――――――カリオペの口から放たれたキアラの持つ力、『不死鳥の恩恵』。
「……死ぬ事がない、ってまじ?」
「本当〜」
さすがに嘘だろうという淡い希望は続くぐらの言葉に否定される。
だが、死ぬことは無いと聞かされるもののときのそらはある事を思いついた。
「殺せなかったとしても元凶を取り除ければ良いんでしょ?だったら弱らせるだけでも……」
「確かにそうです。ですが彼女の持つ恩恵は死なない以外にも、痛みを感じなくなるのです」
「それじゃ弱らせることも無理ってこと?」
ときのそらが出した提案、それが不可能だと言わんばかりに、問いかけに対してカリオペが首を縦に振ったのだ。
「ふむ……やっぱりさっきから言っているパラレル?ってやつで未然に防ぐ方が可能性があるのか」
「そうなります」
結局のところ今現在でどうにかできる話ではないと再認識させられてしまう。
それならそれで、ときのそらはParallel移動をする覚悟はあるため特に問題はなかった。
「……今回、AZKiさんの力を借りずに移動します。少し待っていてください」
そう言い、カリオペが何か黒い霧に包まれると忽然と姿を消したのだ。
AZKiの力を借りずに転移、そもそもAZKiの力では自分を含めて最大3人までしか転移させることができない。この場にいる全員を連れていくのは不可能なためカリオペの判断は理解出来る。
例の丘から転移をすれば良いとも思う話だが、ロボ子さんの言うことが正しいならときのそら以外は丘からの転移は一度しかできない。
丘からの転移は馴染み深い物を持っていれば狙った所に転移できるが、キアラの物など持っているはずもない。
狙った場所に転移できるとも限らず、更に他のみんなの転移をすぐに使ってしまうのはできないという2つの点から新たな選択肢があるとときのそらは考えた。
「……でもどうやって転移するんだろうね」
「そらちゃんが転移するゲートみたいなのを作れるって訳じゃないみたいだし……」
フレアとわためがお互いにそんな事を言っている。そんな考えをしていたとき、消えたカリオペが戻ってきたのだ。――フレアたちが気になった転移の仕方、その方法となるある人物を連れて。
「紹介します。……彼女はオーロ・クロニー。今回の件で手助けしてくれる人です」
――――――――――――――――――
カリオペに紹介された人物、オーロ・クロニー。前に一度だけ、ときのそらはその人物の名前を聞いていた。クロニーの持つ能力について、それは――、
「……確かあずきちゃんと同じように色々転移できるとか何とか」
「――そんな認識で大丈夫です。あー、人が多くて緊張してるけど、オーロ・クロニーです。よろしく」
「よろしくっ」
差し伸べられた手を握り、ときのそらは微笑んで挨拶を返す。クロニーの口からこの後の事情を説明してもらったが、想定していたようにクロニーの力でParallelを移動するというものだった。
「それじゃ早く行きましょ。キアラって人が何者かに操られる前に転移して、その何者かをやっつければいいんだよね?」
「フブキさんの言う通り、単純な話そうなります。私はただ皆さんをParallel移動させるだけしかできません。後はカリオペさんとぐらさんに従ってください」
フブキの質問により最終確認が終わり、やるべき事が定まった。すぐに転移させてくれるとの事で、クロニーがその準備を始める。
ときのそらたち6人の周囲に魔法陣のようなものが展開され、次第に強い光を放っていく。
「……戻ってくるのって、やっぱりParallelの過去を変えることができたとき?」
「えぇもちろんです。――ですが、万が一のときにはカリオペさんが私に連絡をしてくれるとの事。その時には一度帰還するという方向性です」
危険な目に遭わないためにも、事前にやり直しのようなことが出来ると聞き、ほんの少しだけ安堵する。
だが、すでに魔法陣が完成したようで転移する準備が出来た。
「……それでは、ご武運を」
クロニーが最後にそう言葉を残し、やがて光に包まれた6人はこの冥界の場から綺麗さっぱり居なくなったのだ。
6人を送り出し、役目を終えたクロニーが元の部屋へと戻ろうとすると――、
「……who?」
