転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

126 / 127
お待たせしました、第126話となります。

転スラ4期、楽しんでます。


蟲型魔人(インセクター)スコルパイド②

ダンジョン最奥部に突如出現した蟲型魔人(インセクター)スコルパイド。負傷したフォビオたちをなんとかこの場から離脱させることに成功し、いよいよ奴との戦いが始まろうとしていたその時、アルヴァロが小声で俺に耳打ちしてきた。

 

 

 

「いいかアクト。先程も言ったが、私はこの戦いで役に立てない。それと恐らく、クロコダインでも奴に有効打は与えられないだろう」

 

「ぬぅ・・・・・・悔しいが、その通りだろうな」

 

 

 

僅かに表情を歪めクロコダインが苦笑する。確かにあのスコルパイドという奴は、ユーラザニアのダンジョンで戦った腐肉竜(ドラゴンゾンビ)すら上回る魔素量だ。名付けでパワーアップしたとは言え、まだAランク級のクロコダインでは厳しい相手だろう。

 

 

 

「この戦いはアクトのパワーが勝利の鍵になる。私とクロコダインはアクトが奴に攻撃を通せるよう全力で援護する。それと、ハイポーションは二つともアクトが使え」

 

「えっ?大丈夫なのかそれ。もし二人が怪我したら・・・」

 

「私かクロコダインが生き残っても奴には勝てん。心配してくれるなら、手早く奴を仕留めてくれ」

 

 

 

思わずアルヴァロへと向き直ると、彼はこちらを見つめ微笑んだ。その時、クロコダインが俺の肩に優しく手を置く。そちらを向くと、彼も同じように微笑んでゆっくり頷いた。

 

・・・・・・二人とも、覚悟の上でそう判断したらしい。ならば、俺も二人の覚悟に応えよう。そう心の中で誓いながら、俺は拳をぎゅっと握り締めた。

 

 

 

「ヒヒッ、流石に待っているのも飽きてきタナ。逃げた連中も追わねばならないし───そろそろ喰わせてもらうとすルカッ!」

 

 

 

俺たちがそんなやり取りしていると、痺れを切らしたのかスコルパイドが突撃してきた。それを見て迎え撃つ態勢に入った時、アルヴァロから声が掛かった。

 

 

 

「済まんアクト、少しだけ一人で凌いでくれ!クロコダインはここで待機だ!」

 

「はっ!?・・・いや、分かった!」

 

 

 

一瞬戸惑ったが、アルヴァロの言うことだし何か考えがあるのだろうと了承する。待機することとなるクロコダインと顔を見合せた後、俺は闘気を全開にしスコルパイドへと突っ込んでいく。

 

真正面から攻めようとする俺を愚かだとでも思ったのか、スコルパイドはぎぃ、と口元を歪める。すると自身に向かってくるところを串刺しにしようとしたのかスコルパイドは尻尾を構え、さらに黒鉄色の拳で俺を殴りつけようと腕を振りかぶった。

 

だが、奴の攻撃が俺を捉えることはなかった。スコルパイドとの距離が縮まっていくその時、俺は『加速』と『身体強化』を発動する。こちらのスピードが急激に増したのを見てスコルパイドは目を見開く。そして攻撃するタイミングをずらされたスコルパイドへ接近すると同時に、俺は加速した勢いのまま胴体へ飛び蹴りを喰らわせた。

 

 

 

「ヌァッ!?」

 

 

 

俺の一撃を受けたスコルパイドは驚愕の声と共にその場から大きく後退した。吹っ飛ばされないよう踏ん張っているのか、蠍を思わせる六本の脚がざりざりと地面を削っていく。

 

 

 

「はぁああああああああああッ!」

 

 

 

スコルパイドに飛び蹴りを入れてすぐ、俺はその場で体勢を整えていた。先程の攻撃でどんどん距離が離れていく相手を見据えながら闘気を高める。それを両手に集中させ、俺は連続で闘気弾を発射した。

 

 

 

「ッ、ヒヒヒッ!」

 

 

 

それらがもうすぐ命中するかと言ったところで、スコルパイドはぎらりと目を光らせた。直後、全身から妖気を吹き出して急ブレーキ。さらにその場で尻尾を大きく振るい、最初の方に撃ったいくつかの闘気弾を打ち払った。

