私のお父さん? 龍神オルステッドですよ?   作:口の端にほっぺが!

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第11話 おつかいの一例

「できた!!」

 

「おお!すごいな、お嬢ちゃんは」

 

石に囲まれた薪の上に、小さな火の球が触れる。それはあっという間に伝わり、底の小さな枝が燃え始めた。肌を刺すような外気が温まり、焚き火のまわりを囲む全員がほっと息をついた。

 

日の暮れた森の中。

私はおじさん集団の中で、焚き火を起こしていた。

 

「よっし、そっちの肉刺すぞ。エレナが死んだ分、パーッとやって送ってやらねえとな!」

 

「おう!!よし、かわいこちゃん。そっちの串取ってくんねえか?」

 

「まいど!」

 

「女将か!」

 

陽気なパーティリーダーとサブリーダー、そして私の会話で、それまでドンヨリ気味だった剣士と魔術師も苦笑する。

子供ばかりに食事の支度を任せてはいられない、と立ち上がり始めていた。

 

 

 

「いただきまーす!!」

 

「おう、たんと食べろ!」

 

肉汁溢れる獣肉に、豪快にかじりついた。

 

翼の脱皮が5回目を迎えた頃。およそ1歳と5ヶ月。

パパからのおつかいは、多岐にわたるようになった。内容も複雑になり、一日で終わらないものも増えた。

 

信頼されているのを感じる。これからもっと忙しくなるだろうけど、嬉しい限りだ。

 

「カルス、下を向いてないで、顔上げて食おうぜ!」

 

「───でもよう、エレナが」

 

「あいつの故郷じゃあ、笑って魂を送るんだそうだ」

 

「エレナは...」

 

「エレナだって、そうしてくれと望んだ」

 

パーティリーダー───ジャンゴヤというその男は、目元を真っ赤に晴らしながら、串を片手に立ち上がる。

 

「だから、みんな笑おうぜ!!あいつが安心して向こうに行けるようによう!!」

 

そう言って堪えきれずに泣き出し、咄嗟に豪快に笑った。

近くに魔物でもいたら殺到してきそうな大声だった。

だが、彼と生死を共にする彼らは、仲間の死を見届ける彼らは気にしない。むしろ大声で追い払ってやろうなんて気概でもあるかのように、必死に笑う。

 

「わーっはっは!!わーっはっはっは!!」

 

私も笑う。

 

彼らの仲間の死は、目の前で見た。

 

彼らと夕餉を共にして、1人だけ態度が違うなんて無粋な真似は、できるはずもなかった。

 

 

 

 

 

「今回は、『ブラッドバレット』。そのパーティのリーダー、『ジャンゴヤ・ルムリア』を助ける」

 

鬱蒼としげる森を歩いていると、前触れもなしにパパはおつかいの内容を語る。まあ、いつもの事なので驚きはゼロだ。

片手におにぎりを持った私は、一口齧ってからパパに問い返す。

 

「私が助けるの?」

 

「いや、俺が魔物を殺し、彼らが俺から逃げていった後に合流して、一晩共にしろ」

 

「一晩?」

 

「魔物は集団だ。俺が全てを殲滅する前に、そのうちの一体が必ず一人の魔術師を殺す。そいつはパーティ唯一の火魔術使いだ。そいつがいなくなればその夜に火をたけず、精神と体力がすり減り、翌日には魔物の再襲来で倒れる」

 

「その魔術師は助けなくていいの?」

 

「その魔術師とジャンゴヤが結婚すれば、ピレネル国の姫を盗賊団から救い出す子供が産まれない。魔術師が死ねば、10年後、ジャンゴヤと別の女性との間にその子が産まれる」

 

「魔術師可哀想じゃん」

 

こんな感じで、聞けば彼は理由を答えてくれる。

傍から聞いてみれば、ちょっとどころかかなりおかしい話だろう。

 

それもそのはず。

 

パパは、未来のいくつかの可能性を見ることができるらしい。

 

その力を利用して、悪い神様を倒そうと色々動いているのが、パパの旅の本質と言うわけなのだ。

 

薄々勘づいてはいたが、もっと黙っていなきゃいけないことなのかと思っていた。しかし、聞いたらすんなり答えを貰えた。

 

