Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶16「微睡み」

――――――凄まじい音と衝撃で、一瞬目の前が真っ白に染まった。だがそれもほんの僅かな事で、次第に周囲の景色が拓けてくる。目前、幼龍に向けて放たれた大技の影響で地形が跡形もなくなっており、幼龍の姿も消えていた。

 

「…あれで倒れたってこともないだろ」

 

「そうね。とりあえず皆の元へ――」

 

後ろに控えている皆の元へ戻って一度体制を立て直そう、そう言おうとしたトワは振り返った瞬間に硬直する。

トワの反応に遅れて気がついたかなたが、同じように後ろへ顔を向けると――

 

「――居ない…?」

 

そこには幼龍の姿が消えたのでは無く、トワとかなた、2人以外の全ての存在が消えていたのだった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「…これって能力の影響?」

 

数分間悩んだ末、不意に言葉を発したのはかなたの方だった。

 

「能力?幼龍の?」

 

「いや、僕たちが使った能力…『マドロミ』もその1つじゃなかった?」

 

その1つといきなり言われ、前後の繋がりが曖昧だが、トワにはその言葉の意味が理解できた。

 

「――天魔の力を使うと起きる代償の事か」

 

天魔の力とは今さっき2人が使った合わせ技のこと。代々、強大な敵を倒す時には天魔の力を行使して倒していると言い伝えられてきた。

――そして、代わりにその力を使った先祖たちはその場で命を失っていると。

 

「まぁ使っちまったもんはしょうがねえな。たぶんこれ『微睡み世界』だと思うんだよ」

 

『マドロミ』の代償は、意識だけが違う場所へと飛ばされてしまう『微睡み世界』に閉じ込められること。

先祖から話を聞いたことのあるかなたが今の状況をそう結論づけた。

 

「なら抜け出すには時間経過でしょ?待ってれば良いってことじゃん」

 

「でもあの力で倒したのが幼龍な訳だし…力に比例して時間も長くなるって聞いたよ?」

 

「どうせ噂でしょ。それにこの力使った先祖は皆その瞬間に死んでるんだし今更――」

 

今更関係ない、と口にしようとしたトワだったが、衝撃によって言葉を発すことができなかった。

その衝撃とは――

 

「っ…!幼龍!?」

 

「少し変だけど…まさか『マドロミ』の代償って…」

 

突然として現れた幼龍の形をしたものに呆気に取られているトワ。かなたはその手を掴んで走って幼龍から離れていった。

――『マドロミ』の代償、正しくは葬った相手の夢の世界に一定時間閉じ込められてしまうこと。

夢の中で死ぬ事があれば現実でも死を意味し、抜け出すには時間経過か夢の中の相手をもう一度倒すことのみ。

 

「こん中でまた『マドロミ』使えば無限ループになっちまうしそれはできねえ…!」

 

逃げながらもどうやって倒すかを思考するかなた。

能力自体は使えなくなった訳では無いため、対抗するという考えは最もなのだが――

 

「…2人で勝てる相手なら苦労しなかったわけだし!」

 

「っ、まずは隠れた方が良い!」

 

トワに促され、この夢の中とは思えない程リアルに近い地形を進んでいく。

上手く障害物を使いながら逃げ隠れしたことで幼龍の存在を近くで感じ取ることはなくなった。

だがそれでもこの『微睡み世界』は有限の広さだ。いつかは追い詰められてしまうこともあるだろう。

 

「さて…仕切り直しだな」

 

時間経過での脱出が無理に等しいとなった今、改めて幼龍を倒す方法を考えなくてはいけない。

しかも、かなたとトワの2人でだ。

 

「でも実際、僕ら2人で力を合わせればいけるっしょ?」

 

「…急に気持ち悪いこと言わないで。まぁ、やるしかないけどね」

 

気持ちが一致したことで、二度目となる幼龍との戦いに備えたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

