Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶14「決着」

――――――急がなくてはいけない、そう本能が囁いている。だが、体がそれには反応出来ず、足は遅い。間に合わないかもしれない。

それでも全力で走り続ける。そして、もし間に合ったなら――

 

「――見つけた」

 

「…っ!?」

 

ノエルに掴まり、思い切り跳躍して降り立った場所。狙い通り、敵と思わしき黒いオーラを放つものと見知った顔をしている人物を見つけた。

 

「…マリンちゃん…!」

 

一瞬視線をマリンへと向ける。ボロボロの体で目を閉じてるその姿から悪い想像をしてしまう。

だがそれでも、マリンの身を案じるよりも先に敵を倒す方が優先だ。

 

「…色々ごめんねわためちゃん。…ここからは任せて」

 

「…ノエルさん…っ!」

 

マリンの隣に座る少女に、ノエルが優しく声をかける。恐らくこの少女がノエルが言っていたここへ来る途中で出会った吟遊詩人、角巻わためなのだろう。

そして、近くに倒れているもう1人の少女。その少女は知り合いではないが、ときのそらはそれが誰だか一目で分かった。

 

「a〜…やっちゃっていーの?」

 

不意のバケモノの攻撃を跳ね返したサメちゃん。そのまま戦う意思を見せている。

 

「うん。2人ともお願いね。…あなたがわためちゃんだね。ルーナちゃんとマリンちゃんと一緒に頑張ったんだね」

 

相手側の反応からこの少女がわためだと確信できた。

――そして、ルーナ。壁越しの会話の中で薄らと聞こえた、この国の姫様。

その見た目から間違いなくこの少女がルーナ姫のはず。

 

「酷い…」

 

だがその姿はマリン同様、痛々しい見た目をしていた。恐らく必死に戦った証拠なのだろう。

 

「えっと、あなたは…?」

 

わためからそう言葉を投げかけられる。それもそのはず、見知らぬ人物がやって来たと思えば自分の名前を呼ばれているのだ。

不思議に思わない訳がない。だが簡単に説明できるほど単純な話でもないのだ。

それに敵も優しく待ってくれるはずがない。ときのそらは戦えなくても、ときのそらにしか出来ないことがある。

だから答えになっていないかもしれないけれどこう伝えておこう。

 

「――大丈夫。この世界もちゃんと救うから」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――カリオペから託されたもう1つの世界。こことトワたちのいた所は関係ない――とは思えない。

だからここを救えばトワたちも救われる。そんな気がする。

 

「…え?この世界もって…え?」

 

もちろんわためは何を言われたのか理解出来ずにいる。

 

「邪魔をするなァ!」

 

バケモノのような敵が黒い影の手を伸ばしてくる。

 

「…やっつけます!――[海底神域]、『擬似海域』!」

 

「っ!?」

 

サメちゃんが能力を発動する。瞬間、敵だけでなく味方全員が、ノエルとときのそらは一度体験したが、それでもその殺気に気圧された。

 

「何これ…」

 

わためは座ったまま、味方であるはずの力を見ただけなのに足が竦んで動けなくなってしまった。

 

「…それでも俺を越えられるかッ!」

 

無数の影がサメちゃんに集中砲火していく。手に持った武器のトライデントで迎え撃とうとするがさすがに手数が足りないだろう。

 

「『シャークバイト』!」

 

トライデントを前方へ突き出す。その三又に分かれた先から、螺旋状に飛んでいく刃の衝撃波が物凄い破壊力を備えて放たれた。

 

「きゃっ!?」

 

「そらちゃん!」

 

その爆風に思わず吹き飛ばされそうになるがノエルがしっかりと受け止めてくれた。

 

「がァっ!?」

 

無数の影を容易く打ち落とし、その勢いのままバケモノへと直撃した。

 

「…強い」

 

「これなら団長もサポートに回っても大丈夫そうだね」

 

サメちゃんの力を改めて知り、ノエルもマリンとルーナのサポートへと徹した。

 

「とは言っても…」

 

ノエルは癒す系の力を使うことはできない。ただ見守ることしかできないのだ。

かと言ってサメちゃんに混ざれば、あの勢いに巻き込まれる恐れもある。

 

「…ノエルさん」

 

「…大丈夫。わためちゃんのことは団長が守ってあげるから!」

 

何も出来ないならばせめて何かできる人を精一杯守ろう。どんな理由であれノエルがこの場において必要ないなんて事はないのだから。

 

「どうしようノエルちゃん、マリンちゃんとルーナちゃんが…」

 

そんなノエルの元へときのそらが寄ってくる。2人の状態が著しくない。これ以上戦いが長引き、手当てするのが遅れていけば手遅れになるかもしれない。

 

「…っ、せめてるしあかフレアがいれば」

 

「フレアちゃんも回復が?」

 

「使ってないだけで使えるよ」

 

かなり長い間を過ごしているが、それでも未だに知らなかった情報を与えられて驚いてしまった。

 