 

 

 

「まだまだ・・・!」

 

「ヒャハハハハハハハッ!」

 

 

 

簡単に防がれたのを見て少し動揺するも、俺は諦めず闘気弾を撃ち続けた。流石に全てを防ぐことは出来ないだろうと判断した為だが、スコルパイドは数度俺の闘気弾を弾いたところで突如高笑いしながら横へ駆け出し闘気弾から逃れる。

 

射線から外れてしまったが、俺は落ち着いてスコルパイドに狙いを定め直す。蠍のような脚で素早く動く相手を完全に捉えることは難しいが、とにかく闘気弾を連射した。

 

やはり綺麗に命中させることは出来ないし、運良く身体に直撃しそうな闘気弾は尻尾で弾かれてしまう。とは言え俺の闘気弾は奴の身体を掠ったり、直撃はしなくとも地面に炸裂した際の衝撃は奴を巻き込んでいる。ほんの少しずつだとしてもダメージは与えている筈だ、決して無駄ではないだろう。

 

しかし、スコルパイドはここからどう反撃するつもりなのだろう。先程からただ逃げているだけのように見えるが、余裕そうに笑っているのが気になる。

 

 

 

「・・・・・・・・・あっ!?」

 

 

 

と、そこで俺は奴の狙いに気付いた。とにかく俺の攻撃から逃げているだけかと思ったが、良く見ると緩やかな弧を描くように移動している。きっとアルヴァロたちの方へ回り込むつもりだろう。

 

 

 

「くそっ、こんなことに気付かないなんて・・・!」

 

「───待て!ここは俺に任せてくれ、アクト!」

 

 

 

自分の間抜けさに苛立ち思わずそう吐き捨てる。それからすぐに闘気弾による攻撃を中止しスコルパイドの方へ飛び出そうとした時、アルヴァロの傍にいるクロコダインが叫んだ。

 

 

 

「クロコダイン!?けど、お前一人じゃ・・・!」

 

「なぁに、少しくらいは持ちこたえてみせる。それよりアクト、お前は早くアルヴァロ殿の元へ!」

 

 

 

自信有り気に笑ってみせたクロコダインは、俺にそう告げた後スコルパイドの方へ向き直る。俺の攻撃が止んだのを好機と見たのか、奴は真っ直ぐアルヴァロたちへと迫って来ていた。

 

クロコダインは何故か俺をアルヴァロのところへ向かわせようとしていて、しかも一人で奴と戦うつもりらしい。スコルパイドの底はまだ知れないが、少なくともクロコダインでは奴との実力差はかなりある筈だ。不安に思い俺は止めようとしたが、既にクロコダインは走り出しており、俺が追い付くよりも先にスコルパイドと接敵した。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

 

勇ましく声を上げながら斧を振りかぶるクロコダイン。対するスコルパイドは俺ではなくクロコダインが迎え撃つのを見て一瞬目を丸くしていたが、すぐに不気味な笑みを浮かべた。

 

俺より弱い相手が来てラッキーとでも思っているのだろう。余裕そうな顔で腕を組んだスコルパイドはクロコダインを軽く薙ぎ払おうと尻尾を大きく振り回した。

 

きっとすぐにクロコダインはやられてしまう。不安に思った俺は急いで彼の加勢に向かおうとしたが、次の瞬間、予想外の展開となった。

 

 

 

 

 

「────だぁあああああああッ!」

 

「はっ・・・!?」

 

「ナニ・・・・・・?」

 

 

 

なんと、クロコダインの斧による攻撃がスコルパイドの尻尾を弾いたのだ。驚愕・・・と言う程ではないが、スコルパイドは目を丸くして意外そうな表情を浮かべている。どこかまだ余裕そうにも見える辺り、今のは本気の一撃ではなかったのかもしれないが、それでも奴にとってこれは予想外だったのだろう。

 

同じく俺も・・・・・・いや、もしかするとスコルパイドよりも驚いているかもしれない。そんな俺が言葉を失っている中、クロコダインは次の攻撃が来る前に動き出していた。

 

 

 

「でぇええええええええいっ!」

 

 

 

