転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第102話となります。

三月は色々と忙しくて大変ですね。


戦力拡充②

首領に『侵略種族(アグレッサー)』の件を報告し、緑やモスと忍者たち三人と一悶着あった後。

 

俺たちはリザードマンの住処から地上のシス湖へ出てシーザーと合流した。シーザーを加えたメンバーでこの後の目的と流れを確認していると、戦力になるかもしれない例のリザードマンと会う前に、山間で採取をする氏族・・・長いから今後は山間の氏族と呼ぶか。その氏族長に謁見したいとガビルから頼まれた。

 

なんでもブルムンドへ向かう直前にガビルと首領たちが話していた、オークロードについての通達をこの機会にしてしまうのだと言う。『侵略種族(アグレッサー)』のことも伝えておかなければならないだろうし、俺と青娥さんもそれに関しては了承した。

 

 

 

ちなみに、レインさんは山間の氏族たちの元へは行かないそうだ。そのリザードマンが役に立つかは青娥さんでも見極められる、面倒なので自分は青娥さんの家で待っているから用事が済んだら迎えに来て欲しい。そう言い残して『空間移動』で姿を消してしまった。本当に自由な人・・・悪魔である。

 

 

 

そんなこんなで。俺と青娥さん、それからガビルとシーザーの三人+一匹で例のリザードマンに会いに行くこととなった。

 

そのリザードマンが属する山間の氏族たちの住処まではシス湖から普通十日程掛かるらしい。幸い、クシャ山脈の近くまでは以前青娥さんが足を運んだことがあるそうで、そこまでは青娥さんに転移してもらい、あとは空を飛んで行くこととなった。

 

 

 

「・・・・・・おぉ、あそこである!ついたぞアクト殿!」

 

 

 

他愛もない話をしながら、前方に聳えるクシャ山脈を目指して暫くジュラの大森林の上を飛んでいると、突然ガビルが声を上げて地上を指差した。その先を見ると木々が開けた土地があり、その奥に大きな洞窟の入口があった。夜になったら火を灯すのか、入口の左右には大きな燭台が置かれ、見張りだと思われるリザードマンが二人立っている。

 

それを確認した俺たちはガビルを先頭に地上へ降りていく。洞窟の手前辺りに着陸すると同時、俺たちの存在に気付いた二人のリザードマンたちが武器を構えて近付いてきた。

 

 

 

「待て!貴様たち何者・・・・・・ん?もしや・・・ガビル様、でありますか?」

 

「うむ、如何にも。驚かせてしまったようであるな、申し訳ない」

 

 

 

空から現れた俺たちを警戒していたリザードマンたちだったが、ガビルの存在に気付くと武器を降ろした。以前とは姿が変わっていることの理由、それと俺たちが自分の友人だと言うことをガビルが彼等に説明してくれたお陰で俺たちに対する警戒も解かれた。

 

当然の対応ではあったし俺たちは気にしていなかったのだが、リザードマンたちから一応謝罪を受ける。その後で、ガビルは緊急の要件があるのでそちらの氏族長に会いたいという旨を二人のリザードマンに伝えた。

 

 

 

「族長に謁見したいと・・・畏まりました。案内はこの自分が」

 

「感謝する。では・・・・・・おっと、アクト殿たちはどうする?共に氏族長へ挨拶でもするか?」

 

 

 

見張りのリザードマンに付いていこうとしたガビルはそこで一旦こちらを振り返り、そう問い掛けた。どうする、か・・・・・・ここまで来たのだし、一応挨拶くらいはしておいた方が良いかな?

