Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶10「吟遊詩人」

――――――時は、ときのそらとココがAZKiと一緒に時空を渡り、Parallel World ROVINAの世界へと向かった瞬間へ遡る。

 

「2人とも準備できてる?」

 

ロボ子さんが声をかける2人とは、現白銀騎士団団長ノエルと、海賊という名ばかりの居候をするマリンの事だ。

 

「まさか国王に隠し子が居たとは…」

 

ときのそらにも言ったように、この後ノエルとマリンは一度王国へ戻らなければいけなかった。

その理由の1つとして、今まさに言った、国王の側近にも当たる騎士団団長のノエルですら知らなかった「国王の隠し子」についてだ。

マリンが戻る理由とは特にないが、王国に居候している身としてノエルに同行することを決めたのだ。

 

「なんでも、その隠し子さん?が作った国が今危険に晒されているって話だよね」

 

マリンの言葉にノエルが頷く。

 

「今回はボクの出る幕じゃないから余計なことは言わないけど、無理はしないでね?」

 

「大丈夫!安心して待っててね」

 

ロボ子さんからの言葉を受け止め、ノエルとマリンは王国へ向かうべく、舟に乗って進み始めたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…というわけで、ここから更に北へ向かい山を超えた先に我が娘が持つ国が存在してる」

 

国王の元へ着いたばかりですぐに説明を受けた。メインとして舟漕ぎをしたのはマリンのため、疲れた様子を見せながら話を聞いている。

 

「…それで、今その国が危ないと」

 

「そうだ。娘からは心配要らないだのうるさいだの言われるがワシも心配だ。そこで是非ノエル団長殿に現地へ向かって欲しいのだ」

 

「…分かりました。すぐに行ってきます」

 

ノエルは立ち上がり、未だ座っているマリンを無理やり立ち上がらせ、この場を去っていく。

 

「ふ、2人で大丈夫なのか?」

 

「心配いりません。すぐに終わらせてきますから」

 

やや早歩きで王室を出ていくノエル。違和感を持ったマリンだが、深く言及せずに後をついて外に出ていった。

 

「こちらをどうぞ…団長殿」

 

外へ出れば待機していた1人の騎士が1台の馬車を用意して出迎えてくれた。

 

「ありがとう。マリン早く乗って」

 

「はーい」

 

荷台に乗り込み、ノエルが手綱を握って早々に出発したのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…ここまで来れば良いか」

 

ある程度王国から離れた所でノエルがそう呟く。そして次の瞬間には――

 

「なぁにが我が娘だこらぁぁ!」

 

「の、ノエルさん…?」

 

ノエルの豹変ぶりに思わず敬語を使ってしまう。

 

「娘1人で国を立ち上げた?それでそのまま放任?アホかあの国王!!」

 

「の、ノエルさん…?」

 

「だいたい危険な目に会うかもしれないってまだ危険じゃないんだろ!?だったら王国に戻せば良いだろうがぁ!」

 

ノエルの不機嫌の正体。それは国王の娘に対する、甘やかしすぎてるのか厳しいのかよく分からない態度にあった。

 

「全く!どうせ娘の言葉に何も言えないだけのくせして」

 

「ノエルさーん時と場合を考えて発言してるとしてもそれ以上は可哀想なのでやめましょう」

 

荷台に乗っていたマリンだが、横を伝ってノエルの横へと腰掛けた。

 

「これから行く国ってなんていうとこなんです?」

 

「…私もあまり覚えてないんだけど、昔はそんなに大きな…国って言える程でもなかった気がするよ」

 

そこが今では国王の娘が統治をした事で、大きな国へと発展したのだろう。

 

「――おーい助けてくれぇぇ」

 

「ん?」

 

ふと背後の方で微かに叫び声が聞こえた。2人とも気づいたらしく、ノエルは一度馬車を止め、マリンが地面に降りて後ろを振り返る。

 

「あれ?なんか声が聞こえた気がするんだけど」

 

「うん、団長も聞こえたよ?」

 

声は聞こえたものの、その声を出した本人と思わしき人物がどこにも見当たらなかった。

 

「気のせいかな」

 

「まぁとりあえず進もう。早く馬車に乗って」

 

不思議に思いつつもマリンが乗り直し、再び進もうとした時だ。

 

「待ってぇ!あと少しだから待ってぇ!」

 

また微かに後ろの方から――いや、もっと身近な、マリンのすぐ後ろで声が聞こえた。驚き、振り返ったマリンは更に大きな悲鳴を上げた。

 

「わぁぁ!?犬!?」

 

いつの間にか馬車に乗っていた、通常の犬よりやや小さい、まだ子供のような犬が声を出していたのだ。

 

「えっ…人語を話してる…?」

 

あまりの現実味の無さにノエルまでもが呆気に取られている。

すると今度は、先程何もいなかったはずの道に1人の影とその背後に迫る大きな影が見えた。

 

「っ!?あれってタイラント!?」

 

ノエルが背後に見える大きな影を見てそう言い放つ。

タイラント――別名は暴君と呼ばれ、動く生物に対し常に攻撃を仕掛けるSSランクのバケモノだ。

 

