――――――時は少し遡る。
「ねぇマリン。バケモノ居なくない?」
探索すること約20分。歩き疲れたるしあはマリンにおんぶされた状態でそんな事を言ってくる。
「…ちょっと船長の背中でそんなネガティブ発言しないでもらえますかね?」
「だって居ないんだもん。戻ろう?」
「だったらせめて背中から降りてください。」
「やだやだやだ!疲れたもん!」
こんなやり取りがずっと続いているため、一緒に行動している団員は困り顔をしている。
「…あ、マリンさん!こっち何かいます!」
団員の一人がマリンを呼ぶ。
「んー?…バケモノじゃん!?」
すぐに振り返ると、そこには小さなバケモノが複数いた。
「…弱そう。」
るしあの率直な感想。しかし、それはここにいる全員が思ったことでもある。
「A-ランクじゃないですかねこれ。」
前に一度それで見誤っているのにも関わらず、再び格付けするマリン。
「数多いね。やるか。」
るしあがマリンの背中から「怨恨」を飛ばす。
1匹の子バケモノが、「怨恨」を受けて消滅した。
「弱っちいな。今回は船長の見立ては間違ってないみたいですね。」
そう言って調子に乗っているマリン。だが、子バケモノたちの様子が変わり、全員が1匹のとこに集まり禍々しいオーラを放ちながら光輝きだす。
――そして次の瞬間には、大きな羽根が生え、どっしりとした2つの足で立っている凶暴な姿へと変貌した。
「…もう船長格付けしない方がいいまである。」
マリンの格付けはことごとく外れていく。この見た目でA-ランクはないだろう。
「…とりあえずやばくない?」
姿を変えたバケモノは、マリンたちに向かってオーラを飛ばして攻撃してくる。
「ほいっ!」
それをかわして、マリンは武器「マリンアンカー」を手に取る。その拍子にるしあも背中から降りて、攻撃態勢へと変わる。
「そんじゃいっちょやりますか。」
「そうだねっ。」
るしあとマリンは強大なバケモノを相手にして、やる気が溢れ出ていた。
――――――――――――――――――
一緒に行動している団員には、周囲の子バケモノを相手してもらい、2人はSランク程のバケモノと対峙する。
「幽霊ちゃんたち…!」
るしあが、周囲に霊を呼び寄せる。「死霊術」というらしい。
「…「怨恨」!よし、行ってこいっ!」
呼び寄せた霊に、「怨恨」を重ねる。そしてその霊をバケモノへと突撃させる。
バケモノはそれを振り払うために、腕でかき消そうとした時だ。
「――グァァ!!?」
霊に付与された「怨恨」が発動し、バケモノの腕に触れた瞬間に大爆発を巻き起こす。
「え、強っ。」
「へへーん。ちょっとオシャレなコンボだよ。」
ただの「怨恨」だけでは、真っ直ぐ飛ばすしかできず爆発も起きない。「死霊術」によって操ることの出来る霊に付与することで自在に操る爆弾のようなもの。まさにテロのような攻撃方法だ。
「ま、流石にこれだけじゃ無理だね。」
かなりのダメージを負ったと思うが、バケモノがこちらを見る目は、まだ正気を保っているように見える。
「…るしあっ、船長の武器に「怨恨」付与できる?」
「できるよ?でもどうすんの?」
「今の見てちょっといいの思いついたのさ。」
言われるがままに、るしあがマリンの武器の先端に「怨恨」を付与する。
そのままマリンはバケモノめがけて投げ飛ばす。
「グァァ!!」
飛んでくる獲物を撃ち落とそうと、片腕を振り下ろす。
――そのまま腕は崩れ、貫通してバケモノの心臓に衝突する。
「――グギァァァ!!!?」
そのままバケモノは膝から崩れ落ち、地に倒れ付したのだ。
「すごい…!マリン、どうやったの?」
「バケモノが攻撃を阻止しようとしたことは分かってたからね。るしあの「怨恨」を盾に本命の武器による攻撃を必中させたのさ。」
何ともないとばかりに発言してくるが、「怨恨」の使い道を見てすぐに自分に応用できるのは並大抵ではないだろう。
「…あれ、バケモノは?」
「へ?いやそこに倒れ…てない?」
ついさっき倒したばかりだろうと言いかけて、マリンがバケモノの方を見るが、すでにその姿は跡形もなく消えていた。
「え?自然消滅…?」
「それにしては不自然すぎる気がするよ?」