 

そう思案していた時、俺の代わりに青娥さんがガビルに答えた。

 

 

 

「いえ。申し訳ありませんけれど、そちらはガビルさんにお任せしてよろしいでしょうか?少し用事が出来まして」

 

「それは構わぬが・・・・・・用事とは?」

 

「実は、『長鼻族(テング)』に会ってみようかと思うんです」

 

「てっ、『長鼻族(テング)』!?」

 

 

 

青娥さんの返答を聞いた見張りのリザードマンたちが驚愕する。いや、彼等だけでなくガビルも目を丸くして驚いているようだった。とは言え、ガビルは見張りのリザードマンたちほど動揺はしていないけれど。

 

 

 

「なんと、『長鼻族(テング)』であるか!そう言えばこのクシャ山脈には奴等がいたな・・・」

 

「よ、よろしいのですかガビル様!?『長鼻族(テング)』はクシャ山脈全てを支配する強大な種族!かの者たちには絶対手を出すなと族長から言われておりますが・・・?」

 

 

 

俺一人を除け者にして何やら話が進んでいく。思わず青娥さんを見ると、彼女は少し申し訳なさそうにしながら『後で説明しますね』と『思念伝達』で伝えてきた。

 

 

 

「心配要らぬよ。何も戦いに行く訳ではないのだ。万が一荒事になったとしても、アクト殿と青娥殿なら問題あるまい」

 

「そ、それほどの実力者なのですか・・・この者たちは・・・!」

 

 

 

信じられないと言った顔で見張りのリザードマンが俺たちを見る。いや・・・・・・俺はその『長鼻族(テング)』を全く知らないので何とも言えないのだが。

 

 

 

「では、氏族長には我輩だけで会いに行こう。その間にアクト殿たちは『長鼻族(テング)』の元へ行ってくれ。シーザーは済まぬがここで待機であるな」

 

「グルルァウッ!」

 

 

 

シーザーの頭を軽く撫で、ガビルはそう告げた。シーザーが肯定の意を示すように短く鳴いた後、青娥さんもガビルに頷いて了承した。

 

・・・・・・とりあえず俺も頷いておこう。

 

 

 

「多分私たちの方が時間が掛かると思いますので、ガビルさんは氏族長との話が終わったら例のリザードマンの方とここで待っていてくださいな」

 

「うむ、心得た。ではアクト殿、青娥殿、シーザー。また後程」

 

「そっちはよろしくな、ガビルー」

 

 

 

二人いた見張りの片方に連れられて洞窟の中へ入っていくガビルに俺はそう声を掛ける。ガビルを見送った後にシーザーへも一声掛けてから、俺と青娥さんは空を飛んでクシャ山脈を登り始めた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・で、青娥さん。その『長鼻族(テング)』ってのはなんなんですか?」

 

「ふふ、そうですね。登山しながら説明しましょうか」

 

 

 

俺が訊ねると、隣を飛行する青娥さんは小さく微笑んでから説明を始めた。

 

 

 

長鼻族(テング)』とは、クシャ山脈に住まう気位いの高い種族の魔物。『山狼族(オオカミ)』の身体に『天使族(エンジェル)』が受肉を果たした種族なんだとか。

 

『長鼻』という字面から、長い鼻を持っているのかと想像するが実際はそうではなく、超常の嗅覚を持つ者の暗喩として『長鼻族(テング)』と呼ばれているらしい。

 

 

 

「・・・・・・まぁ、私も知っているのはそのくらいなんですけれど」

 

 

 

そこまで言って、青娥さんは苦笑した。実は青娥さんも直接『長鼻族(テング)』に会ったことは無いらしい。『山狼族(オオカミ)』や『天使族(エンジェル)』含め、ランク等の詳しい情報は知らないそうだ。なんでも危険な種族だからとシズさんから一人で会いに行かないよう釘を刺されていたという。

 

 

 

「そんなにヤバい魔物なんですか、『長鼻族(テング)』って・・・」

 

「流石に魔王クラスの個体はいないでしょうけれど・・・・・・もしかすると、特Aクラスの上位魔人くらいはいるかもしれませんね」

 

 

 

前方を見据えたまま軽い口調で青娥さんは呟いた。特Aランク・・・つまりフォビオやアルビスたち、もしくは俺クラスの個体がいるかもしれないのか。流石にダンジョンのボスだったドラゴンゾンビ級はいないと思うけども。

