転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第118話となります。

ZAは一応クリアしました。DLCが来るまではランクマとか育成をのんびり楽しみます。


アクトとヤムザ①

昼間の厳しい戦いを終え、俺たちは漸く野営地に戻ってきた。既に全員夕食は済ませ、俺以外の全員はそれぞれのテントで休んでいる。いや、アルヴァロたち三人だけは相変わらず周囲の見張りをしてくれてたっけ。

 

 

 

「はぁ~・・・・・・・・・今日は疲れたな」

 

 

 

仲間のほとんどが眠りに就く中、俺は一人外にいた。適当な場所に座り込み、深く息を吐きながら空を見上げる。夜空に散りばめられた星々を眺めながら、俺は今日の戦いを振り返っていた。

 

 

 

百足やカナブンの蟲魔族(インセクター)の登場により一時は窮地とも言える状況に陥った俺たち。あの後、ヤムザをフォローするべく彼と共に俺は戦い始めた。百足たちにやられたからか、それとも俺に助けられたことが屈辱だったのか、彼から時折舌打ちやら文句を言われつつも、俺は適当な返事をしてやり過ごしながら戦いを続ける。

 

それ以降、蟻だけじゃなく百足やカナブンも多く姿を見せるようになった。中にはAランク級の個体もちらほらとおり、奴らとの戦いはこれまで以上に油断を許さないものとなった。

 

 

 

勿論、このことは交代する際に青娥さんたちへ報告している。最も、三人はあまり驚いていなかったけれど。レインさんが言うには、Aランク級に成長する程に長く生きた個体の多くいる群れが偶然裂け目の向こう側の近くにいたのだろう、とのこと。少し腑に落ちなかったが、この三人が特に問題視していないのなら俺なんかが気にすることは無いのだろう。

 

 

 

「あと何日くらい続くんだろ・・・」

 

 

 

意識を今に戻した俺は空を見上げたまま一人そう呟く。長期戦になるだろうとはあらかじめ聞いていたが、今日のような戦いが続くとなるとうんざりしそうになる。ガビルとシーザーが残ってくれていれば大分違ったのだろうが・・・・・・

 

 

 

そう言えば、ガビルとシーザーはどうしているだろうか。シス湖に送還してからは全く音沙汰が無い。

 

あちらの状況・・・特にオークたちについての情報は気になるが、とりあえず連絡はしないでおこう。向こうも大変かもしれないし。何かあればガビルから連絡が来るだろう。

 

 

 

「・・・・・・そろそろ寝るかー・・・?」

 

 

 

まだ少し早い時間ではあるが、明日の為に体力を少しでも回復させておかねば。そう考え立ち上がろうとした時だった。こちらに近付いてくる足音が聞こえ、そちらに顔を向ける。足音の主はゆっくりと歩いてきて、俺の目の前で足を止めた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ヤムザ?」

 

 

 

俺の前に現れたのはヤムザだった。とっくに休んでいるもののと思っていたので少し驚いた。

 

ヤムザは黙ったままこちらを鋭い目付きで見下ろしている。何も言わずにいる彼と見つめ合ったまま、俺は内心で困惑していた。

 

 

 

「あー・・・・・・・・・えっと・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・何故助けた」

 

「へっ?」

 

 

 

この空気に堪え切れなくなってきた時、ぽつりとヤムザがそう零した。言葉の意味が分からなくて俺は思わず間の抜けた声を出してしまう。彼の表情がどこか苛立った様子に変わり始めた時、俺ははっとして彼に訊ねた。

 

 

 

「・・・・・・もしかして、百足の蟲魔族(インセクター)から助けた時のことを言ってる!?」

 

 

 

昼間の戦いで、ヤムザはAランク級の百足に襲われピンチになっていた。それを俺が助け、それ以降は彼をフォローするように二人で戦っていたのだが・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・あぁ、それもあるな」

 

「それ、も・・・?」

 

 

 

ヤムザの返答に俺は首を傾げる。その口ぶりだとこっちはメインじゃないみたいに聞こえるが、とりあえず話を聞いてみることにしよう。

 

 

 

「カナブンに不意を突かれたとは言え、Aランク程度の百足に殺され掛ける役立たずを助けてどうなると言うんだ。お前が余計に消耗するだけ・・・それに、治療に使うポーションだって無限にある訳じゃない」

