見易くなっていましたら幸いです。
▶1「冥界の異変」
――――――天国と地獄での騒動が落ち着き、天国に案内されたときのそら達が自分たちの拠点へと戻ってきた。
「……いやぁホントに凄かったね」
最初は乗り気ではなかったものの、AZKiに勧められたことで一緒に天国へと行ってきたロボ子さん。帰ってきた時の反応はかなり良いものだった。
ロボ子さんやノエルなど、ときのそらの最初のParallelで出会った仲間たちがかなたに連れられて天国へ向かった際、代わりにトワたちがこの【Parallel World MAIN】の拠点を見守っていてくれたのだ。
「さてと……そろそろ調査に向かわせてもらいたいのですが」
拠点に戻ってくるなり、付き添いで天国へ向かっていたカリオペに対して、待っていたフブキが声をかける。
「そういえば2人の間になんかあるって言ってたよね?」
詳しくは聞いていないが、カリオペとフブキは少なからず関わりがあった雰囲気をしていた覚えがある。
「うん――『冥界』での異変、それによって白上の住む故郷に影響が及んでいるんだよ」
「……冥界?」
天国や地獄とはまた別の呼び方の地名を聞かされ、その初めて聞く単語に首を傾げる。
「そう。天国とか地獄とかとは違って、ちゃんとこの地上の直線上に位置する大陸の事だよ。普通に入ることが困難だから冥界って言われてるの」
そう説明を受けるものの、その冥界とカリオペの関連性はどこから来ているのか分かっていなかった。
そんなときのそらに説明するかのように、カリオペが口を開いた。
「――実は私はその冥界出身なんです。そこにいるぐらも同じく」
話に全く参加していないぐらを指差しながら、カリオペが薄く微笑んだのだ。
――――――――――――――――――
トワに仕えている身とはいえ、自分の出身地である冥界の情報は漏れなく認知しているとカリオペは言った。
今現在起きている異変を解決するため、フブキは自分の住む里の長からの『指令』で遠くへとやって来たらしい。
そして少なからずカリオペが関係あるという情報を聞き、最近似た人物を里で見かけたという噂も相まって探しに来たと言うのが現状ということになる。
だが、当の本人であるカリオペを見つけたもののフブキは未だ納得していない様子。
「前向きに対応してくれるんだったら最初から逃げなきゃ良かったじゃないですか」
「Sorry.どうしてもあなただけでは解決できなそうな案件でしたから」
「なんですとー?」
まるでフブキを煽るかのような発言に食いつこうとするフブキ。危うくケンカに発展しそうな雰囲気に慌てながら、ときのそらがフブキを抑えようとする。
だが、その前に再びカリオペが言葉を紡いだ。
「――解決するには恐らくParallel移動の力が必要ですから。foxさん、あなたにその力が?」
「――その不思議な力が必要……ってことはそらちゃんが居ないと無理ってことか」
そこでフブキの視線がときのそらへと移されたことで、思わず驚いて声を上げてしまう。
「えっ、私!?」
「Yes.そらさんの力が必要です。これからfoxさんと一緒に冥界へ来てもらえますか?」
カリオペにそう言われ、一度ロボ子さんの方を見る。確かにこれまでParallel移動をしてたくさんの仲間たちを救ってきたのはときのそらだ。
だが、このParallel移動自体はときのそらだけでなくAZKiも行えるものだ。それに加え、『秘密の丘』へ向かえば誰でもParallel移動はできる。
そんなときのそらの不安を感じ取ったか、ロボ子さんが近づいてくる。
「確かにそらちゃんの気持ちは分かるよ。でも逆にボクはそらちゃんが行くことに賛成派かな」
と、想定していた言葉とは違うものが飛び出てきたことで一瞬目を見開いてしまう。が、すぐさま口を開いて――、
「……実はちょっと気になることがあってね。それを確かめるためにもってこと。そらちゃんが嫌なら無理強いはしないよ」
「気になること……?」
「そう。本来、『秘密の丘』から転移させて向かうParallelの世界、そこは一度使ったら反応しなくなるんだよ」
ロボ子さんの続けられた言葉の意図が読み取れず、首を傾げてしまう。そんなときのそらの行動に苦笑しながら、説明するかのように再び話し始めた。