分からない。この世界の普通がパパの普通に当てはまるか分からない。

 

ともあれ、一つ一つのおつかいの目的を聞けば、ただそれをこなすだけよりかは幅が広がる。

こうしても問題は無いかな、これもした方がいいかな、とか臨機応変に動けるのだ。

 

少しの違いで未来が思わない方向に変わってしまうかもしれない。けれど、関わった人達に好感を持ってもらうことは悪いことでは無いはずだ。

小さなポイント稼ぎでも、いずれ大きなリターンになる。チリツモってやつだね。

 

 

 

 

 

「にしてもよ、お嬢ちゃん小人族じゃないんだろ?その歳で魔術なんてすげえなあ」

 

「まだエレナには及んでねえけど、こりゃ、大成するんだろうなあ」

 

「えへへ。褒めても何も出ませんよう」

 

食べている途中に返事をしたせいで、口の端から肉汁が溢れ出た。

少し臭みの残ったそれは、私のズボンを汚す。

 

エレナというのは、先程魔物に噛みつかれて死んだ魔術師のことだ。

負傷したジャンゴヤを治癒している後陣に、潜んでいた魔物が強襲。エレナは無我夢中で魔物からジャンゴヤを守った。

パパが魔物の群れを掃討し、ほかの仲間が駆けつける頃には、彼女は既に虫の息だった。

魔物の牙に着いていた毒が回ったらしく、薄れゆく意識の中で、彼女はジャンゴヤに『生きて...』と告げる。

彼らは付き合っていたのだろう。ジャンゴヤは必死に彼女の名前を叫ぶも、彼の腕の中で静かにその生涯に幕を引いた。

 

悲惨な最期だった。しかし、ジャンゴヤは強かった。

いち早くパパに気が付き、彼女を担いで撤退の号令をかけた。

ただ、心の傷は深かったようで、私が追いついたときには、彼が一番泣いていた。

 

これだけ思ってくれているのだ。彼女の死も報われ、清らかに天に昇ることだろう。

 

ただ、10年後にジャンゴヤが別の女性と子供を作ることを聞いた身としては、微妙な気分だ。エレナが『10年以上引きずってて欲しい!!』みたいな感じだったとしたら、ギリギリセーフなライン。

まあ、この世界は生と死が隣り合わせだという職業がわりと多い。私が何か言えることでもないだろう。

 

 

 

話は変わるが、彼らの言うように、私は魔術を使えるようになったのだ。

 

魔力は使えば使うほど増えるようで、パパに読み聞かせをしてもらったあと、毎晩『火弾』を練習した。

小さな火の玉を目の前に浮かすだけの魔法だが、冒険者稼業では重宝されるらしい。いい魔法を覚えたっちゃ。

 

しばらくそれを続けているうちに、無詠唱で火弾が出るようにもなった。パパの言う通り、詠唱無しで魔力をコントロールできるようになったのだ。

 

つい最近のことではあるが、嬉しさのあまりまた魔力枯渇で気絶してしまったのもいい思い出だ。

 

しかも、私の無詠唱火弾は、本の説明とは違って調整すれば飛ばすことができる。

 

空手で遠距離戦はできないだろうし、こういうのは覚えておくに越したことはないかな。

 

「ところでよう」

 

「はい?」

 

ジャンゴヤが声を潜めて私に問う。

 

「なんで、お嬢ちゃんの親父はあんなに殺気撒き散らしてんだ?あんなに物騒なの、初めて見たぞ」

 

そうだなあ。魔物じゃなくてあいつに殺されるかと思ったよ。

パーティメンバーも口々にそう言う。

 

「うーん。何故か分からないけど、すごく人に怖がられているというか...」

 

おつかいが私とパパの連携モードになると、毎回パパについて聞かれる。

それは必ず、『何故あんなに殺気を振りまいているのか』というもの。

パパかっこいいねえ、みたいな和やかな会話は一切出ない。

 

「そりゃそうだろ。あんだけの殺気に中てられちゃあ、誰だって身がすくまあ」

 

「私は何も感じないけど、なんでなのかな」

 

