転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

113 / 127
お待たせしました、第113話となります。

トリニティでフラメアが登場してくれて嬉しいです。


蟲魔族(インセクター)

血相を変えたアルヴァロが俺たちの眠るテントに駆け込んできたのは、明け方のことだった。

 

 

 

「皆起きてくれ!アグレッサーが現れそうだ!」

 

 

 

その言葉に俺たちは一瞬で意識を覚醒させた。

 

全員、急いで身支度を整えテントの外に出る。まだ薄暗い森の中、既に青娥さんとレインさんにラプラスの三人が待っていた。

 

 

 

「アルヴァロ様、本当ですか?」

 

「あぁ。魔素の濃度がこれまでよりも急激に高まり、空間が裂ける気配もした!間違いないだろう」

 

 

 

確認するレインさんにアルヴァロは慌てた様子で答えた。空間が裂ける気配・・・というのはよく分からないが、アルヴァロがそう言っているし、何よりレインさんたちも特に突っ込んだりしていないのでそういう現象もあるのだろう。

 

 

 

「あの場所とは『拠点移動(ワープポータル)』の魔法陣で繋げてあります。皆さんこちらへ」

 

「はい!」

 

 

 

青娥さんに手招きされ、俺たちは彼女が展開していた魔法陣の上に集まった。全員揃ったことを確認すると、青娥さんは魔法を発動させ、俺たちを一瞬で洞窟の前へと転移させる。

 

 

 

「おっ、来たか!」

 

 

 

転移した俺たちをジョイスとサイラスが迎えた。二人はアルヴァロが俺たちを呼びに行っている間、洞窟を見張ってくれていたらしい。

 

二人と合流し、俺は周囲の様子を観察する。空間の裂ける気配というのは相変わらず分からないが・・・・・・成程。確かに昨日ここへ来た時には感じられなかった、重苦しい嫌な感覚がある。

 

 

 

「ふーん・・・・・・どうやらもう異界の門から現れてきてるようですね。『魔力感知』にかなりの数の反応があります」

 

「私たちがこうして待ち構えているのに全く臆した様子もなくどんどん近付いてきてます。少なくとも妖魔族(ファントム)の線は消えましたね、予想はしてましたけれど」

 

 

 

青娥さんとレインさんが洞窟に視線を向けながらそう話す。俺も『魔力感知』を発動させたが、なんの反応も引っ掛からなかった。この二人の『魔力感知』による索敵範囲は俺なんかよりもずっと広いのだろう。地味なスキルではあるが、改めて二人との実力差を感じた。

 

 

 

「獣系なら手痛い反撃を受ければ退いてくれる可能性もあるんですけど・・・・・・その可能性が低いからレインさんも私たちに依頼したんですものねぇ」

 

「その通りでございます」

 

「はー・・・群れの規模にもよるけど蟲相手は大体長引くから嫌やわ」

 

 

 

こんな時だと言うのに青娥さんたちは焦ったり不安そうな顔を全く見せず余裕そうにしている。ラプラスも肩を落とし溜め息を吐いているが、恐れているようには見えない。やはり、実はかなりの力を持っているのだろうか。

 

 

 

「・・・・・・んんっ。皆、戦いが始まる前に改めて作戦の確認をするぞ」

 

 

 

どこか緊張感の無い三人を見つめていると、アルヴァロが一つ咳払いをしてからそう切り出した。俺ははっとしてそちらに向き直り会話に混ざる。

 

 

 

「青娥殿が今言ったように現れるのが獣・・・幻獣族(クリプテッド)ならば、こちらの力を見せ付け奴等を恐怖させることで異界へと追い返せるかもしれん。しかし、蟲魔族(インセクター)だった場合それは無理だ。上位種ならともかく、下級の蟲たちは本能のまま周囲にある全てを破壊し喰らい尽くす・・・長期戦は避けられん」

 

 

 

アルヴァロの言葉に俺を含めた数人が声もなく頷いた。俺たちを見回したアルヴァロはさらに続ける。

 

 

 

「そうなった場合、余計な消耗や負傷を防ぐ為にも私たち全員の連繋が重要となる」

 

「そうだな。それに、今回は俺たちだけで戦わないといけないし・・・」

 

 

 

呟いて、俺は青娥さんをちらりと見る。視線に気付いた青娥さんはどこか困ったように小さく笑った。

 

