私のお父さん? 龍神オルステッドですよ?   作:口の端にほっぺが!

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第13話 日課作り

どんな夢を見ていたっけ。

 

私の一日は、微睡みの中で、数瞬前の微睡みを思い出すところから始まる。

 

夢の中の私は、高校生だったり、あるいは赤ちゃんだったり。目の前に白い道着を着た生徒が構えていたり、どこかで見たイケメンが白馬の上から手を差し伸べていたり。

 

そして、異世界転生などしていないことに怯える。

 

全てが夢だったんじゃないか。そうやって、慌てて覚醒する。

 

 

 

「一人、なんだっけ...」

 

目が覚めると、いつもとは違う天井が見えた。

洞窟とも、木のうろとも、はたまた三白眼の怖い顔とも違う。

 

木の板が敷き詰められた天井だ。

 

『犬猫亭』2階3番室。

私はロアの街に来て、1人で宿に寝泊まりしているのだ。

 

いつも体を起こせばすぐ近くに見えるパパもいない。

開放感はあるが、寂しさもある。

 

「おはようございます」

 

静かに、自分に言い聞かせる。

日はまだ昇り始めてすらいない。私以外の住人はほとんど眠っているだろう。

いつもならパパ相手に『おはようございます!!』と叫ぶところだが、これからはそうもいかない。

省エネルミリスだ。

 

足音を立てないように、桶を持って静かに階段を往復。

未だ火属性魔術以外の教本は手に入っておらず、そのほかの属性魔術は使えない。

厨房前あった水壺から水を汲み、部屋で火魔術を使って温める。

 

パパに聞けば知らないことを、たくさん教えてくれるのだろう。

けれど、あまり多くのことを教えてもらう訳にも行かない。

自力で力や繋がりを手に入れて、恩返しをするのだ。自分でできることを頼ってばかりでは、この先は上手くいかない気がする。

 

これだけ大きな街だ。ほかの魔術教本だってあるだろう。

 

パシャッ

 

「ぷふーっ」

 

温かいお湯で顔をあらう。

春の風が吹いてきているとはいえ、外気は冷たい。

1階で見つけた洗剤らしき粉末で体も洗いたいけど、日が昇ってからにしよう。

 

一通り準備を終わらせた後、藍色の外に出た。

 

 

 

 

 

「よっ」

 

城壁と教会に挟まれた、小さな広場。

早朝に人がいるはずもなく、大きな壁に囲まれたここは、魔法を放っても外から気づかれにくそうだ。

 

「ビンゴ!」

 

こっそりガッツポーズ。

 

土を均し、前世よりも短い手足で構える。

 

始めるのは、パパと旅をしている時もしていたモーニングルーティン。

空手の型、そして魔術だ。

 

首が座ってから走る跳ぶのと替えて、前世にずっとやってきた空手の、基礎的な動きを毎朝やってきた。

 

パパは不思議そうな顔をしてみてくれていたが、たまにアドバイスをくれた。

 

打突と同時に、闘気を拳に流してみろ。

足腰に闘気が溜まりすぎている。全身くまなく流せ。

体が小さい分、重心を意識しろ。

 

最初こそ剣を使うことを勧めてきたが、最近では理解してくれたのか、自分でも真似していた。

 

そして、教えてくれることはわかりやすく、しかもはっきりとその成果が実る。

 

子供だから吸収が早いのかもしれないが、パパは本当に教えるのが上手い。何をどうすればいいのか、理論もつけてくれるのだ。

戦う技術を合理として完全に理解している気がする。

 

この世界では、かなりの強者なんじゃなかろうか。

 

 

 

一通り型を終え、念の為と持たせてくれた小さな刀を素振る。

この世界では剣術が主流だ。

パパも剣こそ使わないが、使う技術はほとんどが剣術に分類されるらしい。

闘気で剣のようにした手刀で剣術をしている、というのがパパの空手もどきの正体だ。

 

この世界で空手道の第一人者になってみたい気もするが、まずは剣術を覚えて護身ができるようになるべきかな。

ただし、パパは剣を振らないため、職業剣士を見つけた時に教えを乞うしかない。

今は、前世で剣道部の子がやってたように素振りをしておけばいいはずだ。

 

 

 

「火炎放射」

 

どこかに燃え移ったりしないように、短く長く両手から火を伸ばす。

空手と素振りが終われば、魔術の練習だ。

あまりやりすぎて倒れる訳には行かないので、朝半分夜半分の魔力消費でやっている。

 

そしてここは市街の一部。

誤って城壁を焦がしたり、家を燃やしたりしてしまった日にはもう子供の遊びという言い訳ではすまない。

保護者はどこですか?