「どうしよ…わっ!?」

 

悩んでいても時間が過ぎるだけ、そう思っていたノエルたちの近くでいきなり爆発音が聞こえる。

慌てて振り向けばそこには新たな敵と思われる人物が2人現れていた。

 

「嘘っ、まだ敵が!?」

 

わためが驚く様子からすでに残るバケモノだけになっていたみたいだ。

遅れて増援したことに驚いているが、ときのそらはまた別の方向でも危機を感じた。

 

「まずい…!」

 

現れた2人が見ているのはバケモノを追い詰めているサメちゃんの方だった。

バケモノはいつしか攻撃せず守りに徹していた。そんなバケモノにサメちゃんは無数の攻撃を浴びせているが、その背後はがら空き。

 

「…この増援はそこが狙い…っ」

 

意識がバケモノに集中したサメちゃんの背後に強烈な砲撃が放たれた。

 

「…っ!?」

 

「――かかったナ」

 

不意の砲撃音に一瞬背後を見るサメちゃん。もちろん飛んできた砲撃が見えたことから回避、もしくは迎撃体勢に入ろうとしていたはず。

だが、その一瞬の隙を狙ってバケモノがサメちゃんの四肢を無数の影で拘束したのだ。

 

「…間に合ワネェダろ!」

 

一瞬で振りほどくサメちゃんの強さに驚かされるが、それでもそのわずかなタイムロスで砲撃を躱す余裕が消えてしまった。

 

「…サメちゃん!」

 

「a…そら…」

 

直撃する寸前、サメちゃんの体を押して自ら代わりに砲撃の餌食となる。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

前へ倒れたサメちゃんは能力を解除し、ときのそらの姿を探すがどこにも見当たらないでいる。

 

「…当たり前ダ。今の砲撃デ粉々にナッタだろうヨ!」

 

高笑いしながらこちらへ近づいてくるバケモノ。予定していた人物を倒せなかったが、それでも問題ないといった余裕の笑みを浮かべている。

 

「…サメちゃん!そらちゃんは生きてる!だからそいつを先に…っ!」

 

ノエルが下を向いているサメちゃんに声をかけるが、新しく現れた2人がノエルを次の標的にしたのか、勢いよく襲いかかった。

 

「――がはっ」

 

「え…?」

 

そんな2人の体が突然目の前で2つに割れ、ノエルに届く前にその命が尽きてしまう。

何が起きたのか周囲を見渡し、誰がしたことなのか一目で分かった。

 

「…サメ、ちゃん?」

 

先程までのサメちゃんとは様子が違く、その殺気もかなり高まっている。

 

「――今更モウ遅イ!貴様に勝ち目はナイのダ!」

 

バケモノがサメちゃんへと影を伸ばし追い討ちを決めに行く。

 

「…そらは大切な人、だからお前は許さない――『裏海域』」

 

再び能力が発動する。だが、その力の伸びが桁違いに跳ね上がり、一瞬にして伸びてきた影全てが消滅したのだ。

 

「サメちゃん…」

 

あまりの力の伸びに困惑するノエル。先程まで見ていた力よりも強くなっているからだ。

 

「…ドレだけ力が増えるんだコノガキ!舐メンナ!!」

 

ついに痺れを切らしたか、影で打点が得られないと分かると自らの手を刃状に変形させてサメちゃんへと突っ込んできた。

かなりの速度で、気がついた時にはすでにサメちゃんの背後から刃を振り下ろす瞬間になっている。

 

「死ね――ッ!?」

 

かわすことはできないと誰もが思っただろう。だが、バケモノの刃が振り下ろされた時には、すでにサメちゃんはそこにはいなかった。

 

「…『シャークバイト』!」

 

バケモノの頭上から声が響き渡る。即座に反応し上空を見上げるが、その時にはすでにバケモノを囲うように衝撃波が放たれていたのだ。

 

「…ガァ!?」

 

バケモノは為す術なく、その刃の衝撃波に呑まれ大爆発が起こったのだ。

 

「…サメちゃん」

 

ノエルがサメちゃんを見る。異常な程の力の跳ね上がり、それに呼応してか見た目にも変化があった。

髪の毛に入っていた青色のメッシュが赤く変化しており、瞳も真紅に染まっていた。

 

「…カァ…ッ!?」

 

何とか生き延びたものの、桁違いに膨れ上がった力を正面から受けたバケモノの体はボロボロとなっていた。

体勢を立て直そうと前を見れば、すでに目前にまで迫っていたサメちゃんの強烈な打撃が複数飛んできていた。

 

「…すごい」

 

わためもノエルも、その力を見て驚きを隠せないでいる。

数分間、無数の打撃が繰り出され、やがてバケモノはその場に倒れ伏して動かなくなったのだ。

 

「…終わった?」

 

ノエルがゆっくりとサメちゃんの方へと近づいていく。

 

「…まだだ!」

 

「っ!?」

 

