転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第110話となります。

目の前でSwitch2が売り切れて滅茶苦茶ショックです。


クレイマンとの約束

ガビルの協力もあって、名付けをした影響で弱体化しながらもヤムザとの模擬戦に俺は勝利した。

 

喜んでいる青娥さんの笑顔に癒される俺だったが、勝利の余韻に浸る間もなく新たなトラブルが発生する。

 

 

 

「何をしているヤムザ・・・!」

 

 

 

そのトラブルとはクレイマン様だ。部下であるヤムザが俺に敗北したことに激怒しているらしく、つかつかとやや早足で観戦席から降りてくる。

 

エヴァさんが声を掛けて制止しようとするがクレイマン様は応じない。青娥さんとレインさん以外の全員に緊張が走るが、やがてクレイマン様は足を止めた。壁にもたれかかるヤムザとはまだ少し距離がある。てっきり目の前まで行ってヤムザを殴ったりするんじゃないかと思っていた俺は少しだけ安堵するが、まだ完全に安心は出来ないので様子を窺うことにした。

 

 

 

「ヤムザ、貴様は五本指の筆頭なのだぞ?だと言うのに、この様はなんだ!」

 

「も、申し訳ありません・・・!」

 

 

 

クレイマン様は足を止めたその場でヤムザを叱責した。それを受け、ヤムザは痛む身体を無理矢理動かしてクレイマン様に跪く。その姿を見たクレイマン様の目付きがより鋭くなる。

 

 

 

「チッ、これならアルヴァロを残しておくんだった・・・っ・・・いや、しかし・・・・・・」

 

 

 

しかし『アルヴァロ』という名前を出した途端にクレイマン様の表情が曇った。僅かに俯き、額に手を当てながらぶつぶつと呟き出す。どこか様子がおかしく見えたクレイマン様だったが、我に返ったのか小さく首を横に振り息を吐く。それから再びヤムザを睨み付けた。

 

 

 

「・・・・・・ヤムザ、お前はよく知っていた筈だろう?」

 

「は・・・・・・?な、なにを・・・」

 

「私が──使えない道具をどうするか、さ」

 

 

 

そう言い終えたクレイマン様は冷たく微笑し、離れたところのヤムザへ片手を向ける。すると、跪いていたヤムザが突然アイスブレードを手に取った。しかし、何故かヤムザは信じられないと言った表情で剣を握った自分の手を見つめている。

 

 

 

「ひっ・・・!?お、お待ちを・・・・・・お許しくださいクレイマン様ぁっ!」

 

 

 

次の瞬間、ヤムザが短く悲鳴を上げた。なんと自分の首に剣を押し当てたのである。自身の行動だと言うのに必死で許しを請うその姿に俺は漸く異常事態であることに気付いた。これはまさか、クレイマン様の仕業なのか・・・!?

 

 

 

「ヤムザっ!」

 

「はぇっ!?ちょ、アクトくーん!?」

 

 

 

流石にマズイと思った俺は思わず飛び出してしまった。青娥さんが少し慌てたような声色で俺を呼んでいたが、反応する余裕はない。

 

消耗している身体に鞭を打ち『加速』も使って急ぎヤムザの元まで飛んで行く。ヤムザが必死に抵抗していたのもあり、彼の首が落とされる前に何とか間に合った俺はアイスブレードを掴み抑えた。

 

 

 

「だ、大丈夫かヤムザ!?」

 

「はっ、はっ・・・・・・?あ、アクト・・・?」

 

「・・・・・・何の真似かな?アクト」

 

 

 

俺に声を掛けられたヤムザは荒い呼吸を繰り返しながら振り返る。その顔は恐怖で引きつっており、身体は震えている。もう少しで首を・・・しかも自分の手で切断するところだったのだ、無理もない。

 

そんなヤムザを助けた俺を、クレイマン様が不愉快そうな顔で睨んでいた。魔王から発せられる威圧感に俺は息を詰まらせ何も喋れなくなってしまう。

 

その時。いつの間にか観客席から移動していた青娥さんがクレイマン様の隣に立っていた。遅れてそれに気付いたクレイマン様だったが、彼が動く前に青娥さんは手を銃の形にし、魔力を込めた指先をクレイマン様のこめかみ辺りに突き付けた。

 

 

 

「──私のアクトくんに何をするつもり?」

 

「せっ、青娥・・・!ま、待ちたまえ!誤解だよ、私はヤムザに罰を与えようとしていただけでね?彼がその邪魔をしているから退いて貰おうと・・・」

 