責任を取らせましょう!

の流れが目に見える。

 

だから、魔法はゆっくり、目立たぬように。

 

最近は中級魔術である、「火炎放射」や「火球弾」も覚え、ただ火の玉を浮かべるだけからバリエーションができた。

魔力量もかなり増え、以前測った時は、一日に中級魔術を50回出してやっと気を失った。

 

世の中には治癒魔術なんてのもある。

魔力は魔術を使えば使うほど増えるようだし、多いに越したことはない。

 

 

 

 

 

朝のルーティンを終えた私は、もう一度宿に戻る。

日が昇り、少しずつ温まっている空気を魔術で温め、体を拭く。

主人が1階でご飯を出してくれたので、ゴツイおじさんとヒョロいおじさんの間で朝食を終えた。

 

 

 

「ドナーティでとれた新鮮な牛の乳、いらんかねー」

 

「さっさと行ってあの公園取ろうぜ!!」

 

「よっしゃ、行くぞぉぉおおお!!」

 

「待ってよ兄ちゃん!」

 

朝の大通りは、昼ほどではないが活気がではじめている。

牛乳売りが屋台を引き、子供たちは石畳を走る。

屋敷には数台の馬車が入り、宿の女将ははたきを片手に世間話。

 

「田舎だなあ」

 

前世の田舎の方なら、こういう景色も見えるんだろう。花のJKも、ここでは麻袋を担いで宿屋に配る労働者だ。

 

ふと思ったけど、学校ってあるのだろうか。

漫然と学校で人気なマドンナになってもいいかな、なんて思っていたけど、学校がないんだったらそれもできない。

 

ラノア魔法大学があるとも聞いたが、聞いた相手は全員冒険者のおじさん。

年齢制限もないようで、男性の方が多いらしい。

 

貴族が通うような大きい学校があればいいけど、もしかしたら大勢の男に囲まれて姫をするしかないかもしれない。

 

こんなことを言っている人がいたら、前世の私は鼻で笑っただろう。

こいつ鼻高すぎやろ、と。

 

けれど、今は違う。

 

「むふ」

 

宿から出て、近くの商店街を歩いていると、婦人服を売っているお店を見つけた。

サイズ的に買うことはないが、興味はあるのでイン。

 

店の奥には、小さな鏡があった。

 

鏡には、じっとこっちを見つめる私が見える。

 

サラサラと流れる銀髪。輝く黄金の瞳。切れ長な目。まだ子供ながら整った顔立ち。高い鼻。

 

ワオ、ビューチフォー。

 

さながらハリウッド映画の大女優の子供時代を見ているようだ。外国系美少女。

生意気という設定が加わればイメージがピッタリ合いそうな見た目だ。

 

要するに、私は可愛いのだ。

 

「うふふ」

 

胸は大きくなるんだろうか。前世は絶壁とは行かないまでも、水泳に難儀しない程度の大きさだった。

別に大きいのが欲しい訳では無いが、一度グラマラスな体になってみたいとも───。

 

「あの、お嬢ちゃん?」

 

「はっ!!」

 

真っ白な肌を真っ赤に染めながら外へ出た。

 

 

 

 

 

「植物辞典、ラノアの歴史...」

 

婦人服を慌てて飛び出し、さらに視線を集めてしまった私は、目の前のこじんまりとした建物に入った。

古ぼけた小さな建物の中はランプの小さな光で弱く照らされ、映画館に入ったかのような錯覚を引き起こした。

 

一体ここは...