幼龍が姿を見失ってから約10分が経った。その間2人は周囲を警戒しながら少しずつ場所を移動している。

戦うのなら早く見つけにいけば良いと思うだろうが2人には狙いがあった。

 

「やっぱり一発目が肝心だね。特大威力を叩き込んでからの方が良いでしょ」

 

「それにできるなら不意を突きたい…まぁ秘龍相手に不意を突いても期待は薄いかもだけど」

 

あれから色々と考えている2人だが、結論、『やってみないと分からない』だった。

現実世界において2人だけで、しかも万全の状態で戦ったわけでは無いため、必ずしも幼龍に勝てないという訳では無いだろう。とはいえ、相手は秘龍の1匹なのだから苦戦を強いられるのは当たり前だ。

 

「…[天魔の恩恵]の代償がないやつ…もしくは少ないやつで戦うか」

 

「そうだね。攻撃は各々の武器を有効活用するか」

 

そう作戦を考えながら目の前の小屋の中へと身を隠そうとした時だ。

 

〈――ガァァ!〉

 

「っ!!」

 

頭上に影ができる――瞬間、反射的に横へ飛んだことで一命を取り留めることができたのだろう。

影で覆い隠された部分は、その直後に大きな脚で地面を抉り取られてしまった。

そしてそれを行ったモノは1匹しかいない。

 

「…幼龍」

 

「…こっちが不意を突かれたって訳か」

 

――出会った一発目、不意打ちに大きな攻撃を叩き込もうとした2人だが、虚しくも先に不意を突いて攻撃を仕掛けたのは幼龍の方だった。

ここで見つかってしまい、周囲は少し拓けた場所となっている。再び姿を隠すのはほぼ不可能だろう。

それはつまり――

 

「…不意打ち作戦不発で本番か」

 

「仕方ない、やるっきゃないっしょ。合わせてもらうぞトワ」

 

逃げも隠れもしない、最後の勝負が今始まる。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

一度ぶつかる度に地形が少しずつ変化していく、それ程までにお互いの力が常軌を逸しているのだ。

 

〈――ァァァ!〉

 

外では普通に言葉を発していた幼龍だが、夢の中ということもあるのかこちらと会話をしようという意思が見当たらなかった。

 

「それならそれでやりやすいけど…!」

 

幼龍から飛んでくる咆哮、両手両脚全てを掻い潜り懐へと打撃を与えるかなた。それでも大したダメージは期待できない。

 

「[闇淵源]――『閃黒魔砲』!」

 

かなたと入れ替えにトワが攻撃を放つ。夢の中、つまるところ睡眠世界なここではどれだけ能力を行使しても疲労しないのが利点の1つだった。

そのため惜しまずに全力で攻撃を仕掛ける。

真っ直ぐに伸びた砲撃が幼龍に直撃するが、それほど大きなダメージとは言えないだろう。

 

「[破壊陣]――『破壊・天拳』!」

 

その直後にかなたが背後から拳の形をした光をぶつける。これも今まで同様あまりダメージは入っていないだろう。ただ――

 

〈――ァァ!〉

 

声が発せないとしても何を言いたいのか分かる。恐らく、何をしたのかと問いたいのだろう。その理由は、かなたに攻撃された部分に『赤い紋』が浮かび上がってきたから。

 

「…これ特殊能力?」

 

「ああ…ムメイ以外に見せるのは初めてか」

 

トワも初めて見たという風に幼龍と同じように驚いている。

 

「紋様を10個つければ能力が発動する。今はそんくらいしか説明ができねえが…」

 

「おっけー。あと9回ね」

 

だがこの一発を当てるのにどれだけギリギリだったか。かなたが攻撃を当てたのはこれで2回目だが、1回目に当てた攻撃には能力が発動されていなかった。

 

「準備が必要だから…あと外した時のデメリットもある」

 

「…なるほど」

 

この能力で倒すことを視野に入れたトワだったが、準備時間とデメリットを考慮した結果、それだけに頼るのは難しいと判断した。

 

