私のお父さん? 龍神オルステッドですよ?   作:口の端にほっぺが!

12 / 15
第12話 ロアの街へ

この世界には、三大大国と呼ばれる国がある。

 

王竜王が倒されたことで一気に大国へとのし上がった、北神流の本拠でもある『王竜王国』。

世界で最も大きな宗教であるミリス教の総本山、『ミリス神聖国』。

 

そして、世界で最も強大な国力をもち、水神流の本山でもある『アスラ王国』。

 

アスラ王国は、さらにいくつかの領地に分けられ、それぞれを上級貴族たちによって、平和に統治されているという。

 

 

 

「魔物の大量発生は、起こらないはずなんだっけ」

 

「ああ。いつもなら、こんなところで魔物の活発化など起きない」

 

そう言って、パパは一度止めた足を進める。

 

ここは、アスラ王国北東部。『フィットア領』と呼ばれる地の、小さな平原だ。

 

そして、その向こう。巨大な城壁に囲まれている街は、城塞都市ロア。フィットア領で最も大きな街だ。

フィットア領は、またの名をボレアス領と言い、その名の通りボレアス家が統治している領を意味する。

 

ロアは、ボレアス本家が住まう街なのだ。

 

おそらく街の中には人の営みが広がり、貴族の馬車が通ることもあるかもしれない。

遠くからでも見ることが出来る、城のごとき屋敷には、この世界で貴族と呼ばれる階級の人間が暮らしているのだろう。

 

貴族少女への転生を夢見た私としては、ボレアス家のお嬢様というのも気になるところだ。

 

 

 

パパは、迷いのない足取りで城壁へと進む。

 

いつもなら、城壁から姿を見られただけで怖がられてしまうので、まず街に近づくことは無い。

しかし、今回はそうするだけの理由があった。

 

「本当に、大丈夫なのか?」

 

「うん。宿代引いても余裕はあるはずだよ?」

 

前の街で魔石を換金して手に入った、アスラ金貨の袋を揺らす。

 

「お金のことではない」

 

パパは、立ち止まる。

袋を高くあげて『この紋所があ』のポーズをする私を、じっと見る。

パパの恐ろしい顔は、心配するように歪んでいる。

一見すれば睨んでいるようにも見えるが、一級パパソムリエの私ならわかる。はず。

 

パパは、厳しい表情で言葉を続けた。

 

「...お前の闘気は、もうすぐ中級剣士レベルに達するだろう。だが、お前自身の戦闘力はまだ無いに等しい。この辺は人さらいも起きる。少しでも身の危険を感じれば───」

 

「この指輪に魔力を流せ。だよね?」

 

「ああ」

 

左手の薬指に付けた指輪が、真っ赤にきらめく。

別にこの指じゃなくて良かったし、他意はない。なんならこの世界の常識にも、結婚指輪なんて概念は無さそうだが、乙女心がこの指に着けたがった。他意はない。

 

この指輪に魔力を込めれば、パパが一瞬で飛んで来てくれるらしい。素晴らしい道具。

ただし、意識して魔力を込めなければいけない。そのため寝ている時など、意識がない時に外されてしまえばそれまでだ。

気をつけなくては。

 

「ルミリス、2ヶ月だ」

 

パパは体を翻し、城壁と平行に街から離れる。

パパは、これから魔物の活発化が最も顕著に見られる、ブエナ村というところに行くらしい。

歩けば一日の距離で、パパが走れば十数秒の距離だ。

 

「了解っ!!」

 

右手をあげて敬礼。

短い時間の別れだけど、無事に再会できるように少し願う。

 

しばらくして腕を下げ、ロアの城門へ駆け出した。

 

 

 

 

 

「ロアの街に行きたい?」

 

パパが、私の言葉に首を傾げる。

顔も恐ろしい程にしかめられるが、もう慣れたものだ。この顔は困った時の顔だと知っている。

 

「うん。パパの探索範囲なら、そこが一番近くて大きな街だから」

 

サナキア王国から2ヶ月。

私たちは時々人助けなどのおつかいをしながら、フィットア領までたどり着いた。

 

ただし、今回の旅のおつかいは、本当にただのおつかいだった。

 

このお金で新しい服を買うといい。この街にお前が欲しそうな髪留めがある。この貴族の家に文を届けろ。人さらいを殺すから残った子供たちを街に送れ。

 

多分、未来予知とかをしないただのおつかいだ。

 

要するに、今は休暇フェイズなのだ。

 

しばらくおつかいがないのであれば、私は街に行きたい。同年代の子供と喋り、この世界の常識を手に入れる。

あと、最近野蛮な食生活に疲れてきたっていうこともある。味噌汁が恋しい。

 

パパの話では、魔物の活発化は特にフィットア領で酷いらしく、パパでも予測できないようなことが起きる、その前兆かもしれないというのだ。

実際その地に赴くのは魔物を倒すためではなく、その移動経路を見て、問題の震源を探るためだという。

 

そこまで聞いて、これ幸いと話を切り出した。

 

おつかいの最中に宿の相場を聞いたり、街での注意事項、貴族に対する最低限度の礼儀まで聞き込んだ。

 

