転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第117話となります。

今回は戦いから離脱したガビルや、他のリザードマンたちの話です。


リザードマンたちの策

どたばたと部屋の外から慌ただしい足音が響いてくる。あぁ、あの方が戻ってきたのだと私は察し、嬉しさから僅かに口元を緩める。次の瞬間、我々のいる首領の間の扉が勢い良く開かれた。

 

 

 

「───親父殿!」

 

 

 

その声と共に姿を現したのは、我等リザードマンを率いる首領の御子息であるガビル様だ。首領の間へと入ってきたガビル様は急いでこちらへ駆け寄り首領の前で跪いた。

 

 

 

「戻ったか、息子よ」

 

「ははーっ!遅くなり申し訳ありませぬ!」

 

「よい、謝罪は不要だ。お前とてこのジュラの大森林を守る為に戦っていたのだろう」

 

 

 

頭を下げるガビル様に首領は優しい声色でそう告げた。

 

ガビル様は昨日、この森に現れた『侵略種族(アグレッサー)』と呼ばれる三種族の一つ、蟲魔族(インセクター)を討伐する為に出掛けられていた。勿論ガビル様一人ではない。友人であるアクトさんとその師である青娥殿。他にも多くの方が戦いに参加してくれているらしい。

 

蟲魔族(インセクター)はジュラの大森林の北側と西側に現れるとのことで、ガビル様たちは西側での戦闘を任されていた。その場所はシス湖からかなり距離があるものの、ガビル様に名付けをしたアクトさんのスキルにより向こうからこちらへ転移してきたのである。

 

 

 

「有り難き御言葉・・・!・・・・・・おっと、それよりも親父殿。オーク共の調査をしていた者たちが戻ったと青娥殿から聞きましたが・・・?」

 

「うむ。それなのだが・・・・・・」

 

 

 

首領は調査隊から受けた報告内容をガビル様に伝えた。シス湖南方にてオークたちを発見したこと。恐らく我らリザードマンの領域へ侵攻していること。それと、オークロードの存在は確認出来なかったが、調査隊が『魔力感知』と『熱源感知』を使い判明したオークたちの数を。

 

 

 

「・・・・・・なんと。二十万にも及ぶオークの軍勢でありますか」

 

 

 

首領からその情報を聞いたガビル様は一瞬目を見開き、僅かに驚いた様子を見せる。しかし、静かにそう呟いただけで全く取り乱してはいない。私や妹様など、今の報告を受けた時は他の部下たちと同じように狼狽えてしまったというのに。青娥殿、そしてアクトさんと過ごした日々で手に入れた力と真っ直ぐな自信が、この冷静さを生み出したのだろう。

 

 

 

「我らの二十倍もの戦力があるなど信じがたいが・・・オークロードが出現しているのならばその馬鹿げた数にも納得は出来る。奴はジュラの大森林に伝わる伝説のユニークモンスター、正真正銘の化物だからな・・・」

 

「・・・・・・して、親父殿。我々はどう動きましょう?」

 

「お前のいない間に方針は決まった。いくつかの隊を編成し、その者たちで森の各地にあるゴブリンの村を巡り協力を取り付ける。連中にとってもオークたちは脅威。我らの庇護下に入る為にも必ず申し出を受ける筈だ」

 

 

 

訊ねられた首領はガビル様にそう答えた。

 

この案は数時間前、ガビル様がまだ森の西側で蟲魔族(インセクター)と戦っていた頃に決まったものだ。アクトさんが手を貸してくれるとは言え、二十万もの敵を我ら一万のリザードマンたちだけで相手にするのは流石に厳しい。その中にはアクトさんが出会ったという、B+ランクのオークジェネラルなる個体も複数いる筈・・・・・・

 

首領は悩んだ末に、打てる手は全て打っておこうとその案を出したのだ。

 

 

 

「既に使者となる隊は編成し終えております。ガビル殿はその内のどれかを指揮して頂いて──」

 

「・・・・・・いや。我輩は一人で動かせてもらいたい」

 

 

 

妹様の言葉を途中で遮る形でガビル様はそう言った。どういうことかと困惑する私と妹様が思わず顔を見合わせる中、首領は眉を顰める。

 

 

 

「・・・・・・何故だ?息子よ」

 

