転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
Switch2が遂に発売されましたね。私は当然買えていません。
魔王クレイマンの居城から少し離れた森の中。そこにクレイマン様が訓練場と呼んでいた施設が建てられていた。
訓練場、とクレイマン様は仰っていたが、広い舞台とそれを取り囲むようにして造られた客席もあり、まるで闘技場・・・コロシアムのようだ。ユーラザニアにもあったそれと比べるとやや規模は小さいか。
「待っていたよ、青娥。それと・・・・・・アクト、と言ったかな?」
訓練場内に入ると、舞台の上でクレイマン様が待ち構えていた。その隣にはエヴァさんが、後方には部下と思われる魔人たちが数人控えている。その威圧感に俺とテングは怯んで一時足を止めたが、青娥さんとレインさんが気にせず舞台に上がるのを見て慌てて二人に続いた。
「お待たせしました~」
「お、お待たせしましたクレイマン様!アクトです!名前を覚えて頂けるなんて、光栄です・・・!」
青娥さんがゆるく返事をした後で、俺は緊張しながらクレイマン様にそう答えた。青娥さんの態度が気に入らないのか、クレイマン様は眉間に皺を寄せながらも、特に何も言わず片手を後方に向ける。
「では、早速模擬戦を・・・・・・と、言いたいところだが。その前に私の部下たちを紹介しよう。全員揃っていないのが残念だがね・・・エヴァ」
「はい」
クレイマン様はエヴァさんを呼ぶと、さっさと舞台から降りてしまった。部下の紹介はエヴァさんに任せるつもりらしい。
その時に気付いたのだが、エヴァさんはその腕に小さな狐を抱いていた。よく見ると尻尾が三本生えているので恐らく魔物だろう。
「それでは私の方から御紹介させて頂きます。まずは、これからアクト殿が模擬戦を行う相手であるヤムザ殿。『氷結魔剣士』の異名を持つ五本指の筆頭です」
「・・・・・・・・・」
そうエヴァさんから紹介された男は、こちらを一瞥して視線を逸らした。俺は一応軽く会釈をし、これから戦うこととなる相手を眺める。
髪色は黒と白の二色。顔の下半分を隠せるようマスクのような機能を持つインナーを着込み、左腕には肩まで覆う程の黒い籠手を装備している。他の部位は動きやすさを重視しているのか軽装だ。それと剣士なのだから当然ではあるが、一本の剣を背に背負っている。
まるで炎のような赤い瞳とは対照的に、その視線からは氷のように冷たい印象を受けた。
「次に・・・こちらが五本指、小指のピローネ殿。主に偵察任務を担っておられます」
次に紹介されたのは身体に鳥のような特徴を持った女魔人だ。具体的には膝の少し下から鳥のような鋭い鉤爪のついた足になっているし、腕には鮮やかな羽毛が生えている。あと、耳はエルフたちのそれのように長く伸びているが、柔らかな羽毛に覆われてふわふわしている。
ピローネと言うその魔人はこちらを見下しているのか、ヤムザ同様挨拶はせずに鼻を鳴らす。
・・・・・・そう言えば。いつかのケーニッヒとか言う鳥人もそうだが、こいつらはライカンスロープとは違うのだろうか。
「こちらに居られるのは薬指のミュウラン殿です。主な任務はピローネ殿と同じく偵察や諜報活動。青娥と同じく元人間の
「・・・・・・・・・初めまして。ミュウランと申します、以後お見知り置きを」
最初の二人と違い、ミュウランという魔人はそう言って小さく御辞儀をしてくれた。
青みがかった明るい緑色の長い髪を後ろで一つに纏め、額には綺麗な装飾品を付けている。魔法使いと言った感じの服装をした、知的だがどこか影のあるような美女だ。
青娥さんと同じ元人間らしいが・・・・・・この人も過去に何かあって
「そして、この子は母指の『
「くぉんっ!」
俺が勝手にミュウランの過去を想像している間に紹介する相手が変わっていたらしい。エヴァさんの言葉の後で、
「・・・・・・えっと、示指のアダルマン殿は拠点防衛という大切な役割がある為にこちらへは来れず不在ということで、五本指の皆様の紹介は以上となります」
