Hololive:Parallel   作:一応味醂

43 / 48
長くおまたせしてすみません。もう暫くはこの投稿頻度になってしまうので長い目で見てください。


▶17「悪魔」

――――――それは、一瞬の出来事だった。大きな見た目に反して動きは機敏で、その洞察力の高さ、そして[特殊能力]の強さから〈秘龍〉と呼ばれ恐れられていたのだ。

――そう、こんなところで終わるはずがないのだ。

 

〈――ァァァ!!?〉

 

叫び声にもならない程の掠れた声が大きく響き渡る。

確かに、幼龍は2人を飲み込んだ。あとは噛み砕き命を奪うだけだ。

もちろんここは『微睡み世界』のため、2人の命を奪ったたところで幼龍には何も無い。

――幼龍はすでに、『マドロミ』によって命を落としているのだから。

それでもそんな事情など知らず、目の前に現れた憎き敵を滅ぼすために牙を向けているのだ。

だが、その牙が2人に届く前に――

 

「――『赤の紋・破滅』!」

 

凄まじく強烈な痛みと共に、幼龍がその大きな身体を思い切り横へと倒した。

――紋が付与された場所、横腹付近が抉り取られたかのように破裂していたのだ。

 

「うえっ…汚ねぇ」

 

空洞となった横腹から体液で体を汚した2人が姿を現す。

 

「これで終わったろ…」

 

かなたが後ろへ振り返り、地面に倒れ伏した幼龍を見て呟く。再生能力を持たない幼龍にとって、この横腹の損傷はかなり大きなダメージとなっただろう。

このまま息絶える可能性もあるはずだ。

 

「こいつか消滅すれば抜けれるの?」

 

「たぶんそう」

 

――そう、確実に殺ったと思い込んだ2人は予想もしなかっただろう。

〈幼龍〉が〈秘龍〉最強と言われる所以を。

 

〈――[狂愛]〉

 

「――っ!?」

 

「トワっ!?」

 

不意に聞こえてきた、この世界で聞くことのなかった声。

呟かれたその直後、トワが思い切り後ろへと吹き飛ばされた。

かなたがすぐに何の攻撃かと目を向ければ――

 

「…冗談すぎるだろ」

 

――そこには、全身から黒いオーラを漂わせた、最早原型を留めていない幼龍の姿が映ったのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

大きく吹き飛ばされるも、[闇淵源]の力で致命傷を貰うことはなかった。

少しの間めまいがしたが、すぐに周りを見て今の状況を見直す。

 

「…さすがに…しつこいな」

 

幼龍ではない別のモノへと変貌を遂げた敵に対してトワがそう言葉を呟く。

手足が動くの確認してまだ戦えることを実感する。体力の消耗はないに等しい『微睡み世界』だが、痛みが消えた訳ではない。

故に、今の攻撃も脳震盪を引き起こす原因ともなっていた。

 

「っ!『天誅』!」

 

幼龍に対してかなたが指を向けたその瞬間、天から降り注いだ光の刃が幼龍の身体を切り刻んでいった。

――それだけに留まらず、身体に刺さった刃が四方八方に棘を伸ばし内側から侵食していく。

その間にも体内で光が小爆発を起こし、中の様子が分からなくとも幼龍の形を変えるほどまでに達した。

身体に刺さった刃を壊そうと幼龍が動いた瞬間、刃が自ら淡い光を放出しながら爆発していった。

――普通の者が喰らえば跡形もなく消滅する程の威力だ。

 

〈――ァァァ!〉

 

「[闇淵源]――『深嵐壁』!」

 

だが今の攻撃を受けても尚、幼龍の身体から溢れ出てきた黒いオーラが棘となってかなた目掛けて飛んでくる。それをギリギリ間に合ったトワによって、何とか防ぎきった。

 

「トワ!大丈夫か!?」

 

「何とか!…とりあえずもっかい倒さないとな!」

 

先程のかなたの攻撃はかなりの威力を発したがそれでもまだ動く余裕がある幼龍。

 

「にしても…」

 

このまま何度倒しても復活を繰り返されればこちらの気力が尽きるかもしれない。それに加え長くなるほど、現実世界で待たせている皆のことが不安に感じてしまう。

――久々に会えたわためやルーナともう会えなくなるかもしれないのだ。そんな事を考えた時だった。

 

「――」

 

ふと、心の中から聞こえた鼓動。その音は聞き間違えのないものだ。

いつも傍に居て、まるでペットのように扱ってきた生き物、そして何かに引っ張られるようにして目の前から消えていった――

 

「――ビビ」

 

「…トワ?」

 

小さな声で呟いたトワが一歩前へ出る。ビビがどこにいるか分からないが、それでも今確かに近くにその存在を感じた。

――それが作り物でも嘘でもないというのも分かった。なら、トワがやるべき事は一つだ。

 

「――ここでやられる訳にはいかねぇんだ」

 

今なら、きっとできるはず。いや、やらなきゃこのまま何も変わらないだろう。

――だから、幼龍を倒すために全力を尽くすのだ。

 

「――『悪魔《デビル》』!」

 