「は、勝手を言ってしまい申し訳ありませぬ。しかし、これには我輩なりの考えあってのこと。親父殿、どうかお聞きくださりませぬか」

 

 

 

ガビル様は首領を真っ直ぐ見つめる。その顔を見た首領は小さく唸った後、やがて息を吐き、その考えを聞くことにした。首領の判断にガビル様は頭を下げて感謝し、それからこう続けた。

 

 

 

「今の我輩はアクト殿による名付けや青娥殿との修行、そして数多くの強者との戦いを経て上位魔人へと至りました。魔素量だけでなく、力や速さも以前より格段に増しております」

 

 

 

首領は何も言わず、ただその事実を認めるように頷く。確かにガビル様の言う通りだ。アクトさんや謎の多いオークロードを除けば、恐らく今のガビル様はジュラの大森林で一、二を争う強者であることは間違いない。

 

 

 

龍人族(ドラゴニュート)へと進化した我輩一人であれば、森のどこへでもすぐに飛んでいくことが可能です。ですが部下たちを引き連れてはそうはいきませぬ。皆と足並みを揃えていては時間が掛かってしまう・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・妹よ」

 

「は、はい・・・?」

 

 

 

ガビル様がそこまで言ったところで首領は目を伏せ沈黙する。と、そこでガビル様は妹様に顔を向けて呼び掛けた。突然のことに妹様は少し動揺しつつも返事をする。

 

 

 

「オーク共が攻めてくるまで、どのくらい猶予があるのだ?」

 

「えっと・・・・・・調査隊からの報告によれば、早ければ数日、遅くても十日程で我らの領域へ到達するとのことです」

 

「・・・・・・十日・・・」

 

 

 

妹様の返答を聞いたガビル様は俯いてぽつりとそう呟く。やがて顔を上げたガビル様は再び首領に向き合い真っ直ぐ見据えた。

 

 

 

「・・・・・・親父殿、時間がありませぬ。どうか我輩の勝手を許しては頂けぬでしょうか・・・お願いいたします・・・!」

 

 

 

そう言って、ガビル様は首領に深く頭を下げた。普段あまり見ることのない、ガビル様の必死で真剣なその表情と声に首領の間は沈黙に包まれる。

 

やがて、小さく息を吐いた首領はガビル様を見つめ返しこう告げた。

 

 

 

「・・・・・・・・・良いだろう。そこまで言うのであれば、一人でやってみせるがいい」

 

「ほ、本当でありますか!?」

 

 

 

ばっと顔を上げたガビル様に首領は静かに頷く。首領から許しを得たガビル様は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

 

 

「お前一人の方が速く動けるというのは儂にも分かる。アクト殿たちと出逢い手にした力で、急ぎゴブリンたちを集めて来るのだ」

 

「ははーっ!感謝致します、親父殿!」

 

 

 

ガビル様は表情を綻ばせたまま首領に深く頭を下げる。さて・・・・・・これまで口を挟まずに見守っていたが、そろそろ私も混ぜてもらおう。

 

 

 

「ホッホッホッ・・・では、ガビル様の代わりに私が使者となる隊へ入りましょう」

 

「なに?爺、お前も行くのか」

 

「えぇ。ジュラの大森林に住まう全てのリザードマンの危機・・・こんな老いぼれでも少しは役に立たねば。ここの守りは妹様の部隊と首領で問題無いでしょうしね」

 

 

 

少し驚いた様子の首領に私はそう答え微笑む。何やら考え込む首領だったが、すぐに私の参加も認めてくださった。

 

 

 

「おぉ、爺も手伝ってくれるとは心強い!」

 

「ホッホッホッ、微力ながらお手伝いさせて頂きますよ、ガビル様」

 

 

 

両腕を広げ喜ぶガビル様の姿が微笑ましくて、つい口元が緩みそうになる。我ら一族を守る為・・・・・・そして幼い頃から成長を見守ってきた子の力となる為だ、これくらいなんてことは無い。

 

 

 

その後、この四人で話し合いをしてざっくりと作戦の詳細を詰めた。使者となる隊は約三十名程のリザードマンと彼等が駆るホバーリザードで構成されており、ガビル様を除いて十もの部隊が既に待機している。

 

