転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
メガグソクムシャの特性がかたいつめで滅茶苦茶嬉しいです。
ラプラスによってスコルパイドは倒され、俺たちは何とか危機を逃れた。
そのスコルパイドだが、遺骸はもうどこにもない。封印の洞窟で戦った嵐蛇と同じように、絶命した後すぐに身体が崩れ始め、やがて完全に消滅してしまったのだ。
青娥さんでもその現象の理由を突き止めることは出来なかったが、もしかすると『邪配合』とかいう力のデメリットなのかもしれない。
それはさておき。スコルパイドを倒した後、俺たちは暫く周囲の警戒を続けた。もしかするとドルマゲスが戻ってくるかもしれないと考えたからだが、三十分程立っても奴が現れる気配はなかった。
そのことから、ドルマゲスはもうここには戻ってこないだろうとラプラスは判断する。以降の俺たちは、青娥さんとレインさんが戻ってくるか、洞窟のダンジョン化が解けるまで異界の裂け目を見張ることにしたのだが・・・・・・
「───ッ、だぁああああああああああああああっ!」
「ほほーん?」
声を上げて、俺は闘気を込めた拳や蹴りを連続で放つ。しかし、その攻撃は相手──ラプラスには届かなかった。
いくらこちらが万全の状態ではないとは言え、ラプラスは俺のラッシュ全てを完全に見切っており、ひらりひらりと回避し続けている。
「成程な、えぇ感じやで」
「とぉっ!はっ!本当、にっ!?」
「ホンマホンマ。数日前と比べて魔素量自体はそないに増えとらんけど、動きに無駄が少なくなってて断然強うなっとる」
息を荒らげながら確認する俺に、ラプラスは息を乱すことなくそう返した。こうも簡単に躱されていてはあまり説得力が無いが、ラプラスがそう言うのなら間違い無いのだろう。彼の言葉が嬉しくて、攻撃を続けながら俺は口元を緩めた。
「・・・・・・けど!やっぱり一撃くらいは当てたいよなぁ!」
しかし、このまま手も足も出ないままというのはやはり悔しい。なんとか一矢報いようと決意した俺は闘気をより集中して練り全身に纏い、改めてラプラスに向かっていく。
だが、『身体強化』や『加速』は使わない。スキルは無し。あくまで素の実力、鍛えて身に付けた『気闘法』による格闘のみで戦う。勿論、闘気弾なんかも使用禁止だ。模擬戦だしね。
「おぉおおおおおおおおおおおッ!」
「へぇ、まだギアが上がるんか。闘気のコントロールも上手くなっとるみたいやね・・・・・・・・・んー、もうちょい付き合ったってもええんやけど──」
先程より威力もスピードも増した筈だが、やはりラプラスには俺の攻撃が届かない。それでも何とか食らいつこうとするが、突然ラプラスの姿が視界から消えた。
慌ててラプラスの位置を探ろうとした次の瞬間、左のこめかみ辺りに強い風圧を受ける。背筋が冷えるのを感じながらそちらに振り向くと、ラプラスの拳が目の前にあった。一瞬で俺の目の前から背後に移動し、裏拳を繰り出したようだ。
「───ここらで終いにしとこうや。アクトはんもくたびれとるやろ?」
驚きで身体を硬直している俺にそう告げてラプラスは手を下ろす。仮面の奥では微笑んでいるのか、目を細める彼につられ、俺も口元を緩めた。
「ふぅー・・・・・・参った!ありがとうラプラス」
「なーに、気にせんでええよ。今度は元気ピンピンの時にやろうや」
「・・・・・・・・・付き合い切れんな、全く」
言葉にするまでもなく結果は明らかではあったが、俺は深く息を吐いてからラプラスに降参を宣言した。それから模擬戦の相手をしてくれたことに感謝する。その時、離れていたところで観戦していたヤムザが呆れた様子で呟くのが聞こえた。
ドルマゲスについては一旦置いておき、異界の裂け目を見張ることにした俺たち。裂け目を警戒しながら青娥さんとレインさんを待つ中で、俺はやや興奮してラプラスと話をしていた。
だって、俺たちでは絶対に敵わないであろう相手をたった一人で圧倒してしまったんだぞ?素直に尊敬するし、ちょっと憧れてしまいそうになる。
さらに、ラプラスは思っていたより優しい人で、仲間でもなんでもない俺の話に付き合ってくれた。まぁ、スコルパイドとの戦いで何をしたのか、そこまで強くなるのにどんな修行をしたのか、訊ねてもほとんどはぐらかされてしまったけれど。
