転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第130話となります。

早く優しくて愉快な普段のガビルを書きたいです・・・


ガビルの怒り

俺たちの街に突然やってきた、蜥蜴人族(リザードマン)たちの使者、ガビル。

 

彼は俺たちの暮らすジュラの大森林を『豚頭帝(オークロード)』の脅威から守る為、同族と協力し味方を集めていた。その際に俺たちの街の噂を聞いて足を運び、リグルたちと遭遇。ゴブリンたちにも礼儀正しく接し、さらに街を治める俺を評価する彼にリグルたちは心を許した。ガビルから事情を聞いたリグルたちは彼を俺の元へ案内することに。

 

しかし、その途中でシオンとシュナに出逢ったことで事態は一変。大鬼族(オーガ)に対し、ガビルは明らかな敵意を見せたのだ。事態を知った俺が慌てて駆け付けるも、彼の敵意は止まらずシュナたちに・・・いや、大鬼族(オーガ)へ心無い言葉を浴びせる。

 

そして現在。それを聞いて怒りを露わにするベニマルたち六人の元大鬼族(オーガ)にガビルは囲まれ、場は一触即発の空気で満ちていた。

 

 

 

 

 

「フン、六人も生き残っていたとは・・・・・・悪運の強い連中である」

 

 

 

ベニマルたち六人を見回した後、ガビルは忌々しそうに吐き捨てた。ベニマルたちに囲まれているというのに全く動じていないというのは正直大したものではある。相手の実力を計れていないだけかもしれないが。

 

 

 

「リムル殿。まさかとは思うが、ここにいる全ての大鬼族(オーガ)共も貴殿の部下なのか?」

 

「そうだ。皆、俺の仲間だよ」

 

 

 

俺はガビルを見据え、ハッキリと宣言した。その返答にガビルは一瞬驚いた顔をするが、すぐに表情を戻す。恐らく予想はしていたのだろう。

 

 

 

「・・・・・・リムル殿、勝手ながら忠告させて頂く。大鬼族(オーガ)共はこの街から追い出した方が良い。この者たちは貴殿の害にしかならぬ。今は大人しくしているのかもしれぬが、いずれ牙を剥くであろう」

 

 

 

少し間を置いて、ガビルは俺にそう告げた。ベニマルたちへの悪感情はあるが、本当に俺を心配しているように見える。

 

 

 

 

「ふざけるなよこの蜥蜴!私たちはリムル様に恩がある!感謝こそすれど、リムル様の御迷惑になるようなことをする訳がない!」

 

 

 

声を上げたのは、これまでシュナの隣で黙っていたシオンだ。ここまで色々言われて我慢の限界がきたのだろう。シオンの怒鳴り声に振り返ったガビルは彼女を見て呆れたような視線を向ける。

 

 

 

「恩だと?ふん、どうせこの街を乗っ取ろうとリムル殿を襲ったところを返り討ちに合い、無様に命乞いをした結果、情けで部下として置いてもらっている、というところか」

 

「はっ、見当違いも甚だしいぞ!バカめ!」

 

「勘違いで命を狙われはしたがな・・・」

 

「しっ!」

 

 

 

言い合う二人を眺めながら、俺の背後でランガがぼそりと呟いた。ベニマルたちがいるということは、当然ランガたちもここに到着してるよな。

 

話に水を差さないよう、俺は人差し指を立てて静かにするようにとジェスチャーをランガに送る。だが、どうやら近くにいたベニマルには聞こえていたらしく、彼はぎくりと肩を揺らしていた。

 

 

 

「ガビル殿、どうにも先程からシオン殿たちへの当たりが強いように思えますが・・・・・・もしや、大鬼族(オーガ)に何か恨みでもあるのでしょうか?」

 

 

 

張り詰めた空気の中、そう切り出したのはランガの隣に立つリグルドだ。確かに、俺も少し気にはなっていたところではある。まさか理由もなくここまで毛嫌いする訳もないだろうし。

 

 

 