 

 

 

それ以降、青娥さんの口数が少なくなった。話す話題が無いのであれば仕方ないと思うが、どこか違和感を覚える。少し前であれば他愛もない雑談をしたり、こちらを揶揄ってきたりしていたと思う。例に上げると、封印の洞窟で俺の前を飛びながらスカートの中をちらちら見せようとしてきたこと等だな。

 

・・・・・・あの時の感触・・・ではなく、出来事を思い出すと今でも顔が熱くなる。ふと青娥さんの顔を見ようとすると、彼女と丁度視線が合った。ぱちり、と目を瞬かせた後、青娥さんは何も言わず視線を前に戻す。

 

青娥さんの方もこちらを無視している訳では無いと思うんだよなぁ。ちらちらこっちの様子を窺っているような気もするし。

 

 

 

そんな何とも言えない雰囲気の中。二、三十分ほど山の中を飛行していた時だった。

 

 

 

 

 

「は~~~い!そこのお二人止まってくださ~~~~いっ!」

 

「ん?」

 

 

 

突如、周囲に少女らしき声が響き渡った。それを耳にした俺と青娥さんは顔を見合せるとゆっくりとその場に着地する。

 

すると、俺たちの前に複数の影が現れる。俺は警戒しながら青娥さんを庇うように一歩前へ出る。『魔力感知』で探知してみたところ、俺たちを取り囲むように十の反応があった。

 

 

 

「失礼、お二方。見たところ上位魔人とお見受けしますが・・・・・・我等『長鼻族(テング)』の聖地、クシャ山脈に何用で?」

 

 

 

相手の出方を窺っていると、連中の内の一人が前に出てそう告げた。口元だけを見えるようにした、顔の上半分を隠す仮面。如何にも天狗がしていそうな『和』と言った感じの装束を身に纏った、翼を持つ黒髪短髪の少女だ。先程の大声の主もこの少女だろう。

 

残りの九人も全員背中に翼があり似た格好をしている。男女混成の集団だが、目の前にいる黒髪短髪の少女が恐らくこの集団のリーダー格なのだろう。そう判断したのは魔素量だ。他の九人が大体B+程のそれなのに対し、黒髪の少女はA-くらいの魔素量を保有しているからである。

 

 

 

「『長鼻族(テング)』・・・・・・こいつらが・・・」

 

「初めまして、『長鼻族(テング)』の皆様。突然の来訪、どうかお許しくださいませ」

 

 

 

俺の後ろで青娥さんがそう謝罪して頭を下げた。それを見た俺も慌てて彼女に倣う。『長鼻族(テング)』たちは小さな声で何やら話し込んでいたが、敵意は無いと判断してくれたのか警戒を解いてくれた。俺は心の中で安堵し、青娥さんと共に簡単な挨拶と自己紹介をした。

 

 

 

「これはこれはご丁寧に。青娥殿にアクト殿、ですね。我々には名がありませんので好きに呼んでください。それで、もう一度お尋ねしますがご用件は?」

 

「実は・・・・・・」

 

 

 

割りとフランクに接してくる『長鼻族(テング)』に、青娥さんがここへ来た理由・・・今現在ジュラの大森林で起きていることを説明した。オークたちにオーガの里が滅ぼされたことも、明日には『侵略種族(アグレッサー)』たちがジュラの大森林を襲うことも。

 

仮面をしているので表情を完全に読み取れはしないが、青娥さんの話を聞くにつれ次第に『長鼻族(テング)』の口端が引きつり始めた。

 

 

 

「・・・・・・・・・マジですか?」

 

「マジですわ。万が一私たちが敗れた場合、オークと『侵略種族(アグレッサー)』どちらになるかは分かりませんが、このクシャ山脈も甚大な被害を受けるかと」

 

