転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
少しずつ暖かくなってきましたね。
レインさんから異界の裂け目、そして『
三人で住処の前まで転移したところ、シーザーの身体を磨いていたガビルと丁度出くわし、帰りを歓迎された。ガビルはレインさんが気になっていたようだが、事情は全て首領の間で話すと伝え、シーザーを除く四人で移動する。
首領の間には首領を始め、親衛隊長と爺さんたちが集まって何やら会議をしているところだった。ガビルと同じように三人も俺と青娥さんの帰還を喜んでくれて、つい胸が暖かくなる。しかしそれどころでは無かったことを思い出し、俺たちは『
「なっ・・・・・・なにぃいい~~~~っ!そのような恐ろしき連中が明日現れるというのであるか!?このジュラの大森林に!?」
説明を聞き終え、声を上げて驚くガビルに俺と青娥さんは頷いた。首領の方をちらりと見ると、顔に手を当てて沈黙している。オークロードに続いてこのようなトラブルまで発生し、最早言葉も出ないのだろう。
「ふむ・・・・・・アクト様が名付け、短い期間とは言え青娥様が鍛えただけはありますね。まさかリザードマンにこれ程の力を持つ個体がいるとは」
この話を持ってきたレインさんは俺たちから一歩引いた位置でガビルを観察していた。彼女ほどの実力者に友達が評価されると少し誇らしくなる。
「これはなんとも・・・・・・悪い出来事というのは重なるものですねぇ・・・」
「オークたちの件もあるというのに・・・!」
爺さんが苦笑した後で親衛隊長は苦々しそうに呟く。俺は緩んだ表情を引き締めてガビルに声を掛けた。
「ガビル。オークたちの調査に出てるっていう仲間たちは?」
「それがまだ戻らんのだ。そろそろ帰ってきても良い筈なのだが・・・」
「首領、如何なさいましょう・・・?」
困ったようにガビルが唸っていると、不安そうな声で親衛隊長が首領に指示を仰いだ。首領は少し間を空けてからうむ、と答え、レインさんに視線を向ける。
「・・・・・・レイン殿、だったかな。その『
「それは現れてみないことには何とも。ですが、七十年前に現れた時の群れは、カリオン様率いる獣王戦士団でも殲滅するのに一週間程の時間を費やしたそうです」
「成程・・・・・・では、我等リザードマンの中で、『
首領の言葉の後、レインさんはこの場にいる全員・・・正しくは俺と青娥さん以外を見回す。それから再び首領に向き直りこう告げた。
「まともに戦えるのはガビル様だけでしょうね。首領様と親衛隊長様は、下級の個体一体だけならばなんとか。しかし・・・・・・失礼を承知で申し上げますが、貴殿方だけではどう足掻いても連中には勝つことは不可能です。例え、ガビル様を含むシス湖とその周辺に暮らす一万のリザードマンたちを集結させたとしても」
それを聞いたガビルは表情をむっとさせたが、それだけで特に何も言わなかった。彼もレインさんの言ったことが事実だと理解はしているのだろう。
少し前までなら絶対レインさんに噛み付いてたと思うけど・・・・・・力だけじゃなく、精神面もしっかり成長しているな、ガビル。
「そう、か・・・・・・いや、無理もあるまい。雑兵でさえB以上なのだ。オークどころかオーガたちすら可愛く思えてくるわ。くっくっく・・・」
一方、首領は薄く笑っていた。恐らくこれはとんでもない事態を前に半ば開き直っているのだと思われるが・・・・・・しかし、彼は決して自棄にはなっていない。
「・・・・・・息子よ」
「っ!?はっ!」
「そちらのレイン殿・・・そしてアクト殿たちと協力し、『
「は・・・ははーっ!御意!」
首領からの指令をガビルは跪いて了承した。声が少し嬉しそうだったのは、首領に頼られていると感じたからだろうか。
「よ、よろしいのですか首領?オークたちの脅威が迫る中、兄・・・ガビル殿をここの守りから外してしまって・・・」
「仕方なかろう。状況が変わったのだ、先ずは『
不安そうな親衛隊長に首領は目を伏せてそう答える。頭では首領の言う通りだと納得しているのかもしれないが、親衛隊長はどこか不安そうにしている。『
「大丈夫だよ親衛隊長。『
俺の『魔物師者』が持つ権能、『魔物召還』はブルムンドで強化された。それによって召還した魔物を元いた場所へ送還することが可能となったのである。このスキルがあればガビルをシス湖に待機させておいて、こちらが必要な時にガビルを呼び出したり、逆にシス湖で何かがあった時はすぐにそちらへ戻すことも可能なのだ。