 

 

静かに、だが怒りを感じさせる声色で問い掛けた青娥さんにクレイマン様は弁解を始める。抵抗はしないという無言の訴えなのか、クレイマン様は軽く両手を上げ降参のポーズを取ると、アイスブレードに掛かっていた力が無くなった。

 

俺はヤムザの手からアイスブレードを取り上げると、それを地面に置く。一先ずヤムザの身から危険は去ったのだと安堵し、俺は青娥さんに呼び掛けた。

 

 

 

「えっと・・・・・・青娥さん。俺はなんともないんで、それよりヤムザのことを・・・」

 

「・・・・・・・・・ふぅ・・・・・・クレイマン様。ヤムザさんはこの後アグレッサーたちとの戦いに参加して貰うんですけども?」

 

「わ、分かっているさ・・・私の部下である癖に無様な姿を晒したから少しお灸を据えただけだとも、うむ!」

 

 

 

最後まで言わずとも俺の意を汲んでくれた青娥さんは、構えた腕を静かに下ろす。それから一息吐くと、呆れたような目でクレイマン様を見つめそう告げた。

 

クレイマン様は冷や汗を垂らしながらも引きつった笑顔を浮かべそう言い訳する。言い終え一人頷くその姿を見て、青娥さんは大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

「はぁ・・・・・・えっと・・・良かったな、ヤムザ?」

 

「っ・・・・・・くっ・・・!」

 

 

 

安心して深く息を吐いた俺は、隣で座り込んだままのヤムザに笑い掛ける。ヤムザは一度こちらを見た後、悔しげに表情を歪め顔を背けた。負けた相手に気遣われたことが許せなかったのだろうか。

 

そんなヤムザと、青娥さんに脅されたことが許せないのか腹立たしそうに顔を歪めているクレイマン様の影響で、周囲の空気が悪くなる。俺が居心地の悪さを感じていると、エヴァさんがこちらにやってきた。静かに怒る主に何も言葉を掛けられずおろおろと立ち尽くす友人の姿に、青娥さんは眉間に皺を寄せつつ仕方ないと言った顔でこう言った。

 

 

 

「・・・・・・全くもう・・・機嫌を直してくださいませんか、クレイマン様。今度、何か困ったことがありましたらお手伝いというか、助けて差し上げますから」

 

「・・・・・・なに・・・?」

 

 

 

その言葉を聞いて、クレイマン様は目の色を変えて青娥さんに振り向いた。エヴァさんも少し驚いた様子で青娥さんを見つめる。

 

 

 

「ガビルさんを召還したことは謝りませんよ?れっきとしたアクトくん自身のスキルですし、そちらのヤムザさんだって特質級(ユニーク)アイテムを使って分身してましたし」

 

 

 

青娥さんはそう言いながらヤムザをちらりと見る。『鏡身の腕輪(ドッペルゲンガー)』とか言ったか、あの凄い力を秘めたアイテムのことを青娥さんは知っていたらしい。

 

 

 

「ですからこれは御詫びではなくお礼です。アグレッサーとの戦いにヤムザさん・・・あと、他にも部下の方を貸して頂けることに対してのね」

 

「ほ、ほほう?そうかそうか・・・青娥、キミの助けを・・・・・・ふふ・・・いや、済まないね青娥。どうやら気を遣わせてしまったようだ。たかが模擬戦だし、別に結果なんてどうでも良かったんだが・・・くっくっく・・・」

 

 

 

にやりと口元をつり上げたクレイマン様は分かりやすく上機嫌になってくすくすと笑い出した。

 

・・・・・・そんな約束をして大丈夫なのだろうか。不安に思った俺は青娥さんに視線を向ける。青娥さんは俺に気付くと小さく微笑み、『思念伝達』で語り掛けてきた。

 

 

 

『心配しなくても大丈夫ですよ、アクトくん。ただの御機嫌取りですから。適当に頼まれ事を引き受けてチャラにしちゃいますんで』

 

『そう、ですか?ならいいんですけど・・・』

 

『ふふ、心配してくれてありがとう・・・・・・それに・・・クレイマン様はともかく、ジスターヴを敵に回したくはありませんからね』

 

 

 

俺に感謝の言葉を述べた後、青娥さんは真顔になってそう呟いた。クレイマン様はともかく・・・・・・って、かなり失礼だがどういう意味なのだろう。青娥さんほどの実力者がそこまで言うなんて、まさか魔王であるクレイマン様よりも強い奴がいるとでも言うのだろうか。