自分の背中側から声をかけられ、クロニーはゆっくりと振り返った。
そこには、先程まで中央で横になっていたと思われる少女が、その体を起こしてその場に立ち上がっていたのだ。
「――キアラさん、もう少しの辛抱です。もう少しで……必ず助かりますから」
意識はすでに無くなっていたとしても、無意識のうちにキアラの本能が反応しているのだろう。そのおかげか、こちらに襲いかかることなく、再びその場で横になってしまったのだ。
そんなキアラの行動の一部始終を見届けると、今度こそクロニーは元の部屋へと戻るために転移を行った。
「――皆さん気をつけて。【Parallel World ATHANATOS】はとても過酷ですから」
――――――――――――――――――
飛ばされた先、そこは飛ばされる前に居た場所である冥界と同じ景色をしている。故に、キアラを救う鍵となるのはこの冥界で起きた出来事だと分かった。
「……そういえばカリオペさんってParallel来ても良いの?」
ふと思ったことを口にする。今までParallelへ来ていたのは、その世界に存在しないときのそらという人物だった。
前回の移動においても、ココを連れていたとはいえ地獄や天国においての時間の流れが違うことから、そこに住んでいる訳ではないココには関係のなかった話だ。
だがカリオペは転移する術は持たないにしても、過去や未来のParallelの記憶を維持することができる。冥界が出身地であり、時々帰省していたという話も聞いたことがあるため、万が一にでもカリオペ同士が出会うのはまずいのではないかと考えたのだ。
「えぇ、そらさんの言う通り転移をしてきた者と、元々その世界に住む同一人物が直接出会ってはいけないことです。その考え方は正しいです」
「出会ったらどうなっちゃうの?」
「少し所では無いほどの大きな変化を現実世界にもたらしてしまいます。自然の崩壊となるため、これは絶対にいけないことです……が、その心配は必要ありません」
Parallel転移をする上での絶対的なタブー、過去にロボ子さんも軽く言っていた内容――Parallelで移動した人とParallel先の同一人物は出会ってはいけないということ。
ときのそらは異質な存在のためその心配はないと聞かされていた。
「心配いらないって?」
「この転移先は恐らく4ヶ月ほど前となるはず。その時の私は地獄にずっと居たので出会うことはありません。時間軸も違うので大丈夫です」
と、全員に分かりやすくカリオペが説明をした。同じように、ぐらは冥界へ戻ることがほとんどなかったため心配はないという。
更に他の3人に関しては、冥界に居るはずがないことから大丈夫だということらしい。
「まずはこの問題を早急に片付けなくては」
やって来た場所と時間軸の確認が取れると、すぐにカリオペは行動に移そうとしていた。
「それじゃ早速元凶探しと行きますか」
意気揚々とフブキが歩み出す中、それに待ったをかけるのはカリオペだった。
「私たちは誰が元凶なのか、それを知りません。なので無計画に行動しては時間と労力の無駄になります」
「えぇー?知らないんですか」
てっきり犯人の目星がついているからこそ、過去に戻ってそれを止めようと考えていたんじゃないかと思っていた。
ときのそらも同じように思っていたため元凶が分からないと聞くと少しだけ不安になる。
「それでも全く手がかりがないという訳でもありません。『囚われの海』へ向かいましょう」
「……囚われの海?」
初めて聞く単語に問い返すときのそら。簡単に言えば、冥界の中にある特別な海のことを指しているという。
そしてその海の奥底にはアトランティスが眠っていると言われているらしいが、誰も見たことがないとも言われている。
詳しく聞けば、どうやら謎の触手に邪魔をされてしまい進めないとか。そう話すカリオペの言葉を真剣に皆が聞いているが、ぐらはあまり興味を持っていない様子。
「ぐらちゃんの性格ならそういうの面白そうって思いそうだけど……」
「ぎくっ。べ、別にぃ〜何もないですよ?」
純粋なときのそらの質問に驚いたのか、はたまた別のことに驚いたのか、問いかけられたぐらはそっぽをむいてしまった。
