私のお父さん? 龍神オルステッドですよ? 作:口の端にほっぺが!
あれから半年が経った。
ルミリスという名を授かり半年。
ペルギウスおじさんと彼───パパは二言三言交わし、私たちは遺跡の外に出た。
それから、行きと同じく気を失うように眠り、気づいたら針葉樹の森を歩いていた。
そこから先は、あちこちへと歩き回った。
真っ赤に涸れた山を登り、再びジャングルに戻り、荒涼とした大地を歩き、針葉樹の森を進み。
一日に数十分歩けるようになった私は、パパと並んでひたすら足腰を鍛えた。
パパは、なにか目的をもってあちこちを訪れているようだった。
時々、「ここか」とか「もう少しだ」とか。
世界中を何度か来たことでもあるかのように迷わず歩く。気の遠くなるような距離を歩いてきたのだろう。良さげな洞窟だったり、大きな木のうろだったり、簡易宿にうってつけな箇所を網羅していた。
パパと旅をしていて、定時に眠れなかったことなど一度もない。
そんなパパが、旅の目的地で何をしたのか。
多くの場合、それは人助けか人殺しだった。
野党にさらわれていた家族を救い出し、雪山で遭難していた商人を街の近くまで送り、街の外れで人を売っていた商人を殺し、武者修行に暮れていた武人を殺し。
何故こんなことをするのか、私はまだ聞けてはいない。
大抵の場合、死の瞬間はパパにそこから遠ざけられる。まあ、子供にそういうのを見させない方がいいのはよくわかる。仕方ない。
いずれパパの旅の意味がわかる日も来るのだろうが、それはもう少し、私が大きくなってからだ。
パパもそう思うだろうし、私もそう思う。
「パパ、行ってくるね!」
「───ああ、行ってこい」
近頃は、パパの目的の一端を任されるようにもなっていた。だが、それも子供ができるようなもので、街の広場で遊んでこい、向こうの道を通る商人と長話をしてこい、これでおもちゃでも買ってこいだの。
全て同じ口調で言われるが、時々甘やかしてくれてるんだろうなっていうものもある。非常にわかりにくい。
ああ。それと、パパの本名はオルステッドというらしい。
あれからパパとの会話も増え、そのおかげで街に1人で送り出されることも多くなった。そのおかげで言語はあっという間に上達し、いまでは小学生並みの会話をこなせるくらいになってるはずだ。
私より少し年上の子供とも話し、色々な言葉を覚えた。
そんな言葉のひとつに、『パパ』があった。
その単語を聞いて、果たしてオルステッドは私のパパなのか、疑問に思った。
そして、疑問はドライヤーにかけられたかのように、瞬時に氷解した。
私の自我が早く芽生えただけで、彼は私のパパじゃないか。成人して、実は俺はお前のパパじゃないんだ、と告白される展開予備軍じゃないか。
ということで、彼をパパと呼び始めた。
パパはそれにどうにも慣れないようで、呼ばれる度に、まじまじと私を見つめる。
そういう時は、私も目を逸らす。
未だに、顔の怖さには慣れないね。
「よっ」
急な斜面を、石を乗り越え川を飛び越え、ショートカットしてずんずん進む。
この辺は日本の山に似ていて、懐かしさと郷愁が同時に湧いてくる。
けれど、涙は流れない。
今は楽しいからね。
今日のお使いは、『山道に、崩れた荷車と怪我した馬、そして気を失った男がいる。そいつの懐に、この魔石を入れてこい』というものだった。
パパは王子なのだ。そして今日の私はツバメだ。冬は近い。
なので、パッと行ってパッと戻ろう。
「とうっ!」
それと、もうひとつ。
この体は不思議で、体の中を血液とは違う何かが流れている。パパの言うところの、魔力というやつらしい。
パパは、それを体に練り込めば闘気となる、なんて言っていた。
初めこそわからなかったが、最近になってコツを掴めてきた。
その影響で、既に足の速さは、瞬間的には前世と同じくらいになり、拳の突きだけで細めの木の幹は削れる。まあ、前世の私は50メートル8秒代だったんだけどね。
なんにせよ、ゼロ歳の子供でこれは異常だ。
