行くことを促したのは、誰も予想していなかったかなただった。
かなたの発言にトワが目を見開く。そんなトワを見てかなたが続けて言葉を投げかける。
「最後まで付き合うって言ったろ…ったく」
少し照れながらか、顔を逸らしてゲートを作り出した。
「…ふふっ。サンキュ」
時間もあまりないため、回復する暇なく5人で再びゲートを通過したのだ。
――――――――――――――――――
たった数十分。だが、相手は秘龍の1匹。それと一対一などという傍から見れば無謀とも言える戦いが地獄では繰り広げられている。
今更間に合うのか、不安に思うときのそらは地獄へ降り立った瞬間周りを見渡してカリオペの位置を探す。
そして、ときのそらの目に映ったものは――
「!…カリオペさんっ!」
「…間に合いましたね…」
戦いを続けている幼龍とカリオペの姿があった。
驚くべきことは、あの幼龍と戦い続けていてもカリオペの体に疲れが見えないことだ。
「…カリオペも本気でやっててくれたみたいだな」
「カリオペさんの本気…」
トワの呟きを聞き、改めてカリオペの方を見る。
特別何かをしているようには見えないことに首を傾げるときのそらを見て、トワが説明をする。
「カリオペの特殊能力の応用だ。…何にせよあの状態のカリオペは死ぬことは無い。手助けに行くぞ」
カリオペの元へ駆け寄ろうとするトワ。だが、その足がふらつき始め、前へ倒れそうになる。
「…らしくねぇじゃんか」
「…っ、かなた…」
そんなトワの体を支えたのは、かなただった。お互い体力を消耗し、今にも倒れそうなところを耐えている。
「ココはそらちゃんに任せた。…そらちゃんならきっと大丈夫だから」
後ろを向けば、ココを背負ってときのそらが岩陰に身を潜めている。
力が発揮されない身としては懸命な判断だ。
「…トワも一緒に身を潜めるぞ。このまま戦ったら無駄死にだ」
「…カリオペだけに任せるのか?」
「んな訳ないだろ。…僕の右腕を舐めてもらったら困るよ」
そんなかなたが不気味な笑みを浮かべたところで、2人の上を通過し戦闘に加入したものがいる。
「…頑張って、ムメイちゃん…!」
未だ攻防を繰り広げるカリオペと幼龍。その間に無謀にも混ざったムメイに一瞬驚くカリオペだが、次の行動に目を奪われる。
「――『◾️◾️◾️』!」
幼龍に向かって両手を突き出す、瞬間凄まじい光の砲撃が放たれた。
「…『フルバースト』だ…まだ使えたんだ!」
すでに倒された者の力を使い、幼龍に重い一撃を叩き込んだ。
〈――生意気ガ…!〉
ふらつく幼龍を見て、隣に着地したムメイに振り向き直した。
「あの時の…。あなたがかなたさんの右腕でしたか」
「…?よく分かんないけど手伝う」
「ふふ。Thankyou」
再び距離を詰めてくる幼龍。それを横目にカリオペが一呼吸置き――
「作戦があります。手伝ってください」
ムメイに対してそう告げたのだ。
――――――――――――――――――
幼龍の攻撃をかわしながらら何か2人で会話をしている。
ときのそらは、その光景をただ見守ることしかできないでいる。
「…2人で戦ってもほぼ互角…」
カリオペ1人の時に比べて攻撃する回数が増えてはいるが、それでも決定打を与える隙がない。
「…っ」
もしときのそらの力が使えていれば。そう思ってしまうのも無理は無いだろう。
「…せめてトワちゃんとかなたちゃんの体力が戻れば…」
2人加勢すれば更に優位になれるだろうと思っている。最初の2人の雰囲気は悪かったが、共通の敵と戦い続けた結果、今では些細なことによる仲間割れが無くなっている。
「…何か」
あと一押し、2人を協力させる何かがあれば変わるだろう。
「…ちっ。じっとしてるのも何だか癪だな」
「とは言ってもさっきの戦いで力を使いすぎてる。トワたちが行っても助けになるかどうか…」
「…」
かなたが何か言いたそうな顔でトワを見つめる。視線に気づいたトワも、何を言いたいのか分かっている様子だ。
「やるか?――恩恵付与」
かなたが口にしたセリフ。恩恵付与とは聞いたことがないが、少し前にトワとした会話。
それから2人だけが持つ特別な力を思い出せば察することができる。
「でもトワちゃんさっき…」
天使は悪魔の力が使えないと言っていた。そしてその逆も。
「正確には違う。…天使と悪魔同士、お互いを信頼すれば使える業があるって言い伝えられている。昔の奴らはできてたのも居たみたいだけど…」
「なんだよ、僕が悪いって?…誤解があったってことにしてくれよ。――これが終わったら話聞くからさ」
トワとかなたの間で何があったのか、ときのそらには知る由もない。
だが、それでもついさっきまでの2人より明らかに関係が良くなっているということは、ときのそらでも充分に分かる。
――2人が意を決した、その時だ。
「――っ」
「っ、ムメイ!?」
吹き飛ばされた人物がすぐ傍らに転がってきた。幼龍の力によって弾き飛ばされたムメイだった。
「…カリオペさんは…っ!?」
ときのそらがカリオペの方を見れば、岩に叩きつけられ口の端から血を垂らしているのが見えた。
「…くっ!トワ!すぐにやるぞ!」
急激に力を発揮した幼龍に焦り、かなたが今すぐにでも恩恵付与をしようとトワへ近づく。だが――
「…かなたっ!」
「…うっ!?」
幼龍の尻尾によるなぎ払いで、かなたが後方へ吹き飛ばされる。咄嗟にガードをしていたようで、致命傷は避けている。
「…カリオペさん…!」
幼龍の気がトワとかなたに向いた隙にカリオペの近くへとやって来たときのそら。
「私は大丈夫…」
「でも…」
「…話があります。このままでは2人が力を発揮する前にやられてしまう」
不意に、カリオペが放った言葉。
「…え。それって…」
「――Parallelが変わりました。同じ時間で、幼龍のもう1つの要因による災害が起きました。その結果、幼龍の力が跳ね上がった…」
淡々と述べられる出来事。頭で認識するよりも次々と言葉が連ねられる。
一瞬でパンクしそうになったときのそらに、カリオペは一呼吸入れてから分かりやすく簡潔に言い放った。
「――その要因となる幼龍の手下を排除してきてください。…頼みます」
言われた瞬間、目の前が急激に白く染まり気を失ってしまった。
直前まで、カリオペのときのそらを――私を見つめる瞳がただ私を逃がそうとした訳では無い、私に全てを委ねた決意ある眼をしていたことだけは覚えていた。
そして気がつけば――
「――」
夢でも何でもない、新たな地に足をつけて意識が覚醒したのだ。