アルヴァロが言ったように、相手が蟲魔族(インセクター)であるのなら、最悪数日掛かりの長期戦となる。とは言え、休み無しで戦い続けられる訳もない。いや、青娥さんとかは何かやれそうな気もするけど・・・・・・少なくとも俺たちは無理だ。相手の数や質にもよるが、丸一日戦い続けることすら厳しいだろう。

 

そこで、昼間に戦闘を行う組と夜間に戦闘を行う組の二つにメンバーを分け、交代で休息を取ることになった。そのメンバーの振り分けだが、青娥さんとレインさん、ラプラスの三人が夜間の戦闘を。それ以外のメンバー全員で昼間の戦闘を担当する。

 

改めてその説明を聞いたガビルは、心配そうな顔で青娥さんに訊ねた。

 

 

 

「うーむ・・・本当にそちらは三人で大丈夫であるか?青娥殿。いくらなんでも厳しいのでは・・・」

 

「滅茶苦茶厳しいですわ」

 

「滅茶苦茶厳しいやろなぁ」

 

「二人ともー?」

 

 

 

すると青娥さんより早くレインさんとラプラスがそう返答した。笑ってはいるものの圧を感じさせる青娥さんにじっと見つめられ、レインさんとラプラスは誤魔化すように口笛を吹きつつ目線を逸らす。そんな二人に溜め息を吐いた後、青娥さんはガビルに向き直った。

 

 

 

「・・・・・・まぁ、何とかなるでしょう。レインさんとラプラスさんがいますし」

 

「本当に大丈夫なんですよね?その、青娥さんとレインさんが強いのは知ってますけども」

 

「勿論ですよ。アクトくんに格好悪いところは見せたくないですからね、頑張っちゃいますよ♪」

 

 

 

俺を心配させまいとしているのか、青娥さんは微笑みながら小さくガッツポーズしてみせた。青娥さんがこんなことをするのは少し意外で思わず目を丸くしてしまったが、どこか微笑ましいというか、可愛らしいその姿につい口元が緩む。

 

師匠でもあるこの人がこう言っているのだ、とりあえず信じることにしよう。あとは、ラプラスの実力が本物であることを祈るくらいか。

 

 

 

「最後にもう一つ!戦う際は蟲共を逃がさないよう洞窟の入口付近で陣を張り迎え撃つ。だが・・・・・・いや、悪いがハッキリ言おう。この中には多少実力に不安を覚える者がいるな?」

 

「はうっ・・・!」

 

 

 

アルヴァロの言葉にフォスが短く声を上げびくりと身体を揺らす。可哀想だが、確かにフォスはこのメンバーの中だと魔素量がかなり低い。いや、シーザーも同じくらいではあるが。

 

 

 

「敵の数は凄まじく多いだろう。一対一ならば問題なくとも連戦となったり、複数の敵に囲まれてしまえばその者は勿論、他の者とて危険かもしれん。誰かが倒され陣に綻びが生じれば奴等をこの場から取り逃がしてしまう」

 

「そうならぬよう、常に数人で固まって互いをフォローし合えるよう意識しながら戦う・・・ということでしたな」

 

 

 

エンリオがそう確認を取るとアルヴァロは頷いて肯定する。この固まる数人の組み合わせだが、なるべく戦力が均等になるように皆で考え振り分けたつもりだ。

 

その結果、フォビオ・グルーシス・エンリオの三人。スフィア・ガビルの二人。アルヴァロ・サイラス・ジョイスの三人。そして

俺・ヤムザ・クロコダイン・フォスの四人、という組み合わせのチームが四つ出来上がった。

 

青娥さんたち三人を除けば一番強いであろう俺とヤムザが同じチームになっているが、これはフォスとクロコダインというこの中で魔素量が低い二人が一緒だからである。一応、クロコダインはフォスより魔素量を多く保有しているが、彼にとってこれが名付けによって進化してから行う初めての実戦の為、万が一のことを考えた結果このようなチーム分けとなった。

 

そうそう、テングとシーザーは上空からの援護だ。陣が崩れ出したり誰かがやられそうになった際はそれを伝え、可能であればフォローに入ってもらう役割になっている。

 

 

 

「・・・・・・・・・おっと。アクトはーん?お話中悪いんやけども、とうとうお出ましみたいやで」

 

「・・・・・・!」

 

 

 