「恨み、か・・・・・・あぁ、あるとも。そんな言葉では言い表せぬ程の決して消えぬ・・・・・・いや・・・月日を重ねる毎、炎のように燃え上がる憎悪がな」

 

 

 

リグルドからの疑問にガビルは目を伏せてそう答える。口調こそ落ち着いていたものの、僅かだが彼の眉間に皺が寄っていたのを俺は見逃さなかった。恨みに思うキッカケとなったことを思い出しているのだろうか。

 

 

 

「憎悪のう・・・・・・随分と大仰に言うが、自身の力を過信し愚かにも大鬼族(オーガ)に挑んだ結果、無様に敗北しその鼻をへし折られただけ・・・ではないのか?ふっふっふ・・・・・・?・・・・・・っ・・・」

 

 

 

その時、話を聞いていたハクロウが煽るようにガビルへ問い掛けた。なんだか意地の悪い物言いだったが、きっとガビルが先程シオンに言ったことへの意趣返しなんだと思う。ついでに、今の言葉に対する反応を見てガビルのことを探ろうとしたってところか。

 

しかし、ガビルは全く怒らず、無言のまま侮蔑の眼差しをハクロウに返す。その目を見たハクロウは一瞬で笑みを消し、腹立たしそうにガビルを鋭く睨んだ。

 

 

 

「・・・・・・貴様らの問いになど答えたくもないが、リムル殿たちには理由を伝えたいからな。少しだけ話すとしよう」

 

 

 

暫しハクロウと見つめ合っていたガビルだが、やがて視線を逸らす。その後、目付きを戻すと俺に向き直り語り始めた。

 

 

 

「我輩には一人の友がいる。我輩のような未熟者を信じ、支え、友だと呼んでくれる者が。出逢ってまだ数ヶ月程ではあるが・・・・・・かけがえの無い親友だ」

 

 

 

そう語るガビルの表情はシオンたちに向けていたものとは勿論、俺に向けていたものとも違う、穏やかで優しいもので。その友達を本当に大切に想っているのだと、俺は少しだけ微笑ましくなった。

 

 

 

「その友と初めて出逢った日のことは決して忘れぬ・・・・・・我が友が、大鬼族(オーガ)に殺されそうになっていたあの日のことはな・・・!」

 

「なんだと・・・・・・?」

 

 

 

言い終えると、ガビルはベニマルをじろりと睨んだ。その眼光にではなく、彼の告げた内容を聞いてベニマルは僅かに狼狽えているように見える。

 

 

 

「ガビル、それは本当なのか?」

 

「事実だ。蜥蜴人族(リザードマン)の誇りにかけて嘘偽りは無いと誓おう」

 

 

 

俺の目を真っ直ぐ見てガビルは言い切った。

 

つまりガビルは、大鬼族(オーガ)に友達を傷付けられたから種族全体を許せないという訳か。うーん・・・・・・なんとなく嘘は言ってないように思うけど。

 

 

 

「なぁガビル。友達を傷付けられて、怒る気持ちは俺にも理解出来るよ。けどさ、お前の友達に酷いことをした大鬼族(オーガ)がたまたま悪い奴だっただけで、他の大鬼族(オーガ)には良い奴もいると思うんだ」

 

 

 

俺は少し考えてから、諭すようにガビルへ告げた。良い奴がいれば悪い奴もいる。魔物だって人間と同じだ。現にベニマルたちだって、ファーストコンタクトこそアレだったが話せばとても良い奴らだと分かったし。それをガビルにも分かって欲しい。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・同じようなことを言うのだな、リムル殿も」

 

 

 

すると、ガビルは一瞬目を丸くしたかと思うと、すっと目を伏せて呟いた。同じようなこと・・・とは、他の誰かも俺のようにガビルを諭そうとしたのだろうか?もしかして、例の友達?

