転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第127話となります。

FGOのコラボイベント、最高でした・・・・・・ところで、デュマさんたちの実装はいつになるのでしょうか・・・?


蟲型魔人(インセクター)スコルパイド③

自身の目に映る光景を、俺は信じられずにいた。

 

いつの間にここへやってきたのか、いつの間にこんな近くまで来ていたのか。突然現れたヤムザは、俺とスコルパイドの間に挟まるようにして立ち、その胸を尻尾で貫かれていた。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・なん、で」

 

 

 

何故、こんなことになっているのか。そんなこと聞くまでもない。俺を助ける為に、ヤムザが俺とスコルパイドの間に割り込んだからだ。

 

震える俺の声にヤムザは何も答えない。代わりにごふっ、と咳き込み、口元を覆うマスクを血で染めた。

 

 

 

「ンン?何だお前。邪魔をしやがッテ」

 

 

 

不愉快そうに表情を歪めたスコルパイドはヤムザの胸に刺さった尻尾を勢い良く引き抜く。ヤムザはぐらりと大きく身体を揺らすが、倒れそうになった直前でアイスブレードを杖のように支えとして持ちこたえた。

 

 

 

「ごほっ!はっ、ぐぶぅっ・・・!」

 

「ヤムザ・・・・・・ヤムザっ!」

 

 

 

呆然と立ち尽くしていた俺だが、血反吐を吐くヤムザの姿を見て咄嗟に駆け寄ろうとする。しかし、ヤムザはそれを制するように片手をこちらに向けた。

 

思わず足を止めると、ヤムザのその手から巻き起こった白銀の渦に俺は飲み込まれた。

 

 

 

「うぁっ!?な・・・・・・ヤムザ・・・!?」

 

水氷大魔嵐(アイスブリザード)・・・・・・敵の前で、隙を見せるな・・・」

 

 

 

不意に撃たれたヤムザの魔法によって俺は大きく吹き飛ばされたが、ダメージはあまり無い。恐らくヤムザが威力を調節してくれたのだろう。

 

しかし、ダメージこそ問題なくともヤムザとの距離は大きく離れてしまった。なんとか地面に落ちる際に受け身を取り、すぐヤムザを助けに向かおうと顔を上げた───次の瞬間。

 

 

 

 

 

「消エロッ!」

 

「が、ぁ────・・・!」

 

 

 

背後からスコルパイドのエネルギー弾を喰らい、ヤムザは爆発に飲み込まれた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ヤムザ・・・・・・?」

 

 

 

震える声で、その名を呟いた。俺は再びその場に立ち尽くし、爆発の起きた場所を・・・ヤムザがいた場所を見つめる。爆風と煙はすぐに収まったが、ヤムザの姿はどこにも見当たらない。

 

 

 

「ヒヒヒヒッ、木っ端微塵に消し飛んダカ。馬鹿め、何者か知らんが無断死ニヨ」

 

 

 

そう言ってスコルパイドはにやにやと口元を歪ませた。奴の吐いた言葉を、脳が理解することを拒んでいる。だが、目の前の状況がその言葉は正しいのだと俺に告げていた。

 

ヤムザが、死んだということを。

 

 

 

「そんな・・・・・・嘘だ・・・」

 

 

 

脳裏に、ヤムザと過ごしたここ数日間の夜の出来事が思い浮かんだ。彼と二人で他愛もない話をしたこと。彼の肩を勝手に借りてうたた寝してしまったこと。

 

そんな俺を見る目が、困ったような、しかし、どこか暖かさを感じさせるような眼差しだったこと。

 

 

 

「俺の、せいで・・・・・・俺のせいで、ヤムザが・・・っ・・・!」

 

 

 

鼓動が、呼吸が早くなる。どんどんと背筋が冷えていく感覚が襲ってきて、頭が真っ白になっていく。

 

ヤムザが死んだ。

 

 

 

俺を庇ったせいで、ヤムザは死んだ。

 

 

 

 

 

「ヤムザ・・・ヤムザ・・・・・・ッ!───くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

敵の前だ。みっともなく泣いている場合ではないことくらいは俺にも分かる。だから、必死に涙は堪えた。

 