「ならまずは隙を作るか!」

 

トワが幼龍の意識を引く役目を負った。先に動き出したトワを追うかのように幼龍が首を回し、勢いよく咆哮を浴びせる。

 

「[闇淵源]――『深嵐壁』!」

 

その幼龍の咆哮を止めるように嵐の壁がトワの前に現れる。咆哮が衝突した瞬間、激しい音を立てながら爆発が生じる。

その爆発の煙の隙間からトワが姿を見せたことから防ぎきったことが分かる。

 

「っ、今じゃねぇ」

 

トワに意識が向いた瞬間を狙ってかなたが攻撃を仕掛けたが、かなたの狙いが外れ、特殊能力を使うことはできなかった。

 

「…紋様を付ける場所は何もどこでもいいって訳じゃねえ。ある程度近い位置に付与しなきゃ能力の範囲に収まらねえんだ」

 

「うわぁ厄介な特殊能力だなっ…!」

 

かなたの説明を聞くトワは、その間も幼龍の攻撃を掻い潜る。トワの特殊能力に比べたら確かに難点が多いかもしれない。

それでも、決まればどんな者だろうと屠ることができる特殊能力だ。

 

「…[闇淵源]――『天帝眼』!」

 

『魔眼』の強化技、『天帝眼』を発動するトワ。あらゆるモノの動きを刹那単位で捉えることができる、身体能力を向上させる『魔眼』と比べて、一部分を大幅に強化するのが『天帝眼』だ。

負担もかなり大きいが、それに伴った見返りは大きい。

それに――

 

「ここなら使い放題…ねっ!」

 

幼龍の攻撃を当たるか当たらないかのギリギリで全てを回避し、懐から重い一撃を加える。

 

〈――ッッ!〉

 

呻き声を上げつつも反撃を繰り返す幼龍だが、全てを見通しているかのようにトワにはどの攻撃も当たることはない。

 

「…すげぇ」

 

かなた本人も、トワに対してここまで尊敬の意を示すのは初めてだろうし、今後一切起こらないだろう。

そんなトワの力に驚きながらもかなたも負けてはいない。

 

「かなた!」

 

トワの声に反応し、かなたが幼龍の目の前から姿を消す。阿吽の呼吸となった今の2人を止めるのは幼龍でさえ困難だろう。

それを表現するかのように、かなたの[特殊能力]を一撃与えるのに苦労した時間に比べて、たった数回の攻防ですでに4発叩き込んだからだ。

 

〈――ガァァ!!〉

 

言葉を失った代わりに咆哮の頻度が増している。その中には苦痛を表明するものも混ざっているだろう。

 

「あと5発か…トワ、大丈夫か?」

 

「何とかね。普通こんなに『天帝眼』維持してたら倒れるけど、今のとこその心配はないね」

 

さすがに、ずっとこのままなのかも怪しいため、早めに倒すに越したことはない。

 

「――『天拳』!」

 

立て続けに攻撃を繰り出すかなた。全てが命中することはないが、それでもかなり多くの数が命中している。

 

「[破壊陣]!」

 

そしてその攻撃の中に織り交ぜて[特殊能力]を使用する。

単体で撃つときに比べて命中する確率が高いからだ。

だが――

 

〈――ガァ!〉

 

「…ぐっ!?」

 

ギリギリのところで撃ち落とされてしまい、[破壊陣]が届くことは無かった。

それが意味するのは、能力を使用したかなたに反動が返ってくるということ。

 

「…大丈夫!?」

 

「なんとか…っ!」

 

幼龍に付与された『赤い紋』とは別の、『黒い紋』がかなたに付与された。

話の通りなら、あと4個かなたに付与されてしまえば能力か封じられてしまう。

――それは、幼龍を倒す方法の1つを失うことと同じだった。

 

「まだ行ける!あと3個つくまでは同じだから!」

 

