転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
今回からまたリムルたちサイドの話です。
ひょんなことから勃発したシオンとガビルの戦いは、予想外な形で終わりを迎えた。
暴走したシオンによって放たれた極大魔力弾。それに対しガビルは自身が盾となって、俺たちの街を護ろうとしてくれたのだ。魔力弾の爆発により大きな怪我を負ってしまったが、俺がある程度それを防いだことで命に別状はなかった。その怪我も、フルポーションを使ったので今はもう完全に回復している。爆発によるダメージで意識を失っているが、直に目を覚ますだろう。
そんなガビルを背負い、俺はベニマルたちと街へ戻ってきた。騒ぎを聞き付け不安そうにしているゴブリンたちを落ち着かせつつ、この街で一番大きい家の中へ入る。ここは現在、街を治めている俺の住居兼会議場となっていてかなり広い。ここならガビルを安全に寝かせてやれるし、話し合いも出来る。そう考え、一先ずここへやってきたのだ。
ちなみにゴブタがシオンの毒・・・じゃなかった、料理を食べさせられた場所でもある。俺のせいだけど。
それはさておき。家に帰ってきた俺は適当な部屋にガビルを寝かせる。あまり大勢で見守っていても仕方ないので、俺とシオンの二人だけで部屋に残ることに。ベニマルやソウエイたちは外で待機。ただし、シュナだけは一人厨房へ向かった。
「・・・・・・・・・・・・ぐ、ぅ・・・・・・?」
「おっ。良かった、気が付いたみたいだな」
部屋に寝かせていたガビルだが、数分程で意識を取り戻した。僅かに呻くと、ゆっくりと目を開け辺りを見回す。
「リムル、殿・・・・・・?ここは・・・」
「一応、俺の家。他に寝かせてやれそうなとこがなくてさ」
俺の存在に気付いたガビルはそう訊ねながら身体を起こす。その時、あることに気付いた彼は自身の身体を確認し始めた。
「これは一体どういうことだ・・・?あれだけの爆発に巻き込まれたというのに無傷だと・・・」
「いや、結構酷い怪我だったぞ。命に別状はなかったと思うけどな」
「では何故、我輩の身体からダメージが消えているのだ・・・・・・もしや、リムル殿も神聖魔法を扱えるのか?」
聞いたことのない魔法名がガビルの口から出たことで、俺は一瞬首を傾げそうになる。そこへ、『大賢者』が脳内で語り掛けてきて神聖魔法とやらについて説明してくれた。
ふむふむ。神聖魔法とは、この世界に存在する魔素と呼ばれる物質を構成する『霊子』というものを操る、聖属性もしくは無属性の魔法。術者は神を崇める人間の宗教者に多く、その本質は謎に包まれている・・・か。なんか凄そう。
「残念だけど、俺はそんなの使えないんだ。お前の怪我はフルポーションで治したんだよ」
「ふ、フルポーション・・・?ハイポーションを上回る回復薬など、どうやって手に入れたのだ?」
「ん?俺が作った」
「つ、作った!?我が友でもハイポーションまでしか作れぬというのに・・・・・・」
軽い調子で返した俺の言葉に驚愕し、ガビルは目を丸くする。ドワルゴンでも思ったけど、やっぱりフルポーションって滅茶苦茶希少なアイテムなんだな。
それより、ガビルの友達もポーションを作れるのか。確か戦いとは無縁の世界にいた、みたいなことを言ってたし、研究職とかだったりするのかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、横から弱々しい声が聞こえてきた。
「・・・・・・ガビル・・・殿」
「っ、貴様は・・・・・・!」
その声の主は、俺と一緒にずっとこの部屋にいたシオンだ。シオンの姿を視認するや否や、ばっと立ち上がり警戒するガビル。そんな彼の鋭い視線を受けたシオンは───。
「───申し訳ありませんでしたッ!」
「・・・・・・・・・は?」
────勢い良く、その場で土下座した。シオンのその姿を目の当たりにしたガビルは一瞬硬直し、そして間の抜けた声を漏らした。
「私が愚かなばかりに、ガビル殿を危険な目に遇わせてしまった・・・・・・リムル様から聞かされ知りました。あなたが
