Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶12「絶望の淵」

――――――凄まじい殺気。それを目の当たりにして、初めてルーナが一歩、後方へと足を動かした。

 

「――まずはその騎士からだ」

 

殺気を纏う男が、城の頂上から一瞬にして地へと降りる。

それに反応することができなかったルーナが身構えるも、そのルーナを通り過ぎる。男が狙ったのは言葉通り――

 

「ぐわぁぁ!?」

 

「がはっ!」

 

ルーナを助けるため応援に駆けつけた騎士たちだった。

 

「っ!皆っ!?」

 

反撃を取ろうとするも掠りもせず、たった1人の男によってやって来た騎士が次々に殺されていく。

 

「っ!この――」

 

「おっと!」

 

ルーナが男へ攻撃しようとするが、その男の手下4人に道を塞がれてしまう。

 

「邪魔なのら!」

 

「っ!」

 

その大剣で大きく横に薙ぎ払うが、手下の男の1人が体ごとそれを受け止める。

 

「甘いわよお嬢ちゃん!」

 

「ぐっ…!」

 

大剣を受け止められたことによる無防備な体に、手下の女の1人が強烈な蹴りを入れる。

大剣を持ったままルーナは後方へ飛ばされ倒れてしまう。

 

「ルーナ!船長たちも…」

 

「おっと!お前らは俺らが相手するぜ」

 

マリンとわための前には、ルーナの前に立ちはだかっていた手下の内の残り2人が立っていた。

 

「悪いですけど消えてもらいます![深淵乖離]!」

 

マリンが能力を発動する。マリンの少し手前の地面に渦ができると、そのまま2人目掛けて渦の中から鎖が2本飛び出して襲いかかる。

 

「ふっ!」

 

狙われる2人、その片方は身軽な動きで鎖を避けていく。

 

「甘いぜ!『業火』!」

 

もう片方は能力を使い、鎖に対抗してくる。手のひらを真っ直ぐに伸ばし、そこから炎の渦が放たれる。

鎖に直撃した瞬間にその炎は燃え移り、鎖を伝ってマリンへと飛んできた。

 

「マリンちゃんっ!『シープホープ』!」

 

わための能力によりマリンの前へ壁が展開される。炎を完全に受け止めるが壁は燃え尽きてしまい、一瞬にして壊れてしまう。

だが、その時間のおかげでマリンが次の行動を取る猶予が生まれた。

 

「――『壊落激流』!」

 

「なっ!?」

 

目の前に創られた渦。それを囮として、2人の頭上にも渦が生み出されていたのだ。

渦の中から激しい波が2人を襲い、地面を抉るほどの威力で流れ出ていた。

 

「すごい…!」

 

「足止めくらいにはなってるはず!今のうちにルーナを――」

 

「――だから甘いと言ってんだ!『業火』!」

 

激流の中から聞こえる声。一瞬にしてマリンの目の前へ迫ったそれを回避する術はなかった。

 

「っ!?――ぐわぁっ!?」

 

「マリンちゃん!?」

 

目の前で敵の攻撃に直撃したマリンが倒れてしまう。未だ体を炎がまとっていて近づくことが出来ないでいる。

 

「…そんなっ」

 

もう片方の敵は激流によりかなりの負傷をしたのだろう。地面に倒れて動けずにいた。

だがもう1人の男はそれを耐え、マリンに反撃を取ったのだ。そしてそのままわための元へと近づいてくる。

 

「へっ…その女は終いだぜ。丸焦げになるだろうよ」

 

未だ体に炎が燃え広がっているマリンを横目に、わためはその男を睨みつける。

 

「おうおう。お前に何が出来る?」

 

「っ…!」

 

わための専門は戦闘ではない。更に戦闘では味方のサポートが主になってくる。

当然この男に太刀打ちできないのだ。

 

「おりゃあ!」

 

「っ!…くっ!」

 

横から飛んでくる謎の人物。その攻撃を避け、炎の男は後ろへと距離を空けた。

 

「…ルーナっ!」

 

「ちっ…あの二人は何して――」

 

他2人が相手をしていたはずのルーナ。それが自分へと攻撃をしてきたことにイラつきつつ、炎の男は2人の手下の方を見て目を見開いた。

――2人共地面に倒れ、動かなくなっていたのだ。そして、それをした人物は相手をしていたルーナ。

 

「…なんだお前は…っ!」

 

見た目に反して謎の力を持つルーナに恐怖を感じたか、先程まで戦っていたマリンとわためから、ルーナに攻撃対象を切り替えた。

 

「ふっ!――『プリンセス・スラッシュ』!」

 

男の放つ炎ごと、男に向かって大剣を斬り上げる。その大剣からピンク色のオーラが斬撃の軌跡を辿って真っ直ぐに飛ばされる。

炎を真っ二つに斬り、そのまま男を斬り付けた。

 

「――っ!?」

 

男の体に当たった瞬間爆発し、後ろへと飛ばされた。

そのまま男は倒れ、動けなくなる。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…ルーナっ」

 

「大丈夫なのら!?…マリンちゃは!?」

 

