Hololive:Parallel   作:一応味醂

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▶8「大好きな親友と大切な仲間」

――――――朝のホームルームを終え、1時間目が始まるまで15分の休憩時間がある。

 

「……。」

 

だけど、何か違和感を感じる。

まるで大切なことを忘れたかのような。

 

「…空?どうしたのそんな切羽詰まったみたいな顔して。」

 

「あっ…。」

 

そんな私の席に近づいてくる人物が1人。

りんごジュースの紙パックを片手に、私の机の上に座る。

少し制服を着崩しているギャル目のある私の2人目の親友。

 

「おはよう、すいちゃん。」

 

すいちゃんと、私が呼ぶ目の前の少女の名前は星街 彗星。

下の名前をフルで呼ぶ人は少なく、先生やそこまで親しくない人は、「星街さん」。私や巫子ちゃんは「すいちゃん」とあだ名で呼んでいる。

 

「…いやぁ、いつもと変わらないよ?」

 

「ふぅーん。そういえばみこちー。」

 

私が問題ないと答えると、それで納得したのか私の隣の席の巫子ちゃん――桜 巫子に話しかける。

 

「何ぃー?」

 

「今日も宿題みーせーて?」

 

「またかにぇ!今週も1週間コンプリートだにぇ!」

 

最近宿題を忘れる頻度が増えており、前までは週2くらいで巫子ちゃんの答えを借りてたが、今は毎日となっている。

 

「そういえばなんで毎回毎回みこなの?たまには空ちゃんにも頼んでよ。」

 

確かに私は学年1桁をキープできているため、宿題を写させてもらうなら打って付けだろう。…見せないけどね?

 

「…いやさぁ、空は頭良いじゃん?真似したら私っぽく無くなるじゃん。」

 

「…それどういうことぉ!?」

 

さりげなく巫子ちゃんはすいちゃんと同じレベルだと煽っていた。

ちなみに言えば、すいちゃんも巫子ちゃんも実際のところあまり変わらない。どっちも学年200人中140位くらいだったはず。

 

「ねぇ早く!先生来ちゃうじゃん!」

 

すいちゃんが巫子ちゃんに対して宿題の催促をする。

私の席は廊下側の1番端の列の前から3番目。そしてその私の左隣が巫子ちゃんの席。

その巫子ちゃんの2つ前、つまり1番先頭の席がすいちゃんだ。

 

「えぇ?しょうがないにぇ。」

 

巫子ちゃんはいつも優しく、嫌々言いながらも結局は宿題を写させてあげている。

 

「すいちゃん最近宿題してないのって…やっぱりあれの事?」

 

「そうだよ。」

 

短く、すいちゃんが答える。

 

「…あー。歌手?アイドル?とかになるっていう夢かにぇ。」

 

「アイドルだね。…待ってな2人とも!私がアイドルになった日には2人をVIPとして招待するよ!」

 

「おぉ!楽しみにぇ!」

 

「その日のためにサイン貰っとこっ!」

 

私にとってこの3人でいる時間がとても幸せ。

だからこそすいちゃんの夢を笑わずに、真剣に一緒に悩んであげられる。私にとって2人は、「大好きな親友」だから。

――だから、いつかすいちゃんがその夢を叶える日が訪れるといいなと、そう願いながら今日も一日授業を受けるのだった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

あっという間に一日が過ぎ、もう放課後となっていた。

 

「それじゃあバイバイ。」

 

「またにぇー。」

 

「また来週。」

 

学校の登下校は3人一緒。そして、空の家が一番学校に近いためいつも最初に別れることとなる。

3人とも家は近く、彗星と巫子にいたっては道を挟んでお互い真正面に位置しているため、2人で残りの帰路を歩く。

 

「…なんか変だったね。」

 

「ん?何が?」

 

彗星が今日一日の空のことについて違和感を感じていた。

 

「変って…空ちゃんが?」

 

「そーだよ?なんかずっと上の空って感じ。」

 

「空ちゃんだけに?」

 

「……。」

 

「痛っ!…なんで無言で叩くにぇ!?」

 

そんな空の違和感に感じつつも、これ以上は考えるだけ無駄だと悟った彗星。

こんな感じのやり取りを、お互いの家に着くまで続けていたのだ。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「……。」

 

1人、自分の部屋で悩んでいる空――いや、ときのそら。

着替えはとっくに済まし、今はベッドの上に座っている。

朝から抱えているこの違和感は今になっても消えることは無かった。

 

「…夢落ち。」

 

最初はこれで納得しようと思った。

だが、どうしても夢では納得がいかない。

もちろん、向こうの世界で1週間以上も暮らしたこの感覚が夢で片付けるには無理があるというのも1つの理由。

そして、納得できない本当の理由は――

 

「――皆との出会い。…嘘はやだな。」

 

――短い付き合いだったかもしれない。それでも仲良くなれた皆とのこの思いを夢で終わらせたくはないのだ。

もうすでに私にとって「大切な仲間」だから。

 

「でも、どうやってあそこに行ったんだろう。」

 

ノエルたちと出会ったParallel Worldは、最初にロボ子さんと出会ったParallel World MAINという世界から移動した世界だった。

だが、その世界へ行く前には何も変化は無かった。

いつも通り、このベッドで眠って次の日の朝を迎えようとしただけ。

 

「…今日もベッドでただ寝れば行けたりするかな?」

 

最初は早く現実世界に帰りたい。そう思っていたが、今では向こうの世界での暮らしも楽しいものだと感じていた。

今は他に取れる選択肢がないため、いつも通りベッドで眠ることにした。

――再びあの世界で目覚めることができるようにと淡い期待を込めながら。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

――早く起きな?