尻尾による攻撃を防いだクロコダインは自分の武器である斧を手放したかと思うと、勢い良くスコルパイドの懐へ潜り込んだ。そこからスコルパイドの脚を両手で一本ずつ掴むと凄まじい力で持ち上げ、壁の方へ力強くぶん投げた。

 

 

 

「す、凄いなクロコダイン・・・!」

 

「アクト!早くこっちへ!」

 

 

 

クロコダインの戦いぶりに呆気に取られていると、アルヴァロから声が掛かった。はっとして、俺は急いで彼の元へ移動する。

 

 

 

「そこでじっとしていてくれ。クロコダインが時間を稼いでくれている内に強化魔法を掛ける」

 

「強化魔法?・・・・・・あっ!もしかしてクロコダインにも・・・?」

 

「あぁ。お前が奴と一人で戦っている隙にな」

 

 

 

成程。クロコダインがスコルパイドを相手にあそこまで戦えているのはアルヴァロの魔法によるものだったらしい。しかし強化魔法か・・・・・・ドラクエのバイキルトやスカラのようなものだろうか。

 

 

 

「ヒッヒヒッ!ヒャアッ!」

 

「おぉおおおおおおおおおっ!」

 

 

 

アルヴァロの傍でそんなことを考えていた俺だが、クロコダインたちの声が聞こえたことでそちらに視線を移す。

 

クロコダインに投げ飛ばされたスコルパイドだが、空中で身をくるりと翻し、そのまま壁面に着地。その場でぐっと脚に力を入れるとまるでバネのようにクロコダインへと飛んでいく。

 

クロコダインは先程手放した斧を拾うと声を上げて駆け出す。そして間も無く、二人は激突した。

 

 

 

「がはっ・・・・・・ぁ・・・!」

 

 

 

直後、血反吐を撒き散らしてクロコダインが吹き飛んだ。激突した際に何が起きたのか、一瞬の出来事ではあったものの、『思考加速』を発動させていた俺はその様子をしっかり見ることが出来た。

 

まず、二人が激突した時。クロコダインは斧で、スコルパイドは尻尾で攻撃を仕掛けた。先程はスコルパイドの尻尾による攻撃を斧で弾くようにして防いだクロコダインだったが、今度は逆に弾かれる形となってしまう。そして体勢を崩されたところを狙ってスコルパイドの拳が腹に叩き込まれ、今の通りになったという訳だ。

 

 

 

「クロコダインっ!」

 

「もう少しだけ抑えてくれアクト・・・!『筋力増強(ストレングス)』!『速力増強(アジリティー)』!」

 

 

 

飛び出し掛けた俺だが、アルヴァロに呼び止められなんとかその場に踏み留まる。アルヴァロも早くクロコダインを助けねばと思ってくれているのだろう、額に汗を浮かべながら必死に魔力を高め詠唱を続けた。

 

 

 

「『保護障壁(プロテクション)』・・・・・・!『武具強化(リインフォース)』!アクト!」

 

「あぁ!」

 

 

 

アルヴァロのその声で強化魔法が掛け終わったのだと理解した俺は『加速』を使って飛び出していく。すると、いつもと同じように身体を動かそうとしたが、どこか違う感覚がして俺は一瞬体勢を崩し掛けた。なんというか、妙に身体は軽いのに不思議と力が満ち満ちているような感じだ。恐らくアルヴァロの強化魔法を受けた影響だろう。

 

だが、これならなんとかなるかもしれない。移動しながら今の状態に慣れつつ、俺は口元を緩ませた。

 

 

 

「クロコダイン!・・・・・・はぁああああッ!」

 

 

 

気付けばクロコダインは防戦一方でどんどん追い込まれているようだった。思っていたよりもクロコダインが強いと分かり、スコルパイドが少しずつ実力を見せ始めているのだろう。

 

俺はクロコダインの元へ向かいながら片手に闘気を全力で込める。それを球体に形成し、スコルパイド目掛け撃ち放った。

 

 

 

「ぐ、ぬぅ・・・・・・アクト・・・!うおっ!?」

 

 

 

俺の放った闘気弾を察知したスコルパイドは尻尾をクロコダインへ伸ばす。刺突攻撃だと思ったのだろう、クロコダインは身を捻って尻尾の先端にある針から逃げようとする。

 