 

そんな訳はないよな、なんて一人で小さく笑い、青娥さんにその真意を訊ねようとしたその時。

 

 

 

 

 

「──なんや。騒がしい思たら青娥はんがおるやないか」

 

 

 

突然、背後の舞台上から男の声がした。

 

その声を聞いて、俺はある違和感を覚えた。この声の主は、一体どこから現れた?訓練所で紹介されたクレイマン様の配下たちの中にこんな声の奴は居なかった筈。仮に何処か人目のつかない場所に隠れていたのだとしても・・・舞台上まで上がったというのに足音も気配も全くしなかった。

 

どこか不気味な雰囲気を感じながら、俺はゆっくりと舞台上へ視線を向ける。そこには、怪しげな人物が立っていた。

 

赤い丸鼻と、笑顔を思わせる弧を描いた口元のデザイン。そして片目が覗く仮面を付けた、まるでピエロのような格好をしている謎の男。何者なのかと俺が警戒していると、クレイマン様はその男を見て目を丸くした後、表情を綻ばせた。

 

 

 

「ラプラスじゃないか。来ていたのかい?」

 

「おう、たまたま近くを通り掛かってな。そしたらなんやドンパチやっとるさかい様子を見に来たっちゅー訳や」

 

 

 

クレイマン様にラプラスと呼ばれたそのピエロは、そう返しながら彼の元へ歩いていく。俺は声もなく、彼の言動に驚いていた。あのクレイマン様にこれ程気さくに接して許されているとは・・・・・・

 

 

 

「な、何者なんだ?あの道化・・・」

 

 

 

今の様子からして、幹部であるヤムザもあのピエロを知らないらしい。すると、エヴァさんがこちらにやってきて説明してくれた。

 

 

 

「あの方はラプラス殿と言いまして、クレイマン様の古くからの御友人なんですよ」

 

「クレイマン様の・・・!?」

 

 

 

エヴァさんから告げられた事実にヤムザは目を見開いて驚愕する。

 

・・・・・・あぁ、思い出した。ラプラスって、さっき城の中でクレイマン様が名前を出してたな。彼らは部下ではなく友人だと、青娥さんの言葉を否定し怒りを見せた時だったか。

 

 

 

「久しぶりですね、ラプラスさん」

 

「まいど、青娥はん。今日はどないしたんや?まーたクレイマンを苛めに来たんとちゃうやろな?」

 

 

 

俺がそんなことを考えていると、青娥さんがラプラスに話し掛けていた。ラプラスはそちらに振り返ると軽い調子で片手を上げ青娥さんに挨拶をしつつそう問い掛ける。どうやらこの二人は顔見知りらしい。

 

 

 

「ちょっと、アクトくんの前で人聞きの悪いこと言わないでくださいますぅ?私にそんな趣味ありませんから。クレイマン様はどうか知りませんけども」

 

「私だってあるかァ!」

 

 

 

青娥さんにイジられたクレイマン様は声を荒らげた。まぁまぁ落ち着きや、と、ラプラスは背中をぽんぽんと叩きながらクレイマン様を宥める。そんな二人を見て青娥さんはくすりと笑い、それから今日ここにやってきた経緯をラプラスに説明した。

 

 

 

「・・・・・・ほぉー、レインはんの依頼でアグレッサーの討伐かいな。しかも次元の裂け目がジュラの大森林に二個も・・・」

 

 

 

話を聞き終えたラプラスは腕を組みながらそう呟いた。その横顔を俺は静かに見つめる。

 

実は青娥さんが説明をしている間、俺はずっとラプラスを観察していた。あの時──もしかすると青娥さんとレインさんは気付いていたのかも知れないが──誰にも気付かれず舞台上に現れたことが気になっていたのだ。

 

『魔力感知』を使用して、ラプラスの魔素量をこっそり調べる。すると、その量はあまり多くはなかった。というか、俺やヤムザどころか、ガビルよりもずっと低い。青娥さんやレインさんたちのように普段は力を抑えている可能性もあるが・・・・・・なんというか、あまり大したことのない奴なのではないかと思ってしまう。

 

 

 

「・・・・・・・・・♪」

 

「っ・・・!」

 

 

 

その時、ラプラスが突然こちらを向いてひらひらと片手を降った。まさか、俺の『魔力感知』に気付いてる・・・のか?