 

「い、いや・・・・・・そりゃ助けるだろ。一緒に蟲魔族(インセクター)と戦う仲間なんだし」

 

「ふん、仲間か・・・・・・下らんな。クレイマン様ならあのような失態を見せた時点で、その配下を見捨てているぞ」

 

 

 

さらりとそう言い放つヤムザ。部下を見捨てるって酷いなクレイマン様。確かになんとなくイメージは出来るけど・・・・・・でも、ラプラスにはそんなことしないと思う。

 

 

 

「だが・・・昼間の件についてはまだ理解出来る。既に蟲魔族(インセクター)との戦いが始まっている以上、万が一俺が死んで欠員が出たら面倒なことになるからな」

 

 

 

 

そう続けたヤムザは一旦口を閉ざした。目を伏せ、何かを考えているように見える。それから少しして、ヤムザは再び俺を見据え口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・・・・そもそも。クレイマン様に処刑されそうになった俺を、何故お前は助けようとしたんだ」

 

 

 

最初、俺はヤムザが何のことを言っているのか理解出来ず眉を顰めた。だが、一瞬遅れて思い出すことに成功する。

 

三日前・・・ジスターヴでヤムザとの模擬戦を終えた時のこと。俺に負けたヤムザに腹を立てたクレイマン様が、彼を殺そうとしたのだ。

 

恐らくスキルを使ったのだろう、ヤムザの身体を操って、彼自身の手で首を斬り落とそうとした。それを見た俺はヤムザの傍に駆け寄ると動きを封じ、青娥さんがクレイマン様を宥めてくれたことでヤムザの処刑を阻止したのである。

 

 

 

「あの時点では、俺とお前は敵同士だった。蟲魔族(インセクター)との戦いまで多少時間に余裕もあったし、あそこで俺が死んだとしても他の奴を仲間に引き入れることは出来た筈。お前や邪仙、それからあのレインとかいう女のツテがあればな」

 

 

 

それはそうかもしれない。ヤムザの言葉に俺は内心で頷く。青娥さんは、人間サイドでは英雄と呼ばれたシズさんにギルドマスターのフューズさん、それからエレンとカバルさんにギドさんたち。あと、恐らくドワルゴンのガゼル王とも知り合いだった。魔族サイドでは、魔王であるカリオン様にクレイマン様。それからエヴァさんやレインさんたちと、凄まじい力を持った人たちとの繋がりがある。

 

そのレインさんも、魔王の側近や悪魔公(デーモンロード)という立場からして、かなりの実力を持った知り合いが多くいる筈だ。もう少し時間を掛けたり、相応の報酬を用意すればヤムザ以外の誰かを味方に出来た可能性は確かにある。

 

 

 

「だから・・・・・・あの場で俺を助けるメリットなど無かった筈なんだ」

 

 

 

そう小さく呟いて、ヤムザは顔を俯かせる。その時、何やらヤムザの様子がおかしいことに俺は気付いた。

 

 

 

「・・・・・・・・・アクト、お前は一体なんなんだ。敵である俺を助けようとして、その為に無謀にもクレイマン様に楯突いて。クレイマン様ですら怖れるあの邪仙の配下の癖に、まるで人間のように甘っちょろくて、だと言うのに俺よりも強い・・・」

 

 

 

こちらと目を合わせないまま喋り続けたヤムザだが、そこで再び口を閉ざしてしまった。俺は青娥さんの配下ではなく弟子なのだが・・・・・・一先ず、訂正するのは後回しにしよう。

 

そう決めた俺は、隣の地面をぽんぽんと叩いてヤムザに呼び掛けた。

 

 

 

「ここ、座りなよヤムザ。立ったままじゃ落ち着かないし」

 

「なに・・・?・・・・・・・・・」

 

 

 

俺の言葉を受けたヤムザは少し逡巡していたが、やがて俺の隣まで歩いてきてそこで腰を下ろした。胡座をかいて座るヤムザは隣にいる俺を見ることはなく顔を伏せている。

 

俺は何も言わずただヤムザを見つめる。どれくらいの時間そうしていただろうか。視線を落としたまま、突然ヤムザはぽつりと呟いた。

 

 

 

「・・・・・・・・・俺だけは違うと思っていた」

 

「えっ?」

 