その時。ラプラスが洞窟をちらりと見てからこちらにそう声を掛けてきた。それを聞き、俺だけじゃなく仲間たちにも緊張が走る。

 

全員の視線が洞窟の入口に集中する中、そいつは・・・・・・そいつらは現れた。

 

 

 

 

 

『キシ・・・ギチギチ・・・!』

 

 

 

そこにいたのは巨大な蟻だった。牙を打ち鳴らす音なのか関節が軋む音なのかは不明だが、なんとも不快な独特の異音を立てながらぞろぞろと洞窟から出てくる。

 

 

 

巨大妖蟻(ジャイアントアント)・・・・・・とは違うようであるな。姿こそ似ているが、魔素量は奴等よりも多い」

 

 

 

その姿を観察しながらガビルがぽつりと呟く。巨大妖蟻(ジャイアントアント)・・・確か、カバルさんたちがシズさんと一緒にジュラの大森林へやって来た時に襲われた魔物だったか。

 

巨大妖蟻(ジャイアントアント)のランクは知らないが、洞窟から出てきた蟻たちの魔素量は大体BからB+ランクに相当するだろう。

 

 

 

「皆、油断せず──」

 

「おっしゃあ!行くぜぇガビルッ!」

 

「えっ!?ちょ、スフィアどぶぅおおおおおっ!?」

 

 

 

警戒するアルヴァロが言い終える前に、不敵な笑みを浮かべたスフィアがガビルの腕を掴んで蟻たちに突撃して行った。俺たちが制止しようとするも間に合わずガビルは彼女に引っ張られ、その凄まじい勢いに面白い悲鳴を上げる。

 

 

 

「あの馬鹿!ったく・・・お前ら、俺たちも行くぞ!」

 

「はっ!」

 

 

 

無茶をするスフィアに悪態をつきつつも、グルーシスとエンリオを引き連れてフォビオもその後に続く。テングとシーザーも俺たちに一声掛けてから上空へ飛び上がっていった。

 

 

 

「スフィア様とフォビオ様たちが攻撃を仕掛けたです!」

 

「よ、よし・・・俺たちも続くぞ!」

 

 

 

フォビオが駆け出した頃にはもうスフィアは蟻たちと接敵しており、ガビルと二人で戦闘を開始していた。そこにフォビオたちも加わりあっという間に乱戦状態である。フォスとクロコダインも覚悟を決め、そこに突撃しようとしたところで、俺はあることを思い出した。

 

 

 

「やべ、忘れてた・・・・・・フォス、クロコダイン!ちょっと待ってくれ!」

 

 

 

動き出そうとする二人を俺は慌てて止めた。何故止めるのかと怪訝な顔をする二人に一言謝罪してから俺は青娥さんにあることを頼む。

 

 

 

「青娥さん、昨日のアレを出してもらっていいですか?」

 

「はーい♪えっと・・・・・・これとこれですね」

 

 

 

青娥さんは返事をすると空間魔法を使い、目の前の虚空に穴を出現させどこかと繋ぐ。そこに手を入れごそごそと何かを探し始めると、すぐに目当ての物を発見しそれらを取り出した。

 

 

 

「これは、斧と短剣か?」

 

「あぁ、二人の武器だよ。昨日の夜造ったんだ」

 

「ふぁーっ!?もしかして、アクトさんがです!?」

 

 

 

驚愕するフォスに頷いて肯定する。彼女はさらに驚き、クロコダインも目を見開いた。

 

昨夜の作戦会議の後、俺はチーム分けの際に指摘されたフォスとクロコダインの実力不足について考えていた。まぁ、俺たちと比べれば弱いというだけだし、二人とも戦闘経験自体は豊富だろう。それこそ、多分俺なんかよりもずっと。なので多少の魔素量差くらいはどうにかしてくれると思う。

 

それにヤムザがどうするかは分からないが、俺はなるべく二人をサポートするつもりでいるし。とは言え、フォスとクロコダインの戦闘力が高いことに越したことはないだろう。

 

そこで、フォスとクロコダインの力を強化する為に二人の新しい武器を造ろうと思い立ったのだ。クロコダインに関しては俺が愛用の斧を壊してしまったので贖罪の意味も兼ねている。

 

しかし、思い立ったは良いが素材が無くては話にならない。とりあえず青娥さんにそのことを相談してみると、丁度その場に居合わせたレインさんから魔鋼を譲ってもらえることに。貰ってしまって良いのか不安になる俺だったが、今回アグレッサーとの戦いに参加してくれたお礼だとでも思って欲しいと言われたので、有り難く受け取ることにした。

