転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

109 / 127
お待たせしました、第109話となります。

毎日暑くて辛いです。


アクトVSヤムザ②

目の前に立ち塞がる、同じ魔剣を携えた二人の魔人。勝利を確信しているのか、彼等は同じ顔でくつくつと笑う。

 

魔宝装身具(アーティファクト)、『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』・・・・・・奴は確かにそう言った。アーティファクトというものは初めて聞いたが、要はマジックアイテムなのだろう。そして、ドッペルゲンガーという名前・・・・・・

 

それらの情報を元に、俺は警戒を怠ることなく目の前の現象を考察する。すると、数敵優位を取り、さらに魔法を直撃させ俺にダメージを与えたことで気分を良くしたのか、片方のヤムザが微笑して口を開いた。

 

 

 

「『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』・・・・・・これの効果は至ってシンプル。使用者と全く同じ能力を持つ分身を作り出すことが出来るのさ」

 

 

 

そう言いながら、ヤムザは左手で右の二の腕を撫でた。服で隠れて見えないが、きっとその下に『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』があるのだと思われる。成程、やはり分身を生み出す効果を持つアイテムなのか。それと、今喋ったヤムザは髪色や装備が反転していない。きっとこちらが本体なのだろう。

 

 

 

「褒めてやろう、アクト。流石は邪仙に目を掛けられるだけのことはある」

 

「だが・・・『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』を発動させた俺に勝てた者はいない。まぁ、今回は模擬戦だ。死ぬことは無いから安心しろ」

 

 

 

ヤムザたちはそう続けると、それぞれアイスブレードを構える。二人のヤムザがじりじりと距離を詰めてくるのを見て、思わず俺は後退った。

 

 

 

「・・・・・・?・・・・・・・・・!」

 

 

 

その時。ふと、誰かの視線を感じ取った俺はそちらを振り返る。そこには、不安そうな瞳でこちらを見つめる青娥さんの姿があった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・それじゃあ、俺が初めてだな」

 

「ん?」

 

 

 

呟いたその声は大きなものではなかったが、どうやらヤムザたちの耳に届いたらしい。俺は青娥さんへ向けていた視線を前方にいるヤムザたちへ戻す。そして、訝しげな目をしている二人を見据えると、無理矢理口角を上げてこう言い放った。

 

 

 

「『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』を使ったお前に勝った男は、さ」

 

「なんだと・・・!」

 

 

 

その言葉を聞いて怒ったのか、ヤムザの目付きが鋭くなる。正直、笑って挑発が出来るほど余裕がある訳ではない。それどころか負ける可能性だって十分ある。

 

 

 

けれど・・・・・・青娥さんのあの目。あの表情。それを見たら思わずそう口走っていた。このくらいなんてことは無いのだと、そう思ってくれるように。

 

そう・・・・・・俺はあの人に、もうあんな顔はさせないって決めたんだ。笑顔でいて欲しいと願ったんだ。だから負ける訳にはいかない。今の言葉は、自分自身を奮い起たせるためでもあるのだ。

 

 

 

「まだそんな大口を叩く余裕があるとはな!」

 

「今度こそ完全に黙らせてやるぞッ!」

 

 

 

それぞれがそう叫びながら、二人のヤムザが突っ込んでくる。俺は一度目を伏せ、深く息を吐く。そうして精神を集中させると、目を開くと同時に『魔力感知』、『思考加速』の二つを発動してヤムザたちを迎え撃った。

 

 

 

「はぁあああああああッ!」

 

 

 

ヤムザたちと接敵すると同時、二人分の斬撃が俺に降り注いだ。左右から息吐く暇も無いくらいに放たれるそれを必死に凌ぐ。

 

舞台上を跳び跳ねるように移動しつつ、一人の剣を躱し、一人の剣を蹴りで弾きながら俺は反撃のチャンスを待った。しかしヤムザは二人に分身した状態での戦闘に慣れているのか、そのような隙を全く見せない。脚だけではなく、クロコダインの時のように素手で相手の武器を受け止められればもっと楽に戦うことが出来るのだが、それは厳しいだろう。

 