「ちょ、ちょちょちょちょーっとお待ちを!上の者を呼んで参ります!あ、皆さんはここでお二人と共に待っててください!」

 

 

 

動揺を隠しもせず、『長鼻族(テング)』の少女はそう言い残してどこかへ飛んで行った。その場に残された俺と青娥さんは顔を見合せ、同じく残った他の『長鼻族(テング)』たちとその場で待機する。

 

そして待つこと数分。『長鼻族(テング)』の少女が一人の人物を連れて戻ってきた。

 

 

 

 

 

「お待たせしました~!・・・・・・モミジ様、こちらのお二人が先程報告した上位魔人です」

 

「──我等が聖地クシャへようこそ、上位魔人のお二方。私は『長鼻族(テング)』の長老の娘、モミジという。母は病床の為、代理として話を聞くわ」

 

 

 

そう言って現れたのは一人の少女だった。背丈は俺よりも、黒髪の『長鼻族(テング)』よりも少し小さい。かなり若く見えるが、人間で言うと中学生くらいだろうか。

 

頭部には犬のような耳があり、白髪ではあるが毛先が近付くにつれ朱くグラデーションがかかっている。仮面は付けていないが服装は他の『長鼻族(テング)』たちと似ていて、武器らしき物は手にしておらず、代わりに扇が握られていた。

 

 

 

「・・・・・・もしかして、転生者?」

 

「は?なにそれ」

 

 

 

どうやら違ったらしい。俺は慌てて何でもないと誤魔化し謝罪する。

 

いや、でも天狗で名前が『モミジ』だよ?『東方Project』の『犬走椛』に外見もちょっと似てるし、青娥さんや俺みたいに推しキャラと同じ姿になった転生者だって思うじゃん。

 

 

 

「・・・・・・成程、青娥と言ったかしら。強いのね、貴女。アクトとか言うそちらの男も中々・・・少なくとも、部下たちでは太刀打ち出来そうにないわ」

 

 

 

俺の質問に首を傾げていたモミジ・・・さんだったが、すぐに思考を切り替えてこちらを観察してきた。素性の知れない俺たちを警戒してか、値踏みするかのようにじろじろ見ながら威圧するかのように妖気を発している。

 

 

 

「モミジさんこそ。『長鼻族(テング)』が強大な種族であることは存じておりましたが、まさかこれほどの実力者だとは・・・」

 

 

 

青娥さんの言葉にモミジさんは小さく鼻を鳴らす。青娥さんはどう思っているか分からないが、俺はモミジさんを直に見てかなり驚いていた。B+ランクの魔物たちを統率しているのだ、相当の実力者であろうとは予想していた。

 

しかし、モミジさんから感じられる妖気・・・魔素量が予想を大きく上回っていたのである。その量は、間違いなく俺や変身したアルビス以上。いや、ドラゴンゾンビに匹敵するかもしれない。

 

・・・・・・今の俺じゃ、絶対に勝てないだろうな。

 

 

 

「一応、あなたたちの目的についてはこの子から報告を受けたわ。要は、我等『長鼻族(テング)』の力に縋りたいということね?」

 

 

 

モミジさんは手にした扇子を口元を隠すように開きつつそう問い掛けてきた。高圧的な物言いだが、彼女の言っていることは事実ではあるし、大口を叩くだけの実力を持っているし仕方ないだろう。

 

 

 

「悪いけど、あなたたちの頼みは聞けないわ。我等『長鼻族(テング)』は誰の下にも付かない。それにこちらに何のメリットも無い」

 

「何も私の部下になれ、と申しているのではありませんよ?それにメリットが無いと仰いましたが、もし私たちが敗れた場合は『長鼻族(テング)』の皆さんだけで連中と戦わなければならなくなるかもしれません。それなら今ここで手を取り合った方がそちらの被害も少なく・・・」

 

「あなたたちの協力など不要。オークも『侵略種族(アグレッサー)』も、我等の力だけで退けてみせる」

 

 

 

