転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
新年度もしばらく忙しくなりそうで辛いです。
さて。話は、アクトくんが──失礼。ドラゴニュートの転生者が『アクト』という名を授かった前日に遡ります。
「──クソが!あのリザードマンめ!」
そう悪態をつくのは黒髪のオーガ。黒髪は怒りのままに自身の得物である大剣を地面に叩き付ける。その衝撃により炸裂音と砂煙が辺りに舞う中、そのすぐ側で銀髪のオーガが座り込んで腕の傷を擦っていた。
「チッ・・・・・・まさか、リザードマン如きに出し抜かれるとはな・・・」
そう呟きながら銀髪は自身の両腕に付けられた傷を見る。そこにはどちらも同じ大きさの穴が空いている。先程、そのリザードマンによって付けられた傷だ。
魔物の中でも強力な種であるオーガ故の再生力か、既に傷は塞がり始めている。そもそも命に関わるような傷ではないので心配する必要も無い。しかしその傷を見ていると、オーガである自分が格下のリザードマンに傷を負わされ、挙げ句に殺そうとしていた人間共々逃げられたという記憶が甦り、怒りで頭の中が埋め尽くされそうだった。
「あいつら・・・!見付け出して必ずぶっ殺してやる・・・!」
「おい銀髪!もう傷は平気だろ?それなら今すぐあのリザードマンと人間を追いかけようぜ!」
静かに銀髪が呟いた時だった。黒髪が苛立った様子で銀髪に近寄りそう告げる。その言葉通りに追い掛けようと一瞬立ち上がりそうになった銀髪だが、動きを止めると目を伏せ首を横に降った。
「・・・・・・駄目だ」
「なんでだよ!?お前、やられっぱなしで腹立たねぇのか!」
「立つに決まってんだろ!・・・・・・だが、今から追い掛けたところで追い付く訳がない」
自分の足で逃げたのなら、銀髪たちは簡単に追い付けただろう。向こうには怪我人である人間がいるのだ。人間を庇いながら逃げ切れる筈はない。
しかしリザードマンは乗り物に・・・ホバーリザードに乗っていた。自分たちオーガどころかリザードマンにも劣る弱い魔物だが、足は中々早いし体力もある。すぐに後を追っていたのならまだしも、今から追い掛けたところで追い付けないのは目に見えていた。
「・・・・・・『青髪』の野郎なら追い付けたかもしれないがな」
「追い付けなくっても関係ねえよ!リザードマンが逃げ込む場所なんて一つしかねえんだからな!」
黒髪の言葉で銀髪はある場所を思い浮かべた。そこはこのジュラの大森林の中央付近にあるシス湖・・・その周辺の湿地帯である。リザードマンたちは湿地帯の地下洞窟を住処にしている。恐らく、あのリザードマンは人間を連れてそこへ逃げ込んだのだろう。
「なら尚更駄目だ。お前、自分の言ってること理解してるか?リザードマン共の本拠地に乗り込むって言ってんだぞ?」
半ば呆れながら言った銀髪に黒髪が短く呻く。リザードマンの本拠地に乗り込む・・・・・・即ち、リザードマンたちに戦いを挑むのとほぼ同じ。聞いた話では奴らの兵の数は一万。数だけなら自分たちオーガを遥かに上回るのだ。ちなみにジュラの大森林に住むオーガの数はたった三百である。
「あのリザードマン、自分は次期首領だとか言ってたな。そんな奴を追って住処に乗り込んだら戦闘は必至だ。お前、いくら雑魚のリザードマンとはいえ、一万の数を相手に出来るのかよ?」
「っ・・・・・・!ちくしょうっ!」
銀髪が突き付けた現実に、黒髪は歯噛みしながら怒りのままに武器を振り回す。憂さ晴らしとでも言わんばかりに黒髪は地面を抉り砂煙を巻き上げる。そんな黒髪を銀髪は声を荒らげ諌めた。
「落ち着け黒髪!・・・・・・俺だって奴らをぶっ殺したいと思ってんだ。どうにかして方法を考えねえとな」
「そうだぜ!リザードマン如きに言い様にやられてたら、『あいつら』を見返すどころじゃねえよ!」
あいつら──黒髪のその言葉で、銀髪は数人の同族の顔を思い浮かべた。
その同族とは、オーガの里の次期棟梁・・・『若』と呼ばれる赤髪。そして彼とよく行動を共にする『青髪』、『紫髪』、『爺』、『鍛冶屋』、そして若の妹である『姫』のことだ。
銀髪と黒髪はオーガの里では少し有名な二人だった。それは並みのオーガよりも強いというだけでなく、この二人が里の者の中で特に悪辣だったからである。仲間(二人はそう思っていないが)のオーガたちとのいざこざなどはしょっちゅうで、暇潰しと言ってはゴブリンなどの自分たちより弱い種族をいたぶっては殺し、人間を見掛けると金目の物を奪い、機嫌が悪いと(あるいは良い時なのかもしれないが)そのまま殺めることもしょっちゅうだった。
そんな二人をいつも止めるのが、若と彼を取り巻くオーガたちだった。正確には若と姫と爺で、青髪たちは彼らに命じられれば止めに来る、といった感じだが。