その後も俺たちの会話はどんどん弾んでいく。すると、良ければ軽く模擬戦でもしないかとラプラスが提案してくれたのだ。
俺としては願ってもないことではあったが、裂け目を見張る役割をアルヴァロたちに押し付けるのは申し訳ないし、最初は断ろうとした。しかし、そんな俺を気遣ってか、アルヴァロが見張りは自分たちに任せてくれと言ってくれたのである。
ただ見張っているだけなら自分たち三人で十分だからと言うアルヴァロにクロコダインも頷き、ヤムザからも好きにすれば良いと許しが出た。そういうことならと俺は三人の言葉に甘え、そしてラプラスと戦うことになったのである。
「裂け目の見張り任せちゃってごめんなヤムザ。でも折角の機会だしさ。ラプラスとはいつでも会える訳じゃないだろうし」
「だとしても、そんな状態でやるか?普通。この戦闘狂め」
スコルパイドとの戦闘による疲労が残っているのか、座り込んでいるヤムザに俺は声を掛けながら近付く。すると、こちらを見上げたヤムザから冷たい視線とそんな言葉を投げ掛けられ、俺は思わず苦笑した。
「・・・・・・・・・今日一日だけで、上には上がいるということを嫌という程思い知らされたよ。アクトたちですら勝ち目のなかったあのスコルパイドをも圧倒するとは・・・」
ヤムザたちと同じく、異界の裂け目を警戒しながら俺たちの戦いを眺めていたクロコダイン。改めてラプラスの実力を目の当たりにした彼が感嘆の声を零すと、それを聞いていたアルヴァロが静かに頷く。
「私も驚いた。クレイマン様の御友人にこれほどの強者がいたなどと知らなかったからな」
「クレイマンはあんま自分のこと話さへんからなぁ。何十年か前までは今とは違ったんやけど」
「・・・・・・そうですね。私が五本指にいた頃・・・確か、七十年程前までは我々部下やアムリタの民たちにも優しく接してくださっていたのに・・・」
ラプラスの言葉の後、どこか悲しげな顔を僅かに俯かせたアルヴァロがそう答えた。
アムリタ・・・・・・確か、ジスターヴの首都だったか。
「そんなことより・・・・・・俺たちはいつまでこんなことをすれば良い?邪仙たちはどこで何をしてやがるんだ」
アムリタについて思い出していた俺だが、ヤムザの苛立った声が耳に届いたことでそちらに意識を向ける。俺が彼を宥めようと口を開くより先に、ラプラスが肩を竦めこう言った。
「さてなぁ。あの二人のことやし、まさかあのドルマゲスとかいう奴にやられとるなんてことは無いやろうけど」
ラプラスが軽い調子でそう話すと、ヤムザは鼻を鳴らし視線を逸らした。
模擬戦をする前に、俺は当然ラプラスにあの時のことも訊ねていた。ドルマゲスに襲撃され、洞窟がダンジョンになった後のことである。
あの瞬間、ドルマゲスは青娥さんとレインさん、そしてラプラスに転移魔法と思われるものを放ち、洞窟から離れた場所へ強制的に移動させたらしい。分断されたのだとすぐに状況を理解した青娥さんは急いで俺たちと合流しようとしたそうだ。しかし、青娥さんの行く手は阻まれてしまう。彼女の目の前に現れた、
「二人・・・・・・片方のドルマゲスはエクストラスキルの『分身体』だろうか」
ヤムザの愚痴がきっかけとなり、再び青娥さんたちの話題となった。青娥さんたちの前に現れた二人のドルマゲスについて、アルヴァロはそう考察する。
エクストラスキル『分身体』とは文字通り、自身の分身を作り出すスキルだ。ただし、その分身は本体と違って一部のスキルしか使用出来ず、扱えるスキルもエクストラ級以下が精々。さらに自身の魔素を消費して生み出している為、本体と同じ性能とはとても言えないそうだ。それでも、使いこなすことが出来れば便利なのだろうけど。
まぁ、ヤムザの持つドッペルゲンガーの下位互換とも言えるスキルだな。いや、これに関してはドッペルゲンガーが凄いだけか。あんまり詳しくないけど、アーティファクトっていうレアアイテムみたいだし。
「あー、それなんやけど。もしかするとただの『分身体』や無いかもしれんわ」
「・・・・・・と、言いますと?」
「結構強かったんや。てか、どっちも同じ強さでな。多分やけど、どっちも分身やと思う」
さっきは言うの忘れとったけどな、とラプラスは付け加える。っていうか、どっちも分身?