ふと発せられたわための声。それに反応し、ノエルはすぐに倒れたはずのバケモノの方を見る。

再びバケモノの体にまとわりついている黒いオーラが勢いよく放たれたのだ。

 

「しぶとい…!」

 

サメちゃんの姿が元に戻っていることから先程の力は発揮されないだろう。

あまり通用しないとは分かっていてもノエルは武器を構え、臨戦態勢に入った。

 

「――え?」

 

だが、そんなノエルとサメちゃんの前を横切りバケモノに向かう見たことの無い少女が現れる。

急な登場に驚いてしまうが、1人だけその少女に反応した人物がいる。

 

「あれ…フブキちゃん!?」

 

わためがその姿を見てそう叫ぶが、少女は反応せずバケモノへと一直線に向かっていく。

 

「――[口寄せ《エンチャント》]…『槌ノ型《ギガトンハンマー》』!!」

 

周りがその少女に意識を持っていかれる中、視線を気にせず手に取った大きなハンマーで、そのバケモノを思い切り叩き潰したのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「これは…」

 

ノエルの零した声、それに応えるかのようにハンマーに叩き潰されたバケモノがみるみるうちに浄化されていき、やがて灰になって散っていったのだ。

 

「え…フブキちゃんだよねぇ?」

 

わためが恐る恐る現れた少女に声をかける。すると声に反応し少し肩を跳ね上げてから振り返り、声の主に目を合わせる。

 

「えー!わためちゃん!?どうしてここにいるの!?」

 

声をかけられた少女――フブキがわために驚き、声を上げた。

 

「いやいやこっちのセリフだよ!フブキちゃん前に遠くへ出かけるって…」

 

「あー…それはですね。その遠くへ出かける「指令」の事で、ここに用があったんですよ」

 

詳しい話が分からないノエルとサメちゃんは2人の会話を黙って聞いていた。

 

「…そら」

 

「ん?今そらって…人の名前かな?あっちに寝転んでる子だったり?」

 

「…え?」

 

フブキの言葉にノエルとサメちゃんが反応する。するとフブキが突然歩き始め、森林地帯の中へと入っていく。

 

「――っ!そらちゃん!」

 

後を追っていったノエルとサメちゃんが、1本の木の下で寄りかかって目を閉じてる人物を見つけた。

 

「なんかこっちに向かってたら吹っ飛んできた少女を見つけてね。念の為にと助けておいたけど…当たりだったみたいだね!」

 

「うっ…」

 

「そら!」

 

少し唸り声をあげ、意識が戻ってきたのか薄らと目を開ける。それに反応して、肩を掴んだサメちゃんが大きな声で呼びかけた。

 

「あ、あれ…サメちゃん?」

 

「そらちゃん!良かった…」

 

意識が覚醒し体を起こしたときのそらを見てノエルも一安心した。

 

「っ!そうだバケモノは…」

 

「それなら倒したよ。もう大丈夫」

 

わためも側に寄ってきてそう答えた。だが、バケモノが倒れただけで大丈夫という言葉を言うのはおかしいだろう。なぜなら――

 

「いやだって…マリンちゃんとルーナちゃんはっ…」

 

「――本当に大丈夫だよ。見て」

 

ノエルがそう優しく声をかけ、ときのそらにある方向を見るように指を向けた。

その先には2人の姿と見知らぬ白い女性が1人。

 

「今フブキちゃんが治癒してくれてるから一命は取り留めてるよ」

 

「そうなの?――良かった…」

 

安心した瞬間、気が抜けて脱力してしまう。サメちゃんに体を支えられたことで倒れることはなかった。

 

「…そらに言わなくちゃいけないこと、あります」

 

「…?」

 

サメちゃんが声のトーンを落とし、ときのそらに向かって話しかける。

何の話をされるか分からないでいるときのそらだが、ノエルたちも何のことなのか分かっていない。

 

「…最初は、そらの作ったご飯が食べられるならと一緒についてきました。でも、その中でそらには特別な感情が湧きました。…失いたくないと思ったのです」

 

ところどころ詰まるものの、サメちゃんの今の想いを真剣に打ち明けてくれている。

 

「…だから、そらが良ければ…私も一緒に旅したいです」

 

それは、最初の出会いからは考えられなかった言葉。

そもそもここで力を借りるのも、お礼にご馳走を振る舞うと言ったからだ。

それ以上の事は断っていただろうし、こちらも求めていなかった。

だが、それでもサメちゃんの方から仲間になりたいと言われときのそらは声にならない感情が湧き上がってきた。

 

「…嬉しい。そう言ってもらえて…こちらこそ、これからもよろしくね!」

 

「――がうる・ぐら」

 

「え?」

 

ふと発せられた言葉に今までの流れとの共通性を持つのか分からず数秒停止してしまう。

だが、すぐにその言葉の意味を理解した。

 

「…私の名前です〜」

 

「ふふっ。――よろしくね、ぐらちゃん」

 

改めて、がうる・ぐらと手を取りあったのだった。




次の投稿は来年になります。もう少しお待ちください。
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