しかし、スコルパイドの狙いは違った。尻尾の針を回避したクロコダインだったが、直後に尻尾がうねり身体に巻き付かれてしまう。驚きながらも抵抗するクロコダインだが尻尾から抜け出すことは出来ず、凄い力で俺の闘気弾の方へ投げ飛ばされた。

 

 

 

「馬鹿メ!大事な仲間に直撃ダ!」

 

「それはどうかな!」

 

「ナニ・・・・・・ッ!?」

 

 

 

どうやらスコルパイドはクロコダインを盾にして俺の闘気弾から逃れようとしたらしい。クロコダインの身体に隠れてしまっているので表情こそ窺えないが、その声色からして勝ち誇っている様子なのだろう。

 

しかし俺は口角を上げてそう返し、闘気弾の軌道を操作した。

 

 

 

「ガッ!?」

 

 

 

クロコダインに直撃しそうなその時、闘気弾が彼を避けるようにして軌道を逸らす。その後、再びスコルパイド目掛け飛んでいき、奴の顔面に闘気弾は直撃した。予想と違った展開にスコルパイドはこれまでで一番驚いているように見える。

 

もうお分かりだろうが、この闘気弾は俺のアーツである『繰気弾』だ。顔面に当てた後、俺は『繰気弾』を炸裂はさせずに軌道を操作してスコルパイドへ追撃を行う。それで奴の足止めをしている隙に、ぶん投げられたクロコダインを受け止めた。

 

 

 

「っとぉ!待たせてごめんクロコダイン!」

 

「ぐむ・・・・・・いや、助かったぞアクト」

 

 

 

礼を言って、顔面から流れる血を拭うクロコダイン。結構攻撃を食らっていたように思えたが、アルヴァロによる強化魔法のお陰か、まだまだ戦えそうで安心した。

 

彼と会話をしながらも俺は『繰気弾』でスコルパイドを攻撃し続けていた。しかし、最初はその動きに翻弄されていたスコルパイドも動きを見切ったのか、尻尾を振り回して『繰気弾』を弾き飛ばす。そのパワーに耐えられなかったようで、弾かれた『繰気弾』はボンッ!と音を立てて消滅した。

 

 

 

「チッ、小賢しい技を使いやがッテ・・・!もう遊びはここまデダ!全員俺の尻尾で串刺しに──グッ!?」

 

 

 

苛立ちを隠そうともせず叫ぶスコルパイド。こちらに攻撃を仕掛けようとするが、何故かその場から動かない。何が起きているのかと視線を下に向けたスコルパイドは、自身の脚が何かに掴まれていることに気付いた。

 

 

 

「な、なんだこレハ!?土ノ手・・・?」

 

「──『泥手(マッドハンド)』。お前たちに魔法による攻撃は通用しないのかもしれないが、魔法そのものを無効化する訳ではないのだろう?」

 

 

 

その声に振り返ると、アルヴァロが不敵な笑みを浮かべていた。どうやらあの地面から生えている土の手はアルヴァロが魔法で造ったものらしい。

 

複数の土の手で六つの脚全てを掴まれているスコルパイドは身動きが取れないでいる。それを確認した後、アルヴァロは俺とクロコダインを見つめ頷く。彼に頷き返した俺たちは顔を見合せ、それから同時にスコルパイドへ突撃した。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおッ!」

 

「ウギィッ!?」

 

 

 

闘気を纏い、俺は攻撃を仕掛ける。スコルパイドは尻尾を使って土の手を取り除いていたが、破壊された直後にアルヴァロが新たな手を魔法で造り出し動きを妨害していた。

 

本当ならスコルパイドはさっさと土の手から逃れ、万全の状態で俺を迎え撃つつもりだったのだろう。だが、アルヴァロのサポートのお陰でそれが叶わなかったスコルパイドは、無防備なところに俺のパンチを食らうこととなった。

 

 

 

「だぁああああああああああああああッ!」

 

 

 

突撃と同時に一撃を入れ、そこから俺はラッシュを仕掛ける。スコルパイドも両手で応戦してくるが、『飛空法』で宙に浮いた状態の俺は両手だけでなく両脚も使えるのだ。いくら相手が魔素量的に格上とは言え、これならこちらが有利に戦える。

 

 

 