使者たちは、私と首領が地図と睨み合って考えたルートを進み、森の各所にあるゴブリンたちの村を効率良く回っていく。そしてゴブリンたちに事情を説明し協力を要請、それに承諾してくれたゴブリンたちをシス湖に集め、我らの暮らす地下大洞窟に籠城することとなった。

 

いくらジュラの大森林からゴブリンをかき集めたとて、オークの軍勢の数に並ぶことはないし、そもそもゴブリンのランクはEだ。正面からマトモに戦える訳が無い。籠城し守りを固め、地下に侵入してきた敵を迎撃。状況に応じて上位魔人であるガビル様とアクトさんが攻めに出る・・・・・・これが我々の取れる最善の策の筈だ。

 

 

 

・・・・・・正直なところ、私はこの作戦にガビル様が反対すると思っていた。地下に隠れるなど誇り高いリザードマンの行いとは思えない、と。

 

しかし、意外にもガビル様は首領に異を唱えることはなかった。いや・・・何かしら思うところはあったのだろう、眉間に皺を寄せ小さく唸る瞬間もあったが・・・恐らくアクトさんと一緒に戦うのだし、誇りよりも仲間の身の安全を優先して判断してくれたのだろう。

 

ちなみに私はガビル様、それから首領に強く言われて使者として動く際に護衛としてシーザーを借りることとなった。先程はなんてことは無いなどと格好付けてしまったが、やはりこの歳でジュラの大森林を動き回るのはやや厳しいか。シーザーには申し訳ないが、頼りにさせてもらうとしよう。

 

 

 

「・・・・・・では親父殿、行って参ります!妹よ、我輩たちが戻るまでここの守りは任せたぞ」

 

「はい、お任せを」

 

 

 

話が終わり、出発の時が来た。ガビル様は首領に軽く頭を下げ、妹様にそう言い残すと早足で部屋を出ていこうとする。その後に続いて私が歩き出そうとした時だった。

 

 

 

「・・・・・・爺」

 

 

 

首領に呼ばれ、私は足を止め振り返る。小さな声だった為か、ガビル様には聞こえていないようだった。

 

 

 

「はい?なんでしょうか首領」

 

「・・・・・・・・・この戦いが、儂が首領として臨む最後の大仕事となるであろう」

 

「しゅ、首領っ!?それはつまり・・・・・・!」

 

 

 

首領は目を伏せると、思いもよらぬことを口にした。私は声もなく目を見開いて驚愕し、妹様は慌てて首領に詰め寄る。私たちの視線を受け、首領は静かに頷いた。

 

 

 

「息子はもう、儂の力などとっくに越えている。名付けの影響だけではなく、友であるアクト殿と切磋琢磨し合い、いくつもの戦いを乗り越えてきたからだ。儂の手から離れてな・・・・・・」

 

 

 

顔を上げた首領はどこか遠くを見るような目でそう語る。その表情はどこか悲しげで、まるで自身の手でガビル様をここまで鍛えられなかったことを悔やんでいるようにも見えた。

 

 

 

「・・・・・・上位魔人となった息子が首領の座を引き継ぐことに反対する者は少なかろう。最も、力はともかく精神的にはまだ危なっかしいところはあるが・・・・・・なに、そこは皆で支えてやれば良い。儂ら家族でな・・・・・・勿論、お前もだぞ。爺」

 

 

 

場が沈黙に包まれる中、首領は再び口を開く。最後にそう付け加えると、首領は私を見つめふっと微笑んだ。告げられたその言葉に胸の奥が熱くなるのを感じながら、私は首領に跪いた。

 

 

 

「・・・・・・必ず。必ずや勝利を貴方様とガビル様に捧げましょう」

 

「私も誓います!我等が偉大なる首領・・・偉大なる父に、必ずや勝利を!」

 

 

 

私に続いて、妹様も首領に跪くと力強く宣言した。私たちを交互に見て、首領は無言のまま頷く。

 

 

 

この戦い、必ず我々が勝利する。例え、相手がどれだけいようと。どれだけ強大であろうとも。

 

胸の中で静かに、しかし強く決意した私は立ち上がると、今度こそガビル様の後を追うのだった。




ZA楽しいです。のんびりプレイしてるのでまだクリアしてませんけど。
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