 

 

 

「なぁ青娥はん。さっきから気になっとったんやけど、あの兄ちゃんはどちら様で?もしかして、若い燕やったり?」

 

「何で皆そう言うんです?」

 

 

 

俺が困惑する中、ラプラスは揶揄うような口調で青娥さんに訊ねた。仮面越しだが、目付きからしてにやにや笑っているように見える。カバルさんにも言われたことをラプラスから問われた青娥さんは少しげんなりしつつも、俺のことを紹介してくれた。

 

 

 

「ほほぉ、青娥はんの弟子やったんか。成程、ヤムザはんに勝ったのも納得やで」

 

 

 

ラプラスはそう言って俺をじろじろと眺める。その視線に少し居心地の悪さを感じたが、俺も似たようなことをしたので何も言えずただ苦笑した。

 

 

 

「あ、ありがとう・・・・・・えっと、青娥さんが紹介してくれたけど・・・俺はアクト。よろしく」

 

「ラプラスや。よろしゅうな」

 

 

 

とりあえず改めて自分からも名乗ると、ラプラスは片手を軽く上げて答えてくれた。

 

・・・・・・今更だけど、異世界なのに関西弁を話すんだな。もしかして、ラプラスも異世界人だったりする?

 

 

 

「・・・・・・あ、そうだ。クレイマン様、アグレッサーとの戦いにラプラスさんも借りたいんですけど、よろしいです?」

 

 

 

ラプラスについて俺がそんなことを考えていると、青娥さんは思い付いたような顔をしてそう頼んだ。クレイマン様はそれを聞くと見るからに嫌そうな表情を浮かべる。

 

 

 

「なんだと?ふざけるなよ青娥・・・ヤムザと、それからエヴァが選抜する数名の部下だけで十分だろう」

 

「オークロードを魔王にする計画に目を瞑ってあげたじゃないですか。いくらミリム様たちが楽しみにしているからって、私がその気になればいくらでも邪魔出来るんですよ?」

 

「うっわ、それバレとるんかーい」

 

 

 

クレイマン様が睨み付けながら告げた言葉に、青娥さんはにっこりと微笑んでそう返した。うぐ、と、クレイマン様は言葉に詰まり、ラプラスは自身の頭をぱしりと叩いて天を仰ぐ。クレイマン様の友人というだけあって、彼もオークロードの件を知っていたらしい。

 

 

 

「どうですクレイマン様?ラプラスさんを貸して頂けるのなら、オークロードの一件に【私は】絶対関わらないと約束致しますよ」

 

「それと、中庸道化連への依頼っちゅーことでちょいとばかり報酬も頂けると助かるんやけど・・・・・・どないや?青娥はん」

 

「んー・・・まぁ、それくらいなら。で・・・・・・クレイマン様?」

 

「ぐ・・・・・・!分かった、ラプラスも連れて行って構わん。だが、今の言葉を忘れるなよ?絶対に貴様はオークロードの件に関わるな!あとラプラスへの報酬もちゃんと用意するように!」

 

 

 

青娥さんに見つめられたクレイマン様は渋々と言った様子で頷き、そう叫んだ。嬉しそうに笑顔を見せ、クレイマン様に礼を言う青娥さんだが、同時に『思念伝達』を俺に繋げた。

 

 

 

『えぇ・・・関わりませんよ。【私は】ね♪』

 

『・・・・・・あー、成程』

 

 

 

ちらりとこちらを向いてウインクをする青娥さんに俺は思わず苦笑する。

 

つまり、青娥さんはこういうつもりなのだ。自分はオークロードと戦ったりそれの魔王化を止めたりはしないが、俺やガビルたちがオークロードと何をしようが知ったことではないと。

 

・・・・・・そんな屁理屈みたいな言い訳が魔王相手に通るのか滅茶苦茶不安ではあるが・・・まぁ、青娥さんだし何とかなるか。

 

 

 

「決まりやな。んじゃま、そういう訳なんで・・・少しの間やけど、よろしゅうな。アクトはん」

 

「ん、あぁ・・・・・・よろしく」

 

 

 

こちらに振り返りそう告げたラプラスに、俺は戸惑いつつも小さく微笑んで応える。そのやり取りの中、俺は悟られないよう再びラプラスを観察する。

 

青娥さんが報酬を用意してでも助っ人として参加して欲しいということは、やはりラプラスも相当の実力者だということだ。俺からすれば大したことのないように思えるが、『魔力感知』に気付いていたかのような反応が気になる。今のところ青娥さんとの仲はクレイマン様ほど悪くは無さそうだが・・・・・・敵か味方か分からないし、一緒に行動している間は彼の動きに注意した方がいいのだろうか。