「グゥウウウッ・・・!鬱陶しいんダヨ、人間ンンッ!」

 

「させんぞっ!」

 

 

 

苛立ったスコルパイドは土の手を放置し、先に俺を始末しようと尻尾を振るおうとした。だが、その瞬間にクロコダインが尻尾に飛び付き動きを封じる。

 

 

 

「ナッ!?こ、こイツ・・・・・・!」

 

「力不足の俺でも、お前の動きを妨害することくらいは出来る・・・!やれ、アクト!」

 

 

 

クロコダインは抱き締めるようにしてスコルパイドの尻尾を両腕で抑えている。それでもスコルパイドは尻尾を振り回そうとするが、クロコダインはやや引き摺られながらも必死に踏ん張ってそれを阻止している。両手こそ自由なままのスコルパイドだが、アルヴァロとクロコダインの力によってほぼ身動きが取れない状態へと陥っていた。

 

 

 

「はぁああああああ・・・・・・・・・!」

 

 

 

その隙を逃しはしない。ラッシュを中断した俺はスコルパイドから少し距離を取り、クロコダインが射線上に入らないよう位置を調整。そして高めた闘気を両手に集中させ、一気に放出した。

 

 

 

「喰らえッ────!!!」

 

 

 

その声と共に、俺はファイナルフラッシュの構えで極太の闘気流を撃ち出した。極太の熱線となったそれは、一瞬でスコルパイドの上半身を飲み込む。

 

 

 

「ガッ、グガガッ!?グ、ギィイイイイイイ・・・・・・!」

 

 

 

その威力を前にスコルパイドは堪らず悲鳴に近い声が漏れる。本来であればこれだけの闘気流に飲まれた者は、弱ければ消滅。そうならなくとも闘気の勢いに飲まれ吹き飛ばされていくのだが、スコルパイドはアルヴァロとクロコダインによって拘束されている為にそれが許されず至近距離で俺の闘気を浴び続けていた。

 

逃げることが出来ず、両手をクロスするようにして闘気から身を守ることしか出来ないスコルパイド。間違いなくダメージは通っている筈だ。このままなら勝てる、と、俺が思わず口元を緩めたその時。

 

 

 

 

 

「────ッ、ギ・・・アァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「なっ・・・!?」

 

 

 

突然、スコルパイドが凄まじい咆哮を上げた。攻撃の苦しみに耐え兼ねたのかと一瞬思ったが、どうやら違うらしい。

 

それと同時に、奴の魔素量がじわじわと増加し始め、尻尾を掴んでいたクロコダインと俺の闘気を吹き飛ばす程の妖気を爆発させた。

 

 

 

「・・・・・・・・・ハァアアアアアア・・・・・・」

 

 

 

爆発により巻き起こった砂煙から顔を腕で守りつつ、俺は慌てて距離を取る。何が起きたのか理解出来ず混乱しながらもとりあえずスコルパイドに視線を向けて、俺は目を見開いた。

 

砂煙の中から現れたのは間違いなくスコルパイドだ。だが、先程までとは身体の色が違う。黒鉄色だった甲殻が紅に染まっている。

 

突然の変化に俺たちが困惑する中、スコルパイドは俯いたまま大きく息を吐く。それからゆっくりと顔を上げると、俺を鋭く睨み付けた。

 

 

 

「・・・・・・まさかお前たちにユニークスキルを・・・『暴走蟲』を使うことになるとワナ」

 

「『暴走蟲』・・・?」

 

「カァッ!」

 

 

 

『暴走蟲』。その言葉が気になった俺は奴を見据えながら小さく繰り返す。すると突然スコルパイドは両手から連続でエネルギー弾を俺とアルヴァロへ放ってきた。警戒はしていたので反応することは出来たが、先程よりエネルギー弾のパワーもスピードも増している。そのせいで防ぎ切ることが出来なかったのか、後方でアルヴァロの苦し気な声が響いた。

 

 

 

「アルヴァロっ!」

 

「ぐっ・・・!も、問題ない!」

 

 

 

慌てて振り返った俺に、アルヴァロは地面に膝を付きながらそう告げた。そこまでの怪我ではないことを確認し内心ほっとしつつ、俺はスコルパイドへ向き直る。

 

 

 