クロコダインの時は俺と彼との魔素量差が大きかった為、相手の武器による攻撃を簡単に受けとめ、オマケに砕くことも出来た。だが、今の俺はそのクロコダインへ名付けをしたことにより弱体化している。それにより、クロコダインを遥かに上回る上位魔人ヤムザとの魔素量差が少なくなっているのだ。

 

しかも俺は先程『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』の直撃を受け、そこそこ消耗している。この状態では『身体強化』や『気操法』で身体を強化したとしても、素手でヤムザの持つユニーク武器・・・アイスブレードに太刀打ち出来るか分からない。最悪、スパッと腕を切断される可能性すらある。やはり危険過ぎるのでやめておこう。

 

 

 

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「ふははははッ!どうしたどうしたァ!?」

 

「身を守ってばかりじゃないか!あんな大口を叩いておいてこのザマとはな!」

 

 

 

凄まじい猛攻に堪らず顔をしかめると、ヤムザたちはマスク越しでも分かるくらい哄笑した。その態度に少し苛立った俺は二人纏めて吹き飛ばそうと両手に闘気を込める為、大きく後ろへ跳んで距離を取る。

 

 

 

「させん!」

 

 

 

しかし、俺の考えを読んでいたのか、十分な威力となるだけの闘気を込め終わる前に分身のヤムザが『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を撃ち込んできた。目の前に迫る吹雪を見て、俺は慌てて両手から闘気を発射しそれを相殺する。

 

 

 

「そこだ!」

 

「うぉっ!?」

 

 

 

すると、本体のヤムザが吹雪に紛れて襲い掛かって来た。『思考加速』を使用していたので咄嗟に『加速』を発動させることでそれを回避する。

 

 

 

「逃がすかァ!」

 

 

 

しかし、躱した先に分身のヤムザが回り込んでいた。とは言え『加速』を発動させた状態であれば、この攻撃も回避することは難しくない。寧ろ、僅かではあるが本体と離れた今が攻撃のチャンスではと分身のヤムザに向き直った瞬間、背後から吹雪が迫った。

 

 

 

「やばッ・・・!」

 

 

 

咄嗟に真上へ飛び上がった直後、ゴッ!という音と共に足元を白銀の渦が通過し分身のヤムザを飲み込んだ。本体のヤムザが追撃に『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を撃ったのである。まさか分身ごと俺に攻撃してくるとは・・・・・・

 

俺はその判断に少し驚きつつ、地上にいる本体を見下ろす。このまま空中から気弾を連射してやろうと企んでいると、『魔力感知』に反応があった。

 

 

 

「くたばれッ!」

 

「っ、ハァッ!!!」

 

 

 

その正体は分身のヤムザだった。本体が放った『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』に飲み込まれた筈だが、見たところ大したダメージは負っていないように見える。もしかするとフォビオのように自身が扱う属性の攻撃には耐性を持っているのかもしれない。

 

それはさておき。吹雪の中から飛び出した分身のヤムザは、凄まじい跳躍力で上空にいる俺へ斬り掛かってきた。『魔力感知』によってその攻撃を察知した俺は振り返り様に蹴りを放つ。分身が持つアイスブレードと俺の脚は鍔迫り合いのようにぶつかり合ったが、パワーはこちらが勝っていたのですぐに相手を弾き返した。

 

 

 

「ぐぉっ!?まさか今の奇襲に気付くとは・・・・・・やはり『魔力感知』を持っているらしい」

 

「ならば、感知したとしても対応出来ぬ程の手数で攻めるだけだ!」

 

 

 

蹴り飛ばされた分身が受け身を取って着地すると、今度は本体が仕掛けてきた。地上から連続で『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を連射し、空を飛ぶ俺を撃ち落とそうと執拗に狙う。俺は『加速』を使い全ての吹雪を躱していくが、分身のヤムザも『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を撃ち始めた。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ・・・!」

 

 

 

模擬戦が始まる前から本調子ではないのと、ヤムザから強力な魔法による攻撃を受けたこともあり、長引く戦いで段々と消耗してきた俺は自然と息が荒くなる。二人のヤムザが連続で巻き起こす吹雪のせいで周囲の気温が下がっているのか、口から吐き出される息が白くなっているが、そんなことはどうでも良い。

 

