転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第120話となります。

年内の更新はこれで最後となります。


アクトとヤムザ②

蟲魔族(インセクター)との戦いも、今日で六日目に突入していた。

 

と、言っても、俺たちは既に担当する昼間の戦いを終えて、青娥さんたちと交代し野営地に戻って来ているのだが。

 

戻ってきた俺は、最早日課と化した全員の食事をすぐに用意する。そして皆との夕食を済ませた俺は、その片付けも終わらせ、今は一息吐いているところだ。

 

俺はテントの近くにある大きな木に背中を預け、ぼんやりと星空を眺める。やがて何となく目を瞑った俺はガビルのことを考え始めた。

 

 

 

二日目の戦いの後に別れてから、ガビルから連絡は無い。特にトラブルなどは起きてないとは思うが、流石に向こうの状況が少し気になってきている。だが、あのガビルが全く連絡を寄越さないというのは、それだけ忙しい状況に身を置かれているからではないかと俺は考えた。

 

それならやはりこちらから軽い気持ちで連絡するのは気が引ける。もしかすると、大きな戦いを目前にして気を引き締める為に俺との会話を断っているのかもしれないし。

 

ただ、一つ気掛かりなこと・・・というか、思い出したことがある。実は、ゲルミュッドがオークロードの件に関わっていることをガビルに伝えるのを忘れていたのだ。最も、伝えたからと言って今の状況が好転するという訳でもないのだが・・・・・・

 

しかし、万が一ゲルミュッドがガビルに接触しに来るのなら、そこを捕らえてオークロードについて詳しい情報を聞き出したり、可能ならオークたちの侵攻を止めさせることが出来るかもしれない。

 

ん?いや待て。オークロードが魔王となるところをミリム様たちが見たいというのなら、奴らの侵攻を止めるのは不味いのか?そもそも、どうすれば『魔王』になれるのだろう?人間の町や国を沢山滅茶苦茶にすればいいのか?

 

 

 

・・・・・・・・・考えたところで俺には分からないな。仕方ない、これについては置いておこう。そううまくゲルミュッドと遭遇するこも無いだろうし。

 

一人苦笑した俺はそれらを頭の片隅に追いやると、次に今日までの戦いを振り返り始めた。

 

 

 

三日目以降、ちょくちょくAランク級の蟲魔族(インセクター)が姿を現すようになった。普通の個体たちもこれまでと変わらぬ勢いで出現し続けており、相変わらず・・・・・・いや、より厳しい戦いを俺たちは繰り広げている。

 

ただ、良い変化もあった。三日目のあの夜、ヤムザと二人で話してから彼の戦い方が変わったのだ。

 

まず、ドッペルゲンガーによる分身を頼らなくなり、剣と魔法だけで敵を倒している。恐らく彼自身も、アルヴァロが言っていた欠点に気付いたのだろう。

 

それと、少しずつだが俺たちと連携を取るようにもなってきたのだ。正確には、自分より強い俺と、同じクレイマン様の部下であるアルヴァロの二人だけだが。とは言え、俺かアルヴァロの指示があれば他のメンバーのフォローにも回ってくれる。滅茶苦茶嫌そうな顔で盛大な舌打ちが付いてくるけれど。

 

 

 

「・・・・・・・・・ふぁああ・・・・・・ん?」

 

 

 

目を閉じていたからか、少し眠気に襲われた俺は思わず大きな欠伸をしてしまう。そろそろテントに戻ろうとした時、こちらに近付く足音が聞こえた。見ると、ヤムザがこちらにゆっくりと歩いてきている。

 

 

 

「ここにいたのか」

 

「ヤムザ。今日の夕飯はどうだった?」

 

「・・・・・・まぁまぁだ」

 

 

 

目の前で足を止めたヤムザに俺はそう訊ねる。少し間を置いてから短く答えるヤムザ。

 

・・・・・・まぁ、不味かったと言われるよりは良いか。俺が苦笑していると、ヤムザは何も言わず隣に腰掛けた。

 