けれど、どうしようもなく苦しくて。奥歯を噛み砕きそうなほどに食い縛った後、俺は頭を抱え絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿いぞ馬鹿が」

 

「おぉおああああああああああああああっ!?」

 

 

 

──絶叫した、その直後。突然ヤムザが隣に現れたことに驚愕し、続けて俺は悲鳴を上げた。

 

 

 

「五月蝿いと言ったのが聞こえなかったのか・・・!」

 

「へっ!?あ、や・・・ごめん!?って、いやいやいやあのっ!はぁ!?な、なんで生き・・・今、だって爆死っ!」

 

「馬鹿ナ!?貴様は確かに俺の攻撃を喰らった筈!本気で撃った、生きていられる訳がナイ!」

 

 

 

苛立った様子のヤムザに俺は混乱しながらもとりあえず謝る。スコルパイドも戸惑いを隠せないようで、驚きの声を上げた。それを聞いてヤムザはちらりとスコルパイドの方を見た後、俺に視線を戻す。

 

 

 

「何をそんなに驚いているんだ。俺にはこれがあるだろう」

 

 

 

ヤムザは自身の右腕を見せつけるように軽く掲げた。そこには確かアーティファクトの・・・・・・・・・あ。

 

 

 

「そっか、ドッペルゲンガー・・・!」

 

「・・・・・・まさか数日使わなかっただけで忘れていたとはな」

 

 

 

俺がその存在に気付くと、ヤムザは呆れた顔で嘆息した。

 

つまり、先程俺を庇ってくれたヤムザはドッペルゲンガーにより生み出された分身だったのだ。それを知った俺は思わず深く息を吐いて足の力が抜け掛ける。座り込みそうになったが何とか持ちこたえ、ヤムザを見つめた。

 

 

 

「・・・・・・・・・良かったぁ・・・ヤムザが生きてて・・・!」

 

「・・・・・・っ・・・」

 

 

 

嘘偽りの無い、心からの言葉だった。

 

安堵する俺を見たヤムザは一瞬目を見開いた後、視線を逸らす。多分、俺の顔が見るに堪えなかったのだろう。鏡を見なくとも分かるくらい、今の俺は緩んだ表情をしていると思うから。

 

 

 

「チッ、どうやらさっきのは偽物だったらしイナ。ならば今度こそ本物ヲ──・・・!?」

 

 

 

ヤムザを仕留め損なったことを理解し、スコルパイドは大きく舌打ちする。そうして動き出そうとしたスコルパイドだったが、背中に闘気弾の直撃を受け足を止める。振り返ったスコルパイドの視線の先にいたのは、ボロボロの状態で荒い呼吸を繰り返すクロコダインだった。

 

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・!俺の・・・残された全ての力を持ってしても、大したダメージにはならんか・・・!」

 

「ク、この死に損ないのトカゲメ・・・!邪魔をするなら貴様から──!?」

 

火炎大魔槍(ファイアランス)ッ!!!」

 

 

 

スコルパイドは苛立った様子でクロコダインの方へ向かおうするが、そこへ巨大な炎の槍が放たれた。飛来するそれに気付いたスコルパイドは振り向き様に尻尾を振るって弾き落とすが、炎の槍は一本だけではなかったらしく、続く二本目と三本目が身体に命中する。

 

ダメージは少なそうだが、それらはスコルパイドの足を止めている。その隙に炎の槍が飛んできた方向を見ると、クロコダイン程ではないが傷を負ったアルヴァロの姿があった。

 

 

 

「アルヴァロ!」

 

「ヤムザ、アクトの援護をしろ!お前なら私たちよりかはアクトに付いていける筈だ!」

 

「フン、貴様如きが五本指筆頭である俺に・・・・・・ッ!」

 

 

 

魔法を連続で放ちながらアルヴァロは叫ぶ。彼に指示されるのが気に入らないヤムザは睨み付けながら拒否しようとしたが、スコルパイドが妖気を急激に高めたのを感じ取り、そこで口を閉ざした。

 

 

 

「ギィイイイイイイッ・・・!どいつもこいつも目障りなんダヨォ!そんなに死にたいのなら、纏めて消し飛ばしてヤルゥウウウ!」

 

 

 