「・・・・・・変身、って程の変化じゃないけど。それがお前の本当の姿・・・お前の本気って訳か」

 

「本気、カ・・・・・・それについては間違っていないが、これが本当の姿、というのは違ウ」

 

 

 

俺の問いにスコルパイドは歯切れの悪い返事をした。どういうことなのかと不思議そうにする俺の顔を見て、スコルパイドは少しだけ機嫌が良さそうな雰囲気で説明を始めた。

 

 

 

「魔蟲たちの上位種である蟲型魔人(インセクター)。その中でも一握りの存在のみが扱える『暴走強化状態(オーバードライブ)』という固有スキルがアル。本来、俺はそれを使えるレベルには至っていなイガ・・・・・・あの方から名を授かり進化した際に、それを発動させるスキルを手に入れたノダ!ユニークスキル、『暴走蟲』ヲナ!」

 

 

 

口角をつり上げ語るスコルパイドを、俺は警戒を解かずにじっと見つめる。

 

しかし、『暴走強化状態(オーバードライブ)』か・・・・・・これは青娥さんからも聞いていなかった情報だ。今の話からするに、こいつよりも強い蟲型魔人(インセクター)しか使えないようだが、一応覚えておいて損はないだろう。

 

そんなことを考えていた時、スコルパイドの背後で動くなにかが視界に映った。その正体と、そいつの狙いを察した俺はスコルパイドにそれを悟られないよう、視線を逸らさず奴を見据え続けた。

 

 

 

「最も、スキルによる疑似的なものだからか、発動条件もあるし本来の『暴走強化状態(オーバードライブ)』と少し違う点もあルガ。まずある程度体力を消耗していなければ発動出来ないし、本来のそれと違って回復力も増したりしナイ。なにより体力の消耗が──・・・」

 

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

スコルパイドがそこまで言い掛けた瞬間、その背後から飛び掛かる者がいた。先程スコルパイドが『暴走蟲』を発動した際に吹き飛ばされていたクロコダインである。彼は再びスコルパイドの動きを封じる為、息を殺しそのチャンスを窺っていたのだ。

 

 

 

「『泥手(マッドハンド)』ッ!」

 

 

 

クロコダインが飛び掛かったのとほぼ同時にアルヴァロが『泥手(マッドハンド)』の魔法を唱えた。複数の土の手が地面からドッ、と伸び、スコルパイドの六本の脚を全て掴む。クロコダインも尻尾を掴み終え、先程と同じようにスコルパイドは拘束された。

 

 

 

「今だアクト!やれぇっ!」

 

「クロコダイン!わかっ──・・・!?」

 

 

 

尻尾に組み付いたクロコダインが叫ぶ。二人が奴の動きを止めている隙にまた先程のように攻撃を行おうと俺が闘気を集中させ始めたその時。クロコダインの身体がふわりと浮き上がった。

 

 

 

「ヒヒッ!」

 

「がッ・・・・・・!?」

 

 

 

直後、ドゴンッ!という音を立ててクロコダインは勢い良く地面に叩き付けられた。目の前で起こった出来事に俺は目を見開く。なんとスコルパイドは尻尾の力だけでクロコダインを持ち上げ、そのまま大きく尻尾を振り回したのだ。先程クロコダインに掴まれていた時は少し引き摺るのが精一杯だったのに。『暴走蟲』による強化はそれだけ凄まじいのだろう。

 

 

 

「ヒャハハハハッ!離すナヨォ!」

 

「ぐぉっ!?ぐわぁああああああ・・・・・・っ!」

 

「やっ・・・やめろぉおおおっ!」

 

 

 

スコルパイドは高笑いしながら尻尾を左右に振り回し、何度も何度もクロコダインを地面に叩き付ける。一瞬呆然としていた俺だがクロコダインの苦しむ声を聞いて我に返り、慌ててスコルパイドへ突っ込んだ。

 

 

 

「おット!」

 

 

 

『加速』と『身体強化』を発動し、俺は闘気を全力で込めた拳を繰り出す。しかし、スコルパイドはクロコダインをぐるりと尻尾で捕らえると、大きく後方へジャンプすることでその攻撃を回避した。アルヴァロの『泥手(マッドハンド)』がスコルパイドの脚を掴んでいたのだが、奴は妖気を放ちつつ少し力を込めてジャンプしただけでそれらを引き千切った。