そこで、エヴァさんによる幹部たちの紹介は終了する。アダルマンさんに関してはここへ来て最初に出逢った時に自己紹介してもらったし別に良いだろう。
それにしても・・・城へ向かう途中に五本指のことを訊ねた際、エヴァさんはこんなに多くのことを答えてはくれなかった。恐らくは主の許可なく幹部の情報を他人へ流す訳にはいかなかったからだろうが・・・・・・もしかして、俺たちの為にわざわざクレイマン様から許可を得てくれたのだろうか。
「・・・・・・終わったか?ならさっさと始めるぞ。クレイマン様は多忙なお方だ・・・貴様らの為に貴重な御時間を割いて頂けること、心から感謝しろ」
エヴァさんによる紹介が終わったことを確認して、初めてヤムザが口を開いた。ヤムザのその言葉を皮切りにピローネとミュウランはさっさと舞台から降りていく。
薄々感付いてはいたが・・・・・・この人たちあんまり友好的じゃないな・・・ミュウランは割りと普通に接してくれたけど。
仕方ないので、俺は戸惑っているエヴァさんにすぐ模擬戦を始めたいと声を掛けることにした。ちなみに、先程レインさんに指摘された、名付けにより俺の魔素量が低下している問題については解決していない。流石にこの短時間では元に戻らなかった。
まぁ、これはもう仕方が無いと諦めよう。模擬戦なんだし別に負けても何かある訳じゃない。青娥さんの前で無様な負け方はしたくないのでなるべく頑張るけども。
と、俺がそんなことを考えていた時、頭上から何かがバサバサと羽ばたく音が聞こえた。
「姐さ~ん!すんません、遅れちまった~!」
「あっ、ケーニッヒ!」
空から現れた魔人がどこか呑気な声色で叫ぶとピローネが反応した。彼女の部下なのだろうかと考えながら俺はその魔人を見上げる。
全身が羽毛に覆われて、顔には嘴、背中には翼の付いた正しく鳥人とでも言うべき姿をした魔人だ。胸当てと前面に布の付いた腰当てを身に付け、手にはまるで巨大なフォークのような槍を持って・・・・・・って──
「あぁああああーーーーーーーっ!!!」
「うおっ!?」
ケーニッヒと呼ばれた魔人を見て俺は思わず声を上げた。
こいつは確か、ドワルゴンから帰ってきた翌日・・・・・・一人で森を散歩している時に遭遇した上位魔人。青髪のオーガを『素材』だとか言って襲っていた、あの自称最強魔人だ。まさかこんなところで再会するとは。
突然大声を上げた俺に驚いてケーニッヒがこちらに振り返る。奴だけじゃなくエヴァさんやヤムザたちの視線が集まる中、俺はケーニッヒを指差しながら青娥さんに向け叫んだ。
「青娥さん、あいつですよ!前に森で会った奴!ほら、オーガを襲ってた!」
「オーガを?・・・・・・・・・あぁ」
青娥さんはケーニッヒをじっと見詰める。やがて俺が以前話した内容を思い出したらしく、舞台の外にいるクレイマン様へ視線を移した。細められた青娥さんの目付きにクレイマン様はびくりと肩を震わせる。
「・・・・・・クレイマン様だったんですね。ジュラの大森林でふざけたことをしていたのは」
「な、なに?なんのことだ!」
冷たい声色の青娥さんに詰められ、クレイマン様は後退る。呆けているのか問い返してきたクレイマン様に対し、青娥さんは露骨に面倒臭そうな顔をして舌打ちした。
「そういうのいいんで。いや、正直なんとなーくクレイマン様じゃないかな~とは思ってたんですよ。配下を使って森で何をしてたんです?どうせくだらないこと企んでるんでしょうけど」
青娥さんは淡々と喋りながら、綺麗な顔を苛立ちで歪める。なんだか険悪な雰囲気になってきた時、ヤムザが青娥さんに近寄って行った。
「貴様!クレイマン様に対してなんと無礼な──」
「黙っててくださいませんか」
「ッ・・・・・・!?」
青娥さんを鋭く睨み付けていたヤムザだったが、青娥さんのその一言を受け怯んでしまった。青娥さんは口調こそいつものように丁寧だったものの、表情は全く笑っていない。さらに、まだ全開ではないだろうが、まるで威圧するかのように妖気をじわじわと発している。
「・・・・・・それで?何を企んでいるんです?」
「ま、待ちたまえ青娥。キミはなにか誤解しているようだね?私は何も・・・」