声を荒らげ、スコルパイドは両手を頭上に掲げながら妖気を集中させていく。あの構えからするに、恐らく先程の『赤妖烈波(ブラッドウェーブ)』とかいうアーツをまたやるつもりなのだろう。

 

 

 

「させるかよッ!」

 

 

 

俺は相手の攻撃を阻止する為に急いで闘気を練り上げると、それを両手に込めて撃ち出した。自身に向かって放たれる闘気流を前にスコルパイドは苦々しい顔をする。どうやら妖気を溜める時間が足りなかったらしく、スコルパイドはアーツの構えを解くと両手を前方に向けエネルギー波を放ち、こちらの攻撃と相殺させた。

 

 

 

「よし、ヤムザ!」

 

「っ、これは・・・ハイポーションか」

 

 

 

互いの攻撃がぶつかり合い、爆発が起きる。それによって生じた煙に紛れ、俺は懐からハイポーションを二つ取り出し、その一つをヤムザに渡した。

 

 

 

「俺のせいで、武器が無い状態でここまで来るの大変だったよな。ドッペルゲンガーを使って更に消耗してるだろうし、これで回復してくれ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

俺の話を静かに聞いていたヤムザは無言のままハイポーションを飲み干した。直後、ヤムザの身体に出来ていた複数の傷がたちまちに癒え体力と魔素が回復する。その様子を見て俺が一人安堵していると、ヤムザが口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・一応、礼は言っておく」

 

「気にしないでいいよ。元々俺を助けたせいなんだし」

 

「違う。いや、これもそうだが・・・・・・」

 

 

 

俺の言葉を否定した後、ヤムザはそう言い直し口ごもる。ハイポーションをあげたことへの礼かと思ったのだが、この様子では少し違うらしい。

 

煙の向こうにいるスコルパイドを警戒しつつ、俺はヤムザを見つめ首を傾げる。その視線に耐えられなくなったのか、小さく息を吐き、こちらに視線を合わさぬままヤムザは続けた。

 

 

 

「・・・・・・アイスブレードだ。お前が拾って、ここまで持ってきたんだろう?」

 

 

 

そこで俺は、いつの間にかヤムザがアイスブレードを手にしていることに遅れて気付いた。いや、そう言えばスコルパイドの攻撃を庇ってくれた分身も持ってたっけ。戦っている内に行方が分からなくなっていたけれど、このフロアに到着したヤムザが運良く見つけてくれていたようだ。

 

 

 

「まぁ、一応。けど、それこそ気にしなくていいのに。俺のせいで剣を手放すことになったんだしさ」

 

 

 

ヤムザと会話している内に煙が少し晴れてきた。俺は喋りながらスコルパイドのいる方に片手を向け、それなりに威力の込もった闘気弾を連続で放つ。奴にアーツを使わせる隙を与えない為だ。

 

向こうからスコルパイドの苛立った声が響き、こちらの攻撃が効果的であることを教えてくれている。このまま攻撃を続けようと決めたその時、ふと俺はあることが気になった。

 

 

 

「・・・・・・ん?ヤムザ、何で俺がアイスブレードを持ってきたって分かるんだ?アルヴァロとクロコダインもいるのに」

 

 

 

片手で闘気弾を放ちながら俺はヤムザに疑問をぶつけた。俺と違ってアルヴァロは同僚みたいなものだし、彼の方がこういうことをしてくれそうだと思うのだが。

 

俺の疑問にヤムザは一瞬こちらを向いて、また視線を逸らす。答えは貰えないかと諦めてから少しして、ぽつりとヤムザはこう零した。

 

 

 

「・・・・・・・・・お前なら、そうすると思っただけだ」

 

「・・・・・・そっか」

 

 

 

ぶっきらぼうに返ってきたのはそんな答え。目すら合わせてもらえなかったけれど、ヤムザからそう言われたのが何となく嬉しくて。俺は口元が緩むのを感じながら、短く呟いた。

 

 

 

「───『筋力増強(ストレングス)』!『速力増強(アジリティー)』!『保護障壁(プロテクション)』!『武具強化(リインフォース)』!」

 

 

 

その時、アルヴァロが強化魔法を唱える声が響く。声の方に振り返ると、いつの間にかアルヴァロが近くまでやってきており、ヤムザに両手を向けていた。俺に掛けられた強化魔法はまだ解けてないみたいだし、ヤムザに掛けたのだろう。