それを伝えると、親衛隊長は少し安心した様子を見せた。
「それでは、ガビルさんとシーザーも『
んー、と青娥さんが悩む仕草を見せる。青娥さんとレインさんという二人の実力者がいれば誰が相手でも問題は無いのでは、と思うが・・・・・・俺は『
「・・・・・・おぉっ!そうである、アクト殿に我が妹へ名付けをして貰えば良いのでは?」
「えっ!?」
その時、まるで名案が浮かんだとばかりにガビルがそう言い放った。突然そんなことを言われた親衛隊長は目を見開いてガビルを呆然と見つめている。
「うむ、それが良い!妹だけでなく、爺や我輩の可愛い部下たちも名付けによって力を得れば、『
「ちょ、ちょっと待ってガビル!?」
親衛隊長の視線に気付かず一人で盛り上り始めたガビルを俺は慌てて呼び止めた。ガビルはきょとんとした顔でこちらに振り返ると、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたのだアクト殿?」
「あ、あー・・・その・・・・・・名付けは少し考えた方がいいんじゃないかな・・・」
なんと言って彼の考えを改めさせれば良いのか分からず、俺は視線を虚空に彷徨わせながら小さく呟く。
俺が親衛隊長への名付けに反対・・・というか抵抗があるのは、首領の気持ちを知っているからだ。彼は、息子であるガビルへの名付けを本当は自分自身で行いたかった。しかし、弱体化や寿命の問題があり、タイミングを見計らっている内にゲルミュッドなる魔人がガビルに名付けをしてしまった。それによってガビルが増長したり、二人の仲に亀裂が入りかけてしまったのである。
親衛隊長は首領の想いを知っている。ガビル本人が気付いているかは分からないが、彼と同じように自身も父親から大切にされていると彼女は理解している筈。だとすると、俺から名付けされることに抵抗があるだろう。
・・・・・・というか、いくら仲良くしているからってリザードマンたちと関係の無い俺が彼等に名付けをして良いのだろうか。
名付けをしたガビルとシーザーとは対等に、友達として俺は接している。仮に親衛隊長や他のリザードマンたちに名付けをしたとしても、別にその皆を部下扱いなんかはしないが・・・・・・一応俺は上位魔人にカテゴリされている。そんな俺が首領を差し置いてリザードマンたちに名付けをすると、首領の立場を脅かしかねないし、シス湖周辺のパワーバランスが崩れるかもしれないし、そもそも名付けした全員の面倒を見切れないと思うし、あまり良くないことになりそうな気がするんだよな。
「・・・・・・そうですね。ガビルさん、私もその案には反対です」
「なぬ!?」
すると、青娥さんから助け船が出された。そう言えばあの時、青娥さんも一緒に首領の想いを聞いていたっけ。恐らく俺と親衛隊長の様子を見て内心を察してくれたのだろう。
「確かに、アクトくんの『魔物師者』に含まれる『命名者』の力があれば、名付けによって消費された魔素は必ず回復します。しかし、すぐにとはいきません。さらに親衛隊長やお爺さん、ガビルさんの部下たち複数に名付けをしたら、アクトくんの魔素量が元の量に回復するまで一体どれだけ時間が掛かるか・・・」
「そもそも、名付けしたところで戦力になるかも怪しいですね」
青娥さんの後でレインさんが続けた。全員の視線が今度は彼女に集まる。
「聞けば、ガビル様はアクト様が名付けをした時点で既にネームドだったとか。そしてアクト様と共に青娥様からの修行を受けていたんですよね?」
「う、うむ・・・その通りである。『気闘法』について学ばせてもらったのだ」
「えぇ。それら二つの要素があったからこそアクト様の名付けによってAランクオーバーの存在へとなれた・・・・・・つまり、そのどちらの条件も満たしていない他のリザードマンの方々ではアクト様が名付けをしたところであまり期待できないのですよ」
ガビルの返答を聞いてレインさんはそう告げた。仲間たちを戦力外だと決め付けられ、ガビルは黙ったまま怒りを滲ませた表情で肩を震わせている。親衛隊長や爺さんたち本人は大して気にした様子も無くうんうんと頷いているが。
「勿論、ガビル様含め他の方々も、青娥様とアクト様に出逢う前から各自修練を積んでいるだろうとは理解しております。それでも、並みの魔物がただ名付けをされた程度で太刀打ち出来る相手ではないのです。『