「そういうのはもう良い。と、言った筈ですが?」
誤魔化そうとしているのか笑顔で青娥さんに語り掛けるクレイマン様であったが、冷たく一蹴されてしまう。カリオン様も青娥さん相手には頭が上がらないようではあったものの、クレイマン様はそれ以上だ。腰が低いし怯えている。
・・・・・・こんなことを言ったら間違いなく殺されるだろうが、今の姿だけを見ると魔王の威厳が全く無い。
「ぐっ・・・・・・!け、ケーニッヒ!貴様、一体ジュラの大森林で何をしでかした!?私は貴様にジュラの大森林に行けだなんて命令は下してないぞ!」
「へっ?いや、あの・・・・・・クレイマン様たち、さっきから何の話してるんすか?」
ケーニッヒに声を荒らげるクレイマン様だが、当のケーニッヒ本人はぽかんとした顔で目を丸くするだけ。首を傾げてクレイマン様と青娥さんを交互に見るケーニッヒに俺は呼び掛けた。
「おい、白ばっくれんなよ!俺はお前が青髪のオーガを襲ってたところを見てるんだ!まさか、俺に一方的に負けたことまで都合良く忘れてるんじゃないだろうな?」
「なっ、なんだとぉ~!?この俺様がてめぇみたいなクソガキに負ける筈ねぇだろォ!寝言言ってんじゃねぇぞコラァ!」
俺がそう言うと、ケーニッヒは声を荒らげながら空中からこちらを見下ろした。視線がぶつかり、互いに睨み合った瞬間。俺はケーニッヒを見てなにか違和感を覚えた。それがなんなのか思案していると、青娥さんがあっ、と小さく声をこぼした。
「・・・・・・まさか、封印の洞窟にいた嵐蛇やユーラザニアのダンジョンもクレイマン様の仕業じゃないでしょうね?」
「封印の洞窟?ユーラザニア?青娥・・・キミは本当に何を言ってるんだ?」
どうやらそれらの事件もクレイマン様が関わっているのではと青娥さんは怪しんだらしい。しかし、問われたクレイマン様は青娥さんの妖気に圧倒されながら訳が分からないと言った様子だ。またとぼけようとしていると判断した青娥さんはクレイマン様に近寄ろうとするが、ある人がその足を止めた。
「あ、あのっ!皆様どうか落ち着いてください!」
その人物とはエヴァさんである。彼女はそう叫ぶと同時、妖気を解放することでこの場にいる全員の意識を自身へ向けさせたのだ。
そう。それだけの妖気、魔素量をエヴァさんは持っている。ほんの一瞬だったので詳しくは分からないけれど、実はエヴァさんって滅茶苦茶強いのでは?
「・・・・・・突然の無礼、お許しください。クレイマン様、この場はどうかこの私めに預けて頂けないでしょうか」
深く息を吐いてから、エヴァさんはクレイマン様に謝罪する。それからそう申し入れると、クレイマン様の返答を待たずにエヴァさんは青娥さんへ向き直った。
「青娥、封印の洞窟とユーラザニアの件については何も分からないけれど・・・・・・多分、オーガを襲っていたというケーニッヒ殿は『この』ケーニッヒ殿ではないわ」
「この、って・・・どういうことです?」
「実は・・・・・・ケーニッヒ殿は三兄弟なの」
「はっ?」
エヴァさんから告げられた事実に青娥さんは間の抜けた声をこぼした。嘘みたいな話で俺も当然信じられなかったが、エヴァさんなら信じられると青娥さんが判断した為、とりあえず話の続きを聞くことに。
「正確に言うと、七十年程前に長男のケーニッヒ殿が亡くなられたから現在は二人兄弟なのだけど・・・」
「う、うぅっ・・・・・・その通り。一番上の兄ちゃんは勇敢にも魔王レオンに挑み・・・惜しくも負けて、殺されちまったんだ!」
エヴァさんが補足した後、怒りからか拳を握り締めながらケーニッヒは悔しそうに呟いた。
魔王レオン・・・・・・確か、青娥さんの師匠であるシズさんを召還した男だったな。まさかここで名前を聞くことになるとは。
「こちらにいるケーニッヒ殿は末っ子の三男の方なの。それで・・・実は、ここ最近次男のケーニッヒ殿の姿が見えなくて」
今、エヴァさんが次男のケーニッヒと言ったけど、もしかして兄弟全員名前が『ケーニッヒ』なのか?名付けしたの誰だよ。いや、もしかすると本人たちが勝手にそう名乗ってる可能性もあるか?