この世界は本当に不思議だ。
ガラララッ
「うあああっ!!」
ひたすら登っていると、落石のような音と、誰かの悲鳴が聞こえた。下から。
どうやら通り過ぎてしまったらしい。
慌てて引き返してみると、直前に見た山道から荷車がはみ出し、その重量で馬も落ちかけていた。御者の人は興奮して酷い慌てようだ。
これから落ちるところなんだろうけど、気を失っていない時に助けた方が言いに違いない。
それを確信して、私は再び駆けだした。
「ああぁぁあ。助かったよ...」
情けない顔をしたおじさんが地べたにヘタリ込み、息を吐く。馬は、ぶるるるっと鼻を鳴らした。
実に簡単な仕事だった。
斜面の下側にまわり、荷台を一気に押し上げる。そのせいで馬が斜面に垂直に降りるような形になったが、すぐ横っ飛びに飛んで馬の胴体を放り投げた。
重心を見極めて、あとは力技。思ったよりも力がでた。
足場が悪かったために木を足場にしたが、それらは全て折れてしまっていた。なむあみだぶつ。
「はい」
「へ?」
私は赤色の魔石を差し出す。私の両手より大きいそれは、日光に淡く輝いている。
これを渡せば、私のお使いも完了だ。
「今ので中のもの壊れちゃったかもしれないし、その、お返し」
「えっ!?」
まあそんな反応になるわな。こっちはむしろもらう側なのだ。そう考えると、気絶していた方が任務は達成しやすかったはず。反省だね。
「いや、むしろお返しするのは僕のほうで...」
「いいから。私魔石アレルギーで持ってるだけで辛いの、早くもらって」
「アレル...?」
「ほら」
戸惑うおじさんに、半ば無理やり魔石を押し付けた。なんだか押し売りしている気分だ。クーリングオフは利かないよ。
それを受け取ったおじさんは「ちょっと待て」といい荷台に戻る。
少しして戻ってきた彼の手には、赤い魔石の代わりに、分厚い本が3冊乗っていた。
「確かに、あれだけ本が汚れてしまえば売り物にならない。破産だ。だから君の魔石はありがたくいただく」
「それは良かったわ」
「だが」
そう言って、近くにあった平坦な石に3冊の本を並べる。
「これは、助けてくれたお礼だ。重いんだったら、1冊だけでも構わない。それぞれアスラ金貨10枚で私が買ったものだ」
そう、まくし立てる。
正直お金の話はまだ分からない。しかし、この世界で本が非常に高価であることはわかっている。
「本の名前はなんて言うの?」
「『北神カールマン二世、英雄物語』、『聖ミリスの世直し』そして『火魔術上級読本』の3つだ」
「ミリス...」
気になる名前が出てきた。というか、私の名前とよく似ている。聖ミリスも、歴史上の人物なのだろうか。
正直、北神うんたらのような男の子向け絵本は、ペルギウスおじさんので十分だ。満足だ。
あとは、火魔術。魔術は時々街で目にするが、具体的な分類を聞いた訳では無い。
しかし、本に書かれるくらいならばそれなりに上の位の魔法なんだろう。人間、火があれば光も安全な水も食料も得られる。それに獣は火を怖がる。
異世界人の私が仕組みを理解できるかは分からないが、大いに興味が湧く。
よし。
「『聖ミリスの世直し』『火魔術上級読本』の2つ、欲しいです」
「まいど!!」
本を汚さないように、今度はゆっくり斜面を歩く。
「そうだ」
にこにこ顔の商人が、斜面を覗く。
どうしたんだろう。
「君の名前を教えて欲しい!」
おおきた。人助けの真骨頂。パパは誰からも怖がられてする機会はなかったけど、私にはチャンスが回ってきた。
「私の名前は、ルミリス」
「そうか、ありがとう!君の旅路が良いものであることを、小人族のルミリス!!」
心がぴょんぴょんするとは、こういうことを言うのだろう。やはり人助けはいいことだ。
ところで、最後のコビトゾクっていうのは、なんだったのかな。
ひとまず、投稿はここで中断。
おそらく何話かを1ヶ月に1度のペースで出していく感じになります。
では、それまでさらばだー。
ジャック・オー・ランタン様、誤字報告ありがとうございます!!