「クレイマン様の信頼を得る為に、俺はなんでもやった。命令されればどんな任務でも遂行した。あの方に敵対する者を全て殺したり、ジスターヴをより豊かにする為にと南の島国を脅して資材や金品を巻き上げたりな」

 

 

 

そんなことしてたのかコイツ。いや命じたのはクレイマン様だけど。カリオン様と比べると、こっちの陣営は真っ当に恐ろしい魔王をしている気がする。

 

 

 

「そうだ、なんでもやったさ。仲間すら蹴落として・・・・・・その結果、数十年前には五本指に選ばれ、やがて筆頭へと登り詰めた。信頼されているのだと信じていた。ただ一人、この俺だけはクレイマン様も認めているのだと。特別な存在なのだと」

 

 

 

そんなことを俺が考える中、ヤムザは一人語り続ける。自身にとっては誇れる過去だからか、五本指に選ばれたという辺りで一度顔を上げてみせた。だが、再びすぐに顔を俯かせる。

 

 

 

「・・・・・・しかし・・・クレイマン様はたった一度の敗北で、あっさり俺を見限り、処刑しようとした。五本指筆頭であるこの俺を・・・他の連中と同じように。使えない道具である俺を、捨てようとしたんだ」

 

「道具って、そんな・・・」

 

「この俺を捨てるなど、模擬戦の直後は理解出来なかったが・・・・・・中庸道化連・・・ラプラスのような奴らが背後にいるのなら、俺たちなどどれだけ使い捨てても構わなかったんだろうな」

 

 

 

そう言ったヤムザは自嘲気味に小さく笑った。

 

そう言えば、一日目の夜・・・ラプラスの力を目の当たりにした時にも今のようなことを言っていたっけ。先程から話を聞いている限り、どうにもヤムザは混乱しているというか、卑屈になっているように思える。一日目の戦いが終わるまではまだ高圧的なところがあったのだが・・・・・・今は自分を役立たずだとか使えない道具だと言ったり、模擬戦の時とはまるで雰囲気が違う。

 

恐らくだが・・・・・・俺に敗れ、侮っていたラプラスの真の実力を知り、そして蟲魔族(インセクター)に殺されかけたところを敵視していた俺に救われたことで、ヤムザにとっての常識やこれまで積み上げてきた自信を失ってしまったのだと思う。それで、こんなに卑屈に・・・いや、落ち込んでしまったのだろう。

 

 

 

「・・・・・・・・・クレイマン様は、恐ろしいお方だ」

 

 

 

俺がヤムザの心理を考察していると、彼が話を再開した。俺は意識を切り替えヤムザの話に耳を傾ける。

 

 

 

「実際は俺の思い上がりだった訳だが・・・・・・五本指筆頭として信頼されていると確信していた頃の俺ですら、あの方の機嫌を損ねないよう細心の注意を払って過ごしてきた。正直、息の詰まる毎日だった」

 

 

 

確かに、思い返してみるとクレイマン様は大分なんというか・・・怒りやすいというか、ヒステリックな方のように思える。俺たちが御会いした時は青娥さんが一緒にいてくれたから割りと冷静でいてくれたが、普段は相当酷いのだろう。

 

 

 

「そのクレイマン様ですら怖れるのが、あの邪仙だ。奴の悪名はジスターヴにまで届いている。クレイマン様ですら手を出すことの出来ない恐ろしい女・・・・・・だが、お前は奴の下でへらへらと楽し気に過ごし、しかも俺以上の力を持っているときた。俺のこれまでの七十年は何だったのかと嘆きたくもなる」

 

 

 

そこまで言って、ヤムザは漸くこちらを向いた。最も、すぐに視線を逸らしてしまったが。

 

・・・・・・話を聞く限り、きっと俺ではヤムザの心を晴らすことは出来ないだろう。クレイマン様のような恐ろしい方の下で七十年以上も働いてきたのに、模擬戦で一度負けただけで処刑されかけた。前世も含め、彼がクレイマン様に仕えた時間の半分も生きていない若造の俺では、少しくらいは想像出来ても、その苦しみを完全に理解することは出来ない。元気告げる言葉だって思い浮かばない。

 

 

 

それでも、とりあえず彼の問いにだけは答えておくとしよう。

 

 

 