 

 

「まぁまぁか・・・・・・ヤムザはどういう料理が好きなんだ?氷の魔法を使うし、やっぱい冷たい系とか?」

 

「何故そうなる・・・・・・」

 

 

 

冗談交じりにそんな質問をしてみると、ヤムザは冷ややかな視線をこちらに向けた。

 

このように、夜になるとヤムザと二人で話すことが多くなった。話す内容は様々だが、日々を重ねる毎にその時間は少しずつ増えている。今のようななんでもない質問にも一応答えてくれる辺り、初めて会った時と比べれば、少しは仲良くなれたと言えるのではないだろうか。

 

 

 

これまでのやり取りや、彼の主であるクレイマン様を見た感じ、ヤムザが悪人よりの精神をしているのは何となく察することが出来た。けれど、ヤムザが本当に危険な人物であるのなら、青娥さんとエヴァさんが何かしら警告をしてくれているだろう。それが無いということは、少なくともヤムザは俺たちと共に戦う仲間として問題無いと判断された、ということだ・・・・・・きっと。

 

ならば。ヤムザが根っからの悪人では無いのなら、折角出逢えたのだから出来ることなら仲良くなりたい。あの夜、半ば冗談のつもりで言った『友達にだってなれるかも』という言葉を本当にしてみたいと思った。

 

・・・・・・こんなことを言ったら、またヤムザに笑われてしまうだろうけれど。それとも、何も言わずに呆れた顔をするだけだろうか。

 

そんなことを考え、俺はふっと口元を緩ませる。それをヤムザに見られ怪訝な顔をされた。彼になんでもないと伝えて誤魔化し、夜空を見上げる。

 

さて、今日はどんな話をしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時折吹き抜ける弱い夜風が、桃色の髪を優しく揺らす。その様子を横目で見ながら、俺はその髪の持ち主・・・・・・隣に座っている男、アクトの言葉に耳を傾けていた。

 

 

 

容姿はともかく、まるで少年のような雰囲気をしたこいつは、腹立たしいことにこの俺──魔王クレイマン様の最高幹部、五本指筆頭であるヤムザを上回る実力を持っている。認めたくは無いが、事実俺はこいつに敗れているのだ。しかも、その時はあのワニ・・・クロコダインに名付けをした直後で弱体化していたらしい。

 

初めは負けたことも、弱体化していてあの強さだったことも信じられなかったが、あの邪仙の弟子と言うのならば少しは納得出来た。クレイマン様ですら手を出すことの出来ない、魔王をも越える存在と言われる女魔人。実際、あの女に頭が上がらないクレイマン様の姿をこの目で見ている。

 

 

 

そんな女の弟子だというこの男。どれほど恐ろしい奴かと思えば・・・・・・当の本人は今、呑気な顔で好きな食べ物や料理はなにかと俺に訊ねていた。先程、俺が今夜の食事の感想を問われ、それに『まぁまぁだ』と返したからだろうか。

 

勝手に好物を捏造されたりして変なものを作られても迷惑なので、適当に肉、とだけ言っておく。肉かぁ・・・と呟いて、アクトは何やら考え込む。何故そんなことを聞くのか、俺に媚びを売るつもりなのかと問いながら睨み付けてやると、アクトはきょとんとして目を丸くした。すると、どこか照れ臭そうに笑って、『折角食べてもらうんだから、どうせならヤムザにも喜んで欲しくて』、などと抜かした。

 

 

 

・・・・・・この顔だ。戦闘中はそれなりの顔付きになる癖に、今は気の抜けた・・・それこそどこにでもいる人間の子供みたいな笑みを浮かべている。初めはその顔を見るたびに苛々していたものだが・・・・・・不思議と慣れてしまい、今では特に何とも思わなくなっていた。

 

そう、慣れてしまった。蟲魔族(インセクター)との戦いが始まってから・・・正確には、三日目のあの夜以降、ほぼ毎晩こうして顔を合わせているからだろう。

 