 

また聞こえてきた。少しでも起きるのが遅いといつも母さんが起こしに来てくれる。

だけどなんで今日も?だって今日は土曜日じゃないか。

 

――あれ?死んでる?

 

そんな訳ないじゃん。…あれ?声が、違う。

 

――ねぇ早く起きてー。

 

また脳内に響く声。少しずつ意識が覚醒していき、一体誰が私を呼んでいるのか?

その答え合わせをするために目を開けた。

 

「あ、やっと起きたー。」

 

目の前に立つ少女は、茶色で少し肩にかかるくらいの長さの髪を揺らしながらこちらを見つめてくる。

その瞳は金色に輝き、吸い込まれるような感覚に陥る。

 

「…?…どうしたのそらちゃん?」

 

「え?…え、ロボ子、さん?」

 

「そーだよ?」

 

この特徴的な姿。Parallel World MAINで出会ったロボ子さんだった。

 

「…というか。」

 

本当にただ寝るだけで来れちゃったのか。

 

「どしたの?」

 

「あぁ、いや、何でもないよ。」

 

不思議そうに見つめてくるロボ子さん。

私はつい何でもないと答えたが…言い終えた後に聞きたいことがあったのを思い出した。

 

「あっ、そう!私が行った世界はどうなったの!?」

 

「…ほうほう。現実世界へ帰還しても忘れなかったか。やっぱりボクの見立ては間違ってなかったね。」

 

「え?何のこと?」

 

「何でもなーい。とりあえず、そらちゃんが行った世界のことについてだね。」

 

ロボ子さんのセリフに疑問を持たなかった訳では無いが、今は気にすることないと思い先を進める。

 

「まず、そらちゃんが行った世界だけどちゃんとそこにも名前がついてるんだよ。」

 

「へぇー。」

 

今いるここはMAINと言う名前が付いている。

そこまで興味を示さないような反応をすると、ロボ子さんが少し焦った表情をする。

 

「なんか反応薄い!?…まぁとりあえず、その世界の名前はParallel World KINGDOMと言うんだ。」

 

KINGDOM――それが、私とノエル副団長たちと出会った世界。

 

「…今はどうなったの?」

 

「そらちゃんが見たまんまさ。ちゃんと過去は変わった。ノエルは本来より早い段階で団長に就任したからね。」

 

その言葉は少し胸に刺さる。だが、今はもう前を向くと決めた。苦い顔をしながらも話を続けていく。

 

「もう一度皆に会うことは?」

 

「できるよ。」

 

思ったよりも早い返答だ。「できる」と、聞いた時のときのそらの顔には嬉しさが滲み出ていた。

 

「それじゃあ――」

 

「――でも、あの世界にはもう行けないよ。」

 

「え?」

 

反対に、まさか否定されるとは思わなかったことに対して否定されたことでときのそらの動きが止まった。

 

「安心して。再び同じParallelには行けないけど、似た時間軸の別のParallelに入ればいい。」

 

「でもそれって…。」

 

あの世界で会ったノエルたちと同一人物なのだろうか?

そんな疑問が頭を駆け回る。

 

「回り回ってこのMAINにも干渉された。ここも変化が訪れたんだよ。」

 

「変化…?」

 

そう言われるが、前来た時と変わった様には見えなかった。

 

「――落ち着いて聞いて欲しいけど。」

 

そう一呼吸置き、次の瞬間想像もしないことが言い放たれる。

 

「本来はもっと酷かったけど…そらちゃんが世界を変えたおかげで、ノエルたちの死体は何とか消えずに済んだよ。」

 

「――え?」

 

死体?消えずに済んだ?

言っている意味が分からなかった。

 

「ど…どういうこと?」

 

「見た方が早いかもね。」

 

そう言われ、入り口を塞いでいたロボ子さんが横に退ける。

ゆっくりと、一歩ずつ前へ進み洞穴の外へと出る。

 

「…何これ?」

 

――そこには、布に覆われた人型の塊が5つ横たわっていたのだ。

 

「え…。これって…。」

 

一番端にある1つの布をゆっくりとめくる。

中から現れたのはプラチナ色の髪の毛。その顔の正体は、今話で出ていたノエル本人だった。

 

「――っ!!?」

 

それを見た瞬間、激しい嘔吐感に包まれる。

両手で必死に抑え、今にも吐きそうなこの気持ちを何とか堪えようとした。

 