現在俺は『身体強化』と『加速』、さらに『魔力感知』と『思考加速』の四つのスキルを同時に発動させている。この中で『身体強化』と『加速』に関してはそこまで問題ではない。体力と魔素は消費されるが、まだ余裕はあるし苦しいのには慣れている。

 

だが、『魔力感知』と『思考加速』は違う。この二つはどちらも体力や魔素を消費こそしないが、脳に負担がかかるのだ。以前と比べ少しはこの感覚にも慣れてはきたが、少しだけだ。正直、この二つを長時間同時に使用していたくはない。

 

 

 

「っと、危ねっ!」

 

 

 

そんなことを考えていたせいか、回避が遅れ吹雪に巻き込まれそうになってしまった。俺は咄嗟に片手から闘気を放ちそれを防ぐ。さらに吹雪を吹き飛ばした勢いのまま術者のヤムザ目掛け闘気流を撃ち続けるが、不利と悟った瞬間にヤムザは退いてしまい攻撃を当てることが出来ない。追撃しようにも、もう片方に妨害され、その隙に退いた方は態勢を立て直して再び攻めてくる。

 

 

 

「どうしたもんかね・・・!」

 

 

 

呟きながら思わず苦笑する。このまま持久戦に持ち込まれるのは避けたい。一応、相手が魔法を使えなくなるまで粘るという手を考えてはみたのだ。だが、ヤムザの様子を見るにあちらにはまだ余裕がある。彼とて魔力に限界はある筈だが、それまで俺が耐えきれるかと言うと正直不安だ。

 

こうなったら、玉砕覚悟で無理矢理突っ込むか、どれだけ攻撃を食らっても構わないから二人纏めて吹き飛ばせるだけの闘気をこのまま溜め続けるしかない、か?

 

 

 

「当たり前だけど、数で負けてると普通不利になるよな・・・!本調子じゃなくても、せめて誰かがいてくれれば───あ」

 

 

 

そこまで言い掛けて、俺は間の抜けた声をこぼす。閃いた・・・・・・というか、何故今までこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。あっちが二人になったと言うのなら。

 

こっちも二人になればいいんじゃん。

 

 

 

「よし、それじゃ・・・・・・ぐ、ぁッ・・・!」

 

「っ!なんだと・・・?」

 

 

 

俺が突如取った行動にヤムザは目を細め静かに驚いていた。何故なら、ずっと逃げ回っていた俺が空中で静止したからである。それによってヤムザが放っていた『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』が直撃し、俺は苦痛で顔を歪めた。

 

 

 

「勝負を諦めたか?それとも、まだ何か企んでいるのか・・・」

 

「ふっ、関係あるまい。このまま凍り付けにしてやる!」

 

 

 

動きを止めた俺に少しだけ疑問を抱いたヤムザだが、自身に有利な状況であると判断したのか、分身と二人掛かりで『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』による攻撃を続行する。凄まじい二つの吹雪を受け身体がバラバラになりそうな程の痛みを感じつつ、ヤムザが思い通りに動いてくれたことに俺は僅かに口元を緩めた。

 

相手の攻撃から逃げ続けるのは止めたが、何も勝負を諦めた訳ではない。これは勝つ為の策だ。『魔力感知』と『思考加速』、それから『加速』を切り、俺は『身体強化』と闘気による全力の防御でヤムザたちの魔法攻撃に耐える。そして、防御を行いながら二つの作業を密かに行う。

 

 

 

「はははははっ!貴様の考えは読めているぞ!戦いが長引くのは不利だと悟り、俺の攻撃を喰らうことになったとしても、一撃で仕留められるだけの闘気を溜めようとしているのだろう?」

 

「だが残念だったな。貴様が身を守る為に放出しているその闘気・・・・・・勢いと量からして、攻撃に回す分の闘気はほんの少しずつしか溜められない筈だ」

 

「ならば、強力な一撃を行う為に必要な闘気を溜めるまでかなりの時間が掛かる筈!それまで貴様の体力が持つ訳が無い!無駄な足掻きだったな!」

 

 

 

勝ち誇ったように笑って、本体と分身のヤムザが交互に喋る。確かに、上位魔人二人分の魔法を受けていつまでも耐えきれる筈が無い。この状況があと少し続けば、俺は敗北するだろう。

 

 

 

