転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第12話となります。

今回の話は少し難産でした。それともう少し良い内容に出来たかも、なんて。


大切なモノ

詰めが甘いと、そう思ったのです。

 

彼が蹴り飛ばしたリーチリザードがまだ動けるのは気付いていました。吹き飛ばされた位置からして、次はこの私を狙ってくるだろうとも。

 

 

 

「青娥さんっ!そっちに・・・!」

 

 

 

ドラゴニュート・・・・・・転生者の少年がこちらに叫ぶ。

 

えぇ、分かっておりますとも。起き上がったリーチリザードが私の方へ向かってきていることなど。一切そちらを見ずとも、『魔力感知』を持つ私はこの場にいる全員の動きが手に取るように分かるのです。

 

まぁ、仮に不意を突かれ攻撃を受けたとしても。リーチリザード程度の魔物が相手なら全く問題ありません。傷一つ付かないでしょう。

 

いえ、そうですね・・・・・・ここは、わざと攻撃を受けて怪我をしたフリをする、というのも手かも。貴方のせいでこうなったのだと、弱みを握ってしばらく荷物持ちにでもさせますか。種族はドラゴニュート、しかも転生者。所持しているスキルについてはまだ解析してませんけど、最低限の戦闘能力はある筈。外見もそうですが、性格も悪くはないと思いますし、しばらく側に置いておきましょうか。

 

 

 

「青娥さん!逃げろッ!」

 

 

 

あらあら、慌てちゃってお可愛いこと。彼の声を聞きながら僅かに口元を緩ませつつ振り向くと、リーチリザードが目前に迫っていました。

 

ですが何の問題もないのです。私はユニークスキル『大仙人』に含められている『思考加速』により落ち着いて対応が出来ます。それに先程も言ったように、リーチリザードとは戦闘力に差がありすぎますし。おまけに『物理攻撃耐性』持ちですからね、私。

 

では、このトカゲの攻撃を受けてから適当な魔法で倒すとしましょうか。いや、それとも闘気で?

 

そんな呑気なことを考えて、リーチリザードを待ち構えていたその時。

 

 

『ゴウッ!』

 

 

 

「───青娥さんッ!」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

彼が、旅人さんが突然すぐ側に現れたのです。彼がこちらに走って来ていたことには気付いていました。しかし、とても間に合う速度ではなかった筈・・・・・・まさか、これが彼のスキル・・・・・・?

 

驚いている間にこちらに駆け寄る勢いのまま彼に突き飛ばされて、思わず間の抜けた声が漏れて。ぐらりと揺れる視界の中で綺麗な桃色がたなびいた、次の瞬間。

 

 

 

『グジュッ・・・!』

 

 

 

「───ッ!」

 

 

 

鮮血が、舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旅人殿!旅人殿っ!」

 

 

 

後方から、俺を呼ぶガビルの声がする。俺は自分の身体に牙と爪を突き立てる魔物を掴みながら、なんとか声を振り絞った。

 

 

 

「ガ・・・・・・ガビル・・・っ、だい、じょうぶだ・・・!」

 

 

 

「そんな訳ないであろう!待っていろ、今我輩が・・・・・・えぇい、退けぇい!」

 

 

 

助けに来ようとしてくれているようだが、どうやら他のリーチリザードに阻まれているのだろう。彼の苛立つ声と共に武器を振るう音が聞こえた。

 

 

 

「ギィイイイ・・・!」

 

「ぐ、ぅ・・・・・・!」

 

 

唸りながら、リーチリザードは牙と爪を俺の身体に食い込ませる。喰い千切ろうとさらに力を込めてくるそいつを掴み、必死に抵抗していた。

 

リーチリザード。リザードマンより少し弱いくらいの魔物らしいが、それでもかなり痛いな・・・・・・この身体になっていなければ、噛み付かれている肩とはとっくにお別れしていただろう。

 

なんとかこいつを引き剥がしたいが、攻撃を受けていない箇所まで痛み出したせいでうまく力が入らない。もしかして昨日の傷が開いたのだろうか。

 

 

 

「ちょっと、ヤバいかな・・・・・・あ、青娥さんは・・・」

 

 

 

他人の心配などしている場合ではないだろうが、青娥さんの安否が気になり彼女がいるであろう方向をちらりと見る。そこにはぽかんとした顔で俺を見つめる青娥さんの姿があった。咄嗟だったので突き飛ばす形になってしまったが、どうやら転んだりはしなかったらしい。

 

 

 

「・・・・・・はは、良かった。無事だった」

 

「───・・・・・・」

 

 

 

青娥さんの姿に自然と笑みが溢れるが、すぐに痛みによって表情が歪む。このままではマズい。いつ他のリーチリザードが追撃に来るか分からないのだ、早くこいつを引き剥がさなくては。