「アクト殿。もう一度よく確認して頂けませんか?以前出逢ったというケーニッヒ殿とここにいるケーニッヒ殿が本当に同一人物だったのかどうか」
「・・・・・・そう言えば」
どうでもいい考え事をしていた俺だったが、エヴァさんに呼び掛けられたことでそれを中断した。そして改めて目の前を飛ぶケーニッヒを観察する。
身に付けている鎧と持っている武器は全く同じ。だが、よく見ると体毛の一部がこの前出逢った時と違う色をしている・・・気がする。きっと先程感じた違和感はそれだったのだろう。
「・・・・・・・・・確かに、こないだ出逢ったケーニッヒとは少し違うみたいです・・・すみません青娥さ・・・・・・ッ!い、いや・・・申し訳ありません!クレイマン様!」
人違いだったことを認めた俺は、話をややこしくしてしまったことを青娥さんに謝罪しようとした。しかし、舞台の外から凄まじい殺気を向けられていることに気付き、俺はばっと振り返ってその殺気の主に頭を下げた。
確認するまでもない、その殺気の主とはクレイマン様である。殺気と共に怒気の籠った視線もこちらへ向けている。無理も無い。部下を疑われ、その結果やってもいない罪で青娥さんに責められたのだ。
たん、とクレイマン様が無言で舞台に上ってくる。依然として放たれたままの恐ろしい殺気に俺が身動きを取れずにいると、まるでこちらを庇うかのように青娥さんがクレイマン様の前に立ち塞がった。
「謝る必要なんかありませんよアクトくん。仮に人違いだったとしても、クレイマン様の部下に迷惑を掛けられたことには変わりませんし。ですから、クレイマン様には責任を取って頂かないと・・・ね」
こちらに顔を向けることなく青娥さんはそう告げた。まぁ・・・言われてみればそうではある。
青娥さんが傍に来てくれたお陰で安心した俺はほっと一息を吐く。一方クレイマン様は俺へ向けていた殺気を一瞬で霧散させ、慌てた様子で青娥さんに弁明を始めた。
「なっ!?ま、待て青娥!確かにケーニッヒは私の部下だ・・・だが、私は部下たちの行動を全て制限している訳でも把握している訳でも無い!各々に自由に過ごす時間は十分与えているし、その時に個人で仕事を請け負う者もいる!友人であるラプラスたちだって私の知らぬところで仕事を受けることもあるし・・・!」
「それがなにか?部下の不始末は上司が取るものでしょう?」
しかし、それを青娥さんはバッサリと切り捨てた。今度は自分自身が青娥さんから殺気を向けられることとなり、恐怖からかクレイマン様は表情を歪ませる。流石に手を出すのはマズイだろうと判断し、青娥さんを止める為に声を掛けようとした時だった。
「・・・・・・と、私は思っていますけども・・・アクトくんはどうしたいですか?」
「えっ!?お、俺ですか?」
突然こちらを振り返り、青娥さんは俺に問い掛けてきた。予想外の展開に思わず聞き返すと、青娥さんはにこりと笑って静かに頷く。
「あー・・・・・・その、そのくらいでもういいんじゃないですかね?勘違いした俺も悪いし・・・いや、青娥さんの言葉は最もだと思いますよ?でも、クレイマン様の言ったように部下たち全員の面倒を見るのは大変だと思うんで・・・仕方ない部分もあるんじゃないかなー、と・・・」
二人の顔色を窺いながら、俺は青娥さんにそう答えた。これは勿論本心なのだが、仮にも魔王相手に余計なトラブルを起こしたくないというのもある。最も、もし戦うことになったとしても、青娥さんなら絶対にクレイマン様に勝てるだろうが。
「・・・・・・ふふ、分かりました。そのケーニッヒとかいう魔人については一旦保留としましょう。クレイマン様、アクトくんに感謝してくださいね?」
「あ、あぁ・・・・・・礼を言うよ、アクト」
俺の返答を聞いた青娥さんは小さく微笑んだ。するとその笑顔を維持したままクレイマン様を威圧しそう告げる。クレイマン様は額に浮かんだ汗をさっと拭いつつ頷くと、こちらを向いて引きつった笑顔を見せた。
「──で・す・が」