 

 

 

「ヤムザ、お前にもアクトと同じ強化魔法を掛けた。これならパワーアップしたあの蟲型魔人(インセクター)とも多少は戦える筈だ。少なくともアクトの足を引っ張ることはあるまい」

 

「貴様、この俺が足手まといだとでも・・・!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

ヤムザがアルヴァロに食って掛かろうとすると、スコルパイドが咆哮を上げて突っ込んできた。あのアーツに拘らず、接近戦で仕留めようと判断したのだろう。全身から妖気を立ち上らせ、俺の闘気弾を両手や尻尾で防ぎながら迫るスコルパイドに気付いたヤムザは大きく舌打ちすると、奴へ向き直りアイスブレードを構えた。

 

 

 

「おいアクト、さっさとハイポーションを飲め!二人で攻めるぞ!」

 

「わ、分かった!っと、そうだ。あいつの尻尾に気を付けろよヤムザ!」

 

「分かっている!一度喰らっているからな!」

 

 

 

俺の忠告に答えると同時、ヤムザは飛び出した。直後、ヤムザのアイスブレードとスコルパイドの尻尾が激突し甲高い音が鳴り響く。接敵後、二人が激しく剣と尻尾を打ち合う中、俺は急いでハイポーションを口にした。

 

 

 

「アクト、私はもう魔力がほぼ残っていない。済まないが、向こうで動けなくなっているクロコダインを回収し離脱させてもらう」

 

「ん、んっ・・・・・・ぷはっ・・・了解、クロコダインを頼む」

 

 

 

ハイポーションを飲んでいる俺にアルヴァロが話し掛けてきた。飲み終え一息吐いてからそう告げると、彼は頷いてクロコダインの元へと駆けていく。それを見守りながら、俺は気合いを入れ闘気を高めた。

 

 

 

「よし、行くか!」

 

 

 

体力と魔素がほぼ回復したことを確認した俺は闘気を纏い、『身体強化』と『加速』を発動してヤムザとスコルパイドの戦いに参戦すべく飛んでいく。見ると、少しずつヤムザが押され始めていた。アルヴァロの魔法で強化されているとは言っても、スコルパイド程の格上が相手では厳しかったようだ。相手もスキルで強化されてるし。

 

 

 

「ヤムザ!」

 

「ッ!」

 

 

 

急いで助けに入ろうとする俺の声にヤムザは反応し、大きく後方へ下がる。逃がすまいと追撃を仕掛けたスコルパイドだが、ヤムザと入れ替わるようにして目の前へと飛んできた俺を見て脚を止める。俺は構わず勢いのまま殴り掛かったが、スコルパイドは両腕をクロスして受け止めた。

 

 

 

「このガキィッ!」

 

「っとぉ!オラァッ!」

 

「グォッ!?」

 

 

 

攻撃を防いだスコルパイドは尻尾で突き刺そうとしてくるが、事前に『思考加速』を発動していたお陰で俺は回避に成功する。そこから伸ばされた奴の尻尾を掴み、全力で放り投げた。クロコダインでは無理だったが、俺くらいであれば力負けしないらしい。

 

 

 

・・・・・・いや。少しだけだったけど、今やり合った感じからすると、もしかして。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

空中へ投げ飛ばされたスコルパイドへヤムザが飛び掛かる。全力を込めて素早くアイスブレードを振るうヤムザだが、スコルパイドは空中で体勢を整えると両腕を使ってそれを全て防ぐ。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

「隙あリダッ!死蠍刺突(デス・スコルピオ)──・・・!」

 

「はぁあああああああああああああっ!」

 

 

 

激しく打ち合う二人だったが、スコルパイドは腕を振るって大きくヤムザの剣を弾いた。体勢を崩したヤムザへスコルパイドはアーツを放とうとしたが、それが命中する直前に俺は飛んで奴へと接近し、全力で脇腹辺りを蹴り飛ばした。

 

 

 

「ガハァッ!?」

 

 

 

吹っ飛んだスコルパイドは地面へ叩き付けられ、数回跳ねて転がっていく。俺とヤムザは安全に着地すると、互いに顔を見合せてからスコルパイドへ追撃を仕掛けるべく駆け出した。