二人で話すことなど、あの夜が最後になるだろうと思っていたのに。何故か、それからも夜になるとアクトのことが気になりその姿を探してしまっていた。そしてこいつも、俺の姿を見て少し驚きはしても、まるで嫌そうな顔も素振りも見せず、どうでもいい雑談を始めるのだ。

 

 

 

そうして日を重ねる毎に、アクトとの会話は内容も時間も増えていった。昨夜など、何をとち狂ってしまったのか、ここ数日で感じ始めた俺自身の力量不足について語ってしまったほどだ。他者に、しかも他所の陣営の相手に弱みを見せるなどあってはならないことなのに。もしこのことがクレイマン様の耳に入れば、間違いなく罰せられるだろう。

 

ただ、アクトは俺の話を聞いて茶化すようなことはせず、しかし大して悩んだりもせず、『普通に強くなるしかない』、そう簡単に言ってのけた。

 

俺は内心苛立ち半分、呆れ半分で、魔人や魔物の成長期について説明してやることに。成長期を終えた魔人や魔物はもう魔素量が増えることはなく、あとは名付け等の一部の手段でしか強くなることは出来ない。俺は数十年前に成長期を終えている為、もう魔素が増えることはないのだと。

 

アクトは成長期について知らなかったらしく、僅かに目を見開いて驚いている様子だった。だが、説明し終えた俺を真っ直ぐ見据えると、それは少し違うと思う、と意見した。何が違うんだと、より苛立ちを募らせる俺にアクトはこう答えた。

 

 

 

『確かに、青娥さんから名付けをして貰ったお陰で俺は強くなれたけど、ここまでの力を身に付けることが出来たのはそれだけが理由じゃない。青娥さんの下でガビルと一緒に修行して、それから色んな強敵と戦ってきたからここまで強くなれたんだよ』・・・・・・と。

 

 

 

それを聞いて最初は鼻で笑いそうになった俺だが、嘘を言っているとは思えないアクトの真剣な眼差しを見て思い止まる。俺が何も言わずにいると、さらにアクトは言葉を続けた。

 

奴の話を聞くと、邪仙に名付けをされたのは約二ヶ月程前。それによりBランクから一気にAランクを越える魔素量を手に入れたが、その時点では俺どころかアルヴァロたち、それにユーラザニアの三獣士たちにも勝つことは絶対に出来なかったという。

 

名付けにより地力が増した影響もあっただろうが、必死に修行したことで『気闘法』を始めとするアーツを獲得したと答え、その過程でより魔素量も増したのだとか。アクトは見るからに若い。まだ成長期を終えていないのは間違いないが、この短期間での魔素量の増加は流石に成長期だから、の一言では済ませられない。恐らく、アクトの言葉は真実なのだろう。修行が、努力が、こいつをここまでの実力者にしたのだ。

 

 

 

俺は剣技に関しては極めているが、魔法はと言うと・・・・・・正直、アルヴァロどころかジョイス辺りにすら劣っているだろう。生活魔法等の簡単なものを除くと、俺が扱える強力な攻撃魔法は『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』のみ。それだって、特質級(ユニーク)武器であるアイスブレードの力を利用してだ。

 

思えば、鍛練など数十年以上まともに行っていない。七十年程前、アイスブレードを手に入れた当初は剣に秘められた魔力を制御出来るようになるまで十年近くかかったが、鍛練らしい鍛練は恐らくそれが最後だ。いや、今にして思えばそれだって真面目にやっていなかった気がする。初めから真剣に取り組んでいれば、もっと早くアイスブレードを完全に我が物とすることが出来たかもしれない。

 

 

 

この世界は生まれ持った才能が全て。才ある者は努力などしない・・・・・・そう思っていたが、もしかするとそれは間違いだったのかもしれない。アクトの言う通り、アーツや魔法を新たに獲得できるだけでなく、魔素量も増やせるのなら本当に修行とやらをするべきかと、俺はあれからずっと考えて続けていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ん?」