1回外したことへの恐怖など1ミリもなく、再び幼龍へ攻撃を仕掛ける。

そんなかなたを見てトワも最大限にできるサポートをした。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

しばらくの間攻防が続く中、転機が訪れた。

 

〈――ガァァ!〉

 

幼龍の口から放たれる咆哮はトワの『深嵐壁』によりかなたまで届かずに防ぎきった。

 

〈――ァァ!〉

 

咆哮が効かず、目の前までやって来たかなたに対し前脚を思い切り伸ばすが、トワの魔の力と正面からぶつかり阻止された。

 

「――[破壊陣]!」

 

〈――ァァァ!?〉

 

複数の攻撃を掻い潜り、再びかなたの[特殊能力]が直撃した。能力が発動せずとも、積み重なる打撃により消耗してきているのが目に見えて分かる。

 

「押せる…!」

 

戦いが始まりかなりの時間が経過した今、幼龍の動きが疲れからか遅くなってきたのを感じ取った。

 

「あと1回…!」

 

かなたの[破壊陣]も、すでに9個付与することに成功しておりあと1度で能力が発動する。

 

〈――ガァァ!〉

 

幼龍も学習し、攻撃をした直後の空中に滞在するかなたに向かって腕を伸ばしてきた。

 

「[闇淵源]――『閃黒魔砲』!」

 

幼龍の伸ばした腕がかなたへと到達する前に、トワの放った稲妻の弾が勢いよく幼龍の腕と接触し、大爆発を起こした。

 

「ナイス!」

 

そのままかなたは地面へと着地し、一気に幼龍との間を詰める。

再びそのかなたへ攻撃を当てようと幼龍が咆哮を放った。

 

「[闇淵源]――『暗黒螺旋』!」

 

攻撃からかなたを守るように、トワの放った稲妻の渦は、かなたを飲み込むようにして周囲からその姿を閉ざした。

幼龍の放たれた咆哮は、トワの放った渦によって防がれ、その中から姿を表したかなたは――

 

「[破壊陣]――『破壊・天破轟裂』!」

 

――凄まじい力で幼龍の腹部へ直撃、瞬間、先程の爆発とは比べ物にならなあほどの大きな音を立てて周囲を飲み込んだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

激しい音と凄まじい量の煙で自分の居場所を見失う錯覚に陥る2人。

数十秒経過し、ようやく周りが見渡せるようになった。先に目を開いたトワは、かなたが打ち出した能力の影響がどうなっているかを確認する。

 

「かなた!」

 

「大丈夫…ていうかまだ[破壊陣]は発動してねえからな」

 

「…え?」

 

膝をつけているかなたの傍によったトワに対し、衝撃的な発言をするかなた。

あれほどの威力を発していながら、能力の影響ではないという。

 

「…あとはあいつを視認すれば発動するんだが…」

 

かなたが違和感を感じながら言葉を発する。その違和感はトワにもあった。

――あの、衝撃的な爆発の後から幼龍は姿を消しているからだ。

 

「…あれで倒れたって可能性もあると思うけど」

 

「それならすでにこの世界を出てるはず」

 

未だ『微睡み世界』に捕らわれている状況を鑑みて、幼龍が倒れた可能性は薄いだろう。

 

「――いや、下だ!?」

 

「――っ!?」

 

唐突に、トワが叫ぶと同時に2人のいる地面が宙に吹き飛んだのだ。

それを起こした原因は、どうやって潜ったのか、地面の中から出てくる幼龍だった。

空へ身を投げ出された2人は為す術なく、そのまま幼龍が口を開け、咆哮を受けるか食べられるか、その2択を迫られている。

 

「だけど――」

 

「――こっちは待ってたんだよ![破壊陣]――『赤の紋・破滅』!」

 

幼龍が選んだのは2人を食べること。惜しくも、かなたの能力発動と同時に、2人は幼龍に飲み込まれてしまったのだ。

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