だが、もう身を守る必要は無い。こちらの・・・・・・俺たちの準備は整った。

 

 

 

 

 

「それじゃ、反撃開始といこう────ガビル!」

 

「オォオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「───は?」

 

 

 

その名を呼んだ瞬間。舞台上に一人の上位魔人が姿を現した。その正体は、俺の友人であるガビル。突如、舞台上に現れた謎の男を前にして二人のヤムザは間の抜けた声を漏らした。

 

そう、これが俺の策。相手の数が増えたのなら、こちらも数を増やせば良いという至ってシンプルなものなので、正直策とすら言えないかもしれないが。

 

とにかく、俺は何も自分の攻撃だけでヤムザたちを倒そうとしていた訳ではなく、彼らの魔法攻撃に耐えている間は闘気を溜めてなどいなかった。身を守りながら、シス湖で待機していたガビルに『思念伝達』で連絡を取っていたのである。

 

簡潔に状況を伝え、手を貸して欲しいと頼むとガビルは快く了承してくれた。それから俺は非常に単純ではあるが作戦を立て、同時に『魔物召還』でガビルを安全かつ攻めやすい位置に召還出来るよう調整をしていたのだ。

 

こうしてシス湖からジスターヴへと召還されたガビルはヤムザたちの不意を突くことに成功する。咆哮を上げるガビルは俺への攻撃を続ける為に足を止めていたヤムザたち目掛け、バーニングランスを振るい叫んだ。

 

 

 

「『火炎大魔嵐(ファイアストーム)』ッ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

ガビルの唱えた『火炎大魔嵐(ファイアストーム)』によって、巨大な炎が文字通り嵐のように巻き起こる。ヤムザたちは目を見開き驚愕していたが、すぐに我に返ると俺への攻撃を中断し、自身らを飲み込もうと迫る炎から逃れようとする。だが、ガビルはそれによって生まれた隙を見逃さない。

 

 

 

 

「そこである!超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)──ッ!!!」

 

 

 

火炎大魔嵐(ファイアストーム)』を撃ち終えていたガビルは即座にアーツを放つ準備を整えており、炎から回避しようとするヤムザへ追撃を行った。標的は・・・本体のヤムザ。恐らくだが、分身と見分けが付いている訳では無いのだろう。ただの偶然だ。

 

 

 

「チッ・・・はぁあああッ!」

 

 

 

狙われた本体のヤムザは腹立たしそうにガビルを睨み付け、その攻撃を防ぐ為に再び『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を放つ。咄嗟に発動した為に魔力をそこまで込められなかったからか、俺へ撃った時より威力が小さい。

 

とは言え、ガビルよりもヤムザは格上だ。それにガビルも魔法を撃ち終えてすぐに追撃したので、アーツに十分な闘気を込められていない。それらの理由から、ぶつかり合った『超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)』と『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』は互いに打ち消された。

 

 

 

「くそっ、何なんだこいつ!?アクトよりは弱いが、間違いなく上位魔人クラスだ・・・!」

 

「邪魔をするな、トカゲがァッ!」

 

「クワァアアアアアッ!」

 

 

 

炎から逃れていた分身のヤムザが本体の援護に向かってくる。するとガビルはそちらに顔を向けると大きく口を開き、闘気弾を三発発射した。ユーラザニアでのフォビオとの戦いで見せたあの技だ。

 

口から闘気を撃つとは思わなかったのか、分身のヤムザは回避が間に合わない。アイスブレードを盾にすることでなんとか直撃は避けたようだが、闘気弾が炸裂した衝撃によって吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「ぐぉっ!?お、おのれ・・・!」

 

「はぁあああああっ・・・!」

 

「空に・・・!逃がすかぁっ!」

 

 

 

分身のヤムザが体勢を整えている内にガビルは闘気を全身に漲らせると、勢い良く上空へと飛び上がった。その動きをヤムザたちは視線で追うと、空中にいるガビルに片手を向ける。『超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)』を撃たれる前に撃ち落とすつもりなのだろう。

 

だが───。

 

 

 

 

「・・・・・・ふっ、良いのか?我輩にばかり気を取られて」

 

「なんだと・・・・・・ッ!?しまった!」

 

 

 