どういうことかと首を傾げる俺を見たラプラスは小さく笑い、さらに続けた。
「ここに来るまではただの勘やった。まぁ青娥はんとレインはんもワイと同じ考えやったから合ってるんやろうけど。んで、さっきのドルマゲス見て確信したって訳や」
「えっと・・・・・・何で?」
「強かったからや。その二人のドルマゲスよりも。ほぼ間違いなく、さっき会うたのが本体やろうな」
根拠を訊ねた俺にラプラスはそう返した。俺はその二人のドルマゲスを見ていないけれど、青娥さんたちとラプラスがそう判断したのなら間違い無いと思う。
「それでラプラス殿。青娥殿たちはその分身たちと戦っているという話だったな」
クロコダインの言葉にせやで、とラプラスが頷く。
俺たちと合流しようとする青娥さんたちだったが、二人のドルマゲスによってそれを妨害されてしまう。しかし、分身と思われる二人のドルマゲスは青娥さんたちなら問題なく倒せる相手だったらしい。
だが、ドルマゲスは青娥さんたちとの実力差を理解していたのか、戦闘が始まると同時に大量の魔物を召還してきたという。
「バジリスクに
げんなりとした様子でラプラスは首を小さく横に振る。その振る舞いが何となく可笑しくて、俺は僅かに口元を緩める。
「魔物の召還、そして使役・・・・・・スコルパイドも手駒としていたようだし、それくらい出来て当然か」
「そいつら全員を相手に、青娥さんとレインさんは二人だけで戦ってるんだよな?」
「そうや。勿論ワイも一緒に戦うつもりやったんやで?けど、青娥はんがなんや嫌な予感する言うてな。ここは自分らだけで何とかするから、早うアクトはんのとこに行ってくれってワイに頼んできたんや・・・・・・必死な顔しとったで、青娥はん」
そこまで言ったラプラスは何故か俺をじっと見つめた。
必死な青娥さん・・・・・・正直あまり想像出来ない。いや、シズさんの一件から青娥さんにも余裕の無い時くらいあるのは分かっているけども。とりあえず、それなりに俺たちを心配してはくれているということか。
「んで、連中の隙を突いてワイだけその場からトンズラ。全速力で洞窟まで戻って、ダンジョンを駆け抜けてここまで来たって訳や」
軽く話すラプラスだが、ここまで来る過程はかなり大変だった筈だ。俺たちが最奥部まで到達するのに掛かった時間は確か、大体四時間くらい。それをたった一人で、大量の敵に囲まれた状態からそこを突破し洞窟へ、そしてダンジョンを踏破しスコルパイドを撃破・・・・・・少なくとも俺には絶対出来ない。
もしかすると、ラプラス程の実力者ならばなんてことはない障害だったのかもしれないけれど。そうだとしてもラプラスが俺たちの為に頑張ってくれたことは紛れもない事実だ。命の恩人である彼に、俺は改めて感謝した。
「・・・・・・ラプラス、助けてくれて本当にありがとう。お前はクレイマン様の友達で、青娥さんや俺とは別に仲間でもないのに」
「そない気にせんで良ぇよ。青娥はん、それからアクトはんにも恩を売っとくのはこっちとしても・・・・・・ん?」
ラプラスがそこまで言い掛けた時だった。突然、足元が大きく揺れ始めた。いや、足元だけではない。ダンジョン全体が振動し、さらに周囲の空間が歪み始めている。
この現象に俺は覚えがあった。ダンジョン化の前兆だ。しかし、この洞窟は既にダンジョンと化している。と、言うことはつまり・・・・・・
「っ、元に戻った・・・・・・?」
次の瞬間、振動と空間の歪みが収まった。それと同時に今いる部屋が一気に小さくなる。どうやらダンジョン化が解け、元の洞窟に戻ったようだ。
「どうやらそのようだな。これなら脱出も合流も容易に・・・・・・」
「────アクトくんっ!」
「うわっ!?」
ダンジョン化が解けたことに俺たちが安堵していると、突然青娥さんの声がその場に響いた。驚きながら声のした方へ振り向くと、そこには焦った表情の青娥さんがいた。
「アクトくん!?大丈夫・・・・・・ですか?」
