私のお父さん? 龍神オルステッドですよ? 作:口の端にほっぺが!
ミリシオンという街から転移し、赤竜山脈の麓まで移動した。
木々が少なくなり、次第に赤茶けていく土を踏んで、ひたすら歩いた。
その転移魔法陣についてパパに聞いてみたところ、この世界では禁術とされているらしい。
なんでもミリス教の上層部が、転移における知識のほぼ全てを牛耳り、一般人は転移の存在すら知らないそうなのだ。
危ない。“転移って、知ってるー?”のノリで街の男の子に話すところだった。
ていうか、自分で禁術って言っておきながら堂々と何度も使うパパは、一体何者なんだろう。
ミリス教の上層部などではないことはわかるが。
謎の多いパパだ。
それと、おそらく私は1歳になった。
拾われた日にちもわからず、どれくらい経ったのかも世界中を移動しているために全く分からない。行く先々で気候が違うのだから。
けれど、名付けられてからかなりたったような気がしている。
そんなわけで、私はキリよく1歳を名乗ることにした。0歳と違いはほとんどないけど。
まあ、とある理由で数えられるようにはなったけどね。
まあ、1歳と数えてはいるが、体の成長の方は全く当てにならない。もう乳歯が半分ほど生え終えて、髪もショートに切りそろえられるくらいには伸びた。
なんなら肩甲骨の当たりが少し隆起し、埋まっていた羽のサナギみたいなのも大きくなり始めた。
そう。羽である。翼である。
赤子の頃から恒常的に感じていた背中の痒みのわけは、パパに体を洗ってもらった時に解決した。
『翼の付け根が、鱗と皮膚の境になっている。この時期はひと月に1回、脱皮をしないと痒いだろう』という言葉と共に。
私、爬虫類の人間の亜人だったの!?
と、酷く慌てたものだけど、パパは
『ハチュウルイは知らんが、お前は竜族だ』
とだけ言って、興味深そうに私の背中を見るだけ。
そのままでいるのも恥ずかしいので、さっさと皮を剥いでもらって服を着た。
あの日以来、背中に手が生えたかのような違和感がある。
その違和感を意識すると、肩甲骨の間の何かがちょこちょこ動くのだ。
王子様を待つ身としては、おどろおどろしい翼がついていないことを祈るばかり。天使みたいなプリチーなのがいいな。
ともあれ、脱皮の影響で月は数えられるようになった。
他に月のものでも数えられたりはするが、あれはもうしばらく来ないだろうし、思い出したくもない。
あれが来るとやる気がダルさに早変わり。フラストレーションが階乗で溜まるのだ。
数えるために、付け根のあたりの硬い鱗を切り取り、『1』と書いてしまっておいた。
そして、ここ赤竜山脈。
中央大陸で最も大きな山脈であり、赤竜が支配する地帯。
遠くからでもギザギザした輪郭を見ることが出来、その傾斜のけわしさを伺える。
竜の群れに、登りにくい山。人がまず訪れることの無い場所のひとつだ。
そんな山の中腹に、パパは倉庫を持っているという。
それを聞いた時は、パパならそういうこともあるかー、なんて気安い心持ちで伴をしていた。
人里から離れ、次第に草本も薄くなってゆくなか。
それまでは声だけが聞こえていた、空の怪物がすがたを現した。
誰だよ!可愛くドラゴン描いたやつ!!エ〇マー違うじゃん!!
舐めていた。甘く見ていた。
個人用航空機が、猛スピードで空を翔るとか、そういうスケールだった。真っ赤な鱗を身体中に貼り付け、大きな黄色い目で私たちを睨む。
熱い熱風とともに威嚇され、軽くどころか、思いっきり悲鳴をあげてパパにしがみついてしまった。
そのせいなのか、その竜と上空で見守っていた竜数匹がいっせいに私たちに襲いかかる。
今が、丁度そんな状況だ。
「やっちゃったあああああ!!」
「あまり大声をあげるな。奴らが興奮する」
次々に威嚇する竜たちを前に、パパは一歩も引かない。声も震えていない。顔色ひとつ変えてすらいない。
対する私は酷い有様だ。
足は子鹿のように震え、顔の血は引き、必死にパパにしがみついている。
仕方ないじゃん!?