不敵に笑うガビルの言葉の意味にヤムザは遅れて気付く。それから空に手を掲げたままばっと振り返り、視線の先にいた存在を見て目を見開いた。

 

 

 

 

 

「───待たせてごめんな、ガビル・・・!」

 

 

 

そこには、そう。ガビルがヤムザたちの注意を引き付けてくれている間に十分な闘気を溜め終えた俺がいた。今告げた言葉が上空にいるガビルに届いたのかは分からない。けれど、ガビルは俺を真っ直ぐ見つめながら、にっと笑って頷いてみせた。

 

 

 

 

「ふざけやがって・・・トカゲは囮か!」

 

「しぶとい野郎だ!今度こそくたばれ!『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』ッ!!!」

 

 

 

怒るヤムザは分身の狙いをこちらに変更させ、俺とガビルそれぞれに『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を放つ。この攻撃で俺たちを倒そうとしているのだろう、これまでよりも特に強力な吹雪が二つ巻き起こり、その一つが俺の眼前に迫ってくるけれど・・・・・・この状況まで持ってこれた以上、ヤムザにはもう勝ち目は無い。

 

 

 

「終わりだ・・・!ファイナル──フラッシュ!!!」

 

 

 

やべ、つい技名叫んじゃった。あー・・・うん、今はそんなことどうでもいいや。

 

前方へ突き出した両手から、俺は全力でエネルギー波を撃ち出す。構えは正しく、『ドラゴンボール』に登場する『ベジータ』の必殺技そのものだ。

 

放たれた極太のエネルギー波は、既に目の前へと迫っていた白銀の渦と激突し、ゴォッ!と凄まじい音を鳴らす。俺のファイナルフラッシュと分身の『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』。威力はこちらの方が上だったらしく、どんどんと相手の魔法を押し返していく。このまま撃ち合うのは不利だと察したのか、ヤムザは魔法を維持することを中断し、咄嗟に真上へ飛び上がって俺の放ったファイナルフラッシュを回避した。

 

 

 

「くっ!何てパワーだ──」

 

「ッ!マズイ、逃げろ!」

 

「な、に──!?」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

その時、本体のヤムザが慌てて声を張り上げた。何事かと分身のヤムザが振り返ると、そこには闘気を高めたガビルが迫っていた。

 

ガビルはこちらと違い、本体との撃ち合いは選択しなかった。というのも、直前に『思念伝達』でやり取りし、分身の隙を突いて攻撃して欲しいと伝えておいたからである。俺との戦いで消耗しているとはいえ、格上のヤムザ相手にガビルが正面から撃ち合って勝てるとはあまり思えなかったのだ。

 

少し申し訳無かったというか、言い辛いことだったのだが、ガビルは冷静に相手と自分の実力を見極めており、俺の作戦に従ってくれた。そして今、俺の攻撃を回避する為に空中へ飛んだ分身のヤムザへ、ガビルは全力を込めたアーツで追撃を行った。

 

 

 

超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)───ッ!!!」

 

「が、ぎゃああああああああああッ!?」

 

 

 

咄嗟にアイスブレードを盾にしようとした分身のヤムザだが、フルパワーの『超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)』を受け止めることが出来ずに砕け散ってしまう。直後、闘気のドラゴンと激突した分身のヤムザは悲鳴を上げながら舞台上から吹き飛ばされ、大きな衝突音を立てて壁に叩き付けられた。

 

ガビルの攻撃がトドメとなったようで、今の衝撃でマスクが破れた分身は露出した口から血の塊を吐き出す。そして地面に倒れると、そのまま消滅してしまった。

 

・・・・・・成程。今の光景を『思考加速』を使って見ていた俺はあることに気付いた。

 

ヤムザの切り札とも言える『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』。自身と全く同じ能力を持つ分身を作り出す効果があるとヤムザは言っていたが、その実態は魔素の塊なのだ。それは使用者の装備も同様で、見た目こそ全く同じだが実際はただの魔素の塊に過ぎず、性能や耐久力までは再現されていない。アイスブレードが特質級(ユニーク)武器という高い等級の武器だからなのかもしれないが・・・・・・ともかく、全く同じ分身を作り出せるというヤムザの言葉には少し語弊があったようだ。

 

 

 