しかし。青娥さんの告げた次の言葉で、クレイマン様のその笑顔はすぐに消え失せることとなった。
「迷惑料代わりに、隠してることを洗いざらい全部吐いて頂きましょうか。さっきの反応を見るにくだらないことを考えているのは事実でしょうし」
「そ、それは・・・・・・」
「クレイマン様、ここは素直にあのことをお話しなさった方が・・・」
「エヴァ!・・・・・・クッ、分かった。話せばいいんだろう、話せば」
叱責するように声を上げたクレイマン様だったが、やがて諦めたのか忌々しげな顔でそう吐き捨てた。エヴァさんにそこまで言われてしまったらもう誤魔化せないと判断したのだろう。
クレイマン様は大きく息を吐きながら俯き顔に手を当てる。やがて顔を上げたクレイマン様は青娥さんを見つめると、少しばかり逡巡した後、こう切り出した。
「まず言っておくが、この計画は私が思い付いたモノじゃない。とあるフリーの魔人から持ち掛けられたんだ」
「ほほう。それで、その魔人とは?」
「ゲルミュッドという男だよ」
その名を聞いて俺は声に出さず驚いた。ゲルミュッドって、ガビルに名付けをした魔人だよな・・・あれ?確かガビルには魔王軍の幹部と名乗ってたって聞いたけど。
「ゲルミュッド・・・・・・どこかで聞いた名前ですねぇ。本当にフリーの魔人なんです?」
「そうだとも・・・・・・まさか、奴と会ったことがあるのか?何を聞いたかは知らないが、私は奴を部下として認めたことはない。本当だ」
訝しむ青娥さんにクレイマン様はどこか苛立った様子で答える。誤魔化そうとしているのか、それとも真実を話しているのか・・・・・・どちらなのか分からないが、とりあえず青娥さんは話の続きを促した。
「で、そのゲルミュッドが持ち掛けてきた話だが・・・・・・オークロードを魔王化させるという計画だ」
「オークロード!?」
クレイマンさんの口から告げられた内容に驚愕し、俺は今度こそ声を上げてしまう。今、ジュラの大森林で起きているオークたちによる事件・・・それにそのゲルミュッドという魔人が関わっているというのか。
「なんでも、餓死しかけていたハイオークに名付けをしてやったらオークロードへと進化したらしくてね。そいつを育て、新たな魔王を生み出してみせると売り込んできたんだよ。あぁ・・・・・・そう言えば、その時にそれが成功したら幹部として迎えてやろう、なんて言ったような気がするな」
最後にそうクレイマン様は付け加えた。すると青娥さんは不機嫌そうに眉を顰める。
「それじゃあやっぱりクレイマン様のせいじゃないですか。さっさとそのゲルミュッドとかいう魔人を止めてくださいよ。御自慢の『地脈操作』を使えば簡単でしょう?」
「簡単に言うね、キミは・・・」
青娥さんにそう言われたクレイマン様はげんなりとした表情を浮かべる。それより、青娥さんは今『地脈操作』と言っていたが、クレイマン様の持つスキルだろうか?どういった力を持つスキルなのだろう。
と、俺が思案していたところ、二人の会話にエヴァさんが割って入った。
「青娥・・・確かにクレイマン様の御力なら、ここジスターヴからでもジュラの大森林に潜伏していると思われるゲルミュッドの位置を突き止めることは可能よ。けれど・・・・・・もうクレイマン様の意思だけではこの計画を止められないの」
「え?どうして?」
「実は・・・・・・この計画を楽しみにしているのよ・・・ミリム様が」
「はぁっ!?」
エヴァさんがそう答えると、目を見開いて青娥さんが驚いた。
ミリム・・・・・・この名前も以前に聞いたっけ。確か、竜と人が交わり生まれた者の末裔であるドラゴニュートたちが暮らす領地を支配している魔王だったか。どんな魔王なのかは全く知らないが、今の青娥の反応が気になった俺は隣にいるレインさんに小声で話し掛けた。
「あの・・・・・・その、ミリム・・・様という魔王はどんな方なんですか?青娥さんのあの反応からして只者じゃ無さそうなんですけど」