若たちはいつも「オーガの誇りを汚すな」などと、二人からすればくだらないことを言っていた。「魔物は力こそ全て」、オーガより弱い種族などどうなると知ったことではない。そう主張する二人は若たちと決して相容れなかった。
銀髪たちがなにか問題を起こす度に若たちと一悶着を起こし、若か爺に叩きのめされる・・・・・・そんな日々が続いたある日、とうとう、銀髪と黒髪は里を抜けたのだった。いずれ力を付け、必ずあいつらを見返してやる・・・・・・そんな思いと共に。
だが、未だに若たちを越える力は身に付かず、それどころかリザードマンにすら苦汁を舐めさせられる始末。里の連中やあのリザードマンに復讐する為に、何か良い手はないかと銀髪が思案している、その時だった。
「──なら、俺の元へ来るか?」
突然、銀髪たちの背後から男の声が響く。二人が咄嗟に振り返ったそこには、仮面を付けた背丈の小さい男が立っていた。
「っ!?誰だてめぇ!」
「おっと、そう警戒するなって!俺の名は『ゲルミュッド』・・・あるお方に仕える上位魔人さ」
「じ、上位魔人だと!?」
慌てて武器を構えた黒髪を見て、『ゲルミュッド』と名乗った仮面の魔人はおどけたように両手を軽く上げる。目の前の男が上位魔人だと分かり驚く黒髪とは違って、平静を保ったままな銀髪は静かに、しかし警戒を解かずに訊ねた。
「・・・・・・その上位魔人が、俺たちに一体何の用だ」
「なに、お前たちの話が聞こえてしまってな・・・・・・手を貸してやろうと思ったんだよ」
「なんだと?」
訝しげに銀髪は眉を顰める。ゲルミュッドは短く笑うと、上げていた両手を下ろしこう言った。
「お前たち・・・・・・俺の部下にならないか?」
「・・・・・・なに?」
予想していなかった言葉に銀髪は僅かに戸惑う。そんな銀髪を気にもせず、ゲルミュッドは僅かに怒りを感じさせる声色で話を続けた。
「俺の部下になると言うのなら、里のオーガ共への復讐を手伝ってやろう。俺も、あの里の連中が気に入らなくてな」
「はっ、手伝うだぁ?なんだよ、三人であいつらをぶっ殺そうってのかよ?」
「間違い、という訳でもないが・・・・・・そうじゃない。お前たちに、名前をくれてやる。そう言ってるのさ」
「な、名前を!?」
ゲルミュッドの誘いの真意を、どこか馬鹿にしながら訊ねた黒髪だったが、名前をくれてやると言われた瞬間目を見開き驚いた。その様子を見て満足げに頷きながら、ゲルミュッドはさらに続ける。
「それだけじゃないぞ。どんな命令にも従う兵も貸してやる。そうだな・・・・・・とりあえず二、三千もいればいいだろ」
「三千の兵・・・!」
「ど、どうする銀髪・・・?」
銀髪の判断を仰ごうと黒髪がそちらに振り返る。その銀髪はと言うと、オーガであるプライドが邪魔しているのか、その提案に乗ることが出来ないでいた。そんな彼を見て、やれやれと呆れたようにゲルミュッドは息を吐いた。
「全く、お前らオーガときたら無駄にプライドが高くて参る・・・・・・なら、こういうのはどうだ?仲間になる、ではなく俺に雇われろ」
「雇う?俺たちを?」
「そうだ。俺は今あるお方に命じられ大きな仕事を抱えていてな、少しばかり手がいるんだ。よって、お前たちには仕事の手伝いと俺の用心棒を頼みたい」
「その報酬が、名付けと里への復讐の手伝いか」
「その通り!それが終わったら好きにするが良い・・・・・・さぁ、どうする?」
実はゲルミュッドは、銀髪たちが憎む里のオーガたちに名付けを拒否されていた。そのせいか少し態度を改め、ゲルミュッドはさらに条件を増やし勧誘する。銀髪は少し考えていたが、それなら飲み込めると自分を納得させ、やがてゲルミュッドを見て頷いた。
「・・・・・・・・・これを逃す手は無い。分かった、いいだろう。これより先、俺たちは貴方に従うと誓う・・・ゲルミュッド様」
「げ、ゲルミュッド様!俺もだ!だから名前を・・・力をくれ!」
銀髪はその場に跪き、ゲルミュッドに頭を下げる。それを見て黒髪も慌てて銀髪を真似て跪きゲルミュッドにそう頼み込んだ。二人は知る由もなかったが、若と呼ばれるオーガはゲルミュッドからの名付けを断っている。ゲルミュッドが信用ならなかったのと、そんな男の部下になるなどプライドが許さなかったのだろう。しかし、この二人のオーガはプライドよりも復讐を選んだのだ。
「くくく・・・・・・妙な光が気になって来てみれば・・・良い拾い物をしたぞ」
そんなオーガたちの内心など気にもせず。運良く手に入った二つの力を眺めながら、魔人が仮面の下で浮かべた邪悪な笑みは誰にも知られることはなく。
この時はまだ、ジュラの大森林にこのような悪意が蠢いていることを、私たちは誰も知らなかったのです。
出会ったことのない連中の話なのに、何故青娥視点で書かれているかはいずれ明らかになると思います。