 

「・・・・・・ぅ・・・・・・・・・」

 

「なんだ、お前・・・眠いのか?」

 

 

 

その時、視界の端で桃色が大きく揺れた。何事かと隣に視線をやると、アクトが船を漕いでいた。そう言えば、考え事に集中していたせいで会話を止めてしまっていたな。俺が何か喋るまで黙って待っていた為に眠くなってしまったのだろう。

 

 

 

「はぁ・・・・・・昼間の戦闘だけでなく、他の連中の飯まで用意してるから余計な体力を使うんだ。今日はもうテントで──」

 

 

 

眠そうな顔をするアクトに呆れて、思わず溜め息を吐く。今日の話はもう終わりにするかと、俺がそこまで言い掛けた時だった。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・すぅ」

 

「───はっ?」

 

 

 

とす、と。そんな音と同時に、俺の左肩に何かが当たる感覚がした。もしやと隣に顔を向けると、信じられないことに、しかし予想した通り、アクトが俺の肩に身体を預けて眠り始めていた。

 

 

 

「・・・・・・嘘だろ・・・?」

 

 

 

思わずそんな言葉が零れ、目を見開く。困惑する俺をよそに、アクトは穏やかな表情で静かに寝息を立てている。

 

・・・・・・こいつには危機感が無いのだろうか。俺は別にこいつの仲間でもなんでもない。主君に命じられたから一時的に手を貸しているだけだ。そんな、ほぼ赤の他人に身体を預け呑気に眠るなんて。たった数日でそこまで信用したというのか。

 

 

 

それとも、警戒するまでもないと侮られているのか。

 

 

 

「────・・・」

 

 

 

その考えに至ると同時、頭の中が急速に冷めていく。眠っているアクトを見つめたまま、俺はアイスブレードの柄に手を伸ばそうとして───途中で止めた。

 

 

 

「・・・・・・チッ・・・」

 

 

 

行き場の無くなった手で頭を掻き、舌打ちする。今ここでこいつを殺してどうなるというんだ。こいつを殺せば邪仙の怒りを買うかもしれない。そんな危険を冒せばクレイマン様にまず罰せられるだろう。

 

それに、こいつはそんな奴では───

 

 

 

「・・・・・・・・・っ・・・なにを考えているんだ、俺は」

 

 

 

はっとし、脳裏に浮かんだ考えを振り払うように首を横に振る。その後、落ち着こうと深く息を吐き、改めてアクトの様子を確認した。俺が一瞬寝首をかこうとしていたことに微塵も気付かず眠りこけている。

 

その時。こんな奴と身体を密着させ、肩まで貸しているというのに、それをあまり不快だと感じていない自分がいることに気付いた。一瞬焦ったが、これは違う。敵である俺を前に油断して、あろうことか身体を預けて眠ってしまうこいつに対する驚きと呆れが嫌悪感を上回っているだけだ。俺にそういう趣味は無い。断じて。

 

 

 

誰に対する言い訳なのかも分からない理由を脳内で展開していると、いつの間にか左肩がじわりと暖かくなっていた。その熱は俺の肩にもたれ掛かって眠るアクトから伝わってきている。

 

これ以上は我慢ならないと突き飛ばしてやろうとしたが、結局そんなことは出来なかった。何故だろう。まるで、凍てつく氷をゆっくりと溶かすようなこの熱を、少し──ほんの少しだけ、心地好く思ったからだろうか。

 

 

 

「・・・・・・・・・ふっ、くだらん」

 

 

 

自嘲し、小さくそう吐き捨て空を見上げる。別に星を眺める趣味などないが、こいつの寝顔をじろじろ見るよりは互いに良いだろう。

 

俺の肩に優しく熱を移すこの男はいまだに起きる気配が無い。こうなっては仕方がない。諦めた俺はアクトが飛び起きて謝罪するその時まで、しばらく肩を貸し続けるのだった。




来年もよろしくお願い致します。
それでは皆様、良いお年を。
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