 

 

 

「くそ・・・!」

 

「・・・・・・・・・ククッ」

 

 

 

悪態を吐きながらも再び攻撃を仕掛けようとした時、こちらと距離を取ったスコルパイドが不気味に笑う。かと思うと、尻尾を真横にぶんっと振るいクロコダインを放り投げた。

 

結構な勢いで投げられたクロコダインは受け身も取れず地面に激突した後、数度軽く跳ねながらごろごろと転がっていく。最悪、人質か盾にでもされるかもしれなかったし、手放してくれたのは正直有難い。

 

追い掛けるのを一旦止め、俺は状況を観察する。後方のアルヴァロはいつでも魔法による援護が可能。クロコダインは両手で地面をざりざりと削り勢いを殺し体勢を整えようとしていた。だが、すぐに立ち上がれないところを見るにかなりダメージを受けているようだ。

 

どう動くべきか俺は頭を悩ませる。その時、スコルパイドが一気に妖気を高め始めた。

 

 

 

「ヒヒッ、今の状態でどれだけ動けるかは把握シタ。あまりモタモタする訳にもいかないのデナ・・・そろそろ終わりにしヨウ・・・!」

 

「なにを・・・・・・!」

 

 

 

話しながらスコルパイドは高めた妖気を両手に集中させていく。俺が困惑する中、スコルパイドは両手を頭上に掲げ拳を握ると、こちらを見つめにやりと笑った。

 

 

 

「行クゾ──!赤妖烈波(ブラッドウェーブ)ッ!!!」

 

 

 

スコルパイドはそう叫ぶと同時、両拳を地面に叩き付けるかのように振り下ろす。すると、奴の溜めていた妖気が地面に流れた。瞬間、まるで足元が脈打ったかのようにどくんと揺れ、それとほぼ同時にスコルパイドの周囲から赤黒い妖気の衝撃波が発生した。

 

 

 

「ヤバっ・・・・・・!?」

 

 

 

スコルパイドを中心とした全方位に妖気の衝撃波がまるで津波のように押し寄せて来る。『魔力感知』で見てみたところ、かなりの妖気が込められたアーツのようだ。これを食らうのは絶対に不味い。

 

今の俺なら、闘気を全開にして『身体強化』も重ねて防御すればなんとかなるかもしれない。しかし、問題があった。クロコダインとアルヴァロである。

 

どちらも俺より魔素量が低い上、クロコダインに至っては立ち上がるのもやっとと言うくらい消耗している。アルヴァロはまだ分からないが、今のクロコダインがあの攻撃に耐えられるとは思えない。彼が万全の状態だったとしても正直不安になる程の威力があのアーツにはあるのだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・っ、クロコダインっ!」

 

 

 

僅かな逡巡の後、俺はクロコダインの盾となるべく彼の方へ駆け出した。本当ならアルヴァロも守りたかったが、二人の距離はそれなりに離れている。片方を拾ってもう片方へ、というのは不可能だろう。申し訳無いが、アルヴァロには自力で何とかしてもらうしかない。

 

 

 

「あ、アクト!?よせ、俺に構うな・・・!」

 

「いいから!動くなよ、クロコダイン!」

 

 

 

クロコダインの前に立った俺は闘気を高めながら彼にそう告げる。その間に、スコルパイドのアーツはもう目の前まで迫って来ていた。数メートルはあろう、津波のような赤黒い妖気を前に、俺は『魔力感知』等余計なスキルを切り、『身体強化』のみを発動させる。

 

そして、闘気を限界まで高めた瞬間、スコルパイドから放たれた衝撃波が俺の身体に激突した。

 

 

 

「ぐ、ぅううううううう・・・・・・!」

 

 

 

目も開けていられない程の妖気の奔流を、歯を噛み締めて受け止める。その勢いに吹き飛ばされそうになるのを必死に堪え、俺は全身から闘気を吹き出し続けた。

 

 

 

「うぉおおおっ・・・!?なんという破壊力だ・・・!」

 

 

 