シオンの言葉を聞いて、ガビルが俺に顔を向ける。ガビルが眠っている間に、俺の推測ではあるが、そのことをシオンに話していたのだ。
「だと言うのに私はあなたに剣を向け・・・リムル様の命令すら忘れ、あなたを殺そうと・・・・・・挙げ句には、リムル様たちがここまで造り上げた街まで破壊してしまうところでした・・・」
「・・・・・・・・・」
「この度の無礼、心から御詫び致します・・・申し訳ありませんでした。そして・・・・・・リムル様の街を守ろうとしてくださり、本当にありがとうございました・・・!」
シオンの謝罪を、そして感謝の言葉を。ガビルは何も言わず、彼女をただじっと見つめたまま受け止めていた。
それから、部屋は沈黙に包まれる。シオンは頭を下げたままだし、ガビルはシオンの態度の変わりように戸惑っているのか彼女を見つめたまま微動だにしない。そろそろこの空気に耐えられなくなり、俺が何か言おうと口を開き掛けた時、部屋のドアが控えめにノックされた。
「リムル様、失礼致します・・・・・・」
「ん・・・・・・シュナか。いいぞ」
ドアが開くと、そこに現れたのは厨房にいる筈のシュナだった。俺が入室を許可すると、シュナは軽く頭を下げてこちらへやってくる。
「使者殿・・・・・・良かった、お目覚めになられたのですね」
「う、うむ・・・・・・」
「シュナ、準備は出来たのか?」
「はい、リムル様。使者殿、目覚めたばかりで申し訳ありませんが、大広間までお越し願えますか。案内致しますので」
シュナまでも友好的に接してくるのを見たガビルは再び困惑していた。それを横目で見つつ訊ねた俺にシュナは頷いて答える。それからガビルに向き直ったシュナは笑顔でそう告げた。
「リムル殿、一体・・・・・・」
「まぁまぁ。とりあえず付いて来いよ」
状況を飲み込めずにいるガビルに俺は笑い掛け、共に来るよう促す。ちらちらとシオンとシュナの様子を窺っていたガビルだが、やがて俺に続いて歩き出した。
ずっと頭を下げていたシオンも連れて、俺たちは四人一緒に大広間へ向かう。途中、これと言って会話は無かったが、この家が気になるのかガビルはきょろきょろと内装を見渡していた。
「・・・・・・あっ、リムル様!」
大広間に入ると、テーブルの前に座っていたゴブタが手を振ってきた。適当に返事をしながら部屋を見回したところ、ベニマルたちだけでなくカイジンたちも集まっている。
「へぇ、そいつがシオンの姉ちゃんとやり合ったっていう使者かい」
「ドワーフ・・・?ここには、様々な種族の者たちがいるのだな・・・」
物珍しそうな視線をガビルへ向けるカイジン。彼の姿を見たガビルは少し驚いた様子で小さく呟いた。しかし、ガビルの意識はカイジンからすぐに離れてしまう。
「使者殿・・・・・・目が覚めたのだな、良かった」
「・・・・・・リムル殿、そろそろ教えて頂けぬか。我輩をここへ連れてきてどうするつもりだ?」
「そう身構えないでくれよ。妙なことはしない。ただ・・・・・・一緒に飯でもどうかなって」
自身を気遣うベニマルを一瞥し、ガビルは俺に話し掛ける。やはり警戒しているらしい彼に俺は僅かに苦笑し、それからなるべく穏やかな声色で告げた。
「しょ、食事・・・であるか?・・・・・・む、そう言えば良い香りが・・・」
ここまで連れて来られた理由が予想外だったようで、ガビルは目を丸くして聞き返してきた。すると、辺りに漂う美味しそうな匂いに遅れて気付いたらしく、ガビルはすんすんと鼻を鳴らす。
その匂いはテーブルの中央辺りに置かれた大きな鉄鍋からのもの。そこへ俺の隣にいたシュナが歩いていき、その中の料理を食器によそい始めた。
「使者殿。歓迎の意を込めて御食事を用意致しました。贅を尽くしたものではありませんが・・・・・・どうぞ、御召し上がりくださいませ」
そう言って、シュナは汁物の入った食器をテーブルの上に置いた。
この料理は
ちなみに、ガビルがこの街へやってくる少し前から煮込んでいたらしい。流石にあれからすぐには作れないよな。
「・・・・・・・・・・・・」