「とりあえず逃げよう!」

 

ノエルが馬車に座り直し、手綱を掴む。

 

「この手をとって!」

 

荷台に乗ったマリンができる限り体を外へと出し、手を伸ばす。

駆け寄ってくる少女が大きく跳躍し、その手を掴むと――

 

「ノエル!」

 

「うん!」

 

勢いよく馬車を走らせ、瞬く間にタイラントから距離を取ったのだ。幸い動きが遅かったため、タイラントの姿は一瞬にして見えなくなった。

 

「はぁ…はぁ…助けてくれてありがとうございます…」

 

マリンと同じく荷台に乗った少女は息を切らしながら礼を言う。

 

「大丈夫だよ。それより君は…?」

 

ノエルが首だけで後ろへ振り返り、少女へ名前を聞く。

 

「角巻わためです!吟遊詩人やってます!」

 

逃げていた時よりも大きな声で、そう自己紹介をしたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

しばらく逃げたあと、馬を休ませるためにも川沿い近くで休憩を取っていた。

 

「逃げながらも北へ向かったおかげでもうすぐだね」

 

ノエルが少し遠くに見える大きな城壁を見てそう呟く。

 

「…2人とも【デセール】に向かうつもりなの?」

 

ノエルの呟きを聞き取り、わためが質問をしてくる。

 

「…その【デセール】って言うのがあそこに建ってる国の名前なの?」

 

「そうです。わためも何回か行ったことあるので分かります!」

 

そう言いつつ、長い間休憩を取ったことから移動しようと考えたわためが立ち上がった途端、顔を顰めながら自分の足首に手をやった。

 

「どうしたんです?」

 

「あ、いえ…邪魔にならないようにと隠していたんですが…追われてる途中、あのバケモノにかすり傷を与えられてしまって」

 

そう言うわための足首を見れば、微かにだが赤く滲んでいるのが分かる。内出血のようなものになっているだろう。

 

「…バケモノから傷…」

 

ふと何かに気づいたノエルが今の言葉を反芻し――

 

「っ!今すぐ逃げよう!あのバケモノ――タイラントは与えた傷を察知する能力がある!」

 

ノエルがそう叫んだと同時、まるでタイミングを計っていたかのように地面の中からタイラントが大きく飛び出してきた。

 

「…ひっ!?」

 

その拍子にわためはその場に倒れ込んでしまう。そこへタイラントが攻撃を仕掛けようと前脚を伸ばしてきた。

 

「…っ![マリンアンカー]!」

 

マリンが武器を取り出しその前脚めがけて投げ飛ばす。

 

「なっ!?」

 

だが、前脚に突き刺さるも深く入らず、その前脚を振り回し武器を弾き飛ばした。そのまま武器と一緒にマリンも飛ばされ、木に激突し姿勢が崩れてしまう。

 

「…!マリンさんっ!」

 

わためを無視し、タイラントがマリンへと標的を変えた。その口から青白い熱線を放ち、マリンめがけて飛んでいく。

 

「…まずい!」

 

ノエルも熱線の速さを見て間に合わないと息を飲む。

だが、わためが背負っていたリュックの中にある1つの道具を取り出し――

 

「…っ!!『シープホープ』!」

 

――次の瞬間には、マリンの目の前に大きく、そして分厚い綿毛が盾となり熱線を防いだのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…ナイスですわためさん!」

 

起き上がり再び反撃に出るマリン。それに呼吸を合わせて連携を取るノエル。

――そして、戦闘要員とは思われなかったわためを含む3人でタイラントを迎え撃った。

 

「…その武器…」

 

「はい!吟遊詩人として使っている道具でもあります!名は[全自動演奏ハープ]です!」

 

わためは自分が持つハープを掲げてそう答える。そして、そのままハープに手を添え詠唱の構えを取る。

 

「…動物さんたちの力を借りる!『フレンドシップ』!」

 

そのままハープから演奏が流れ、周囲にいた小さな虫や鳥、少し大きめでタイラントを睨んでいた犬等が一斉に淡い光に包み込まれ、次の瞬間には――

 

「…やっつけるよ!」

 

わための声に呼応しタイラントに飛びかかったのだ。

 

「…さっきワンコをあなたたちの馬車に近づけたのもこの能力です」

 

「なるほど、サポートとしてかなり強いね」

 

わための使役した生き物たちによって思うように動けないでいるタイラント。

ノエルが気を溜め始め、タイラントが完全にこちらから生き物に意識を向けた瞬間、大きく跳躍した。

 

「…わためさん!離れてください!」

 

「…分かりました!」

 

マリンの指示を受け、生き物たちもタイラントから遠ざけさせ、自分自身もマリンに手を引かれて逃げる。

 

「――『メテオドライブ』!!」

 

ノエルの渾身の大技。空から落ちる隕石の如く、無数の光がタイラントを襲う。

 

「――ァァァ!!」

 

大きな叫び声と煙を上げて、タイラントはその場に崩れ落ちたのだ。

 

「…倒した?」

 

物陰に隠れ爆発を耐え忍んだマリンとわため。マリンが顔を出しノエルの方を見る。

 

