私のお父さん? 龍神オルステッドですよ? 作:口の端にほっぺが!
「メリー、どこー?」
ガバッ!!
外から聞こえた女性の声に、少女は勢いよく振り返る。羽織った上着が本に引っかかって落ちかけたが、すんでのところでキャッチ。
オーナーの視線が痛い。
「お姉ちゃーん!」
「しーっ!しーっ!」
必死に合図をするも、トタトタと本屋の外へとかけ出す。
オーナーが怒るって!!
必死に頭を下げつつ、追って私も外に出た。
「メリー、外に出る時は、その前に行き先をママに言わなきゃダメでしょ?」
「ごめんなさい...」
昼の日差しに目を細めつつ外に出ると、メリーと呼ばれた女の子が、年上の女の子に怒られてシュンとしていた。
メリーを一回り大きくした感じの子だ。姉だろうか。
メリーが3、4歳くらいで、大きな方は10歳くらい。
どちらも金髪碧眼で、容姿も服装も整っている。
「そういえば...」
金髪碧眼って、貴族の象徴じゃなかったっけ?
ボレアス家には、10歳くらいのお嬢様がいたはず。すると、この子が領主様の娘なのでは───。
「あ。あなたは、メリーのお友達かな?」
「あ、えーっと」
「そうだよ?」
そうらしい。
「ご本読みたそうにしてたから、あたちの家で一緒に読もう、って誘ったの」
「本?」
「まじゅちゅきょーほん、っていうご本」
「あら、そうなの!」
ちょうど良かったわ、と大きな子は手を合わせる。
そうか。貴族の家なら、家に本が沢山あって当然だろう。
「はい。その本が読みたくて...」
「もう、そんなにかしこまらなくもいいわよ」
そう言って、私の手を取る。
真似してか、メリーも反対の手を取った。
「『魔術教本』ならあたしも好きだもの。それと、あたしのことは、レイナってお呼びになって」
「あ、あたちメリー」
それだけ言って、待ちきれないように駆け出した。
「さ、お家に行くわよ」
「行こーう」
子供らしく元気な2人に手を引かれ、私も走り出した。
「ニアミスだったかー」
目の前に、大きな屋敷がそびえ建つ。
城壁の外からも、その異様を伺うことが出来た、ボレアス家の屋敷だ。
そして、私はそれを阻むように建つ、ふた周りほど小さな家の前に立っている。
2人に手を引かれ、私たちは街の大通りをその根元まで走った。
あと数歩走れば、屋敷への階段を上る───。
その直前に、2人は直角ターン。
やたら足腰を鍛えてしまったせいで、2人を飛ばしかけて思わずヒヤリ。
2人は、そんなことを全く気にしない。
そのままの勢いで脇の小道を連れていかれ、そうしてこの家の前に着いた。
大通りに面した、玄関のない小さな家とは全く違う。
小さな門に、家がもう一戸入りそうなほど大きい庭。そして、ドアの上に掘られた家紋。
領主ではなくとも、格式ある家柄なのははっきりとわかった。
金髪碧眼は、やっぱり貴族らしい。
「お帰りなさいませ。レイナ様、メリス様」
庭の手入れをしていた女性が、私たちを見るやいなや寄ってきて綺麗に一礼した。
服装や態度を見る限り、この家のメイドなのかな。
彼女たちへの礼を終え、私に向き直る。
「そして、可愛らしいお客様。ようこそマーブル家へ」
そばかすの浮かぶ顔を綻ばせ、また優雅に一礼。
「あ、あ。こちらこそ。その、私はルミリスと申します」
あまりの丁寧さに、思わず気圧される。
「あたしたちの家のメイドをしてる、サリーよ」
その言葉にまた一礼。
ぎこちなさが無く、緩急丁寧な一礼。
前世では、これほどの礼をできる人などそうそういなかっただろう。
「ほら、家に入りましょう?サリー、お水の用意をお願いできるかしら」
「かしこまりました」
「ほら、行こう!!」
あっけに取られている私を、さらに2人は引っ張る。
そうして、私はマーブル家の門をくぐったのだ。
「これは...?」
涙模様の入った壺を指さす。
その模様は精緻で、メラ〇ラの実をメ〇メラさせていないような静けさが伺える。
自分でも何を言っているのか分からないが、要は一般人じゃ凄さが分からないような、ちょっとした工芸品だ。
「それはドワーフの壺、『青龍の涙』よ」
「へえ...。これは?」
壁に飾ってある、一本の剣と杖。白い柄に少し凸凹した剣。そして、さきっちょに緑色の小さな結晶がはめてある木製の杖。
どちらも、年季が感じられ、誰かの思い出の品の気配を感じる。
「剣は、お父様が冒険者の頃から使っている大事な剣。杖は、お母さんが子供の頃にお師匠様から貰った、治癒用杖よ」
「それならあれは...」
家に上がってしばらく。
サリーさんにお水を用意してもらい、居間のテーブルについてスタンバイ。
しかし、メリーが肝心の『魔術教本』を見つけられないらしく、私たちはしばらく待つことになった。
軽めの自己紹介も終わり、手持ち無沙汰になって無言に───なんてこともなく、私はレイナに目につく知らないもの全てを尋ねていた。
その始まりは、剣と杖の上に飾られた、大きな絵画。
『ロミオとジュリエット』の名シーンのように、お城のバルコニーで女性が手を伸ばし、男性が頭上へ手を伸ばす。
油絵で描かれたそれが、でかでかと飾ってあったのだ。
目についた瞬間、聞いていた。
「あれは...」
「え?あ、あれはね、『ロゼリア姫とダンテ王子』の絵ですわ」
そして、さらに色んなものが目についた。
「じゃあ、あれは?」
「あ。あれはメリーの宝箱ですわね。後で自慢すると思うわ」
「じゃあ」
と、自制が利かずあれこれ聞いてしまった。