マリンもるしあも、何が起きたのか分からずしばらくの間硬直していた。
そんな時、爆発音が微かに聴こえた。
「…っ!?何今の音…。」
「あっちはノエルの方じゃない?行ってみよっ。」
音の発生源を突き止め、マリンとるしあ、同行動する団員はノエルが居るであろう方向へ急いで走っていった。
――――――――――――――――――
――そして、話はときのそら視点へと戻る。
馬車へ戻るため、来た道を走っているところだ。
「…っ、何あれ…。」
少し高い位置…丘のように盛り上がっている場所から見下ろし、馬車の近くまでやってきたときのそらが最初に感じたのは恐怖だった。
「…な、なんで…。…ノエル副団長が倒したんじゃ…。」
そこにいたのは、先程ノエルが倒したはずのSランクのバケモノがいた。
だが、それだけでは恐怖は感じない。同じ光景を前に見てるからだ。恐怖を感じた理由は――
「…っ。何あの大きいの…。」
Sランクバケモノより一回り以上も大きい、まるで龍のような形をしたバケモノがいたのだ。
「…!あれは団長っ!」
馬車のある方向へ目を向ければ、団長率いるチームが一休みを入れているところだった。
「早く行かなきゃ…!」
龍のようなバケモノはゆっくりだが、Sランクバケモノを引き連れ、確実に馬車のある方へと近づいている。
「…はぁ、はぁ!」
体力がないときのそらに、猛ダッシュの連続は地獄以上にきついものだ。しかし、ここで休んでいる団長に危険を知らせに行かなければもっと悲惨な結末を迎えるだろう。
「…はぁ!団…っ。」
馬車のある後ろの木々までたどり着き、あと一歩足を進め、団長に近づくバケモノについて危険を知らせようとした。その手前で何を思ったのか、ときのそらは足を止めたのだ。
「…役目。」
「世界を見届ける」――ときのそらがロボ子さんから頼まれた使命。ときのそらはこの過去を知っている。
「…団長は…。」
30年間、その責務を全うし、加齢による引退で団長の座を次へと託している。
「…ここで私が言えば…。」
本来、過去では起きなかったであろう事をしてしまうことになる。
「世界を見届ける」――その世界に深く干渉しても良いとロボ子さんは言っていた。
「…でも、それで過去が変わったら。」
そもそも頼まれた事は、世界を救うこと。そのために過去を良い方へと進めると言われた。
「…世界を見届けるのに…過去を救うために干渉する…。」
今になって気づく。
――ここには矛盾点があることに。
「――どういう事。」
今にも頭がちぎれそうな勢いで、この使命について必死に考える。
過去を救うには干渉する必要がある。
そもそも見届けるだけでは、同じ道を辿るだけ――ただの「繰り返し」に過ぎない。
「…はぁ…はぁ…!」
違う意味で息切れをする。今、必死に迷っている最中だ。
――歴史通りに事を進めば、ここは一先ず乗り切れるはず。
「…そうだよ。世界を…見届けなきゃ…。」
決して、自分の勝手な行動で過去の出来事を無かったことにしてはいけない。
直接、干渉せずとも世界を救う方法はいくらでもあるだろう。
今はそれを考えたい――だが、皮肉にも時間は止まってはくれない。
「グァァ!!!」
「…っ!?」
タイムリミットがやって来る。
バケモノが、馬車で休む団長とついに巡り会ってしまった。
――――――――――――――――――
「…なんだあれ!?」
団員がやって来たバケモノを見て、咄嗟に叫んでしまう。
「…なっ、ここまで大きいバケモノがいたのか!」
団長までもがその姿を見て驚きを隠せない。
ついさっき、30分ほど探し回ったが見つけたのは、小さなバケモノだ。こんな大きなバケモノを見過ごすわけが無い。
「…グァァァァァ!!」
龍のような姿をしたバケモノ――団長はその姿に見覚えがあった。
「…まさか、「幻龍」か!?」
団長がそう名前を呼ぶが、他の団員はピンと来ない。
「…あの、幻龍ってのは?」
「…この世界に君臨する、「五大秘龍」の一つだ。」
「っ…!!」
「五大秘龍」というのは、古くから言い伝えられており、何千年も前から世界各地を飛び回る、大災厄の龍だ。その強さから、「SSSランク」推定されている。