 

その時、視界に映っていた青娥さんに動きがあった。顔を僅かに伏せてしまっている為に表情は窺えない。どうしたのかと思っていると、青娥さんが無言でこちらに手をかざし──

 

 

 

『ドッ!』

 

「ギッ・・・・・・!?」

 

 

 

青いエネルギーのようなモノを放った。

 

青娥さんから放たれたそれは、俺に噛み付いているリーチリザードの身体を飲み込むかのように直撃する。次の瞬間、リーチリザードは首や腕など一部を残して身体が消え去り、力が抜けたからかぼとりとそれらが地に落ちた。

 

 

 

「え・・・・・・はっ?」

 

 

 

目の前で起きたことが理解出来ず、地面に転がるリーチリザードだったモノを呆然と眺める。他のリーチリザードたちも俺と同じく困惑しているようで、その場に立ち止まり様子を伺っているようだ。

 

 

 

「青娥、さん・・・・・・?」

 

「──別に。私は英雄でもなんでもありませんけれど」

 

 

 

かざしていた手をだらりと下ろし、小さく呟く。怪しさはあったが、先程までの穏やかな雰囲気とはまるで違う彼女に思わず息を飲む。いつの間にかその場を支配してしまった青娥さんは、ゆっくりとその美しい顔を上げた。

 

 

 

 

 

「目の前で・・・・・・私の為に傷付いた誰かに何も思わない程──外道でもないのです」

 

 

 

その言葉と共に、青娥さんは瞳を開く。すると一瞬、青娥さんから凄まじい威圧感が発せられた。まるで全身が縮み上がるかのようなそれを受けて、リーチリザードたちは全員堪らず逃げ出して行く。

 

俺が呆然としていると、障害が無くなったガビルが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。

 

 

 

「旅人殿!青娥殿!無事であるかー!?」

 

「ガビル・・・・・・お前、平気なのか?」

 

「ん?我輩は特に怪我などはないが・・・・・・って、怪我しているのはお主だろぉーー!?」

 

 

 

まるでノリツッコミのような返しをするガビルに思わず笑ってしまった。しかし、なんともないのか・・・・・・一瞬だけとはいえ、青娥さんのあの威圧感に耐えて、しかも全く動じてないなんて、流石ガビルだな。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・お、青娥さん。あー・・・助けてくれてありがと─」

 

「何故、あんなことをしたんですか」

 

 

 

俺とガビルがそんなやり取りをしていると、青娥さんが俺たちの元へ近付いて来る。それに気付いて俺が助けてくれたことに礼を言おうとした時、青娥さんはそれを冷たい声色で遮った。

 

 

 

「えっと・・・・・・あんなこと、ってのは?」

 

「何故、私を助けたのかと聞いているんです」

 

 

 

俺の問いにそう返した青娥さんの表情と声は依然冷たい。何故怒っているのか分からず困惑していると、隣にいるガビルがからからと笑いだした。

 

 

 

「ははは、おかしなことを。弱き者を助けるのは当然であろう!」

 

「貴方には聞いてませんわ。黙っていてくださる?」

 

「な、なんだと!?」

 

「ガビル、落ち着いてくれ・・・・・・な?」

 

 

 

冷たくあしらわれ憤るガビルをなんとか宥める。青娥さんはそんなガビルのことなど気にすることなく言葉を続けた。

 

 

 

「私の力がどれ程か分からないのは仕方ありません。普段、妖気は抑えていますし・・・・・・ですが、例え私が貴方たちより弱かったとして、それが助ける理由になりますか?ついさっき出逢ったばかりの、見ず知らずの女を」

 

 

 

その言葉に俺は口を閉ざす。

 

・・・・・・青娥さんの言う通りだ。普通なら、きっと助けない。元の世界でだって誰かの為に動ける人はそう居ないのだ。魔物という脅威がそこらを闊歩している世界なら尚更だろう。それなのに、理由もなく身の危険を省みずに自分を助けた俺を怪しんでいるのか、それとも・・・・・・

 

 

 

「助けた代わりに金でも要求するのですか?私の身体でも要求するのですか?それとも、そこのトカゲが抜かしたように。弱者は救うべきなどと本当に思っているのですか?そんな、聖人のような戯言を」

 

「このっ・・・!」

 

 

 

まるで責めるかのような青娥さんの物言いに、ガビルは怒りで体を震わせる。何か言い返そうとしていたガビルを手で制すと、俺は首を横に振り、青娥さんの言葉を否定した。

 

 

 

「俺はそんな大した人間じゃないよ。かといって、金が欲しい訳でも・・・・・・そういうことをしたい訳でもない」

 

「では、何故助けたのです?」

 

 

 