「こちらとしても色々話したいことはあるけどさ。とりあえず、一口食べてみてくれよガビル」
「・・・・・・分かった」
料理をじっと見つめたままのガビルの顔を覗き込んだ俺は彼を席に着くよう促す。ガビルは少し悩むような素振りを見せた後、静かに頷いて料理の置かれた席へ向かった。
「では・・・・・・頂こう」
ガビルは料理の前に座ると、食器の側に用意されたスプーンを手に取った。それで料理を掬うと口へ運び、咀嚼する。そして飲み込んだガビルは無言で目を伏せた。
「・・・・・・どう?」
「・・・・・・・・・美味い」
一口食べてから沈黙してしまったガビル。恐る恐る俺が味について確認すると、少しの間の後で、ゆっくり目を開きガビルはそう言った。
その言葉に思わず俺は口元を緩め、シュナと目を合わせる。シュナも嬉しかったようで、笑顔で小さくガッツポーズしていた。可愛い。
「以前食べた豚汁という料理に似ているな・・・・・・味噌で味付けしているらしい。だが、あちらと違いこちらは牛鹿の肉を使っているのか・・・」
シュナと喜び合っていると、そんなガビルの呟きが耳に入った。今あいつ、豚汁って言ったよな?何で食べたことがあるんだろう。まさかこの世界にも存在しているのか?豚汁。
「・・・・・・何故、これを我輩に?」
「えっ?」
「この料理は確かに、贅を尽くしたものではないのだろう。だが、振る舞う相手を思い、手間を掛け心を込めて作ったものの筈。それを何故、敵である筈の我輩に食べさせたのだ?」
料理を見つめていたガビルは言い終えると俺に向き直った。戸惑いを隠せないでいる彼の表情に、俺はふっと笑ってから答えた。
「そうだな・・・・・・そもそも、俺たちは敵じゃない。オークの侵略からこの森を・・・仲間を守りたいって想いは同じだろ」
「それは・・・・・・」
「だったら、俺たちは仲間だ。スライムも、ゴブリンも、牙狼族も、ドワーフも、
仲間。その言葉にガビルは目を丸くした。驚いているのか黙ったままのガビルに俺は続ける。
「それで、仲間なら一緒に食事でもどうかなーってさ。同じ釜の飯を食った仲、なんて言葉もあるし?ついでに、こいつらのことも知って欲しかったんだよ。この料理、そこにいるシュナが作ってくれたんだぜ」
「この料理を、
「・・・・・・使者殿・・・いや、ガビル殿」
料理を作ったのが
そこには、ガビルの目の前で両膝を地に付けたベニマルの姿があった。
「同胞が・・・貴殿と、貴殿の友人を傷付けたこと。
「・・・・・・信じるのか?我輩の言葉を」
「信じるとも。あの時、あなたが見せた友を想っての怒り。そして、リムル様の街を命懸けで守ろうとした優しさ。その二つを見れば、貴殿がどれだけ気高い方か分かる。そんな方が、つまらない嘘を言う訳がない」
床に跪いたまま、ベニマルはガビルの瞳を真っ直ぐ見つめる。そして、ゆっくりと頭を下げた。
「───済まなかった。我等を許してくれとは言わない。だが・・・どうか今回だけは、手を取り合ってくれないだろうか。ジュラの大森林を守る為に、リムル様に力を貸してはくれないだろうか」
深く頭を下げたまま、ベニマルは懇願する。いや、彼だけではない。シュナもソウエイも、かつて
どれくらいベニマルたちがそうしていただろうか。この空気に耐えられなくなったのか、ゴブタがおろおろし始めていると、ガビルが口を開いた。
「・・・・・・・・・貴殿、名はなんと」
「ベニマルだ。リムル様より授かった名だ」
「そうか・・・・・・どうか顔を上げてはくれぬか、ベニマル殿。謝罪しなければならないのはこちらの方だ」
ベニマルに名を訊ねた後、ガビルは一度目を伏せてから言った。彼の言葉にベニマルたちはゆっくりと顔を上げる。
「シュナ殿、であったな。素晴らしい料理をありがとう。それから・・・・・・これまでの無礼を詫びさせて欲しい。我が友に負けぬくらい美味かつ優しい料理を作ることのできる貴殿が、悪しき心を持っている訳がない」
ガビルは自身の前に置かれた料理をちらりと見ながらそう語る。突然褒められてシュナが驚く中、ガビルはシオンに振り返った。