「そこには何かあるの?……アトランティスってやつ以外に」
「憶測ですが、囚われの海はキアラの住処に近いので何かあるかもということです。まずは周辺から探しましょう」
そう言い、全員で囚われの海へと向かって歩き始めたのだ。
――――――――――――――――――
歩くこと数十分、全体的に赤黒い雰囲気をまとう冥界にしては異彩な、真っ青な海原が広がっているのが目に見えた。
その異常なまでに広い海に光景を奪われてしまう。
「この海の向こう側は無人島のような島や岩があるだけで何もありません。さらに進むと魔界へと入ってしまいます」
この海が冥界と魔界を隔てる境界線だと教えてくれた。
「とりあえずこの付近で何かを探すか……ん?」
フレアがある方向を見つめたまま首を傾げた。その行動につられてときのそらとわためも同じ方向へ視線を向けた。
そこには見慣れない触手のようなものが海から陸へと飛び出ているのが見えた。
「……あれって噂の触手ですかね?」
「まさか……ね?」
つい先程噂話として聞いた話にそっくりなものを見つけ、フブキとフレアが互いの顔を見つめながら身構える。
そんな2人の反応が正しかったと言わんばかりに、触手に続いて人物らしきシルエットが海の底から上がってきたのだ。
「……誰ですか?」
率先してフブキが声をかけると、海の底から上がってきた人物はこちらへその眼光を向けて――、
「――あなたたちが騒いでいるのですか?」
直後、見えていた触手がこちらへと向かって伸びてきたのだ。
「くっ!!」
それを間一髪のところで腰に携えていた刀で受け止める。そのまま勢いよく謎の人物がこちらへと向かって触手を――合計10本も伸ばして攻撃してきた。
「って多すぎー!?」
「フブちゃんどいて!――『弓変化』、『散の矢』!」
フブキの前へとフレアが体を出し、特殊能力によって弓を生成する。
以前は弓は実体化されたものを持ち歩いていたが、能力の応用で弓をも創り出すことができるようになったと言っていたのだ。
それに加えて、今放った『散の矢』はこれまで見たことの無い新しい技だろう。
その効果は絶大で、四方八方から襲いかかる触手に対して、たった一矢放っただけで、それら全てを抑えてしまった。威力が足らず押し返すまではいかなかったが、それでも侵攻は食い止めた。
「すごい…たった1回で」
「そらちゃんには初めて見せるかな?威力と距離を代償にして前方近距離に対する範囲はかなりのものだよ」
触手が止められるとは想像していなかったのか、目の前に姿を現した人物はこちらへと向かってくる訳でもなくその場に立ち止まったままこちらを凝視している。
「おやおや、どうしたんでしょうかね」
相手の様子に不思議がるも、警戒は怠らないでいる。そうしていると、こちらを見ていた目が軽く左右に振られると、そのまま一定の方向を見て止まったのだった。
その向いている方向へときのそらは同じように視線を向けた。すると、そこには先程動揺している様子が見られたぐらが居たのだった。
「……ぐらちゃんを見ている?」
「a……」
そんなぐらは微妙な表情を浮かべ、ときのそら以外の皆からも視線を浴びることとなってしまう。
この事からぐらが何かを隠しているのは誰の目にも明らかだった。
「――ぐら、もしかして何か知っているの?」
カリオペに問い詰められいよいよ観念したのか、ぐらが口を開く。
「a〜……確かに目の前のあの子は知り合い」
「もしかしてキアラの件に――」
「No!キアラとは関係ないよ!」
目の前の少女が今回の元凶なのか、そう考えたカリオペの問いをぐらは強く否定する。
「なら何故黙っていたの?ここに来ると言った時に話してくれればさっきのような無駄な戦闘は回避できたのでは?」
カリオペの言うことは正しいだろう。この海へ向かうと言った際、ぐらから目の前の少女の事について説明を受けていればもっとスムーズに事が進んだかもしれない。
だが、ぐらがそれを黙っていた理由。それは――、
「目の前の……あいつは――」
「――私は一 伊那尓栖。海を荒らす奴は許さない」
ぐらの説明に被せて、目の前の少女がそう自分を名乗り、ぐらの知り合いであるはずの彼女――イナニスは突如としてこちらへと突っ込んできたのだった。