 

 

 

「ッ──、グ・・・ギ、ギィイイイアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

転がっていたスコルパイドだが、尻尾を地面へ突き刺し勢いを殺して体勢をすぐに整える。その後、キッ、とこちらを鋭く睨み付けたかと思うと、怒り狂った様子で叫びながらエネルギー弾を連射し始めた。

 

ばらまかれるエネルギー弾を躱したり弾いたりして防ぎながら俺とヤムザはスコルパイドとの距離を詰めていく。そんな時、剣でエネルギー弾を弾きながらヤムザが俺を呼んだ。

 

 

 

「アクト、試したいことがある。少し時間を稼げ」

 

「試したいこと?・・・・・・いや、分かった!任せろ!」

 

 

 

ヤムザのその頼みに俺は僅かに逡巡したが、すぐに頷きそう答えた。試したいことというのが何なのかは分からないし、それがスコルパイドに通用するかどうかも分からない。けれど、ヤムザが俺を頼ってくれたのが嬉しくて、思わず口元を緩ませた。

 

 

 

「だぁああああああああああああああっ!」

 

「グギィイイイイイイッ!」

 

 

 

ヤムザが横へ逸れると同時、俺はスコルパイドの意識を引くため声を上げて真っ直ぐ突っ込んで行く。向かってくる俺に対し、スコルパイドはエネルギー弾を集中させるように撃ち出してくる。ヤムザよりも俺を警戒しているのだろうか。それならそれで好都合なのだけれど。

 

 

 

 

「ギィイイイイイイ・・・・・・・・・ヒャアッ!」

 

 

 

『飛空法』で宙を高速で移動する俺はエネルギー弾の間をすり抜け、回避し切れないものは手足で弾き、スコルパイドとの距離をどんどん詰めていく。あともう少しで目の前まで辿り着くと言ったところで、スコルパイドはエネルギー弾を自身の足元辺りに放ち炸裂させた。それによって巻き起こった土煙によってこちらの視界は遮られてしまうが、今は『魔力感知』をしっかり発動させているので、完璧に避けられはしないにしても、先程のような死に直結する不意打ちを食らうことはないだろう。

 

とは言え、このまま砂煙の中に真っ直ぐ突っ込むのも少し不安だ。そう考えた俺は砂煙の手前でブレーキを掛け、その場に着地した。

 

 

 

死蠍刺突(デス・スコルピオ)ッ!」

 

 

 

それと同時、砂煙の中からスコルパイドの尻尾が勢い良く伸びてきた。込められた妖気量と今の叫びからして奴がアーツを放ったと見て間違いない。あの尻尾の針が直撃すれば、ヤムザの分身と同じく俺は身体に風穴を空けられ即死するだろう。

 

だが、事前に『魔力感知』と『思考加速』を発動させ警戒していた今なら十分躱せる。そう判断し回避行動に移ったのだが、避ける際に針が少しだけ脇腹を掠めてしまった。見ると、服が破れ針の掠めた場所から少し出血している。

 

油断せず『加速』も使っておくべきだったか。若干後悔しつつ、脇腹の痛みに俺が思わず顔を歪めていると、スコルパイドが嬉しそうに笑い出した。

 

 

 

「ギヒッ!ギヒヒヒャハハハハハハッ!馬鹿め、これで貴様も終わリダ!」

 

「はっ?」

 

「ヒヒヒッ・・・俺の『死蠍刺突(デス・スコルピオ)』には致死性の猛毒だけでなく強力な麻痺毒も含まれてイル!ほんの少し掠りでもすればもうマトモには動けナイ!俺の勝チダ!」

 

 

 

勝ち誇った顔でスコルパイドは自身のアーツの効果を説明し、俺の目の前で両手を頭上へ掲げ妖気を込め始めた。恐らく『赤妖烈波(ブラッドウェーブ)』とかいうアーツを放とうとしているのだろうが・・・・・・動けるんだよな、俺。『状態異常無効』があるから。

 

俺に毒が効いてないとも知らず、スコルパイドは隙だらけの姿を晒している。これはどうしたらいいだろうか・・・・・・とりあえず、いつでも強力な一撃を撃てるようその場から動かずに闘気を溜めているけども。