瞬間、光の柱がトワに落ちてくる。その衝撃で周囲にとてつもない突風を巻き起こした。幼龍はもちろん、かなたも近くの岩にしがみつき吹き飛ばされることはなかった。

だが、かなたはそのトワの様子を、今した力の正体を感じ驚きを隠せないでいる。

 

「――覚醒…?」

 

トワとかなた、それぞれが持つ特別な力――[恩恵]。その最大の効果は、[恩恵]の力を自分自身に取り込み、能力を活性化させる『覚醒』にあった。

今まで[恩恵]を授かった者たちでも、ほとんどの者がこの状態になることはなく伝説として語り継がれる程だった。

だが、今かなたの目の前にはその伝説が舞い降りたのだ。

トワの姿には変化があり、髪や体から紫色の光を発しており、目からは稲妻のような光の線が迸っている。

 

「――最大だ」

 

噂でしかなかった力を、今トワが物にして改めて幼龍と対峙した。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――かなたが見せた『天誅』という技。必中にして、対象者から今までに受けたダメージの分に応じて、何百倍にもして相手へと反射させるカウンターに近い攻撃だ。

幼龍の強さは今更言うまでもなく、かなたも少しの間しか戦っていないが1人では絶対に勝てない相手とさえ思った。

だからこそ弱い攻撃はあえて受け、『天誅』の威力を最大限強化しようと考えた。

[破壊陣]で倒せなかったことで、迷いなく『天誅』を発したが、見ての通りやられる事はなかった。

 

「――もう…」

 

一度『天誅』を使えば、その対象者に二度と使うことが出来ない制限がある。

かなたにとっての二度の切り札が、二度とも期待した結果にならずに、ついに心が折れかけてしまう。

――そこに訪れた新たな希望。トワの覚醒だった。

 

「…すげぇ」

 

かなたにとってトワは一番嫌いな相手で、一番のライバルだった。

もちろん正しくは、トワではなく地獄の住民にされた過去の出来事で毛嫌いしているだけなのだ。

――それでも今は気持ちが変わりつつあり、終わったらちゃんと話を聞こうと思っている。だから――

 

「…勝ってくれ」

 

今はトワの勝利を願うしかなかったのだ。

 

〈――ァァ!〉

 

幼龍の体からは複数の棘が伸び、手足を無造作に動かし、狙い構わず咆哮を撃ち放つ、まさに厄災とも呼べる状況にあった。

だが、そのどれもがトワには掠りもせずに、空を切って通り過ぎていく。

 

「――『ライメイ』」

 

〈――グガァ!?〉

 

一瞬にして間合いを詰めたトワからの蹴りを食らう幼龍。それはただの蹴りではなく、まるで稲妻に撃ち落とされたかのような衝撃が幼龍を襲った。

その勢いに気圧され、幼龍が地面へと倒れ伏したのだ。

 

「…強ぇ」

 

「――それって女子に対して使う言葉じゃないっしょ」

 

一瞬の攻防、だがそれだけでトワの圧倒的な力を目の当たりにした。素直な感想を口にしたが、その言葉選びにトワは不服そうにしていた。

 

「…トワ」

 

「大丈夫。死なない程度にやるよ。――だから、さっさとお前もサポートしろ」

 

「――え」

 

トワの邪魔にならないように隅に移動して、身を潜めていたかなた。そんなかなたはトワに言われた言葉の意味が分からずに変な声を漏らしてしまう。

 

「お前らしくないって言ってんの。さっさと次の案だして」

 

「――」

 

それは一度戦場から降りたかなたに対する罵倒ではなかったのだ。

もちろんそうした事を言われる覚悟はあったが、トワは再び一緒に戦えと言ってきた。

 

「…だってもう」

 

「何言ってんだ。トワがなれてかなたがなれないわけないだろ。――自分を間違えるな」

 

そう強く言われ、かなたは改めて目を見開いた。そして、トワに言われた事で気持ちを切り替える。

――かなたらしくないと、そう言われてしまったのだ。

 

「――分かってらぁ。時間稼ぎしてくれよ」

 

「…はっ。言ってくれるじゃん」

 

かなたの返事を聞いてトワが声を大にしてひと笑いする。そうして立ち上がった幼龍を睨み、再びトワが臨戦態勢へと入る。

 

「――『ライメイ』」

 

地を思い切り蹴り飛ばし、目にも見えぬ速さでトワが幼龍へと向かって進んで行く。

 

〈――ガァァ!〉

 

正面から飛んでくるトワに対して咆哮を撃ち放つ。もちろん当たることなく地面へと飛んで行った。

そして、そのがら空きの横っ面に勢いよくパンチを繰り出した。

 

〈ガァァ!!〉

 

閃光を散らつかせながら殴られた勢いで思い切り吹き飛ばされる幼龍。そのままトワが畳み掛けて攻撃を放つ。

 

「――『ライメイ』!!」

 

手に纏った稲妻の光を幼龍目掛けて撃ち放った。光の線を軌道上に描きながら幼龍を貫いていく。

攻撃の勢いは凄まじく、幼龍に反撃を与えないでいる。

 