「だ、だが・・・!」
「止さんか、息子よ」
食い下がろうとするガビルを首領が呼び止めた。何故だとでも言いたげな顔でそちらへ振り向いたガビルに首領は鋭い視線を向ける。
「レイン殿の言う通りだ。同族たちを無闇に危険に晒すことは許さん。それに、これ以上アクト殿に迷惑を掛けるでない」
「は、ははっ・・・!申し訳ありませぬ・・・」
厳しい声色の首領に諌められ、ガビルは消え入りそうな声と共に頭を下げた。ガビルを一瞥した首領は小さく息を吐くと、レインさんに向き直る。
「レイン殿。我等は『
「畏まりましたわ、首領」
首領からそう頼まれたレインさんは、スカートの裾を摘まみ微笑を浮かべたまま一礼する。了承してくれたレインさんに首領が感謝の言葉を述べていると、俺の隣に立つ青娥さんが小さく咳払いをしてからこう言った。
「・・・・・・まぁ、なんと言いますか?ガビルさんも仲間の皆さんのことを想ってのことですし?戦力を増やすという考え自体は間違っていませんし?なので、そのぉ・・・・・・そんなに落ち込むことも、ないんじゃないかなぁ、って・・・」
なんと、青娥さんが珍しくガビルをフォローしたのだ。青娥さんの意外な発言に俺は思わず目を丸くする。そんな俺の視線に気付いた青娥さんは、どこか気恥ずかしそうにはにかんだ。
なんだ今の反応は。可愛い。
「ホッホッホッ・・・そうですねぇ。実は私もガビル様の案には全く反対という訳でもないのですよ。というか、私に名付けして下さるようアクトさんにお願いするつもりでしたから」
「なにっ!?」
爺さんもガビルのフォローに入り、髭を撫でながら呟いた。さらっと最後に言った内容に首領は驚き、その様子をちらりと見て爺さんは更に笑う。
「ホッホッホッホッ。誤解の無いよう言っておきますが、同族を・・・そして首領、貴方を裏切るつもりは毛頭ありません。しかし今は緊急事態。こんな老いぼれでも役に立つのなら・・・と、腰を上げようかと思いましたが・・・いやはや、魔法が通じにくい相手では・・・」
そう言って爺さんは肩を竦めた。
確かに、爺さんは年老いているせいか親衛隊長どころか他のリザードマンたちより魔素量が少し低い。それと、爺さんは魔法を得意としていると以前聞いたことがある。
会得している魔法とその使い方次第では並みのリザードマン相手には勝てるかもしれない。だが、今回現れる敵が本当に『
「流石にこの人数で二ヶ所もある異界の裂け目をどうにかしようとは考えておりませんよ。他にも協力して頂けそうな方にアテはありますので、とりあえずガビル様とシーザーというレッサードラゴンだけお貸し頂ければ」
「相分かった。我が息子たちが役に立てば良いのだが」
「・・・・・・・・・アクトくんはどうしたいですか?」
「えっ?あ、あー・・・そうだな・・・・・・異界がこちらと繋がるのは明日なんですよね?それなら、一人くらいなら名付けしても問題ないんじゃないかなぁ」
レインさんと首領が会話をしている横で、青娥さんに訊ねられた俺はそう返す。ガビルとシーザーに名付けをした時は確か数時間で魔素量は元に戻った。ちなみに、シーザーに名付けした際に消費した魔素はガビルの時より少なかったが、これは名付けされる側の魔物の強さによるのだろう。
ともかく、この後すぐに名付けを済ませられれば明日の戦いまでには魔素量も回復している筈だ。しかしレインさんが言っていたように、並みのリザードマンに名付けをしても即戦力になってくれるかは怪しい。シーザーは大して修行などはしていなかったにも関わらず、名付けによってホバーリザードからレッサードラゴンへとかなりの進化を果たしたけれど・・・・・・正直、あれは例外みたいなモノだしなぁ。
「・・・・・・・・・あぁ!そうです、名付けをすれば戦力になりそうな者に一人心当たりがありますよ」
そんなことを俺が考えていた時だった。短く声を上げて爺さんが手をぽんと叩いた。
「ガビル様、覚えておいでですかな?山間で採取をする氏族にいるあの男を・・・」
「・・・・・・そうか、奴であるな!」
少し考え込んでいたガビルだったが、やがて爺さんの言う人物を思い出したのか表情を明るくさせた。どうやら親衛隊長や首領もその人物を知っているらしい。
「ガビル。その、奴ってのは?」