真っ直ぐ俺を見据え、青娥さんは問い掛ける。彼女の鋭い眼差しに少しだけ緊張しながら、俺は隣に立つガビルを見てこう言った。

 

 

 

「ガビルのお陰かもしれないな」

 

「えっ?我輩のお陰・・・とは?」

 

 

 

きょとんとした顔でそう訊ねるガビルに笑いが溢れる。視線を青娥さんに戻すと、ガビル程ではないが、困惑からか彼女も僅かに表情を変えていた。

 

俺は青娥さんへ向き直ると、自分がこの世界に来てからこの胸に宿った思いを告白した。

 

 

 

「青娥さんにも話しましたよね。俺がこの世界に来た時、オーガたちに殺されそうになったって。そして、その時助けてくれたのがここにいるガビルだと」

 

「えぇ、そうでしたね」

 

「・・・・・・あの時、すごく怖かったんです。元の世界で死んだと思ったら、知らない場所で目が覚めて。そこでとんでもなく恐ろしい化物に襲われて・・・」

 

 

 

目を閉じれば、昨日の光景が目に浮かぶ。あの恐怖はきっと忘れられないだろう。

 

 

 

「・・・・・・もう駄目だと、諦めた時。ガビルが助けてくれて。そのあとも見ず知らずの俺を自分たちの領地に連れて行ってくれて、食べ物と服をくれて、面倒を見てくれて・・・」

 

 

 

ガビルだけじゃなく、皆優しかった。自分のことしか考えず、正体を、名前すら隠している人間に対して。

 

・・・・・・そうだ。きっと、あの時に答えは決まったのだろう。

 

 

 

「思ったんだ。ガビルみたいになりたいって」

 

「わ、我輩のように・・・であるか?」

 

 

 

目を丸くするガビルに静かに頷く。そうだ、ガビルは人間ではなく魔物だし、どこか抜けているような印象も受けるけれど。

 

それでも、沢山の仲間たちに好かれ。誰かの為に立ち上がれるヒーローなのだから。

 

 

 

「力の無い誰かは助けるべき・・・・・・そうじゃなくて。俺は、ただ誰かを助けたかった。あの時のガビルのように、今度は俺が困っている誰かを助けたかった」

 

「ただ、助けたかった・・・・・・?」

 

「あぁ。自分より強いか弱いかなんて関係ない。あの時、『誰か』の為に踏み出せなかったら・・・・・・俺はもう、ガビルを友達と呼ぶ資格も、呼んでもらう資格も無くしていた」

 

「た、旅人殿・・・・・・っ!」

 

 

 

大きな瞳をうるうると滲ませるガビル。大袈裟だな、なんて内心思いながら、俺は僅かに微笑みながら青娥さんに告げた。

 

 

「だから、ただの意地みたいなモノです。他人からすれば、くだらないと嗤われるような・・・・・・だけど、きっと大切なモノを守る為に、俺はあの時駆け出したんです」

 

「────・・・・・・」

 

「あとは・・・・・・・・・青娥さんが悪い人に見えなかったから、とか?リーチリザードに襲われかけたのは俺のミスだし・・・・・・そうそう、色々教えてくれたし!」

 

「──ふふ・・・・・・あははっ!」

 

 

 

そこまで言った時だった。冷たい表情をしていた青娥さんが突然笑い出す。俺とガビルが呆気に取られていると、やがて青娥さんは笑みを浮かべ口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・成程、貴方はとても馬鹿なのですね。ですが、嫌いじゃあありませんよ」

 

「えっと・・・・・・どうも?」

 

「ふふふ・・・・・・助けようとしてくれて本当にありがとう。その気持ち、有り難く受け取らせて頂きますわ」

 

 

 

ぺこりと頭を下げる青娥さん。その雰囲気は出逢ったばかりの時のように穏やかなモノになっている。どうやら納得のいく答えを出せたようで少し安心した。

 

 

 

「うむ、よく分からぬが一件落着のようだな!我輩としては少しアレだが・・・・・・まぁ旅人殿が良いならそれで良い!良かった良かった!」

 

「そうですわねー・・・・・・・・・あ、そうですわ。旅人さん、お願いがあるのですけれど」

 

「お願い?なんですか?」

 

 

 

喜ぶガビルを適当に流す青娥さん。その様子を苦笑しながら眺めていると、彼女は何かを思い出したかのように手をぽんと叩く。

 

お願いがあると言う青娥さんに首を傾げていると、そんな俺に青娥さんは予想も付かないことを言ってのけたのだった。

 

 

 

 

 

「どうかこの私に、貴方の名付けをさせて頂けないでしょうか?」




青娥の強さは後に明らかとなる予定ですが、今は最低でもカリオン以上、とだけ言っておきます。
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