 

それについて確認しようとした、その時。

 

 

 

 

 

「────だが、我輩は憎んだのだッ!」

 

 

 

出掛かっていた俺の言葉は、ガビルの怒りが込められた叫びによって遮られた。流石に少し驚いて、俺は僅かに肩を揺らす。

 

 

 

「・・・・・・我輩が大鬼族(オーガ)に何かされたから、というだけではない。いや、最早奴らに侮辱されたことも、奇襲を掛けられ殺され掛けたことすらどうでも良い」

 

 

 

奇襲って、そんなことまでされてたのかよ。ついベニマルの様子を窺うと、彼は眉を顰め難しい顔をしていた。ガビルの言葉を疑っている・・・・・・って感じじゃないな。何か心当たりでもあるのだろうか。

 

 

 

《告。先程、豚頭族(オーク)に里を襲われた心当たりは無いかとベニマルに訊ねた際、その返答の中にあった二人の大鬼族(オーガ)のことだと思われます》

 

「あー、あれか・・・!」

 

 

 

ベニマルの顔を眺めていると、大賢者からそう告げられた。

 

二人の大鬼族(オーガ)。確か問題を起こしまくって、ベニマルの父親でもある首領に里を追放されたっていう・・・・・・確かに、そんな奴らならガビルとその友人に酷いことをしたって不思議じゃない。

 

納得して、俺は再びガビルへ意識を向ける。

 

 

 

「しかし・・・!我が友を傷付けたことだけは絶対に許さん!あんなに優しい彼が、何故あのような目に遭わなければならなかったのだ!彼は普通の少年だった・・・・・・ほんの数ヶ月前まで、彼は戦いとは無縁の世界で生きてきた、普通の人間だったのだぞ・・・!」

 

 

 

そこで俺はまたしても驚いた。ガビルの友達って人間なのか。てっきり同じ蜥蜴人族(リザードマン)なのだとばかり。

 

 

 

その時、ガビルが拳を握り締めてわなわなと肩を震わせているのに気付いた。彼は友達が受けた苦しみを思い心を痛め、そしてそれを味わわせた大鬼族(オーガ)を心から憎んでいる。その表情を見ただけで、俺には分かった。

 

シオンやクロベエたちはまだ怒っているようだが、ベニマルとソウエイはそんなガビルの姿を正面から見たせいか、先程と比べ少し落ち着いていた。

 

 

 

「・・・・・・使者殿。あなたの話が本当ならば、同族の代わりに俺が謝罪しよう。しかし、俺たちは・・・」

 

「黙れ!大鬼族(オーガ)と話す舌など持たぬわ!」

 

 

 

さっき話してたじゃん。なんてツッコミは置いといて。

 

どうやらガビルは完全に頭に血が上っている・・・・・・というか、大鬼族(オーガ)と敵対する気満々らしい。歩み寄ろうとするベニマルを拒絶し話を聞こうともしない。

 

ここまで怒っているとなると、仮に俺の口から、ガビルの友達を傷付けた大鬼族(オーガ)だけが悪い奴で、ここにいるベニマルたちは皆良い奴なんです・・・・・・なんて話したところで信じてもらえるか不安だ。そいつらに騙されているだけだ!と突っぱねられるのがオチだろう。

 

 

 

「・・・・・・リムル殿。どうやらあなたは騙されておるようだ。良かろう、この我輩があなたを謀る愚か者共を退治してみせようではないか」

 

 

 

話してないのに言ってきちゃったよ。ガビルの申し出に俺は思わず苦笑してしまった。

 

それよりも・・・・・・この状況、一体どうすれば良いのだろうか。俺が内心で頭を抱えていると、背後から呑気そうな声が掛けられた。

 

 

 

 

 

「あれ?皆集まって何やってるんすか?」

 

 

 

振り返ると、そこには背丈の小さなゴブリンが笑みを浮かべて立っていた。

 

こいつの名前はゴブタ。封印の洞窟を出た俺が一番最初に訪れたゴブリン村に暮らしていたゴブリンである。

 

ランガたち牙狼族との戦いの後、俺の名付けによって村にいた全ての『子鬼族(ゴブリン)』は『人鬼族(ホブゴブリン)』へと進化した。しかし、大きく姿を変化させたリグルやリグルドたちと違って、ゴブタは全く風貌が変化せず、特徴的な丸い顔に丸い鼻をそのままにしていた。