ドラゴンがこんなに怖いの知らないじゃん!?
「た、倒せるの...?」
今度は小声で尋ねる。
明らかに桁の違う相手を前に、まだ素手のままだ。
気を抜いていないことはわかる。相手の先手に対応するための脱力だ。そのはずだ。
パパは、なにか諦めたように一息。
「問題ない。が、あまり数を減らしたくはない」
「ど、どうするの...?」
いけない。まだ1歳の体は失禁を我慢できそうにない。
一刻も早く安心したい。
パパはそんな私を見て、また一息。
「いくら倒そうとも、既に怯えを見せた獲物に赤竜は容赦しない。だが、お前をどこかに置いていく訳にも行かん」
「おっ?」
急に抱えあげられた。もちろんお姫様抱っこなどではなく、小脇に抱える感じだ。
「走るぞ」
「え、えええええぇぇぇぇええ!?」
驚く間もなく、パパは猛スピードで走り出した。
「もう一度...?」
「ああ」
行きは急なダッシュに反応できなかったのか、赤竜は追いかけては来るものの、襲いかかってくることはなかった。
その勢いのまま、真っ赤な石の隙間に滑り込み、その地面でへたりこんだ。
外からドラゴンの唸りが聞こえる。まだ足の震えが止まらない。入ってこないのかな。
そんな疑問が氷解してつかの間の休息を得るまもなく、奥からパパが出てきて出発を言い渡す。荷物を置いてきたのか、行きよりも身軽になっていた。
ここが倉庫らしい。
正直、腰が抜けてもう立てない。
もう一度咆哮を浴びせられたら、失禁する自信しかない。
「行くぞ」
「え、ちょ、まっ」
抱えられて洞窟を出れば、巨大なドラゴンと目が合った。
「ふん!」
「ああああぁぁぅぅおおおおおお!!」
地面に降り、行く手を阻む赤竜の眉間をパパは一殴り。
急な挙動で首が持ってかれそうになったが、赤竜が悶えるのが傍目にうかがえた。
「強ぉぉおおおお、あいたっ!!」
「舌を噛むぞ」
先に言って欲しい。
走り出すと同時に、群がる赤竜が一気に襲いかかってきた。
パパの走るスピードはボルトなんて目じゃないくらいのものだが、ドラゴンの飛翔スピードも尋常じゃないくらい早い。
あんな重たそうな体を、どうして羽ばたきひとつで移動させられるのだろうか。
ああ、魔力か。
「パパはまよくつかあないの?」
「必要ない。それに俺は魔力の回復が遅い」
喋りながら、低空飛行する竜を跳んで躱す。
下を向いた状態で抱えられているので、さながらバンジージャンプの気分だ。
紐はないが、彼が手を放すことは無いと信じたい。
なんとしてでも信じたい。
ジャンプし、滑りこみ、眉間を殴り、走る。
だんだん酔ってきた私は、遠くを見ることも出来ずひたすら目を瞑っていた。
今度ここに来る時は、私がもっと強くなるか、いっそ来ないことにしよう。
社長の50メートル走は、どのくらいなんでしょうかね。
社長はラプラスが残した対ヒトガミの武器を集めつつ、未来への伏線を立てているはず。
この世界に四次元ポケットや魔法による収納はなかったはずだから、回収したものがどこかに保存してあるかな、と思いました。
ワンチャン竜族のオリジナル魔術でも良かったですが、アニメ版で社長が赤竜山脈歩いてたので、その辺に保管庫があることにしました。
では、また明日。
王竜と赤竜の区別をつけられてなかった...
コメントで教えてくださった方、ありがとうございます!
ユウれい様、minotauros様、ジャック・オー・ランタン様、
誤字報告ありがとうございます!!
前半二箇所を加筆修正致しました。