「うーんとね、無意識なParallel移動って経験した?」
「無意識?……あ、確かあった気がする」
そう言われ思い出すのは、フレアのParallelを救った後、MAINへと戻ってくることなく続け様にぺこらのParallelへ飛ばされたことだ。
これは自分の意思ではなく、明らかに突如として転移したことだと分かる。
「そういう無意識なやつだったり、あずきの能力だったりなら何回でも移動できるの。だけど、あの『秘密の丘』から正確に狙った所へ飛ぶ転移――一度使ったら、もう二度とあの丘で転移できなくなるはずなの」
そう詳しく説明されたことで何とか話を理解することが出来た。それはつまり、マリンやココはあの丘からの転移ができなくなったということ。
そしてときのそらも――、
「あれ……私あの丘何回も使っているような?」
一度使えばそれ以降使えなくなる――そう言われているはずの丘のParallel移動を何度も繰り返していたことに気がついた。
「そう。何故かそらちゃんは何度も使うことが出来る。その事について調べたいと思っているんだよ」
「……だから今回の件を?」
「うん。さっきも言ったけどそらちゃんが嫌なら行かせる気はないよ。ただどうしても行きたいと言うなら――調査って事で止めたりはしないってこと」
こちらの気持ちを汲みつつ、自分の中で気になっていることを調べるための選択。
もちろん、初めからロボ子さんに止められたとしてもときのそらはカリオペと共に冥界へ向かっていただろう。
だからこそ条件付きというていでこちらに任せてくれたロボ子さんには感謝しかない。
「――うん、大丈夫。一緒に行ってくるよ」
「……やっぱり、そらちゃんらしいね」
ときのそらの返答に満足したか、ロボ子さんが軽く頷いてカリオペに同行する許可をくれた。
「Thank you ロボ子さん、そらさん。では行きますか……ぐらもですよ」
「a〜!?」
不意に話を振られたぐらがビックリして声を上げるが、すでに手をカリオペに掴まれたことで行かざるを得ない状況となってしまっていた。
ときのそらの了承を受け、フブキとカリオペとぐらは冥界へと行く準備を始めた。そこへ――、
「それ、私たちもついていっても良いかな?」
と、背中越しに声をかけられた。振り返れば、そこにはフレアとわためが一歩前に出ていたのだ。
「せっかくフブキちゃんと仲良くなったんだし、わためたちも手伝いたい!」
「わためぇ…それにフレアも」
驚きつつも、戦力が増えることは悪いこととは思っていないからか、カリオペも止めるような真似はしなかった。
「くれぐれも気をつけてね。皆、もう名前を知った仲になったんだから。……危険なことだけは避けてね?」
改めてロボ子さんがカリオペに注意を促し、カリオペは首を縦へ振るとそのままゲートを作り出した。
「――それでは冥界へ」
そのまま、ときのそらたち6人はそのゲートをくぐり抜けて行ったのだ。
――――――――――――――――――
ゲートをくぐり抜けた瞬間、重たい空気が一瞬にして身を囲った。空は赤黒く染まり、ここが地獄だと言われても違和感はないだろう。
「この冥界の隣には魔界が位置していますが、そこには入らないように気をつけてください」
「魔界……?」
再び聞きなれない単語を耳にしてときのそらが疑問を投げかける。
「入ると襲われてしまいます。特に人間は狙われやすいので行かないでください。区切りがあるので間違う事はないかと」
そうカリオペに念押しされ、さすがに襲われるのは嫌なため言う通り入らないように心がけることにした。
「ここが冥界か……」
周りの景色を見渡し、フレアの口から感想がこぼれ落ちる。
その声のトーンが低いことから、好印象は持たなかった様子だ。
「さてさて、異変の原因に心当たりがあるんだろ?早く案内してくれたまえ」
何故か胸を張って上からものを言う態度を取るフブキだが、カリオペは特に気にもせず皆を案内する。
少しばかりかフブキのテンションが上がっているようにも見えるが深く追及することは無かった。
そうして連れられてきた場所、周囲を大きな城壁で囲まれ中と外が隔離されているかのような建物の前へとやって来た。
「ここに居るってこと?」
「Yes.――彼女が異変の原因です」
「……彼女?」