「んー、そうですね・・・・・・とりあえず滅茶苦茶強いですよ。私と青娥様が二人掛かりで挑んでも、万に一つも勝ち目が無いくらいには」
「マジですか」
「マジですわ」
レインさんからとんでもないことを聞かされ俺は静かに驚く。この二人が組んで戦っても絶対勝てないとかなんなんだよミリム様。化物かよ。
「ゲルミュッドからその計画を持ち掛けられた後、それをミリムとカリオン、それからフレイの三人に伝えたんだ。ここ数十年、これと言った大きな出来事も無かったからね。ミリム程ではないが、カリオンも少し楽しみにしていたよ」
「あ~・・・・・・あの二人も御存知なんですね・・・」
青娥さんは大きく溜め息を吐いた。しかし、カリオン様もこの話を知っていたのか。フレイという魔王についてはよく知らないが・・・何度もレインさんから教えてもらうのは悪いし、後で青娥さんにでも聞くとしよう。
「ミリムがあまりに興味を示すものだから私もほんの少しゲルミュッドに協力してしまってね。城で埃を被っていた帝国製である旧式の鎧を全部くれてやったよ。一流の魔人にとってはゴミ同然のガラクタだが、雑魚が装備すれば耐久力を1ランク程引き上げられるだろう」
どうやらオークたちが装備していたあの鎧はクレイマン様が所有していたものだったらしい。帝国製・・・・・・もしかして、封印される前のヴェルドラさんに都市を一つ滅ぼされたという東の帝国のことか?
「・・・・・・・・・分かりましたよ。クレイマン様だけならともかく、ミリム様たちも一枚噛んでいるのであれば止められませんね」
ミリム様という存在が大きかったのか、青娥さんはやれやれと言った様子で肩を竦めた。これ以上の追及は無いと安心したのか、クレイマン様は余裕そうに微笑する。
「ふっ、そうだろう?」
「まぁ、ここはエヴァさんの顔を立ててあげますよ。本当にエヴァさんには感謝してくださいね?オークたちに鎧をあげるとか、本当だったら両手両足引き千切ってるところですよ」
にこにこと笑みを浮かべつつも、青娥さんは妖気を滲ませクレイマン様を威圧する。その恐ろしい言葉にクレイマン様は顔を青くし口端をひくひくさせていた。コロコロと表情が変わる御方だ・・・・・・いや、これは青娥さんのせいだから普段は常に冷静なのかもしれないけども。
「・・・・・・お話も済んだようですし、そろそろ始めましょうか」
「・・・・・・・・・あっ、そう言えば・・・」
ここへは模擬戦をするために来たんだっけ。それを思い出した俺はその相手であるヤムザの姿を探す。彼はすぐ見つかったが、青娥さんを恐れている主の姿が信じられなかったのか、目を見開いて絶句しているようだった。
「おっと。つい話し込んじゃいましたね・・・ごめんねアクトくん?それでは、私たちはこの辺で~♪」
「・・・・・・ヤムザ、とっとと片付けろ」
「は・・・ははっ!お任せください、クレイマン様」
青娥さんはおどけながらこちらに手を振り、ふわりと浮き上がり舞台から離れた。そんな青娥さんから少し遅れてクレイマン様も踵を返し歩き出す。去り際、苛立ちを隠さずにクレイマン様からそう命じられ、ヤムザは慌てて跪いた。
「では、私たちも下がりましょう。アクト様、御武運を」
「はい。ありがとうございます、レインさん」
「あ、アクトさん!頑張って早く倒してくださいね!そしてもう帰りましょう!ここ怖い!」
「はは・・・・・・やってみるよ」
レインさんから短い応援の言葉を貰い、涙目のテングからはそう懇願される。俺は苦笑しつつ、こんなところに無理矢理連れて来られたテングに同情しつつ彼女を宥めた。
落ち着いたテングをレインさんに任せた俺はその場に残り、舞台から降りていくレインさんたちの背中を眺める。それから深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、同じく舞台に残った黒衣の魔剣士と向かい合うのだった。
というか、もう今年も半分終わったんですね・・・