 

レインさんから魔鋼を受け取った俺は彼女に感謝の言葉を告げるとすぐに武器の作成に取り掛かり、やがて斧と短剣を完成させた。スキルを使ったとはいえ、二つの武器を短時間で作成したことにラプラスが驚いていたのを覚えている。

 

 

 

「なんと、魔鋼製の武器とは・・・」

 

「青娥さんに解析してもらったんだけど、一応どっちも特上級(スペシャル)になってるっぽい」

 

「す、特上級(スペシャル)ーッ!?」

 

「驚くわなぁ、そら」

 

 

 

武器が俺の手作りだということにも驚いていたクロコダインとフォスだが、武器の等級を聞いて更に驚愕する。声を上げるフォスとは対称的に、クロコダインは口をあんぐりと開け俺と斧を交互に見つめていた。俺たちの近くで話を聞いていたラプラスはそのリアクションを予想していたのか、小さく苦笑してそう呟いた。

 

ちなみに、フォスの短剣のデザインはそこまで変わったものではないが、クロコダインの斧は『ダイの大冒険』に登場する『クロコダイン』が使用していた『真空の斧』そっくりになっている。あくまで外見だけしか真似ていないのでバギ・・・風を巻き起こすことは出来ないが。

 

 

 

「ほ、本当に貰ってしまって良いのか?こんなに上等な斧を・・・」

 

「あわわわ・・・!特上級(スペシャル)の武器だなんて・・・・・・牛鹿のお肉何年分くらいになるです・・・?」

 

 

 

困惑した顔でこちらに訊ねるクロコダイン。その隣ではフォスが軽くパニックを起こしている。そんな二人の姿に俺は苦笑する。

 

 

 

「うん、二人が良ければ貰って欲しい。今回力を貸してくれた礼とでも思ってさ。クロコダインに関しては武器を壊しちゃったお詫びってのもあるけど・・・・・・それでも、まだ申し訳無いって思うなら・・・」

 

「アクトさん・・・?」

 

「──その武器で、二人が格好良く戦うところを見せて欲しいな。それから、俺たちを助けてくれると嬉しいよ」

 

 

 

小さく笑って、俺は二人に告げた。嘘偽りの無い素直な気持ちを。それを聞いたクロコダインとフォスは一瞬きょとんと目を丸くした後、互いに顔を見合せる。すると二人はふっと口元を緩め、こちらに向き直ると笑顔で頷いてみせた。

 

 

 

「・・・・・・くっくっくっ、そこまで言われては仕方ないな。分かった、この斧は有り難く受け取ろう。そしてこの礼は、戦いにて返す!」

 

「はいです!見ててくださいね、アクトさん!」

 

 

 

そう言って、二人はそれぞれの武器を手に取った。クロコダインはおぉ!などと声を上げ新しい斧をまじまじと見つめ、フォスは目をキラキラさせている。喜んでもらえたようで何よりだ。

 

 

 

「・・・・・・いつまで無駄話しているつもりだ。他の連中はとっくに戦い始めているぞ」

 

「あ、あー・・・ごめんごめん。もう行くよ」

 

 

 

その時。ずっと傍にいたヤムザが呆れた声色で俺に話し掛けてきた。彼の言う通り、もうとっくに戦いは始まっている。ここに残っているのは俺たち四人と、昼間は休むこととなっている青娥さんたち三人だけだ。俺はヤムザに謝ってから慌ててガビルたちの元へ駆け出そうとして──

 

 

 

「アクトくん」

 

 

 

その声を聞いて、足を止めた。声の主は青娥さんで、どうしたのかと俺はそちらに振り返る。俺と視線が合った青娥さんは何故か戸惑うように顔を背けたが、やがて俺を真っ直ぐ見詰めると、微笑みながらこう言った。

 

 

 

「───頑張って」

 

「・・・・・・・・・はい!」

 

 

 

彼女の応援に、俺も笑顔で応えた。どこか嬉しそうに頷く青娥さんの姿を確認した俺は、再び彼女に背を向ける。そしてクロコダイン、フォス、それからヤムザの三人と共に戦場へ向かって行くのだった。




フォスたちのことはちゃん付けで呼ぶみたいですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。