「…っ!」

 

だが、それとは別の苦悩がかなたにはあった。トワは覚醒状態に入った。そして、それはかなたにもできるだろと煽ってきたのだ。

 

「…どうやれば」

 

覚醒状態に入るためのスイッチがどこかにあるはずだが、それが見つけられずに中々覚醒状態へといけないでいる。

そもそも、今のトワが本当に覚醒なのかどうか疑い始め――

 

「いやいや。早く…」

 

今圧倒的に押しているのはトワの方だ。何も心配する必要はないはずだ。

――それでも万が一、幼龍が最強である理由の一つ、[狂愛]が力を発揮するならば――

 

〈――[狂愛]〉

 

「――っ!?」

 

再び、一段と禍々しく立ち上るオーラの総量が増え始め、更に威圧感を増してきた幼龍がトワの連撃から逃れたのだ。

反射的に体を横へ動かしたトワ、動かす前の地点へ無数の棘が飛んできたのだ。

 

「…っ!」

 

『ライメイ』の速度に追いついてきたのか、徐々にトワの躱すタイミングがギリギリとなってきて、ついに幼龍の飛ばしてきた棘のオーラに横腹を貫かれてしまった。

 

「っ!トワっ!」

 

衝撃で地面へと転がったトワに追い打ちをかけるかのように幼龍の攻撃は勢いを衰えさせずに集中砲火する。

姿を現したかなたには一つも攻撃を割かずにだ。

――まるで戦うまでもないと言うかのように。

 

「――『天破轟裂』!」

 

咄嗟に、トワの目の前の地面を殴りつける。光と共にその衝撃で舞い上がった地くずや欠片が障壁となって幼龍の攻撃を阻止する。

 

「――『天帝眼』、『深嵐壁』!!」

 

トワが続けざまに能力を行使する。本来、[闇淵源]による強化は1度のみの付与で、使用後は少なからずクールタイムが発生する。

そのため、強化技を続けて使用、更に同時の使用は不可能なのだ。

 

「…これが覚醒か」

 

トワが誰にも聞こえない程の小さな声で呟く。

覚醒した恩恵により、常時[闇淵源]付与状態となっているのだ。

『深嵐壁』で四方に竜巻の壁を生み出し、『天帝眼』による驚異的な視界増強により、幼龍の動きを完璧に把握し、稲妻の速さで壁を蹴り、幼龍を翻弄する。

 

〈――ガァァ!〉

 

「っ、こいつ――!」

 

だが、幼龍の[狂愛]による成長速度はトワをはるかに超えていた。

時間が経つにつれ、[闇淵源]の重ねがけをも見極め、次第に攻撃をする回数が入れ替わっていったのだ。

そして――

 

「――ぐっ!?」

 

「トワぁ!!?」

 

一瞬の判断の遅れ、その隙を見逃さなかった幼龍の一撃がトワの心臓を貫いたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

『マドロミ』を使用した歴代の恩恵を受けた者たち。それら全てが突然と命を落としている事は長年語り継がれてきた。

直接な理由は分からず、禁断の力とまで揶揄された[天魔の恩恵]。

いつの時代だったか、その禁断の力を悪用しようとした1人の悪魔がいる。無理やり力を使い、天使もろとも命を落としたのだ。

それにより天国と地獄の恩恵者は敵対し始めたのだ。

だからかなたも地獄を毛嫌いし――

 

「――トワ…」

 

目の前に倒れてきたトワの体をゆっくりと救い起こす。

――『微睡み世界』での死が、直接現実での謎の死に繋がっているものだと今ではもう気づいていた。

だからこのままではトワは――いや、[天魔の恩恵]で繋がっているのだ。トワが死ぬならかなたも同じく死ぬのではないのか。

いやそれよりも――

 

「――トワ」

 

――トワの事を絶対に死なせたくない、今はその気持ちが勝っている。

だから、早く壊れた部分をなおして――

 

「――ぁ」

 

ふと、なんの前触れもなくそれは訪れた。その時はイライラが溜まっていたこともあり、まともに聞いていなかったが、確かにカリオペは言っていた。

――[天使の恩恵]の最大の力は『創造』だと。天音かなたが使う技――『破壊』の力とは真逆だということ。

 

「――そうか」

 

改めて落ち着けばなんてバカバカしいだろうか。あの時の話をちゃんと聞いていれば。

 

「――いや、まだ終わってない!」

 

まだトワは息をしている。ならまだ『創造』できるだろう。

今までとは違う思いを胸に抱き、再び力を練り上げる。

そして、かなたの周りが少しずつ照らされていき、やがて白く染まり出した。

 

〈――ッッ!!〉

 

トドメと言わんばかりの凄まじいブレスを吐き出してきた幼龍。動けないトワは避ける術がなく、かなたが防がなくてはならない。

 

「――簡単だろ、こんなの」

 

次の瞬間、まるでブレスが天の光に当てられ消滅したかのように消えてなくなり、2人の元へ届くことは無かった。

そして、それをしたのは――

 

「――『天使《エンジェル》』」

 

――眩い光を発している、紛うことなき天使そのものだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。