「シオン殿にも、先程の発言を謝罪させて欲しい。
「っ!えぇ、勿論ですとも!」
「え、いや・・・・・・」
「しーっ!」
そんなことをガビルから言われ、シオンは嬉しそうに頷いた。シオンがどんな料理を作るのか知らないガビルにゴブタが声を掛けようとしていたが、面倒なことになりそうだったので何も言わないようにと俺は口の前に人差し指を立てるジェスチャーをした。
「
ガビルはベニマルたち元
「良いんだガビル殿。非礼を働いたのはこちらも同じ・・・・・・いや、そもそもは同胞の愚行が原因だ。顔を上げて欲しい」
「・・・・・・・・・
ベニマルに促され、ガビルは少しだけ顔を上げる。自身の手元を眺めるように俯いたままのガビルだったが、やがてぽつぽつと語り出した。
『信じる訳にはいかなかった』。その言い回しが少し引っ掛かったが、俺は何も言わず用意された自分の席に座り、話の続きを聞くことにした。
「吾輩が、我が友と初めて出逢った時のことだ。経緯は省くが・・・・・・彼はその日、ジュラの大森林に迷い混んでしまってな。あてもなく森を彷徨う中、奴らが現れた。黒髪と・・・冷気を操る銀髪の
ベニマルは短く唸ると、俺をちらりと見て頷く。やはり、ガビルの友達を襲った
「その
その時のことを思い出したのだろう、ガビルは声を震わせる。ふとベニマルたちを見ると、全員が怒りで表情を歪めていた。同胞が野盗のような真似をして、罪の無い者を傷付けたことが許せないのだろう。
「その時は偶然、吾輩が近くを通り掛かったことで最悪の事態は免れたが・・・・・・邪悪かつ執念深い奴らはシス湖にまで魔の手を伸ばした。不意を突かれたとは言え、情けないことに吾輩はやられてしまい・・・・・・」
「ま、待ってくれガビル殿!・・・・・・やられたのか?貴殿程の実力者が、あんな奴らに・・・」
「ん?あぁ、実は吾輩がこれだけの力を身に着けたのはここ数ヶ月でのことなのだよ。奴らに襲われた時はまだ我が友から名付けもされていなかったし、修行を始める前でな・・・・・・」
ガビルが二人の
「しかし・・・本当に碌でもない奴らなんだな、その
「・・・・・・・・・いや、違う。それだけではないのだ」
俺が慰めるようにそう言ったところ、ガビルは小さく首を横に振った。どういうことかと首を傾げる俺を一度振り返り、ガビルは続ける。
「その一件から数ヶ月が経った頃、我が友は森の中で一人の
「・・・・・・!?」
「・・・・・・ん?」
その時、僅かにソウエイが動揺した。その隣に座っているベニマルも眉間に皺を寄せ、訝しげな顔をしている。今の話に何か気になるところでもあったのだろうか。
「その様子を見た我が友は、危険を顧みず上位魔人に戦いを挑むと見事撃退し、その
と、そこまで聞いて俺もピンときた。ケーニッヒとかいう上位魔人は知らないけれど、ソウエイが妙な反応をしているし、白米を上げたって言ってるし・・・・・・
・・・・・・・・・・・・え?もしかして、もしかする?
「・・・・・・そのー、ガビル?話の途中で悪いんだけど、ちょっと聞いていい?」
「ん?何かな?」
「えっと、お前の友達ってさ・・・・・・もしかしてアクトって名前だったりしない?」
「なっ・・・!アクト殿を御存知なのか!?」
恐る恐る俺が訊ねたところ、ガビルは驚いた様子で声を上げた。予想していたことではあったが、ガビルの反応を見た俺は乾いた笑いを浮かべる。そのままソウエイやベニマルたちに視線を向けると、彼らも同じような顔をしていた。
「・・・・・・・・・・・・戦うことなんて無かったじゃあん・・・」
アクトと友達だって互いに分かっていれば、今日起きたトラブルは回避可能だった筈。それを悟った瞬間どっと疲れが押し寄せてきて、俺は堪らず天を仰ぎ嘆く。ガビルはそんな俺を不思議そうに見つめ、一人首を傾げるのだった。
ちなみに「身ぐるみを剥がされ〜」とガビルが言っている件ですが、これは全裸で異世界転生したとアクトくんが言ってないからですね。なのでガビルはあの状況を見て、銀髪たちに脱がされたのだと勘違いしています。