俺を見つけた青娥さんは慌てた様子でこちらに駆けてくる。一瞬で俺の目の前まで距離を詰めた青娥さんは両手を伸ばし──そこで急に動きを止めると、何故かその手を虚空に彷徨わせた。
ビックリした・・・てっきり抱き付かれるのかと。いや、青娥さんが俺にそんなことしないか。そこまで好かれてないだろうし。
「あ、あー・・・・・・はい、大丈夫ですよ」
「本当に・・・?怪我とかしてない?」
「してま・・・・・・いや、結構ダメージは受けてるか・・・・・・でも、この通り!なんともないですよ」
少しだけ戸惑いながらも、俺はとりあえず無事であることを伝えた。すると青娥さんは恐る恐る俺の顔に手を伸ばし、優しく頬に触れる。
その手の暖かさと感触、それからこちらを真っ直ぐ見つめる瞳に俺が少しドキドキしていると、やがて青娥さんは目を伏せて深く息を吐いた。
「・・・・・・・・・良かった・・・」
今にも消え入りそうなくらい小さな声で呟いて、青娥さんは安堵の表情を浮かべた。まさか、そんなに心配してくれていたとは思わず、俺は照れ臭さやら申し訳なさやらを感じつつ頭を掻いた。
「あはは、正直危ないとこだったんですけどね。ラプラスが来てくれなかったらどうなってたか」
「そう・・・・・・・・・ラプラスさん、ありがとうございました。このお礼は必ず」
「・・・・・・わはは、青娥はんにこうまで感謝されるんなら頑張った甲斐があったわ。期待してるでー?」
俺の言葉を聞いた青娥さんは静かに頷くと、ラプラスに向き直って頭を下げた。ラプラスはそれを見て一瞬目を丸くしていたが、すぐに笑みを取り戻しそう返す。
「ところで・・・・・・青娥さんこそ大丈夫だったんですか?ラプラスから聞いたけど、大変だったみたいですね」
ラプラスの返答の後、青娥さんが顔を上げたところで、俺は気になっていたことを聞いてみた。まぁ、見たところ特に怪我などはしてないようだし、こうしてこの場にいる以上何も心配することは無いのだろうが。
「・・・・・・ふふっ、あれくらい何でもありませんよ。レインさんもいましたし」
僅かに間を置いて、青娥さんはにこりと微笑みながら答えた。どうやら少しずつ普段の調子に戻ってきているらしい。
「はー、流石やなぁ青娥はんとレインはんは。あれだけの数の魔物と、ドルマゲスとかいうけったいな道化師の分身二人を相手に無傷の勝利かいな」
「って、そうだ!青娥さん、実は・・・・・・」
「その様子だと、やっぱりこちらにも現れたようですね・・・・・・アクトくん、何があったのか教えてくれます?」
ラプラスの言葉でドルマゲスのことを思い出した俺はそのことを青娥さんに報告しようとする。青娥さんからもそう促され、俺は脳内で情報を整理しながら、この場で起きたことを説明し始めた。
時折アルヴァロやラプラスにも補足を入れて貰いつつ、俺は青娥さんにそれら全てを話した。勿論、ヤムザに危ないところを助けてもらった件も。
そうそう。少し意外だったのだが、その話をした時にヤムザは「やめろ」、とか「黙れ」しか言わなかった。てっきり、もっとそれをアピールするというか・・・俺を助けたことを当然のように誇ると予想していたのだが、案外静かだったっけ。まさか、照れていたり・・・・・・?いや、それは無いか。
「・・・・・・・・・成程。そういうことでしたか」
「青娥殿、あのドルマゲスという道化師は何者なのですか?アクトとあなたは奴を御存知のようですが・・・」
「あー、そうですねぇ。どこから説明しましょうか・・・?」
話を聞き終えた青娥さんが難しい顔をしていると、アルヴァロがドルマゲスについて訊ねた。彼の問いに何と答えれば良いのか、青娥さんは首を傾げ俺に視線を向ける。少しの間見つめ合っていた俺たちだが、とりあえずざっくりと説明をすることにした。
「・・・・・・異世界人なぁ。そんならやけに強いのも納得やわ」