まだ2歳にもなっていない子供が、たった1人で街に行くのは危険かもしれない。

けれど、おつかいが始まれば定住も難しくなるし、学ぶことがもっと増える。

 

今しかないのだ、ということを少しばかり熱弁してみた。

 

「頼み事が嫌だったのなら、しなくていいんだぞ」

 

悲しい顔をされた。

言い方が下手だったようだ。

 

 

 

ともあれ、2ヶ月分の資金を手に。

私は、ロアの街に行けることになったのだ。

 

 

 

 

 

「ここが、ロア...」

 

門をくぐり、屋台が立ち並ぶ大通りを少し進んだところに、大きな広場があった。

 

私は、思わず立ちすくむ。

 

「大きいなー」

 

眼前に聳え立つのは、城の如き様相をした領主の屋敷。

正真正銘貴族の屋敷が、街のど真ん中に鎮座している。

ちょっとした丘に建てられているのだろう。この街のどこにいても、あの建物が見えなくなることはない。

 

そして、視線を下げる。

 

噴水の前では、数組の家族が子供たちを遊ばせている。

屋敷へと真っ直ぐ伸びる大通りは、冒険者の姿をしている人で賑わっていた。城門近くから、宿屋、武器屋、民家、行政地区という並びなのだろう。

大通りの奥の方には、仕事合間の散歩といった風情のおじさんや、小金持ちの家族が仲良さそうに歩いているのが見えた。

 

久しく見ていない、人の街。

 

屋敷の様子を見たり、王都に行ったりしてみたかったが、この街を探索するだけであっという間に2ヶ月が過ぎそうだ。

 

 

 

あまり広場で立ち尽くしているのも良くない。

そう思って、まずはさっさと宿をとった。

 

おつかいで聞いた話では、三ツ星だとか五ツ星だとかの代わりに、宿の質を冒険者のランクで呼ぶらしい。

S級からF級まで。全部で7段階だ。

 

そこから、その宿の安全度、住み心地、食事のクオリティなどを見極めるそう。

 

まあ、だいたいBを取っておけば安全と言われているけど。

私はウィンドウショッピングの感覚で、めぼしい宿の様子を見てみた。

 

それからおよそ30分で、だいたいの感じは見て取れた。

この街はCやBが多い。屋敷の近くであればA級の宿もあった。

私はその中で、なるべく街の奥の方のB級宿屋をとり、早速部屋に上がった。

 

宿の名前は『犬猫亭』。

宿の主人が猫を一匹飼っている、そんな宿だ。

 

犬は!?

 

そういえば、宿を冷やかしている間に気づいたことだが、この街の宿には犬や猫に関連した名前が多い。

屋敷にもっとも近いところにあったA級宿なんて、小動物どころか獣人と呼ばれる人種も働いていた。

 

見た目は、おしりからしっぽが生え、頭には耳が付いているだけの人間。

それだけなら前世でのコスプレイヤーでも同じ以上のことが出来る。

彼らが違うのは、耳やしっぽが動くことだ。

 

『可愛いお客さんね』とばかりにしっぽが跳ね。

『ご両親はどうしたのかしら』とばかりに耳が垂れる。

 

まあ、こう思っているんだろうな、という想像ではあるが、彼らのそれらは感情の揺れと共に動いている気がした。

 

その無意識の反応が、めっちゃ可愛い。

 

街の通りで買い物をしている獣人を見て、思わずしっぽに触ってしまったほどだ。

触ってから『やばっ』って焦ったけど、この体が功を奏した。うへへ。

 

 

 

蝶番を軋ませながら、ドアを開く。

部屋には、ベッド、タンス、机や椅子などが1人分揃っていた。

さすがはフィットア領の中心都市なのだろう。床には絨毯が引いてあるし、毛布の触り心地もバツグン。

思わず、これって羽毛ですか、と宿の主人に聞いた。

『羽毛じゃないですよ。中央大陸北方に住む、ダニエルドッグという魔物の犬毛です』

 

ドナ〇ドダック!?

 

『いえ、ダニエルドッグです』

 

犬毛製毛布ってどういうこと!?聞いたことないんだけど!?

もしかして『犬猫亭』の犬ってこっから取ったの!?

 

疑問が多少あったにせよ、しばらくの寝食は確保出来た。

 

どこかに出かけたいが、既に日が暮れ始めている。

 

1年半ぶりにゆっくりお風呂に入って、ご飯を食べて。

とりあえず、今日はゆっくり眠ろう。

 

明日は、空手と魔術の練習ができるスペース探しと、さっき見た大きな本屋に行ってみようか。

 

 

 

 

 

ウッキウキで主人に風呂を尋ねたら、そんなものはないと返された。

いつか入れる時が来たら、私はしずかちゃんになりそうだ。




おはようございます。

アニメの中で、空飛ぶ犬が出てきたでしょう。
あれの亜種がダニエルドッグです。

さて、ロア編が始まりました。
エリスの誕生日が少し前にあった時期ですね。
ちなみにルミリスが拾われたのは、ルーデウスがロアに行く少し前。
まあ、彼らとルーデウスたちを今、合わせる予定はないので悪しからず。

また明日。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。