倒れているマリンの姿を見て、ルーナは駆け寄ろうとするが一歩、その足を止める。

 

「…っ、わためちゃはマリンちゃを!」

 

「ルーナはっ!?」

 

「――ルーナイト達が戦ってるのら。あのバケモノを倒してくる!」

 

ルーナの道を塞いだ手下たちは全員倒れている。あのバケモノと成った男までの道を邪魔する者が居なくなった今、ルーナイト達がやられる前に助けに向かったのだ。

 

「…マリンちゃん!」

 

わためはルーナに言われた通り、マリンの元へと駆け寄った。体を燃やす炎は鎮火したものの、体の至る所に火傷の跡が残り、息もまともにできていない状態だ。

 

「かはっ…はっ…ぁ…」

 

「やばいやばい!何とかしないと…っ!」

 

だが、わためは回復系統の能力は使えない。周りにいる騎士たちもやられている側のため、助けてもらうことは叶わない。

――このままでは、マリンが命を。

 

「…っ!!」

 

最悪の事態を考えるだけ無駄だと、脳裏にちらついた未来を払拭する。

と、その時だ。ふと大きな音が聞こえ、次の瞬間には誰かが鈍い音を立ててこちらへと飛ばされてきた。

 

「っ!ルーナっ!!」

 

それは他の誰でもない、バケモノの男に挑んだルーナだった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

応援に駆けつけた騎士たちは皆、あのバケモノの男にやられてしまった。

その事実が酷くわためを恐怖へと追い込む。

 

「…残りはお前だけか」

 

バケモノの男が残るわためを見てそう呟く。一歩、ゆっくりとこちらへと近づく。

何とか攻撃をしようと思うわためだが、体が思うように動かないのだ。

 

「何も怯えることは無い。お前もすぐにその女たちと同じとこへ行けるさ」

 

こちらへ真っ直ぐと手を伸ばす。淡く、黒いオーラが手のひらに集まりだし、黒い球体が浮かび上がった。

 

「――もっと楽しみたかったぜ」

 

そう言って、わために向かってそれを飛ばしてきた。

 

「っ!!『シープホープ』っ!」

 

すぐ傍らに置いたハープを手に取り、何とか防壁を作り出す。

だが、そんな防壁もすぐに飛ばされわための目の前まで迫り――

 

「――っ!…っ、あ、あれ?」

 

直撃すると思い目を瞑るが、一向にその事実が訪れない。恐る恐る目を開け目の前を見て、また別の意味で驚く。

そこにいたのは――

 

「…っ、ルーナっ!」

 

――先程吹き飛ばされ、命を落としたと思われたルーナだったのだ。

いつの間にかルーナの目の前に家の壁のような大きな土の塊が現れ、バケモノの男の攻撃を防いだ。

 

「…確かに死んだはず。どういう事だ?」

 

だが男の問いかけには答えず、ルーナは静かに地面に手を添える。そして――

 

「…っ!」

 

「なっ…」

 

あっという間にルーナを中心に土の城が形成され、その城の中にルーナ、わため、マリンが入り、外側に男が取り残される。

城の形になった土の塊は、次第に色や素材が変化していき、やがて本物の城へと変貌を遂げたのだった。

 

「えっ…えっ」

 

目の前で起きた事態を理解出来ず、わためはかなり混乱してしまう。

 

「…はぁ…一旦立て直すのら…」

 

そう言い、ルーナがわための隣までやって来る。

 

「…ルーナ、これは…?」

 

それに聞きたいのはそれだけではない。それを悟ったかのように、ルーナが包み隠さず話してくれる。

 

「ルーナの能力は[姫ノ国]。この国の中は全てルーナの能力で造られてるのら。だから自由に城を造ったりできるのらよ」

 

「…すごい」

 

「それだけじゃないのら。ルーナの見た目が戻ってることを気にしてるのらね。さっきの一撃のことも」

 

「うん。…確かにあの男が言うように、あの攻撃を受けてルーナが生きてるとは…」

 

「…技の1つ、『戦姫』の効果なのら。…発動中なら、死に至る攻撃も耐えるのら」

 

「…えっ、すごっ!?」

 

「でも代わりに能力が解けてしばらく使えないのら。つまり今またくらえば今度こそ死ぬ…あいつにバレる訳にはいかないのら」

 

元の、腰まで伸びた長い髪を揺らしながらルーナがそう言う。再び『戦姫』を使えるようになるまでの時間稼ぎも込めたのだろう。

 

「それと、何とかマリンちゃを助けねえとなのら」

 

「でもどうしよう…わためは回復は…」

 

「それなら大丈夫なのら。この城を造るときに、一緒に回復薬も作っといたのら」

 

そう言い、部屋の隅へと走っていき棚を勢いよく開ける。その中にあった小さな袋を持ってマリンの元へと戻ってきた。

 

「…これで」

 

回復薬をマリンに飲ませる。最初は少しむせたものの、次第に呼吸が安定してきているのが見える。

 

「すごい…!」

 

「これで何とか…ただ出血までは止められないのら。今はそこまで激しく流れ出てないけど時間の問題ではあるのら」

 