 

 

 

「・・・・・・ところで青娥。ヤムザ殿はお眼鏡にかなったかしら?」

 

「え?・・・あー、そう言えばこの模擬戦の目的はヤムザさんの力を確かめることでしたね・・・・・・んー、まぁ一応合格で」

 

 

 

エヴァさんに問われた青娥さんはきょとんとしていたが、すぐに今の模擬戦が行われた理由を思い出したようだ。どうでも良さそうにヤムザを認める彼女に、俺とエヴァさんは二人して苦笑する。

 

 

 

「えぇと・・・・・・それではクレイマン様。模擬戦が終了しましたので、アグレッサーとの戦いに参加させる者たちを選抜したいと思うのですが」

 

「全てお前に任せるよ。私は城に戻る」

 

 

 

エヴァさんは表情を引き締めると、クレイマン様にそう告げて頭を下げる。クレイマン様は不機嫌そうに顔をしかめたまま、エヴァさんに振り向きもせず城の方へ戻って行く。その背中を少しの間見つめていたエヴァさんは、俺や青娥さんたちに振り返ると頭を下げ、クレイマン様とは違う方向へ歩いて行った。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん?ヤムザ、どこに行──」

 

「戦いの準備をしてくるだけだ!逃げたりなどしないから待っていろ!」

 

 

 

ヤムザもどこかへ行こうとしていたようなので行き先を訊ねようとしたが、そのように怒鳴られてしまった。思わずごめんと謝ると、ヤムザは大きく舌打ちをしてどこかへ向かう。

 

 

 

「お疲れ様でした、アクト様」

 

「レインさん?」

 

 

 

去っていくヤムザの背中をぼんやり眺めていると、ずっと観客席から様子を窺っていたレインさんが現れた。その後ろにはテングもいる。しかし、いつの間にか他の連中・・・五本指やケーニッヒたちの姿が見えないことに俺は気付いた。恐らくクレイマン様がこの場を離れたタイミングで彼らも解散したのだろう。

 

 

 

「名付けを行った影響で弱体化していた状態だったにも関わらず、五本指筆頭であるヤムザ様を倒してしまうとは。流石ですね」

 

「はは、ありがとうございます。けど、ガビルの協力があってこそですよ」

 

「はぇー!?弱体化しとってこれかい!」

 

 

 

レインさんに礼を言うと、そのやり取りを聞いていたラプラスが大袈裟に驚いてみせた。その反応にどう答えれば良いか分からず俺が愛想笑いしていると、レインさんの後ろにいたテングがおずおずと手を上げた。

 

 

 

「あのー・・・・・・それで、これからどうするんです?私たち以外誰もいなくなっちゃいましたけど・・・」

 

「どうするったって、待つしかないんじゃないか?」

 

「そうですね。エヴァさんが追加の戦力を選抜する時間もありますし」

 

 

 

俺の後に青娥さんもそう続ける。テングとしては早くジスターヴを出たかったのか、ですよねーと笑顔で呟いた後、がっかりとした顔で深い溜め息を吐いた。

 

 

 

「まっ、しゃあないわな。丁度えぇし、待っとる間にアクトはん。アンタのこと色々教えてくれへんか?」

 

「あー・・・」

 

 

 

ラプラスにそう頼まれた俺は振り返って青娥さんを見つめる。今日の様子を見ていて感じたのだが、青娥さんはあまりクレイマン様のことを良く思っていないらしい。なのでエヴァさんならともかく、クレイマン様の友人であるラプラスにこちらのことを話すのは不味いのでは、と俺は判断したのだ。

 

俺の視線を受けた青娥さんは顎に指を当て考え込む仕草をする。やがて小さく息を吐くと、どこか困ったような笑みを浮かべながら頷いた。これは・・・とりあえず、青娥さんはラプラスのことを悪くは思っていない、ということだろうか?もしくは、一時的にとは言え味方となるのだから仲良くなっておいた方が良いと考えたのか。

 

その反応を見てそう結論付けた俺は青娥さんに頷き返し、ラプラスへと向き直る。そして俺が異世界人であることや、こちらの世界にやってきてから過ごした日々の出来事を語り始めるのだった。




店頭に並ぶようにはなってきているし、10月くらいまでには手に入りますかね・・・?
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