それぞれ、「幻龍」「輝龍」「宝龍」「彩龍」「幼龍」となっている。
「…いや、そんなはずがないな。」
唐突の出没に動揺していたのか、団長は深呼吸をして目前の龍のバケモノを見てそう呟く。
「…そもそも五大秘龍はここまで小さくないだろう。」
そうは言うも5m程は軽くある。
「…大丈夫だ皆。気を引き締めて倒すぞ。」
団員を鼓舞し、陣形を取る。
「…グァァ!!!」
途端に、龍のバケモノがこちらへ向かって尻尾を振ってくる。それをタイミング良くかわし、先手を打とうと団員たちが攻撃を仕掛ける。
「…くっ!?」
だが、団員の攻撃は手下のように、付いてきているバケモノによって防がれてしまう。
「…手下を連れるとは、一匹では何も出来ないのか?」
団長は軽く侮辱を言い放ち、剣を構える。
「…その手下ごとまとめて消させてもらう!」
団長はその剣を頭上に構える。途端、凄まじい光が天をも貫かんと勢いよく溢れ出す。
「…くらうがいい!!」
それを目の前のバケモノめがけて撃ち放つ。
動きのゆったりとしたバケモノにそれをかわす術は無く、正面からまともに受け、光に包み込まれていった。
――――――――――――――――――
「…す、すごい…。」
ときのそらはその様子を見て、素直な感想を口にする。
戦いに巻き込まれないように、咄嗟に身を隠し、木々の隙間から戦いを見届けている。
〈――ヤルデハナイカ。〉
「…っ!?」
光の中で響き渡る音に、団長だけでなく、団員も、隠れているときのそらも激しい恐怖感に煽られた。
「…手下じゃ…ないっ!?」
手下だと思っていたバケモノたちが、光の中で聴こえる龍のようなバケモノに吸収されていく。
つまり――
「…「特殊能力」か。」
〈――「分散」。小型ヲ生ミ出スト本体ハ弱マル。〉
丁寧に教える龍のバケモノは、他の小型を吸収し終えたのか、本来の姿を取り戻す。
「…嘘っ。ノエル副団長が戦ったのも…「特殊能力」で生まれたモノってこと…?」
同時に話を聞いているときのそらは、今の出来事を見て驚く。ノエルが多少なりとも苦戦した相手でさえも、本来のバケモノではなく能力で生まれたモノだったということに。
「…その姿…。」
団長がさっきまで浮かべていた笑みはとうに消え、真剣な表情となっている。
〈小僧ノ思ウ通リ。私ハ幻龍アヴニール。〉
そのバケモノ――龍は、確かに「幻龍」と答えた。
「…何故ここにいる。」
〈未来ヲ見タ。――コレハ確約サレタ事。〉
幻龍は静かに話す。そして、次の瞬間――
「…悪いが、ここで討たせてもらうっ!」
――再び気を高める団長。そして、団員が幻龍へ向かって走り出す。
〈――時間ガ勿体ナイ。消エルガイイ。〉
「――っ!!?」
「――団…!!?」
ほんの一瞬の出来事だ。団員は皆等しく、首から上が消し飛んだ。
「…っ!?」
これが本来の力。それを目の前にして、団長は初めて逃げたいと言う気持ちが芽生える。
〈――小僧。オ前モヤルノカ。〉
問いかける。これはつまり、見逃しても良いと言われているのだと確信する。だが――
「…ここで逃げれば団長ではなくなる。部下の死を無駄には出来ない!」
一歩前へ出て、戦う意思を捨てずにいた。
〈――伸ビ代ガアルノニ。勿体ナイ存在ダッタナ。〉
「きゃぁ!!?」
言葉を言い終えると同時に、台風が巻き起こったのかと錯覚するような風が吹き荒れる。
隠れていたときのそらにまで届き、その衝撃で後ろへ飛ばされ運悪く頭から落ち、気を失ってしまう。
「うっ……――」
――――――――――――――――――
「……んっ。」
目を開ければ、自分が茂みの中で倒れ込んでいることに気づく。
「…あっ!団長っ!」
少し考え、直前の出来事を思い出す。そして例え戦っているところだとしても関係ない。そのくらいの勢いで木々の間から抜け出し、戦況を把握しようとした。
その目に映ったのは――
「――団長ぉっーー!!!!」
――腹に大きな穴を開け、今も血が流れ落ちていく団長の姿。それを抱えてただひたすら泣き叫ぶノエル。周囲には9人の団員の死体。そして、同じように戦場を見て恐怖に青ざめいているマリンとるしあ、6人の団員が立ち尽くしていた。