「俺の分身が!?いや、だが・・・隙だらけだ!」

 

「ぬう・・・!」

 

 

 

俺がそう分析していると、本体のヤムザがガビルに『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』で攻撃を仕掛けた。空中のガビルは全力の攻撃を放った直後で隙が生じており、ヤムザが本気で発動した魔法に対処出来そうにない。簡単な防御くらいは出来るだろうが、このままでは大きなダメージを受けるだろう。

 

だが、心配する必要は全く無い。

 

 

 

「ありがとなガビル!また後で!」

 

「うむ!頑張るのだぞ、アクト殿!」

 

「はっ?」

 

 

 

次の瞬間、ガビルの姿が消えた。俺の『魔物師者』のスキルで元居た場所に送還したのである。突然ガビルがいなくなり、ヤムザは目を丸くし間の抜けた声をこぼす。しかし、それが俺の仕業だとすぐに理解したらしく、こちらを睨み付け突進してきた。

 

 

 

「おのれ・・・・・・おのれ、アクトォオオオオオオッ!」

 

「もう分身はいいのか?それに真っ向勝負だなんて・・・・・・俺としては望むところだけどよ!」

 

 

 

叫ぶヤムザを見据え、俺は小さく笑いながらそう呟いてから右足に闘気を集中させる。全力で駆けてくるヤムザとの距離がどんどん縮まるが、俺は冷静に迎撃の準備を整える。

 

それから数秒もしない内にこちらと接敵したヤムザはアイスブレードを振り下ろし渾身の一撃を繰り出すが、俺はその攻撃に合わせるように右足を振るい全力のアーツを放った。

 

 

 

星皇剣(スターセイバー)ッ!!!」

 

「なッ・・・!」

 

「ここまでだッ!」

 

 

 

ヤムザの斬撃と俺の蹴撃。激突した次の瞬間、ヤムザのアイスブレードがギャリィンッ!という音を立てながら弾かれた。声もなく驚愕するヤムザは体勢を崩し隙だらけになる。

 

俺は最後にそう宣言すると、がら空きになったヤムザの身体に闘気流を撃ち込み、そのまま場外へと吹き飛ばした。

 

 

 

「がはァッ!?う、ぐぅうう・・・・・・!」

 

「場外!この勝負、アクト殿の勝利でございます!」

 

 

 

場外の壁まで叩き付けられたヤムザは呻きながら地面に崩れ落ちる。と、そこでエヴァさんが声を張り上げ戦いの終了と俺の勝利を告げた。そう言えばこの人審判役だったっけ。

 

 

 

「はぁー・・・・・・なんとか勝てた・・・」

 

「アクトくーん!」

 

 

 

疲労感から俺が大きく息を吐いていると、舞台の外から声を掛けてくる人がいた。最早聞き慣れた、俺にとっては優しいこの声色・・・・・・言うまでもない、青娥さんだ。

 

俺がヤムザに勝てたことがそんなに嬉しいのか、にこにこと微笑みながらこちらにゆるゆると手を振っている。その笑顔を見ると心が癒されていくのと同時に胸が高鳴りそうになるが、勘違いしないように俺は気を引き締める。あくまで、自分の育てた男が魔王の幹部に勝てたことが嬉しいだけだ。青娥さんみたいに綺麗で優しくて凄い人が、俺みたいな男に特別な感情を抱く筈などない。

 

こうしてみると、俺もただの思春期真っ只中の高校生だよな・・・なんて自嘲しつつ、改めて青娥さんのいる方へ視線を向ける。それから青娥さんに手でも振り返そうとしたその時、青娥さんの隣にいた人物が視界に入り俺は思わずびくりと肩を揺らした。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤムザぁ・・・!」

 

 

 

そこにいたのは、青娥さんたちと一緒に今の戦いを観戦していたクレイマン様。彼の形相は怒りで歪んでおり、ゆっくりとした足取りでこちらへ歩いてくる。

 

 

 

これ、もう一波乱ありそうだな・・・・・・




ヤムザが氷系の攻撃に耐性(『耐寒耐性』?)を持っているのは本作品オリジナルの設定です。もしかすると今後クレイマンリベンジの方で彼の所持スキルや耐性が公開されるかもしれませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。