青娥さんは冷静に説得を続けたが、モミジさんにぴしゃりと言い切られ眉を顰めた。この調子では一緒に戦うなんて無理だろう。諦め掛けた俺と青娥さんが顔を見合わせた、その時だった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・けれど」

 

「?」

 

「・・・・・・アクト、だったわね。オーガの里が・・・彼等が全滅したと言うのは、本当?」

 

 

 

どこか弱々しさを感じさせる表情で、モミジさんがそう訊ねてきた。何故青娥さんではなく俺に聞いたのかは分からないが、とりあえず質問に答えることにした。

 

 

 

「・・・・・・自分の目で確認した訳じゃありませんけど、青娥さんがそう言うのならそれが真実だと思います。俺は、青娥さんを信じているので」

 

「───・・・・・・」

 

「ただ・・・滅んだのは里だけです。オーガが全滅した訳じゃない」

 

 

 

青娥さんからの視線を感じながら、俺はモミジさんを見据えて告げる。それと同時に、頭の中に青髪の姿が浮かんだ。

 

 

 

「・・・!・・・生き残りがいたの?」

 

「はい。その時の俺はオーガの里のことを知りませんでしたけどね。そいつが言うにはまだ仲間が何人かいるみたいでした。俺が姿を見たのはそのオーガ一人だけでしたけど」

 

 

 

モミジさんは耳をぴくりと動かしながらも毅然とした態度で確認してくる。オーガに興味でもあるのだろうかと内心不思議に思いながらも、俺は正直に話した。仲間の数とか、そこまで詳しく聞いてはいなかったので大した情報は無いけれど。

 

 

 

「そのオーガですけれど。オークたちから逃げる際に傷を負い、さらにその後で野良魔人に絡まれて大怪我を負ったようで。まぁ、偶然近くを通り掛かったアクトくんが魔人を追い払って助けたんですけどね?そうそう!その時アクトくんはついでに自作のポーションや食糧を彼の仲間たちの分まで分けてあげたんです♪」

 

「・・・・・・そう」

 

 

 

俺に続いて青娥さんがどこか自慢気に語った。それを聞いたモミジさんは俺を一瞥し小さく呟く。

 

 

 

「・・・もしかして、オーガの里に知り合いでもいるんですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

その問いにモミジさんは答えない。彼女が口を閉ざしたことで周囲は沈黙に包まれる。返答を静かに待っていると、やがてモミジさんが口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・さっきも言った通り、我等『長鼻族(テング)』は誰の下にも付かないし、誰が敵であろうと余所者の力など借りないわ。どんな脅威も困難も、自分たちだけで切り抜けてみせる・・・・・・・・・けれど」

 

 

 

モミジさんはそこで言い澱むと静かに目を伏せる。それから少し思案した様子を見せ、再び顔を上げた。

 

 

 

「・・・・・・けれど。あなたたちはジュラの大森林・・・此処に住まう者たちを守る為、脅威が迫りつつあることをここまで伝えに来てくれた。その礼くらいせねば、誇り高き『長鼻族(テング)』の名が廃るというもの・・・・・・そこのお前」

 

「・・・えっ?わ、私でございますか?」

 

 

 

モミジさんはそう言うと、扇子を一人の『長鼻族(テング)』へ向けた。俺たちに声を掛け、モミジさんを呼んできたあの黒髪の少女である。

 

自分が呼ばれるとは全く思っていなかった少女は驚きながらモミジさんに向き直る。そんな少女を見てモミジさんは頷いた後でこう言った。

 

 

 

「お前にはこの者たちの護衛を任ずるわ。オーク、それと『侵略種族(アグレッサー)』との戦いが終わるまで、この二人と行動を共にしなさい。いいわね?」

 

「なっ、なんですとーーーっ!?」

 

 

 

びっ、と扇子を向けながらモミジさんの言い放った言葉に少女は驚愕する。周囲にいる『長鼻族(テング)』たちもモミジさんの命令に困惑しざわめき出す。

 