少しは落ち着いたが、いつ効果が切れるか分からない。それまでに決着をつけなければいけないのだ。

 

「…ルーナもあと少しで再発動できるのら」

 

それまで何事もなくこの城の中で身を隠していたい。

 

「――やっと見つけたぜ」

 

「…」

 

だが、そう簡単に上手く行くはずもないのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

広く、それでいて複雑な造りをしている城の中を2人は、正確には背負われたマリンを含む3人は逃げ回っていた。

 

「はぁ…はぁ…っ!『シープホープ』!」

 

マリンを背負う役目を果たしているのはわためだ。背負いながらも武器を取り出し、逃げてきた道を塞ぐように能力を使用する。

これでほんの僅かでも足止めになればいいが。

 

「――おらおらどうしたよ!さっきまでの威勢はどこへいった!?」

 

すぐ後を追ってくるバケモノの男はわための壁をものともせずにやって来る。

離れるどころか少しずつ距離が近づいてきている。

 

「もう少しの辛抱なのらっ!」

 

ルーナの後を追い、迷宮と化している城の中を進んでいく。あとどれくらいで能力が使えるようになるのか。

それを知るのはルーナだけのため、ルーナを信じるしかない。

 

「…きゃっ!?」

 

「わためちゃ!?」

 

だが、不覚にも男の飛ばした攻撃が城の内部にぶつかったことによる反射でわための足元に着弾した。

バランスが崩れわためはマリンを背負ったままその場に倒れ込んでしまったのだ。

 

「――追いかけっこは終わりだぜ」

 

今更ルーナ1人で逃げることはできない。かと言って、わためはもう逃げることは叶わないだろう。

 

「これで終わりだ…」

 

「――『解除』!」

 

「――っ!?」

 

ルーナが床に手をつき放った言葉。次の瞬間、かなりの逃げる時間を稼いでくれた城が、まるで無かったかのようにこの場から消えてなくなったのだ。

――そう、2階に立っていたルーナたち4人を宙に残して。

それはつまり――

 

「…っ!…『シープホープ』!」

 

落ちる4人。だが咄嗟にわためが能力で、床につく前にクッションの役目を果たした壁を生成する事によって、3人は受け止められた。

 

「…っ!」

 

男はそのまま地面へと落下する。対してダメージは期待できないが、一瞬の隙が生まれる。

 

「…きた!いくさ――」

 

ルーナの能力のインターバルがついに終わり、再発動しようとした、その時だ。

 

「――ルーナぁ!!」

 

バケモノの男が落ちた地面から、真っ直ぐに伸びる黒い影がルーナの胸を貫いていた。

 

「…くっ!?」

 

「――甘いんだよ。こんなんで俺が隙を見せるとでも?」

 

黒い影が男の元へと戻り、ルーナは大量の血を流しながらそのまま地面に倒れる。

 

「…やめ…て…」

 

わためがルーナ側へと歩き、膝から崩れ落ちる。その傍らではマリンが倒れたままだ。

もうすでに、バケモノの男に対抗する能力者は残っていない。

 

「…やめる?今更か?ふっ…それは無理な事だ」

 

バケモノの男がこちらに手のひらを突き出してくる。再び、黒い球体のようなオーラが浮かび上がっている。

 

「――終わりだ」

 

何度目になるだろうか、バケモノの男がそう口にした時だ。

 

「――見つけた」

 

「…っ!?」

 

空から降りてくる3つの人影が薄らと見える。

 

「…次から次へと邪魔するなぁ!」

 

男はルーナたちに目掛けて放とうとした攻撃を、横に降り立った3人に向かって撃ち出した。

 

「――『リフレクト』」

 

3人の内の1人が、その手に持つ長い得物で飛んでくる球を突き刺した。すると、まるで壁に当たってバウンドしたかのようにそのまま男の方へと跳ね返っていった。

 

「…っ!?」

 

急なカウンターに反応が遅れるものの、ギリギリのところで自分の攻撃を回避した。

 

「…ぁ」

 

やって来た3人を見て、わためが1人の人物に心当たりがあった。

 

「…色々ごめんねわためちゃん。…ここからは任せて」

 

「…ノエルさん…っ!」

 

――そう、その1人とは行方をくらましていたノエルだったのだ。再会できた事に喜びを隠せない。だが、そのまま感情に出すには状況が似つかわしくない。

それにノエルだけではなく、他に2人もいる。

 

「a〜…やっちゃっていーの?」

 

「うん。2人ともお願いね。…あなたがわためちゃんだね。ルーナちゃんとマリンちゃんと一緒に頑張ったんだね」

 

3人の中で唯一武器を持っていない1人がこちらへと近づいてくる。

ノエルと一緒にいることから敵ではないことは明白だ。

ただ先の言葉で気になるところがあった。

――この子はルーナと知り合いなのだろうか?

 

「えっと、あなたは…?」

 

この場で聞くのは違ったかもしれない。それでも素直に疑問を口に出してしまった。

それに対して少女は――

 

「――大丈夫。この世界もちゃんと救うから」

 

――と、わためには理解しきれない言葉を発したのだった。

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