なんせこの家、知らないものが多すぎる。
いや、異世界だから当たり前なのかもしれない。
しかし、最初に目がいった工芸品や美術品以外にも、日常品で「なんだこれ!」となるものも多くあった。
あぶらとり紙かと思えばちり紙だったり、水瓶だと思えばちょっとした工芸品だったり。
いや、ちょっと考えればわかるようなものか。少し見慣れないものが多すぎて混乱しているらしい。
ともあれ、色々聞けて助かった。
家に上がるときも靴を脱ぎかけたのも、ここだけでできる失敗かもしれない。
そして、レイナはそれらに熱心に付き合ってくれた。
打てば響くように答え、私の知りたいものを余すところなく教えてくれる。
ありがたい。
「ただいまー。メリーは帰ってきたのかしらー?」
食卓から厨房の方まで回ろうとしていると、玄関から別の女性の声が聞こえた。
「お母様。メリーは帰ってきたわ」
「そうなの。良かったわ」
慌てて居間に戻ると、レイナを大きくしたような女性が1人。
「お帰りなさいませ。奥様」
「ありがとう、サリー」
「それと、レイナ様、メリス様にお客様です」
「ええ、可愛らしいお客さんね。いらっしゃい」
上品に微笑む。
普通の微笑みとも違い、サリーと同じように洗練された美しさがあった。
ただ、この女性の場合は高貴さが大きなウェイトを占めている。
「る、ルミリスです。よろしくお願いします」
日本式の礼をひとつ。
「あら、いい子ね。ゆっくりしてらっしゃい」
「見つけたー!!」
と、その大声でメリママの顔が困ったようにほころぶ。
それと同時に、階段下にメリーが着地した。
「もうメリー?家の中で大声を出したり、はねたりしちゃいけないのよ?」
「ごめんなさい。あと、勝手に外出てごめんなさい」
直前の元気から一転、しゅんとした面持ちでメリーは頭を下げる。
レイナもサリーも、もちろんメリママも苦笑いをしていた。いつものことなのかもしれない。
下がった頭がぴょこんと戻り、ニコッとメリーが笑う。
「ご本、あったよ!」
そう言って、メリーは私に、本屋で見たのと同じ本を突き出した。
それから、メリーの音読のもと、私たち3人は一緒に『魔術教本』を読んだ。
途中自己紹介をしたり、洗濯物の取り入れを手伝ったりしながら、その詠唱を頭に叩き込む。
それから2時間ほど。
初めの方の解説や、難しいページを飛ばしつつ、ついに私たちは4種の魔術を全て読み終わったのだ。
「じゃ、行くわよ!」
そして、現在。
本を読み終わった私達は、レイナの実演を見ることになった。
どうもレイナは水魔術を中級まで使えるらしく、メリパパが休みの日は、一緒に的当てで練習をしているという。
メリーはまだ使えないようで、「それじゃ、私が魔術を見せてあげるわ」ってレイナが言った時には、ものすごく羨ましそうな顔をしていた。
「頑張れー!」
「頑張って、お姉ちゃん!」
部屋から自分の杖をとったレイナは、広い庭の端っこに立つ。向かいには、大きな丸い木の的。
いつもならメリパパ監視の下でやるらしいが、せっかくのお友達とのことで、水魔術の初級『水弾』を見せてくれるらしい。
距離は10メートル。大きさは直径30センチといったところ。
射撃とかアーチェリーを経験したことがないため分からないけど、あの的に当てるのは相当難しいんじゃないだろうか。
私たちは、メリママたち含めた4人で、レイナの傍から見守る。
「オホン」
レイナは咳をひとつ。
小さな水色の結晶をつけた杖を指揮者のように振りかざし、静かにつぶやく。集中し、目を閉じている。
街の中の、庭の端っこだというのに、レイナからは静謐さが辺りに広がるように溢れ出る。
そして、レイナは口を開いた。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れをいまここに『水弾』」
杖の先に、小さな水の玉ができる。
それは拳大の大きさのまま、杖の動きと共にレイナの胸の前で止まり───。
「えいっ!」
スパッ!!
寸分の互いもなく、木の的を撃ち抜いた。
「すごい...」
思わずつぶやく。
「すごい!!お姉ちゃん、すごいよ!!」
「やったわね、レイナ」
「流石でございます」
それを皮切りに、みんなも口々にレイナを褒める。
「んふふ。ありがとう」
大絶賛されたレイナは、恥ずかしそうだ。
頬をかき、顔の赤いまま私に杖を渡す。
「ルミリスも。水魔術やってみようよ」
迷わず受けとったけど、さすがに的に当てることなどできそうにない。
けれど、ありがたく、この機会を受け取って水魔術を覚えてしまおう。
お風呂への階段を、ひとつ上った。
そういえば、設定をひとつ忘れてました。
龍族(古代龍族)
龍の世界では、赤竜など個として最強の種族をペットにしたり、家畜にしていた。
また、古代龍族の混血であるラプラスも、発生からしばらくは洞窟にて1人で過ごしていた。
これらのことから、龍族は寿命は数万と長いながらも、幼年期や乳児期の期間はほかの種族より短く、ほかの種に圧倒されないよう、早々に動けるようになっていたのではと推測。代わりに青年期が長いものとみる。
古代龍族の混血であるルミリスもその影響を色濃く受け、体の発達が早く、幼少期は人の1.5~2.0倍の成長速度だとしています。
さて、今週の投稿終わりました。
来週は、1、2話投稿するか、12月の終わりに5話くらいまとめて出すかもしれません。
では、さらばだー!!
ジャック・オー・ランタン様、誤字報告ありがとうございます!!