腕を組んでラプラスが呟く。他の皆も今の説明で一応納得はしてくれたようだ。
ドルマゲスについては、元の世界で国民的人気のあった作品に登場する悪役であると俺たちは説明した。まぁその通りではあるだろう。
「おいアクト。奴がその作品に出てくるドルマゲスとかいう道化師と同じ姿をしているのなら、持っているスキル等も同じなんじゃないのか?」
「うーん・・・・・・どうだろう。全く同じ魔法や技が使える、って訳じゃないとは思うけど」
ヤムザにそう返し、俺は頭を悩ませる。
俺は青娥さんたちの戦いを見ていないが、ラプラスが言うにはドルマゲスは分身していたらしい。ドラクエ8本編でもドルマゲスは第一形態での戦闘時に分身していた。その点だけ見ればヤムザの推測は合っているように思える。
しかし、ドルマゲスが『邪配合』なんて力を本編で使ったことは一度も無い。『配合』というもの自体はあるが、それはスピンオフ作品であるモンスターズシリーズだけのシステムだった筈だ。おっと、キャラバンハートを除く。
「・・・・・・皆。あのドルマゲスが気になるのは分かるが、まずは異界の裂け目をなんとかしないか?」
場の話題がドルマゲスになっていたその時、どこか申し訳なさそうにクロコダインが声を発した。俺は思わずあっと声を上げ、裂け目の方へ振り返る。しまった、青娥さんと合流出来た嬉しさと安心感が大きすぎて裂け目のことをすっかり忘れていた。
「おっと、それもそうですね。こうしていつまでも話していても仕方ないですし。それじゃ、レインさんがいないので私が裂け目を閉じるとしましょう」
「ん?そういやレインはんはどないしたんや?まさかやられたなんてことは無いやろうし」
「レインさんなら、途中で会ったフォビオさんたちと一緒にいますよ。大怪我をしている人が沢山いましたけど、レインさんなら治療出来ますから」
青娥さんのその言葉に、俺は胸を撫で下ろしていた。レインさんが無事だったことも勿論だが、彼女がフォビオたちと一緒にいるという点にもだ。レインさんは俺なんかよりもずっと強いし、青娥さんが言ったように回復魔法も使える。これできっとフォビオも助かるだろう。
と、そこまで考えたところで、俺はあることに疑問を覚えた。
「あれ・・・?青娥さん、今フォビオたちと途中で会ったって言ってましたけど・・・どうして直接ここまで転移して来なかったんですか?青娥さんなら出来ますよね」
ユーラザニアに出現したダンジョンで、俺がガビルとの『思念伝達』を妨害される中、青娥さんだけは何の問題もなくこちらと通信を行っていた。それについて青娥さんは、自分の実力がダンジョンを作った者より上回っているからだろう、と推測していた。
ならば、転移だって同じように使える筈。ドルマゲスの分身たちを倒して洞窟まで戻り、ダンジョン内の俺たちの位置を探知。そこから転移すれば俺たちとすぐに合流出来たと思うのだが。いや、そうしなかったお陰でフォビオたちがレインさんの治療を受けることが出来たのだけれど。
すると、そんな俺の指摘を受けた青娥さんは僅かに苦い顔をしてこう言った。
「・・・・・・それが、出来なかったんです」
「えっ?」
「出来なかったんですよ、転移。それどころか、『思念伝達』も『魔力感知』も。分身や魔物たちは早く片付けられたんですけど、そのせいで合流するのが遅くなってしまって・・・・・・ごめんなさい、アクトくん」
それを聞いて俺は言葉を失った。落ち度なんて全くないのに、謝罪する青娥さんを慰めることが出来ないくらいに。
だって、それはつまり。青娥さんの推測が正しいのであれば、ドルマゲスの方が青娥さんより強いということに他ならないからだ。
「んな阿保な!流石にそれは有り得へん!せやったら、なんでドルマゲスは直接襲って来んで、分身をけしかけてきたんや?自分じゃ勝てへんからやろ!」
俺と同じ考えに至ったのか、流石のラプラスも動揺していた。そう青娥さんに訴え掛ける彼を横目で見つめながら、俺は内心でその言葉に頷く。