「うむ。アクト殿、以前我輩がリザードマンにはいくつかの氏族があると話したことは覚えているか?」
ガビルの言葉に俺は頷く。ラビットマンの里で起きていたいざこざを目にしたガビルが口にしていたのだったか。
「シス湖より南西に聳えるクシャ山脈・・・その付近に山間で採取をする氏族が暮らしているのであるが、その者たちの中に一人強者がおるのだよ。アクト殿から名付けをされる前の我輩には及ばなかったが、我が妹よりは強いぞ」
親衛隊長以上の強さか。となると、C+かB-くらいの実力はあるのだろう。それだけの強さがあれば、名付けをすることで下級個体が相手なら倒せるようになるかもしれない。
一応青娥さんとレインさんに確認を取った俺は、一度その人物に会ってみたいとガビルに頼んだ。
「・・・・・・と、言う訳なので親父殿。アクト殿たちと共に山間で採取をする氏族の暮らす場所へ向かいたいと思いますが、如何か?」
「うむ・・・・・・他の者はともかく、奴程の実力者ならば良いだろう。だが、我等に残された時間は少ない。息子よ、お前はアクト殿たちを連れ、すぐに奴の元へ向かい話を付けてこい。こちらはその間にオークロードの対策を進めておく」
「ははーっ!」
首領に一礼したガビルは俺たちに一言呼び掛けてから首領の間を出て行った。俺たちも首領に出発の挨拶をした後でガビルの後を追う。
そうして首領の間を出てすぐのことだった。
「アクトさーーーん!」
「ん?お前らは・・・・・・」
声のした方を見ると、ガビルの部下である三人・・・俺が心の中で緑、モス、忍者と呼んでいるリザードマンたちがこちらに駆け寄ってきていた。名前を呼ばれたのもあり、俺は彼等に軽く手を上げて応えた。
「おぉ、お前たちか。どうしたのである?」
「ガビル様!俺たち、アクトに名付けしてもらいに来たんだ!」
「はっ?」
モスの放ったその言葉にガビルは目を丸くして間の抜けた声を漏らす。突然そんなことを言われ、驚いたのはこちらもだが。
「名付けって・・・なんでまた急に」
「アクトさんやガビル様と一緒に戦う為だよ!オークロードも、『
ははーん。さてはこいつら、首領の間での会話を盗み聞きしてたな?どうしたものかと思案し、俺は青娥さんと顔を見合せる。青娥さんは三人に対しどこか呆れたように苦笑し肩を竦ませる。
「ま、待て待て!それはならん!たった今親父殿から止められたところなのだ!首領の命に逆らう訳には・・・」
慌てた様子でガビルが三人を諌めようとする。ほんの少し前にガビル自身が首領に注意されたことなのだ、当然だろう。しかしガビルの言葉を遮ってモスが声を上げた。
「首領首領って、ガビル様はもう首領よりずっと強くて凄いじゃねぇか!アンタ、いつまで燻ってるんだよ!」
「そうだよ!俺たちだけじゃない、若手のリザードマンは皆首領よりガビル様を頼りにしてるとか、首領じゃなくガビル様に付いていくってよく言ってるよ!」
「正しく、王の器!」
「えっ。そ、そう・・・?」
真剣な表情をした三人にそう詰め寄られ、ガビルは嬉しさからか口元を緩ませる。これはマズイか?と俺が声を掛けようとした直前、ガビルははっと我に返った様子でぶんぶんと首を横に降った。
「・・・・・・い、いや!やはり許可出来ぬ!親父殿の言う通り、お前たちを危険に晒す訳にはいかん!」
「そんな、ガビル様!ネームドになれれば俺たちだって・・・・・・」
「許せお前たち!アクト殿、青娥殿、レイン殿!参ろうぞ!」
食い下がる三人に一言謝罪したガビルは足早にその場を去っていく。煽てられても調子に乗らず、首領の言葉を守った。それを嬉しく思いながら、俺はガビルの背中を静かに見つめる。と、青娥さんに頬を指で突つかれた。
微笑む彼女に早く行こうと促され、俺はそうですねと答えて同じく笑う。それから緑たちにまた後でと告げ、急ぎその場を後にした。
「・・・・・・・・・ガビル様、アクトさん。どうして・・・」
「畜生・・・!今のガビル様は首領よりも勇敢で実力だって上だってのに・・・」
「・・・・・・ガビル様自身に、動く気が無いのであれば・・・ならば・・・!」
その時、背後で交わされた彼等の会話は俺の耳には届かなかった。そして俺たちは後に、もう少し三人と向き合って話すべきだったと後悔することになる。
まさか彼等があんな行動を取るだなんて・・・・・・この時の俺たちは、これっぽっちも予想していなかった。
次回からまたオリキャラが増えます。