「・・・・・・ヤムザ。さっき、どうしてクレイマン様から自分を助けたんだって訊いたよな」

 

「・・・?・・・・・・あぁ」

 

「それさ、大した理由なんかないんだ」

 

「はぁ?」

 

 

 

呆れたような声を出しながらヤムザは眉を顰めた。その反応を見た俺は思わず苦笑してしまう。

 

 

 

蟲魔族(インセクター)戦の戦力が減るとか、魔王軍の幹部に恩を売るだとか、そんなことは全然考えてなかった」

 

 

 

青髪のオーガ。いつか彼を助けた時と同じ。

 

 

 

「損得関係無く、目の前で誰かが困ってるのなら助けたかった。あとは・・・・・・」

 

 

 

そこまで言い掛けて、俺は一度目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのは、俺にとっては優しくて強い自慢の師匠。そして、少しお調子者だが仲間思いな自慢の親友。どちらも俺を助けてくれた、掛け替えのない大切な人たち。

 

 

 

 

 

「───誰かに助けられた者は、誰かを助けたくなるってことだよ」

 

 

 

きっと俺も、あの二人のような生き方をしてみたかったのだろう。親や友人に助けてもらってばかりだった前世とは違って、魔物に生まれ変わった今世では、誰かを助けられるような生き方を。

 

・・・・・・ガビルは分からないけれど、青娥さんはそんな生き方をしているつもりは無いって苦笑しそうだな。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・理解出来んな。自分の身を省みず、他人の為に動くなど。愚か者としか言えん」

 

「まぁ、皆に理解してもらえるような考えじゃないってのは自覚してる。実際、ヤムザを助けようとした時だって、青娥さんがいなかったら俺もヤムザと一緒に殺されてたかも」

 

 

 

冗談っぽくそう言うと、ヤムザは不愉快そうに表情を歪ませる。軽い調子で告げたが、あの時のクレイマン様の様子からして俺の予想は恐らく当たっているだろう。それをヤムザも理解しているからこそこんな反応をしているのだ。

 

青娥さんには助けられてばかりだと内心で反省と感謝をしたところで、俺は顔を背けたままのヤムザを見つめ、こう続けた。

 

 

 

「なぁヤムザ。お前はさっき、俺にメリットは無いって言ってたけど・・・・・・良いことなら一つあったよ」

 

「なんだ」

 

「ほら。こうしてヤムザと話が出来てる」

 

 

 

笑って、俺はヤムザにそう告げた。その言葉に相当驚いたのか、ヤムザは何も言わずにこちらを向いてただ目を丸くする。ヤムザが初めて見せたその表情が少し可笑しくて、俺は口元を緩めた。

 

 

 

「あの時ヤムザを助けようと動いてなかったらこうして二人で話すことは出来なかったし、ヤムザのことを知る機会だって訪れなかった。もしかしたら・・・・・・これから友達にだってなれるかもよ?」

 

 

 

言い終えて、俺はもう一度笑う。半分冗談ではあるし、ヤムザの性格的に無理だとは思うが、仲良くなれるのならそれに越したことは無いだろうし。

 

俺の話を黙って聞いていたヤムザだが、やがて我に返ったのか表情を戻した。それから正面に視線を向けると顔を伏せて・・・・・・

 

 

 

 

 

「───ふっ、なんだそれは。馬鹿馬鹿しい」

 

 

 

──呆れたように、ほんの少しだけ笑った・・・・・・ように見えた。覆面越しだから少し分かり辛いな。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・ヤムザ?」

 

 

 

少しの沈黙の後。無言でヤムザは立ち上がった。俺の呼び掛けには答えず、そのまま彼は俺から離れていく。多分、テントに戻って休むのだろう。

 

と、俺がそう思った次の瞬間。突然ヤムザは足を止めてこう言った。

 

 

 

「・・・・・・暇潰しにはなった。一応、礼くらいは言っておいてやる」

 

 

 

こちらに背を向けたままそう告げると、ヤムザは再び歩き出した。思いもしなかったヤムザの対応に、俺はぽかんとして彼の背中をただ見つめる。

 

 

 

・・・・・・・・・これから、本当に仲良くなれるかもしれないな。

 

そんなことを思いながら俺は小さく笑って、ヤムザに少し遅れて自分のテントへ戻るのだった。




ヤムザって一体何歳なんでしょうかね
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