とは言ったが、わけは知っている。

以前パパに聞いた際に、呪いの影響なんだと聞いた。

 

この世界には呪いというものがあって、それにかかったものは否応なしにその効果を現す。

最初に聞いた時は、魔術の種類のひとつかな、と思っていたがどうも違うようだ。

生まれた時から、あるいは何かをきっかけにして発現する、体質なのだそう。

 

それを知ってから何回か、『お前の親父おっかねえ』に

『呪いのせいなんです』と説明を試みた。

 

しかし、誰にも信じられなかった。

 

パパ曰く、『怖がられる』呪いではなく、『嫌われる』呪いらしい。

 

嫌ってる相手の言葉を信用することが難しいのと同じことなんだろう。感情を抜きにして本質を見抜ける人じゃなければ、パパの呪いに思考を奪われる。

それをできる人っていうのが、ペルギウスという、あの髭のおじさんなんだとか。

年の功ってやつだね。

 

私も精神年齢は18歳だし、本質を見抜けるタイプなのかな、と思ったが、すぐに否定された。

 

私は特殊な体質で、呪いが効きにくいのだそうだ。

 

そんなわけで、呪いのせいだと説得をすることは諦めた。

パパもそれを見越して行動してるようだし、私が代わりに好感度を稼いでおけば問題ないのだ。

 

「よくわかんねえが...。お嬢ちゃん、怖いことされそうになったら、近くの町の冒険者ギルドに来な」

 

「強いおじちゃんたちが守ってやるからよ」

 

「うん!ありがとう!!」

 

まあ、まず怖いことなどされるはずもないし、そもそも冒険に興味があるという訳でもない。

多分行くことは無いだろうけど、多くの冒険者とコネクションを繋いでおくのは大切かもしれない。

 

まだその辺の知識も曖昧だったので、串に着いた残りカスを啄みながら、冒険者やその他のことについて色々聞いてみた。

 

 

 

 

 

「ほんとにいいのかい?お嬢ちゃん」

 

「うん!お元気で!!」

 

「ルミリスちゃん、元気に育つんだぞー」

 

「サナキアに来たら、冒険者ギルドによってよな!いつでも大歓迎だ!」

 

「ミリス様の御加護があらんことを。達者でな」

 

「はい!!」

 

子供らしく、精一杯の声でお別れをし、森の奥へと進む。

昨夜は食べ終わるとすぐに眠りに落ちてしまい、彼ら5人についての話をすることが出来なかった。

せっかく一緒にご飯を食べたのだ。彼らの思い出話も聞きたかった。残念。

まあ、パーティメンバー水入らずで仲間を弔う時間も必要だったはず。仕方ない。

 

「大丈夫だったか?」

 

「パパ!!平気だよ」

 

木に彫ってある$のマークを辿り、パパが隠れる木のうろまでたどり着いた。

今日はいつもと違い、既に出発する支度をしていた。

 

まだ朝は早い。人に見つかりにくい時間帯に移動を始める時は、長時間歩くとき。

そして、転移陣を使うときだ。

 

「今度はどこに行くの?」

 

ここは赤竜山脈の東側。サナキア王国のはずれのはずれ。

赤竜山脈を下ってからは、ずっと南東に下ってきた。

転移をするということは、別の大陸に行くのだろうか。

 

あるいは、この大きな中央大陸の、反対側か。

 

「お前のおかげで、一年ほど余裕ができた。近頃、魔物が活発化している地域があると噂を聞いた。そこへ行く」

 

人と接することができないパパがどう噂を聞いたのか気になったが、静かに次の句を待つ。

 

それは、まだ一度も行ったことのない、けれど一番よく聞く国の名前だった。

 

「次は、アスラ王国だ」




魔術師のフルネームは、おそらくエレナ・イーガーとか言うのでしょう。


投稿遅くなった!!
言い訳!!今朝の電車がスマホを取り出せないほど混んでたから!!

これまでこれといって○○編とかつかないような構成でしたが、次からロア編が始まります。

次の投稿は来週月曜!!
いい週末を。

minotauros様、ベンザ様、クオーレっと様、ジャック・オー・ランタン様、誤字報告ありがとうございます!!
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