 

その体格や能天気な性格から、リグルなんかと比べると一見大したことのない奴に見える。だが、他のゴブリンたちの誰にも出来ない『嵐牙狼族(テンペストウルフ)』の召還を習得しており、実はかなりの才能の持ち主・・・・・・なのかもしれない。

 

 

 

ちなみに、ゴブタが『嵐牙狼族(テンペストウルフ)』の召還を覚えた場所はカイジンたち、それからアクトと出逢ったドワルゴンだ。

 

村の衣食住のレベルを上げる為、ゴブタを連れてドワルゴンへ向かったのだが、入国の際にちょっとしたトラブルがあり俺たちは身柄を拘束されてしまったのである。

 

それから色々あってアクトやカイジンたちと出逢い、そしてアクトと別れ、カイジンたちが仲間に。その後、カイジンたちを連れ帰路へ就いたのだが、うっかりゴブタを留置場に置き去りにしてしまったのだ。

 

しかし、ゴブタはそこから逃げ出そうとして『嵐牙狼族(テンペストウルフ)』の召還を覚え、自力で脱出してきたのである。

 

 

 

・・・・・・そう言えば、留置場に置き去りにしてしまったせいでゴブタはアクトと顔を合わせていないんだよな。もし二人が出逢っていたらどうなっていたのか、少し気になってしまった。

 

 

 

「・・・・・・って、ゴブタ。お前もう大丈夫なのか?」

 

 

 

実はこのゴブタ。先程までシオンの作った料理を食べて体調を崩し寝込んでいたのだ。いや、食べたというか俺が無理矢理食べさせたんだけども。

 

何故料理を食べただけで寝込んでいたかと言うと、シオンの作る料理がなんというか・・・・・・マンガとかでたまに見るメシマズな概念が可愛く思えるレベルだったというか・・・・・・最早毒物だったというか・・・・・・

 

それでつい『大賢者』に助けを求めた結果、俺は難を逃れたものの、代わりにゴブタが犠牲になってしまったのだ。本当にごめん。

 

 

 

《告。シオンの料理に抵抗して、『毒耐性』を獲得したようです》

 

 

 

と、心の中でゴブタに謝罪していると『大賢者』からそう告げられた。あぁもう毒扱いなんだ、シオンの料理・・・・・・

 

 

 

「あ、そう・・・・・・『毒耐性』って俺も持ってないのに凄いな・・・」

 

「そうっすか?へへっ」

 

 

 

苦笑しつつも、素直に俺が褒めると喜ぶゴブタ。すると、ゴブタの近くにいたランガがにやりと笑った。

 

 

 

「・・・・・・良いところへ来たな」

 

「へっ?」

 

 

 

小さく呟くと、ランガはゴブタの襟首を咥え持ち上げる。間の抜けた声を漏らすゴブタを気にすることなく、ランガは俺の前に出てゴブタを置いた。

 

 

 

「ガビルと言ったな。この者を倒すことが出来たのなら、貴様の話、一考してやろう」

 

「はっ!?」

 

 

 

ランガの予想外な発言に、ゴブタは素っ頓狂な声を上げると目を見開いてそちらを振り返る。俺としてもこの展開には驚いた。いくら名付けで進化して、秘めた才能があるかもしれないからって、流石にゴブタではBランク級の相手には敵わないんじゃないか?というか向こうもネームドだし。

 

 

 

「このゴブリンが我輩と?・・・・・・リムル殿、本当によろしいのですかな?」

 

「い、いや・・・その~・・・・・・」

 

「リムル様、この場はゴブタに任せましょう」

 

 

 

若干困惑した様子のガビルに俺が言葉を濁していると、ベニマルがこちらに近寄ってきてそう耳打ちした。ベニマルとランガの意図が読めずに困惑する俺にベニマルはそのまま説明を始める。

 

 

 