 

その時、距離を取っていたヤムザがこちらへ走ってきた。しかし、どこか様子がおかしい。

 

 

 

「フシュウゥー・・・・・・!」

 

 

 

まず目に付いたのが表情だ。目は血走り、額や頬の血管が浮き出ている。さらに息遣いもどこかおかしい。どう見ても正気ではない。

 

戸惑う俺だったが、ヤムザの装備が先程と反転していることに気付いた。どうやらあれは分身らしい。周囲を確認してみると、離れた場所にいるヤムザを見つけた。

 

 

 

「なンダ?どうも様子が変ダガ・・・・・・まぁ良イ。あいつなら尻尾だけでも十分ダ!」

 

 

 

スコルパイドも分身ヤムザの様子が気になっているらしい。しかし格下の相手と侮っているのか特に警戒はせず、にやりと笑みを浮かべて尻尾に妖気を込める。両手はそのままに、『赤妖烈波(ブラッドウェーブ)』の準備をしているので『死蠍刺突(デス・スコルピオ)』だけで殺すつもりのようだ。

 

すると、離れたところからこちらを見ていたヤムザが俺に向かって叫んだ。

 

 

 

「アクト!そいつの尻尾を封じておけ!」

 

「ヒヒヒヒッ!残念だっタナ?こいつは俺の毒によってもう動けな──」

 

「了解!」

 

「はっ、なぁアア!?」

 

 

 

ヤムザの出した指示を聞いて嘲笑うスコルパイドだったが、直後に俺が走り出したのを見て目を見開いた。完全に油断していたのもあり、簡単に尻尾を掴まれ身動きを封じられたスコルパイドは動揺する。

 

 

 

「お、お前!何故動ケル!?確かに俺のアーツを喰らった筈なノニ・・・!」

 

「残念だったな、俺に状態異常は効かないんだよ!」

 

 

 

尻尾を脇に抱え込みながら、俺は口元をつりあげスコルパイドにそう言ってやる。その事実に驚愕し狼狽えるスコルパイド。その隙に分身ヤムザが接近し、スコルパイドの右腕に組み付いた。

 

 

 

「ウゥウウウ・・・・・・ガァアアアアアアッ!」

 

「チィッ!こいつ、鬱陶シイ・・・!」

 

 

 

まるで獰猛な獣のように唸りながら分身ヤムザはがっしりと腕にしがみついている。不快そうに顔を歪めるスコルパイドは分身ヤムザを引き剥がそうと殴ったり引っ張るが、全く離れる気配がない。気のせいだろうか、これまでの分身より力が強いように思える。

 

 

 

「今だ!離れろアクトッ!」

 

 

 

尻尾の動きを封じながら分身ヤムザを観察していると、本物ヤムザが叫んだ。理由は分からないが、とりあえず彼の指示通り俺は尻尾を手放しスコルパイドから急いで距離を取る。

 

その直後、分身ヤムザの全身が一瞬光り輝き、大爆発を起こした。

 

 

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!?」

 

「じ・・・自爆!?」

 

 

 

分身ヤムザの自爆に巻き込まれたスコルパイドの声が辺りに響く。俺が分身ヤムザの予想外な行動に驚愕していると、本物ヤムザが隣へやってきた。

 

 

 

「ここ数日、分身の有効的な活用法はないかと考えている時に思い付いてな。分身の魔素を暴走、自爆させることで通常では生み出せない破壊力を出す・・・・・・そうだな、『死活人形遊戯(デスマリオネット)』とでも名付けるか」

 

 

 

ヤムザの話を聞いて、それにしたって自爆は物騒だろうと俺は苦笑する。その時、俺はあることに気が付きヤムザに視線を向けた。俺を見つめたまま無言で頷くヤムザに頷き返していると、爆煙を妖気で吹き飛ばし中からスコルパイドが姿を現した。

 

 

 

「ハァー・・・!ハァー・・・!き、貴様ラァ・・・・・・!」

 

「どうした?随分と辛そうじゃないか」

 

「黙レッ!この程度の爆発デ・・・・・・」

 

「大分参ってきてるだろ?自分の身体、良く見てみな」

 

 

 