ラプラスの言う通りだ。それにドルマゲスが青娥さんより強いのなら、あそこで俺たちを始末せずに退いた理由が分からない。きっとドルマゲスはあの時、背後に潜んでいたラプラスの存在に気付いていたのだろう。そして、ラプラスの実力にも。
ラプラスがどれ程の強さを秘めているのかは俺にもまだ分からない。だが、ドルマゲスよりは強い筈。奴も相当の実力者なのだろうが、ラプラスには敵わないと判断したからこそ撤退したのだ。スコルパイドに『邪配合』を施し強化させたのは、恐らくラプラスの実力を測る為だったのだろう。
「・・・・・・弱体化していた、からじゃないのか?恐らくドルマゲスはスコルパイドに名付けをしていた。それによって魔素量が減っていて、邪仙たちには勝てないと判断し直接の戦闘を避けた・・・そう考えれば可笑しな話じゃない」
「もしくは、スキルが成長したのかもしれない。青娥殿の考えでは、ダンジョンは奴のユニークスキルによって造られている。そして、ユーラザニアで多くのダンジョンを造っていたのは練習ではないか、ということだったな」
「あ、あぁ・・・・・・もしかして、ドルマゲスのスキルが成長したことで、青娥さんクラスの実力者でもダンジョン内での行動が制限されるようになったってこと?」
俺が確認するように言うと、アルヴァロは静かに頷いた。ヤムザとアルヴァロの推測だが、どちらも有り得る話ではある。こちらとしては、アルヴァロの方であることを祈りたいけれど。
「・・・・・・・・・っと。はい、おしまい。これで
そうこう話している内に青娥さんが異界の裂け目を消すことに成功したらしい。見ると、先程まで空間に浮かぶように存在していた亀裂のようなものは綺麗に消えていた。
「・・・・・・一先ずここを出てレイン殿たちと合流しよう。サイラスたちの様子も気になる」
何とも言えない空気の中、アルヴァロが口を開いた。確かに、異界の裂け目を消して、洞窟も元に戻ったし、これ以上ここに残る必要はない。
「そうしましょうか。レインさんたちは・・・もう洞窟の外みたいですね。それじゃあ皆さんこちらへ。転移しますよ」
レインさんたちの位置を探知した青娥さんは転移魔法の準備に入る。地面に魔方陣が展開され、青娥さんの周りにヤムザたちが集まり出す。
皆に続いて俺も青娥さんの元へ向かおうとした時、ふとガビルのことを思い出した。
そう考え、俺はその場に立ち止まると『魔物師者』の『思念伝達』を発動。そしてガビルに繋ごうとしたのだが・・・・・・
「・・・・・・・・・あれ?」
何故かガビルと繋がらない。いや、『思念伝達』はちゃんと発動出来ている感覚はあるのだが、どれだけ呼び掛けてもガビルが全く応答してくれないのだ。
もしかしてガビルの身に何か起きたのではないかと一瞬不安になったが、それはないだろうと思い直す。今のガビルはかなりの実力者だ。ヤムザにはまだ敵わないが、フォビオやスフィアに近い実力を持ったAランクオーバーの上位魔人であることは間違いない。そんなガビルを倒せるような存在など、ジュラの大森林の中ではモミジさんと・・・・・・リムルくらいしかいないだろう。
だから、心配することはない筈だ。きっとゴブリンたちと交渉している最中か、森中を飛び回っているから疲れて一眠りでもしているんだろう。
「アクトくーん?どうかしましたー?」
「っと・・・・・・すみません、今行きまーす!」
一人でそう納得したところ、魔方陣の中にいる青娥さんから声が掛かった。足を止めている俺を不思議に思ったのだろう。心なしか心配しているように見えた。
そんな青娥さんを目にした俺は少し慌てて、なんでもないと分かってもらえるよう無理矢理笑ってみせる。そして、ガビルにはまた後で連絡しようと決めて『思念伝達』を切り、青娥さんたちの元へ駆けて行くのだった。
何故ガビルと『思念伝達』が繋がらなかったのかは今後のお話で・・・・・・