スコルパイドのアーツを間近に見て、真後ろにいるクロコダインが驚愕している。反応は出来ないが、俺も心の中でクロコダインに同意した。流石に格上の相手なだけはある。闘気もスキルも全力全開で使用しているというのにダメージを防ぎ切れない。少しずつではあるが妖気の奔流が身体を切り刻んでいた。

 

 

 

「がッ──あぁあアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

まるで永遠にも思える苦しい時間だったが、漸く終わりの時がきた。身体に走る激痛を誤魔化すように、なによりも自分を鼓舞する為に俺は咆哮を上げる。すると、急に全身に掛かる負担が消え去った。

 

もしやと思い顔を上げ周囲を見回すと、正面にあった赤黒い妖気の奔流が後方へと流れている。どうやら奴のアーツを耐え切ることが出来たようだ。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・クロコダイン、大丈夫か?」

 

「あ、あぁ・・・・・・お前が闘気で防御をしてくれたお陰だ。助かったぞアクト・・・」

 

「気にすんなよ。無事で良かった・・・・・・!?」

 

 

 

真後ろにいたクロコダインの安否を確認し、一息吐いたその時、俺はあることに気付く。衝撃波の中心地にいた筈のスコルパイドの姿がどこにも見えないのだ。

 

 

 

「────アクト!上だっ!」

 

「っ!?」

 

 

 

それに気付くとほぼ同時、離れたところからアルヴァロの声が響いた。今の攻撃を凌いだことに安堵する暇もなく俺は反射的に上を見上げる。そこには、尻尾と六本の脚で天井に張り付き、両手で作った巨大なエネルギー弾をこちらに放り投げるスコルパイドがいた。

 

 

 

「ッ──!はぁあああああっ!」

 

 

 

今からクロコダインと共にこの攻撃を回避するのは不可能だろう。そう判断した俺はその場で奴のエネルギー弾を破壊する選択を取った。

 

急いで片手に闘気を込め、それを真上に撃ち出す。奴の放ったエネルギー弾と俺の闘気弾は一瞬で激突し炸裂。それにより巻き起こった爆風に巻き込まれ、クロコダインが吹き飛ばされる。

 

 

 

「ぐぉおおおおおおっ・・・!」

 

「うっ・・・・・・クロコダイ──・・・!」

 

「駄目だ、アクト──ッ!」

 

 

 

吹き飛んでいくクロコダインの声を聞き、俺は咄嗟にそちらへ振り向いてしまう。すると、アルヴァロが必死な声色で叫んだ。

 

 

 

死蠍刺突(デス・スコルピオ)ッ!!!」

 

「───あ」

 

 

 

何事かと前へ向き直ると、そこにはスコルパイドの姿があった。どうやら爆風に紛れて天井から降りて接近していたらしい。既に奴はアーツを放っており、妖気の込められた尻尾を視界に収めた俺は間の抜けた声を口から零す。

 

脳内にヤバい、死ぬ、等の単語が浮かぶ中、俺は『思考加速』を発動。その状態でこの窮地を切り抜ける手段を模索するが・・・・・・・・・・・・あー、駄目だ。『身体強化』や『加速』を使っても、これはもう避けられない。

 

突然のことだからか、それとも一度死んでいるからか、不思議と恐怖はあまりない。全力で防御すればギリギリ助かるだろうか?いや、無理だな。手や腕で防ごうともそれごと貫かれて終わりだ。

 

どこか呑気にそう思考しながら、俺は自身に迫るスコルパイドの尻尾を見据える。とりあえず抵抗はするが、助かるかどうかは運次第かな。

 

半ば諦め、俺はすぐにやってくるであろう痛みに備えてぐっと歯を食い縛り目を瞑る。そして次の瞬間、鋭い何かが肉を貫く音が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・は」

 

 

 

しかし、俺の身体を痛みが襲うことはなかった。

 

僅かに目を開き自分の身体を確認するが、やはり尻尾は刺さっていない。では一体今の音はなんだったのか。何が起きたのか理解出来ずにいた俺は顔を上げ──そこにあった信じられない光景を前に、ただ目を見開いた。

 

そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・余所見をするなと言っただろう、馬鹿が」

 

 

 

そこには。掠れた声で俺にそう告げる、スコルパイドの尻尾に胸を貫かれたヤムザの姿があった。




チャンピオンズも楽しんでますが、チャンピオン級に上がるのは諦めました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。