「…ボクが運んだわけじゃないよ。そらちゃんが「世界を見届ける」――過去の世界を救った結果、ここに突如現れたのさ。」

 

ロボ子さんは何故死体があるのにこうも平気に話せるのか。ときのそらはそこまで親しく関わってなかった団員の死でさえも激しく動揺した。

それでいて、大切な仲間の死体を見て果たして冷静にいられるだろうか。

――この気持ちの悪い感覚が収まるまで、一日近くは要しただろう。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

ようやく吐き気が収まり、何とか声を発する状態にはなった。

それでもしばらくは正常ではいられないだろう。

 

「簡単に分かりやすく言うよ。――本来の歴史では、ノエルたちは跡形もなく消え去っている。それが、今ここに遺体として形を残している。…そらちゃんが過去に干渉し、世界を救ったからだよ。」

 

「…干渉?別に、そんな特別なこと何も。」

 

「特別じゃなくていい。そらちゃんがそこにいたという過去が存在していればいい。」

 

「…私がいた過去?」

 

少しずつ話が難しくなっていく気がするが、大切な話だろうと思い必死に理解しようとする。

 

「本来であればそらちゃんは居なかった。でも、Parallelを通してそこにそらちゃんが居たという過去が残る。…そらちゃんと関わった全ての人物が、大きく改変されるのさ。」

 

つまり、ときのそらが直接特別なことをしていなくても、ときのそらと関わったことで未来に影響を受ける人物がいるということ。

それらが積み重なり、結果過去は変わり、未来に変化をもたらすことになる。

 

「まぁ、あんまり難しく考えなくていいよ。」

 

それから少しの間、話を整理するために時間を割いた。

それと同時に確固たる意志を決める。

 

「あっ…皆の記憶は?」

 

今の話を聞いて気になったことがあった。

未来が変わったというのは分かる。そしたら、皆の記憶はどう変化するのだろうか。

 

「ちゃんと改ざんされる。新しくなった世界の記憶に切り替わるよ。」

 

…私と出会ったノエルの記憶。それは違うParallelでもその通りに引き継がれるという事だった。

その話を聞いて1つ引っかかる事がある。

 

「…分かるよ。ボクは何故消えた過去の記憶を覚えているのかでしょ?」

 

こちらの考えを見抜いて、ロボ子さんが先に口を開く。

 

「結論から言えば、ボクにもいるんだよ。「大好きな親友」が。その子の「特殊能力」のおかげかな。」

 

「…特殊能力?」

 

「そう。まぁ、まだ分からなくていいよ。」

 

そう言われ、一度この話に区切りがついた。

 

「…とりあえず、ここにいる5人…5人?」

 

遺体として残ったというのが、結果良い方向へ進んだということはとりあえず納得せざるを得なかった。

ただ、その内2人は知らない顔だった。

 

「…ノエル副団長…あ、団長になったんだったね。それと、マリンちゃんとるしあちゃん…。」

 

この3人はすぐに分かる。だが、残りの2人。金髪の長い髪で、尖った耳が特徴的な褐色の少女。

そしてもう1人は――人?頭から兎のような耳が生えている青髪の少女だ。

 

「…この2人とは出会ってないけど。」

 

「巡り巡ってこの2人も未来が変わったんだよ。つまり、ノエルたちとは知り合い…仲間ってことだね。」

 

あの後に出会った仲間なのだろうか。

でも、ノエルたちと同様遺体になっているということは――

 

「助かるとこまではいかなかったみたいだね。」

 

「――私、皆を助ける。そのためにここに来たんだから。」

 

こんな姿はもう見たくない。ノエルたちと会いたい。できれば、このParallel World MAINで。

――また、一緒に笑ったり、泣いたり…あのときの日々をもう一度繰り返したいと思った。

 

「ふふ。その返事を待ってたよ。」

 

そう言って、ロボ子さんが、褐色の女の子の体をまさぐった。

 

「な、何してるの?」

 

「そらちゃんが次のParallelに行くための準備。」

 

「準備?」

 

そう言いながら、何か探し終えたのか手を止め、ときのそらへとある物を渡してくる。

 

「…これは、矢?」

 

手渡されたのは、1本の弓矢だった。

 

「行きたいParallelに縁のある物を持ってくとそこに行けるんだよ。KINGDOMへ行ったのも偶然じゃないよ。」

 

確かに、行く前に「聖騎士団の証」というのを持って行ってた。

つまり、次行く世界はこの褐色の少女に縁のある過去ということだ。

 

「頑張ってねそらちゃん。ボクの…「大切な仲間」たちを救い出して欲しい。」

 

そのロボ子さんの儚い表情を見てときのそらは少し驚いた。

――こんなに切ない顔をするとは思ってなかったからだ。

これからいくつものParallel Worldを旅しようとも、決して忘れない――ときのそらにとって守らなくてはいけないと思った。

 

「…それじゃあ行くね。」

 

話の中、『秘密の丘』へとやって来る2人。

 

「うん。次行く世界は――」

 

ロボ子さんの最後のセリフと同時、再びあの暗転がやって来る。

 

――Parallel World FOREST。

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