 

そう思って辺りを見渡すと、それらがあったのだ。

数十冊の本が、棚にずらりと並んでいた。

 

私は、前世では読書家な方だった。

友達と喋ることも好きだが、家では基本的に読書。

辞典を読み込むとか、そういったガチなことはしなかったが、本は好きなのだ。

 

十数冊を数えたところで、5冊ほど同じ本が並んでいるのを見つけた。

この世界のベストセラーとかだろうか。

『ハチー・ポッツァー』とか『ロード・オブ・ザ・ウィング』とかあるんだろうか。

 

気になって、静かに本を抜き出す。

 

名前は、『魔術教本』。

 

そのままゆっくり本を開く。

 

「っ。まじ?」

 

基本6種のうちの4つ、火・水・土・風。

それらが全て、上級魔術まで書かれていたのだ。

 

「オホン」

 

「あっ、すいません」

 

立ち読みは良くなかったか。これは失敬。

パタリと本を閉じ、裏側に張られた値段表を見る。

 

アスラ銀貨8枚。

 

「ぼったくられてるー」

 

「オホン!」

 

「あっ」

 

すみません。

 

もう一度値段を見る。

この間、助けた商人から貰った『火魔術上級読本』は金貨10枚。内容は『魔術教本』の方があるはずなのに、値段の桁が違う。

あのおじさんは損をしたんじゃないだろうか。

 

まあ、その本をタダで私にくれたので、おじさんが損をしたことに変わりはないか。

 

そんなことよりも、今はこの本だ。

 

銀貨8枚。

宿代2ヶ月分で銀貨5枚だった。

前世では考えられないほど、本は高価なのだ。

けれど、他の本に比べれば間違いなくオトク。

 

綺麗なお湯で体を拭くのに水魔術は欲しいし、どこでもお風呂に入れるためにも土魔術は欲しい。

髪を乾かすのも風魔術を使って熱風を吹かせた方が、髪は傷むが手早く済む。

 

しかし、銀貨8枚。

 

宿で2ヶ月過ごすために、私はパパから銀貨10枚を貰った。

いざという時のために、追加で2枚。

 

安いとはいえ、有り金じゃ少し足りない。

 

せっかくいい料理が食べられるようにはなったけど、これは質素倹約な生活の始まりかな。

 

さっきのJKみたいに配達の仕事をしたり、あるいは冒険者でもしてお金を稼ぐしかないんだろうか。

 

「ぐ、ぐ、ぐ...」

 

「オッホン!!」

 

「はっ!!」

 

大丈夫だ。本は5冊もある。直ぐに売り切れ、などということは無いはずだ。

2ヶ月かけて働けば、銀貨1枚分などすぐ稼げる。

 

しかし、パパにお願いした方が確実性は上がる。

人の街に全く寄らないのに、お金は少なくない量が懐に入っていた。

けれど、それでは自力で2ヶ月過ごす、という私の目標を違えている。

いやでも背に腹は代えられない...。

 

店のオーナーに不審者を見るような目で見られつつ、必死に考える。

ついに諦めようとしたその時。

 

「その本読みたいの?」

 

「!?」

 

すぐ側から声がした。

すぐ横に、私より少し背丈の高い女の子が、本の表紙をじっと見ていた。

 

「え、うん。でも、お金が無くって」

 

慌ててたどたどしく応えると、その女の子は青い瞳で私を覗く。

 

「あたちが読んであげる」

 

「え、でも立ち読みは...」

 

オーナーに聞かれていないか、と焦って言葉を濁せば、女の子は小首を傾げる。

 

「あたち、その本持ってるから。おうちで、読もう?」

 

「まじ!?」

 

もう一度、咳き込む声が聞こえた。




ルミリスはまだ2歳未満!
どう考えても街の人の対応や彼女の行動が不自然すぎる!

そう感じたそこのあなた。
12話の感想欄の返信で、必死に言い訳を書きました。

読んでもらえれば、多少は違和感を払拭できるやもしれません。

今週は明日まで!!
ロア編は18話くらいで、ブエナ村編を2、3話使ってそれから転移事件になりそうです。

言わずもがな、事件のあとは、のほほんとした旅模様は終わりを告げます。
ので、このあと数話はまったり話になっております。

では、また明日!!

ちなみにミリス金貨2枚でアスラ銀貨1枚分なので、『魔術教本』は『火級魔術上級読本』の5分の8倍の金額です。

面倒くさい設定ですが、彼女は大陸ごとに通貨が違うことを、まだあまり知りません。

ジャック・オー・ランタン様、誤字報告ありがとうございます!!
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