言い方から中には人が、それも女が居るということを表していた。カリオペが言うように、中からは時折火の玉が外へと放出されており、明らかに雰囲気が違うことは確かだ。
「でもこれがフブキちゃんの故郷にまで影響してるって事なの?」
ときのそらの疑問に、残る3人も同じく頷いた。確かに異様な空気を纏っていることは肌で感じ取れるが、それでもこの冥界を抜けてまで影響を与えるかと言われれば疑問に思うことがある。
「常にということでは無いです。彼女の中にある力が暴走したとき、下界である地上に姿を現して力を放出しているのです」
「……白上の故郷の一部が燃やされたのがその人物のせいってこと?」
「はい。彼女は何者かによって意識を奪われている……無駄に力を溜め込んでは、それを放出しに地上へ赴く。それを繰り返しているのです」
「何でそんなこと……」
カリオペの説明を聞き、フブキの故郷に与えた影響を実感する。それと同時に、ときのそらたちが住む拠点も安全ではないということが分かる。
「その人を止められないの?知り合い……みたいな感じじゃないの?」
「a〜キアラはバカだけど、実力は高いの。下手したら私たちがやられちゃう〜」
「キアラ……それが中にいる人の名前だね?」
フレアの疑問、それにぐらが答えたがカリオペも概ね同じ意見なようで訂正を入れることはしなかった。
実力が高いと言われ一瞬体が強ばるが、まだ力ずくになった訳ではない。
「見た方が早いかもですね」
そう言って、何の準備もせずにカリオペが目の前の大きな門を開けた。
――――――――――――――――――
大きく開かれた門の内側、そこに広がっているのは炎の波だった。
「あっちぃー……なんですかこれ」
カリオペについて行くように全員が門の内側へと足を運ぶが、周りに浮かぶ炎の暑さにフブキが文句を言う。
ときのそら自身も我慢できなくはないが、かなり暑く感じておりどんどん体力が奪われていく。
「この奥に彼女――キアラは居ます」
そうカリオペが言い、更に奥の方へと進んでいく。やがて炎の密度が急激に上昇し、丸い地形となっている場所にたどり着き、その中央に一人の人物が横になっているのが見えた。
「あれは……」
「彼女が小鳥遊キアラです。今は力が収まっていて寝ているところでしょう」
真ん中にいる人物について説明をするカリオペだが、終始言葉に暗い感情が混ざっているように感じる。
「……キアラさんは意識を奪われてるって」
「その通りです。今ではキアラ本人と会話をする事ができない。その解決のため、そらさんを呼びました」
話から察するにもう手遅れだと言っているも同然だ。それを救うためときのそらを呼んだのなら――、
「Parallelに行って過去を変える……」
「ねぇ、その前に今のキアラを抑えるって事はできないの?何とかして意識を奪っている奴を取り除ければ危険を犯さずに済むかもよ?」
Parallel移動を視野に入れるときのそらと違い、フブキが今現在でやれる事はないかと問いかけた。
フブキの言うように、今すぐに解決できる策があるならばそれをするに越したことはない。
「力で抑えるとか……人数差があれば可能じゃないですか?幸い白上は腕に自信ありますよ」
そのフブキに賛同するかのようにフレアとわためも戦う覚悟はできている様子だった。
だがそれでもカリオペとぐらからは戦う意志をあまり感じずにいる。相手が知り合い――おそらくそれ以上の、仲間とも呼べる存在だからというのもあるだろう。
ただ、それだけではないと前置きをして――、
「――確かに私たちが束になれば負けることはないと思います。ですが、勝つことは不可能です」
はっきりと断言するカリオペに対して、フブキは耳を疑ったかのような態度を取る。
「何を根拠に勝てないと?」
「――キアラが持つ恩恵です」
『恩恵』――その単語は妙に馴染み深いものだ。それもそのはず、先刻まで一緒に居たトワやかなたが持つ力のそれと同じ言葉だったからだ。
「……どんな恩恵を持ってるんですか?」
トワやかなたの持つ恩恵の力を聞いた時、皆が使う能力とはまた別の強力な力だという認識がある。
勝てないとまで言われたキアラが持つ恩恵は一体どんなものなのか、それを問いかけると――、
「彼女の持つ恩恵は『不死鳥の恩恵』――死ぬ事のない絶対的な力です」
そう、カリオペの口から衝撃の言葉が発されたのだった。