「あぁ見えてゴブタはそれなりにやります。なにせハクロウが目を付けて厳しい修行をさせてるくらいですから」

 

 

 

そう言えば、ここ最近のゴブタはハクロウとよく修行していたな。時々、余計なことを言ってゴブタがボコボコにされてたけど。

 

 

 

「今のゴブタなら例えネームドの蜥蜴人族(リザードマン)が相手でも負けません。というか・・・・・・あのガビルとか言う奴、多分弱いです。普通の蜥蜴人族(リザードマン)に毛が生えたくらいなんじゃないですか?」

 

 

 

ガビルをちらりと横目で眺めつつベニマルが言った。確かにあのガビル、さっきも思ったけどそんなに強くはなさそうなんだよな。友達の為にあれだけ怒れる辺り良い奴だとは思うんだけど。

 

 

 

「俺が相手をしても良いのですが、余計大鬼族(オーガ)への恨みを強めてしまいそうですし。そもそも、ハクロウやソウエイなら大丈夫でしょうが、シオン辺りに任せると奴を殺しかねない」

 

「流石に殺すのはやり過ぎだもんな・・・」

 

「はい。ですが、ゴブタならその辺りも問題ない。そして本来格下であるゴブリンに負けたとなれば、奴も少しは落ち着くでしょう」

 

 

 

ベニマルが言い終えるとランガが無言で頷いた。どうやら二人は同じ考えをしていたらしい。

 

 

 

「ん~・・・・・・よし!やったれゴブタ!」

 

「リムル様まで!?なんなんすかもう!」

 

 

 

少し悩みはしたが、俺はベニマルたちの案に乗っかることにした。が、当然と言えば当然なのだが、状況を理解し切れていないゴブタは乗り気じゃない。

 

仕方ない、ここは御褒美で釣ろう。

 

 

 

「あいつに勝てたらクロベエに頼んで、お前専用の武器を作ってやるぞ」

 

「え?ホントっすか?ちょっとやる気出たっす」

 

 

 

そう言うと、ゴブタはぱっと表情を明るくした。よしよし、単純な奴め。ガビルには悪いがゴブタには頑張ってもらわないといけないからな。さらに駄目押ししとくか。

 

 

 

「その代わり、負けたらシオンの手料理の刑な」

 

「負けられない・・・ッ!頑張るっすーーー!!!」

 

 

 

俺の宣告にゴブタは目を見開くと、決死の形相で声を上げた。追い詰められたことで覚悟を決め、全身から妖気が立ち上っていく。おぉ、これなら本当にBランク級の相手にも勝てるかもしれないぞ。

 

 

 

「何やら非常に不愉快な会話です・・・・・・」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

 

 

少し距離はあったが、シオンは俺とゴブタのやり取りをしっかり聞いていたらしい。悲しみと怒りをごちゃ混ぜにしたような、何とも言えない顔でこちらを見つめている。

 

流石に申し訳無くなって一言謝ろうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

《告。個体名ガビルによるスキルの発動が確認されました》

 

「えっ?」

 

 

 

『大賢者』からの報告に俺は思わず身体を硬直させた。シオンへの謝罪は後回しにしてガビルとその周囲に視線を向けるが特に変わった様子はない。

 

てっきり攻撃でも仕掛けてきたのかと思ったが・・・・・・一体何をしたのだろう?

 

 

 

 

 

「───く・・・・・・くっくっくっ・・・・・・」

 

 

 

一体何のスキルを使ったのか『大賢者』に確認しようとした時、ガビルが顔を俯かせていることに気付いた。どうしたのかと気になって見つめていると、やがてガビルは顔を上げて笑い出した。

 

 

 

「ぐわ~~~はっはっはっはっはっ!大鬼族(オーガ)の手料理が罰とはな!いやいやリムル殿、それはあまりに酷過ぎるというもの!大鬼族(オーガ)の作る料理を食べるくらいなら、汚泥を啜っている方がマシであろうよ!」

 

「あっ」

 

 

 

不味い。いや、シオンの料理のことではなく。そう思った時にはもう遅かった。

 