ヤムザの煽りにスコルパイドは声を荒らげるが、その言葉を遮るように俺は奴へそう促した。どういうことかと自身の身体を確認したスコルパイドは目を見開く。

 

 

 

「ナニ・・・・・・・・・!?ばっ、馬鹿ナ!?俺の甲殻にヒビガ・・・!」

 

 

 

スコルパイドの視線は自身の右腕と右脇腹辺りに向けられていた。分身ヤムザに密着された状態で自爆された右腕には大きなヒビが入っており、先程俺が蹴りを食らわせた脇腹に至ってはヒビ割れだけでなく、一部甲殻が剥がれてその下の肉が見えている。俺の攻撃と分身ヤムザの自爆によるダメージが蓄積し壊れたのだろう。

 

自身の身体が受けた傷に狼狽えるスコルパイドを見据え、俺はこう続けた。

 

 

 

「さっき、もしかしてって思ったけど・・・・・・お前、スキルの反動が来てるんじゃないか?」

 

「・・・・・・!」

 

 

 

俺の指摘にスコルパイドは図星を突かれたかのような反応を見せる。

 

先程、奴の尻尾を掴んで放り投げた時から違和感を感じていた。実はスコルパイドの身体がスキルによって紅く変化した直後と比べて、奴の力が・・・正確には魔素量が低下しているのだ。最初は単純に大技を使い過ぎただけかとも考えたが、あることを思い出したのである。

 

それは、スコルパイドが『暴走蟲』というスキルを発動した直後の言葉。奴はそのスキルについてこう語っていた。『まずある程度体力を消耗していなければ発動出来ないし、本来のそれと違って回復力も増したりしナイ。なにより体力の消耗が──・・・』・・・・・・と。

 

最後まで話を聞くことは出来なかったが、恐らくあの紅色の状態を維持していると体力をどんどん消耗していくのだろう。その後でモタモタする訳にはいかないとも言っていたし、この推測はほぼ間違いないと思う。

 

一時的には元々の体力の消耗を気にしなくて良い程のパワーアップして俺たちを蹂躙していたスコルパイド。しかし、調子に乗って大技を連発し、徐々にスキルの反動が現れたことで俺だけでなくヤムザの攻撃でも大きなダメージを受けるくらい魔素量が低下し弱体化し始めたという訳だ。

 

 

 

「成程・・・・・・つまり、このまま時間を稼いでいれば勝手にこいつは自滅する訳か」

 

 

 

俺の考えを聞いたヤムザはスコルパイドに挑発するような目を向けて鼻で笑う。するとスコルパイドはぎり、歯を噛み締め、妖気を全身から立ち登らせた。

 

 

 

「だッ・・・黙れ黙れ黙レェッ!俺のスキルを見破ったくらいで調子に乗るナヨ!時間稼ぎなどさせルカ!貴様らなど、『赤妖烈波(ブラッドウェーブ)』で纏めて消し飛ばして───!?」

 

「ふッ!」

 

 

 

激昂するスコルパイドが言い終える前に俺はその場を飛び出していた。奴のアーツを止める為・・・・・・いや、この戦いを終わらせる為に。

 

スコルパイドが俺に毒を付与したと勘違いした時から今まで、俺はずっと闘気を練り高めていた。既に強力な一撃を繰り出せるだけの闘気はチャージ済み。右足に闘気を溜めながら俺は『飛空法』と『加速』を使いスコルパイドへ真っ直ぐ飛んでいく。

 

 

 

「ギ、ギィイイイイイイッ!」

 

 

 

向かってくる俺を忌々しそうに睨み付けるスコルパイドは、頭上へ掲げていた両手をばっ、とこちらへ向けた。『赤妖烈波(ブラッドウェーブ)』を放つだけの妖気を溜め切れなかったのか、撃ったとしても衝撃波が出るより俺に距離を詰められる方が早いと判断したのか。

 

どちらにせよ、もう手遅れなのだけれど。妖気が込められた奴の両手はしっかりと俺を捉えている。もうエネルギー波は発射は目前だ。だが、俺は気にせず正面からスコルパイドへ突っ込んで行く。何故なら。

 

 

 

 

 

「周囲を気にする余裕も無いか?虫ケラ」

 

「ハッ・・・・・・・・・!?」

 