 

 

「と、言う訳だから。この子を連れてさっさと御山から下りなさい」

 

「えぇ。御力添え、感謝しますわモミジさん」

 

 

 

周囲の反応などは全く気にせずモミジさんは青娥さんと会話する。俺はそんな二人を黙って見つめていたが、少女のことが少し気になり彼女に声を掛けた。

 

 

 

「あ、あの・・・・・・いいの?なんか勝手に決められちゃってるけど」

 

「はい?・・・あー・・・まぁ、代理とは言え一族の代表であるモミジ様の命ですから」

 

 

 

こちらを振り向いた少女は少し考える仕草の後で、苦笑しながらそう言った。俺たちが戦力を欲しているのは事実なのだが、たった一人だけで初対面の連中に同行しろ、だなんて命令を受けた少女には少し申し訳無く思う。

 

すると、俺の表情が曇っていたからか、少女はにかっと笑いこう言った。

 

 

 

「おっと、御心配無く!驚きはしましたが何も嫌って訳ではありませんので。代理とは言えモミジ様は良き長ですし、それに滅多に出られない下界へ行けるチャンスですしね!」

 

「・・・・・・はは、そっか」

 

 

 

気を遣わせしまったのか、それとも案外本音なのか。多分だけど両方な気がする。俺はそう考えながら少女に小さく笑った。

 

なんと言うか・・・『長鼻族(テング)』は厳格な種族ってイメージがあったけど、この子は結構軽い感じがする。ともかく、本人が納得しているのなら良いだろう。

 

 

 

「それでは・・・・・・アクトくん、ガビルさんの元へ戻りましょうか」

 

「あ、はい。それじゃあ・・・・・・あー、何て呼べばいいかな。名付けする訳にもいかないし」

 

 

 

青娥さんに返事をした後、俺は少女を見て頭を悩ませた。この少女はネームドではない。だからと言って俺が勝手に名付けをする訳にもいかないだろう。ガビルとシーザーの時とは違うのだ。そもそもシーザーの時だって少し騒ぎになったし。

 

 

 

「んー、そうですねぇ・・・・・・とりあえず種族名である『テング』とお呼びください。同行する『長鼻族(テング)』は私だけですし」

 

「分かった。よろしくな、テング」

 

 

 

すると、彼女からそう提案があり、俺はそれを採用することにした。青髪のように髪色から『黒髪』と呼ぼうかとも思っていたが、そうなると俺を殺そうとした黒髪のオーガとも被って少し嫌だからな。

 

 

 

「青娥、アクト。その子を存分に使ってちょうだい。そしてお前は『長鼻族(テング)』の名と誇りを汚さぬように。いいわね?」

 

「ははーっ!お任せくださいモミジ様!」

 

「色々ありがとうございましたモミジさん。この子は必ず無事にお返ししますので、安心してください」

 

「はーい、準備完了です♪アクトくん、それとテングさん・・・でしたね。行きますよー」

 

 

 

モミジさんから念を押されるとテングは敬礼して応える。彼女に続いて俺が頭を下げると、モミジさんが僅かに微笑んだ・・・気がした。

 

モミジさんとそんなやり取りをしていると青娥さんが転移の準備を終える。ガビルたちと別れたポイントは覚えているので帰りは青娥さんの魔法で一瞬なのだ。

 

 

 

「これ、もしかして『拠点移動(ワープポータル)』ですか?初めて見た・・・」

 

「凄いだろ?俺の師匠」

 

 

 

地面に展開された魔法陣を観察しながら驚くテングを見て、俺は誇らしさから思わず笑みを浮かべて青娥さんを自慢する。それからモミジさんに別れの挨拶を済ませた俺たちは、テングという新たな仲間と共に青娥さんの転移魔法でクシャ山脈を後にするのだった。




同行してくれることとなったテングの容姿ですが、東方Projectに登場するあの新聞屋さん天狗をイメージしてください。
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