瞬間、ゴブタのそれを遥かに上回る莫大な妖気が吹き荒れた。出所は言うまでもない、シオンである。

 

俺やベニマルたちが慌てるのをガビルは不思議そうに眺めている。そんな彼の元へ、シオンはずんずんと距離を詰めていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・リムル様」

 

「あ、あの~・・・・・・シオン?」

 

「こいつ、殺しますね」

 

 

 

にっこりと笑って、シオンはそう言った。駄目だこれ。完全にキレてる。口角は上がってるけど目が笑ってないもん。額に血管浮き出てるもん。

 

ベニマルやランガたちは問題なさそうだが、恐ろしいまでの殺気を放つシオンの姿にゴブリンたちは皆怯えている。ゴブタなどいつの間にか俺の背後に隠れていた。こいつめ。

 

 

 

「って、待て待て待て!殺すなよ!?殺しちゃ駄目だからな、絶対!」

 

「はぁ・・・・・・参ったな。あぁなったらもうシオンは止まらんぞ・・・」

 

「・・・・・・リムル様、如何致しましょう」

 

 

 

必死にシオンを制止しようとする俺の隣でベニマルは片手で顔を覆う。どこか呆れた声色でソウエイから訊ねられた俺は、シオンへの制止を止めて大きく溜め息を吐いた。

 

 

 

「・・・・・・仕方ない。シオンが怒る気持ちも分かるし、ここはあいつにやらせてあげよう」

 

「っていうか、半分はリムル様のせいっすよね」

 

「うるさい」

 

 

 

余計なことを言うゴブタの頭に軽くチョップを入れ黙らせる。酷いっす・・・なんて文句を言ってくるが無視だ。今はそれどころではない。

 

 

 

「いいか皆。シオンがガビルを倒したらトドメを刺す前に止めに入るぞ。その後は俺がガビルに話を付けるから、それまではお前らでシオンを抑えててくれ」

 

「分かりました。お任せください」

 

 

 

ベニマルの頼もしい言葉に俺は頷き、視線をガビルたちの方へ戻す。見ると、既にシオンはガビルとの距離を詰め終えており、周囲の緊張感が更に増していた。

 

 

 

「我輩を殺すだと?大きく出たな、大鬼族(オーガ)の女よ」

 

「・・・・・・・・・・・・シオンだ」

 

「なに?」

 

「私には、リムル様より頂いたシオンという名前がある。それだけ覚えて──」

 

 

 

ガビルを睨み付けながら静かな口調でシオンは話す。そして、そこまで言ったところで右拳を強く握り締めると。

 

 

 

「────死ね」

 

 

 

冷たい声色で短くそう告げ、シオンは妖気を込めた拳を振りかぶった。

 

シオンに殴られ、吹っ飛ばされるガビルの姿が目に浮かぶ。間違いなくあの一発で終わりだろう。フルポーションの準備しなくちゃな。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ッ!?いかん、止まれシオンッ!」

 

 

 

しかし。俺が呑気にそんなことを考えていると、突然ハクロウが顔色を変え叫んだ。

 

何事かとハクロウに訊ねようとした次の瞬間、俺は自分の目を疑う光景を目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

そんな、間の抜けた声を零したのはシオンだ。

 

ガビルに殴り掛かった筈のシオンだが、何故か今、地面の上で仰向けとなり、ぽかんとした顔で空を眺めている。

 

 

 

「・・・・・・やはり、大鬼族(オーガ)という種族は救えぬな」

 

 

 

静まり返ったその場で、ガビルが──シオンを一瞬で地面に倒した魔人が小さく呟く。

 

全員が驚愕し言葉を失う中、彼だけが冷たい目でシオンを見下ろしていた。




一応補足を入れますと、『大賢者』が感知したガビルのスキルとは『御調子者(ミダスモノ)』の権能の一つ『運命変更』です。このままではガビルにとって良くない結果になるので自動発動しました。

あ。ゴブタに負けるから、ではありません。ここのガビルは強いので。
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