「…手応えはあったから――っ!?」

 

倒しただろうと思ったノエル。それもつかの間、倒れたタイラントが勢いよく立ち上がり、そのままノエルのいる地面を抉りとった。

 

「…っ!」

 

「ノエル!」

 

バランスを崩し、地面と一緒に宙へ飛ばされたノエル。身動きが上手く取れない宙に浮くノエルめがけて、タイラントが再び熱線を放出した。

 

「…やば」

 

助けも間に合わない中、ノエルがその熱線に飲み込まれ、すぐ横を流れている川へと突き落とされたのだ。

 

「…嘘」

 

わためがその一部始終を眺め、膝からその場に崩れ落ちてしまう。

たかが数十分共にしただけ。だが、それでもわための心に来るものが無いわけではない。

 

「…立ってください。ノエルはあんな程度じゃ死にません!」

 

だが、そのわためよりも長い時を一緒にしているマリンは深く落ち込むどころか、前を向き立ち上がろうとする。

 

「…マリンさん」

 

「ノエルを信じてやってください。船長たちは船長たちのやる事がある!…絶対にこいつを倒すぞ!」

 

マリンの強い鼓舞を受け、わためもがむしゃらに立ち上がりハープを手に取った。

 

「…よし、いっちょやりますか!」

 

マリンが手にした[マリンアンカー]をタイラントめがけて投げ飛ばす。

 

「だけども!今度は違う!…[深淵乖離]!」

 

再び受け止めようとしたタイラントの目の前で大きな渦が浮かび上がり、マリンの放った武器の先端はその渦の中へと消えていった。

 

「…ガァァ!?」

 

そしてタイラントの死角となる位置に新たな渦が浮かび上がると、そこから武器の先端が飛び出てきてタイラントに命中したのだ。

 

「よし!このまま押せば…」

 

そう思うマリンだったが、2度目の攻撃にすぐ対応し死角からの攻撃でさえもタイラントは直前で避けきってみせた。

 

「…うっ!」

 

その反撃に口から熱の塊のような弾を放出する。上手く避けながらマリンもタイラントに対抗する。

 

「…うっ、マリンさん…!」

 

わためも、足の怪我など忘れるくらいに全力でタイラントに攻撃を仕掛けている。だがマリン程の威力を出せないのか、タイラントには見向きもされない。

 

「くっ、このままじゃ…」

 

マリンのサポートができない。一方的に狙われるマリンは体力の消耗が激しく、今にも倒れてしまいそうだった。

 

「っ!わための全力を出す…!」

 

さっき会ったばかりの関係だから――そんな事を思う人は強くなれない。「吟遊詩人」だからこそ、その時その時に出会った人とは大切な関係を持ち続ける必要があるのだから。

 

「うおおおお!」

 

気力を溜め込み、タイラントの足元めがけて走っていく。

 

「…!わためさんっ!?」

 

そのわための様子を見て驚くマリン。だが、タイラントからの攻撃を避けるので精一杯。反撃する隙はあってもわための元に駆け寄る隙はない。

 

「うおお!つのドリルー!!」

 

わための頭から生える、可愛らしく巻いてある2本の角。それが神々しく光ると、そのままタイラントにめがけて突っ込んだ。

 

「――ァァァ!?」

 

大きな爆発音を立て、初めてわための攻撃にダメージを負わされたタイラントがバランスを崩し再び倒れ込んだのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…わ、わためさん今のは?」

 

地面に座るわために駆け寄ったマリン。その手を取ってわためを立ち上がらせる。

 

「…えへへ。わための全力をぶつけました!」

 

そう言いながらタイラントの方を見る。今度こそ倒れたのか、動き出す気配がなかった。

 

「…ありがとうわためさん」

 

「こちらこそ助けてくれてありがとうございます!」

 

タイラントを倒したことで気が緩む2人。だが、それだけで今回の件は片付いていない。

 

「…この川に流されてる可能性ありますね。ノエル泳げないですし」

 

余計な一言を付け加えるマリンだが、川にしては流れが速く、ノエルが流されていると考えても無理はない。

 

「…運がいいのか悪いのか、この川の流れる先が目的地ですね」

 

これから向かおうとしていた場所【デセール】。生憎と川の先に位置しているため遠回りにならないのが救いだ。

 

「…それじゃわためさん。ここは危険だから早く逃げておきなよ?」

 

わためを助けたことでマリンも気分が良いのか、先程の死闘で起きた被害をわためのせいにしようとしないでいた。

そのまま歩き出すマリンだが、わためが後ろから声をかける。

 

「…あ、あの!…わためもついて行って良いですか?」

 

「えっ」

 

マリンからすれば思わぬ誘いだっただろう。

だがわための目を見ればそれが冗談で言ってものとは思えない。

 

「…あなたたちとも仲良く、大切な存在になりたいんです!それに、ノエルさんを助けなきゃ行けないですもんね?」

 

「…そうですね。それではもう少しわためさんの力を借りることにします」

 

2人並んで、ノエルを探すために川沿いを進んで行ったのだ。

 

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