「ゥウウウガァアアアアアアアッ!」

 

 

 

ヤムザが助けてくれるからだ。

 

俺とは違い、その場から一歩も動いていないヤムザが発した言葉にスコルパイドはあることに気付く。だが、もう遅い。ドッペルゲンガーによって生み出された分身のヤムザが唸り声を上げスコルパイドの背後から接近したかと思うと、滑り込むようにして奴の足元に潜り込んだ。

 

先程、ヤムザは分身を自爆させた直後にまた新たな分身を作り、そいつをスコルパイドに気付かれないよう控えさせていたのである。周囲に遮蔽物はあまりないが、爆煙に紛れることで奴の死角に潜むことが出来たようだ。

 

この作戦は話し合って決めた訳ではないが、こちらからは分身が丸見えだったのと、ヤムザとのアイコンタクトにより何をしようとしているのか何となく察することができた。そして、ヤムザが次に取る行動も。

 

 

 

「吹っ飛べ──!『死活人形遊戯(デスマリオネット)』!」

 

 

 

全速力で飛行していた俺だが、空中で一時静止する。その直後、スコルパイドの足元で分身ヤムザが大爆発を起こした。

 

 

 

「ヌァアアアアアアアアアアッ!?」

 

 

 

分身ヤムザの自爆によりスコルパイドは空中へ持ち上げられる。ほぼ同時に奴からエネルギー波も放たれていたが、爆発の衝撃で狙いが反れたことで俺には当たらなかった。

 

これまでの戦いからして、奴が飛べないのは間違いない。宙に放り出されている今はほぼ身動きが取れない筈。俺は再び『加速』を使いスコルパイドへ接近する。

 

 

 

「もうドッペルゲンガーの分身は出せん!ここで決めろ、アクト!」

 

「あぁ!」

 

「グ、ギ・・・・・・ッ!ガァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

振り返らずヤムザに答えると同時、俺はスコルパイドの目の前まで距離を詰め終えた。すると、空中で体勢を整えたスコルパイドが必死の形相で尻尾をこちらに撃ち放つ。

 

 

 

「当たらねえよ!」

 

 

 

しかし、スコルパイドの最後の抵抗は俺の頬を掠めただけで終わった。これくらい、油断していなければ十分に避けられる。

 

攻撃を躱した俺は右足に込めた闘気を解放する。その蒼い輝きを目にしたスコルパイドは、ここに来て初めて怯えた表情を見せた。

 

 

 

「ア、ア・・・・・・アァアア・・・!?」

 

星皇剣(スターセイバー)────ッ!!!」

 

 

 

遂に、俺の全力を込めた一撃がスコルパイドへ届いた。魔鋼製のブーツが闘気を纏い、蒼く輝く剣と化す。俺はそれを回転して振るい、奴のヒビ割れた脇腹辺りへ直撃させた。

 

ガギンッ!と、俺の蹴りがスコルパイドの甲殻とぶつかり合う音が響く。その瞬間、奴の脇腹のヒビが一気に広がり、甲殻が大きく砕け散る。そして無防備となった奴の柔らかい胴体を、『星皇剣(スターセイバー)』が斬り裂いた。

 

 

 

「ギギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」

 

 

 

身体をぶち抜かれたスコルパイドは絶叫し、体液を撒き散らしながら落下した。受け身も取らず地面に叩き付けられ、辺りに砂煙が巻き起こる。やがてそれが晴れると、そこには甲殻が紅から黒鉄色に戻ったスコルパイドが倒れていた。

 

 

 

「はぁー・・・・・・・・・よし!ヤムザっ!」

 

「・・・・・・ふん」

 

 

 

着地し、俺は大きく息を吐く。それからスコルパイドが動かないことを確認し、ヤムザの方へ振り返った。俺の声に対してヤムザは特に応えず、その場で目を伏せ小さく鼻を鳴らす。

 

 

 

けれど、マスクに口元を覆われている彼の表情がどこか嬉しそうに見えて。勘違いかもしれないけれど、俺は静かに表情を綻ばせるのだった。




御存知の方も多いでしょうが、ヤムザの使ったアーツはクレイマンリベンジで出ていたものです。こちらではアクトと出逢ってから急成長し会得したという設定にさせて頂きます。
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