転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
引換券はドブニキを選びました。
「カンパーーイッ!」
楽しげな声と共に、掲げられた樽型のジョッキがぶつかり合う。そこに注がれた果実酒をぐいっと呷り、一人のリザードマンが大きく息を吐いた。
「ぷはーっ!美味いのである!」
そう、ガビルである。
時刻は夜。リザードマンの住処である地下洞窟を出てすぐの湿地帯にガビルを始めとして数人が集まり、昼間の祝勝会を行っていた。杯に注がれた酒を一気に飲み干したガビルの姿にモスがテンションを上げる。
「おっ!いい飲みっぷりだぜガビル様!」
「ホッホッホッ・・・・・・勝利の美酒ですからねぇ。今夜の酒はさぞ美味しいことでしょう」
ガビル以外でこの場に集まっているのは、ガビルの部下である緑とモスに忍者。親衛隊長と爺さん。そして俺と青娥さんだ。
ガビルの部下たちはもっと人数を集め大きな宴にしようとしていたが、青娥さんと親衛隊長がガビルを調子に乗らせないようにこのメンバーだけにさせていた。それと俺が料理を作るつもりだったので、他のリザードマンたちに食べさせないようにするつもりでもあったらしい。
「はぁ・・・・・・あまり飲み過ぎないでくださいね、ガビル殿」
「ははは、まぁ今日くらいはいいんじゃねえか?親衛隊長」
浮かれまくっているガビルに呆れながら溜め息を吐く親衛隊長。そんな彼女を宥めながら、俺は酒ではなく果実水を口にした。今は魔物だし、異世界にいるのだから未成年がどうこう言うつもりはないのだが・・・・・・少し飲酒に抵抗があり今回は見送ることにしたのである。
「・・・・・・なんかごめんなガビル。俺だけ空気読めないみたいで・・・」
「いやいや、気にすることはないぞ!酒は無理強いさせるものではないからな。楽しめる者だけで楽しめば良いのである!」
少し申し訳無く謝る俺に、ガビルはからからと笑う。こういうところが仲間たちにも好かれているのだろうな。
「でも・・・・・・いつかはアクトくんと一緒にお酒が飲めると、私は嬉しいな~?」
「あ、あー・・・・・・その内・・・その内ね・・・」
そう言って俺とガビルの会話に割り込む青娥さん。酔っているように見えるが、多分演技なのだろう。顔色も普通だし。それよりそんなに迫られると勘違いしそうになるからやめて欲しい。外見はイケメンなランドルでも中身はただのオタク高校生なのだ。
「それにしても、やっぱりガビル様は凄いや!あの牛頭族と馬頭族を倒しちゃうなんて!」
「然り。流石はガビル様」
緑の言葉に忍者が頷く。リザードマン族の中でも特にガビルを尊敬しているらしいこの三人は、ガビルの活躍を我が事のように喜んでいた。
「そうですね、確かに私も驚きましたよ。ジュラの大森林で上位に位置する魔物を・・・・・・しかもその族長を倒してしまったのですからね」
「ふははははっ!そう褒めるな、爺にお前たち!それに馬頭族を倒したのはアクト殿であるからな」
「いやいや、アンタなら馬頭族だって倒せてたぜ!」
照れるガビルの肩を叩きながら、モスが彼のジョッキに酒を追加する。まぁ確かに、一対一の戦いなら族長メズにだってガビルは負けなかったと思う。
「はいは~い、その辺にしておいてくださいね。ガビルさん調子に乗っちゃいますので」
「む、むむ・・・・・・」
「大丈夫ですよ青娥さん。ガビルはそんなに馬鹿じゃないし、俺が付いてますから」
「・・・・・・アクト殿はあまりガビル殿を甘やかさないでくださいね?」
青娥さんにそう言った俺を親衛隊長はジト目で見つめてくる。別に甘やかしている訳ではないのだが・・・・・・やはりガビルには少し厳しい彼女に苦笑しつつ、青娥さんと親衛隊長に向け言った。
「ガビルは、今回みたいにしてれば問題無いだろ。相手を舐めずに、自分の力も過信せず戦う・・・青娥さんだって、一ヶ月前と比べたらガビルは凄い成長したと思うだろ?」
「んー・・・・・・まぁそうですね。実力的にも精神的にも一皮向けたのは認めましょうか」
「だってさガビル。だからお前は今のままで丁度良いんじゃねえかな」
「そう、であるか?しかし・・・青娥殿が先程言ったように、また浮かれてしまうやも・・・」
青娥さんから認められたことについては少し嬉しそうな顔をしたガビルだが、すぐに不安そうに俯く。普段は明るいガビルだが、ふと以前の失敗を思い出してしまうらしい。どうしたものかと考えた俺は、気休めにしかならないだろうがある言葉をガビルへ教えることにした。
「そうだな・・・それじゃ、俺の好きな言葉を教えるよ。『相手より強いと吠えるのではなく、相手を上回るのだと牙を剥け』・・・・・・自信は持って、だけど自惚れない。これを忘れずにいれば、きっと理想の自分でいられるんじゃねえかな」
「吠えるのではなく・・・牙を剥く・・・・・・武人の言葉だろうか。しかし、不思議と心に残る言葉だ・・・・・・アクト殿。その助言、有り難く頂戴するのである!」
その言葉にどこか感じるモノがあったのか、目を輝かせ頭を下げるガビル。まぁ、俺が考えた訳じゃないんだけどな・・・・・・しかしガビルがそんなに気に入ってくれるとは。流石、型月の李書文先生の言葉だぜ。
「アクト殿の言葉を胸に、もっと精進せねばなるまいな・・・・・・親父殿も、この程度では認めてくれぬようだし・・・」
再びガビルの表情が曇る。
実は昼間。牛頭族と馬頭族を倒したことをガビルは父親である首領に報告していた。俺もその場に居合わせていたのだが、首領はガビルの報告に対し「そうか」と非常にそっけない対応だったのだ。
きっと強くなったことを褒めてくれて、さらに自分のことを認めてくれるだろうとガビルは思っていた筈だ。首領の間を出て俺が声を掛けた時、ガビルは「この程度ではまだまだということか」などと言って笑っていたが、少なからずショックはあっただろう。
「・・・・・・その、首領も決してガビル殿を蔑ろにしている訳ではないと思います。ただ、一度立てた功績で浮かれてしまわぬように、あえて厳しくしているのかと」
落ち込んだ様子のガビルが気になったのか、視線を合わさずに親衛隊長が告げる。確証はないが、俺もそう思っている。あの首領が悪い人には見えないのだ。
「そうなのだろうか・・・」
「ホッホッホッ・・・心配なさらずとも、首領はちゃんとガビル様のことを見ておいでですよ」
「案外、ガビル様に嫉妬してるのかもしれないぜ?」
「あー、有り得るかも!だって今のガビル様、きっと全盛期の首領にだって負けてないもんね!」
「然り。益々冴え渡る槍捌き、見事の一言」
ガビルを励ますように爺さんたちが声を掛ける。それによって、ガビルの沈んだ顔に段々と笑顔が戻り始めた。
「そ、そう?そうであるか?・・・・・・ふ、ふっふっふ・・・そうだな!ならば、更に強くなって功績を作り、親父殿を驚かせてやるのである!」
「よっしゃ、アンタはそうでなくっちゃな!」
「よぉーし!お前たち、今日は飲み明かすぞー!」
「おーっ!!!」
元気なガビルの声が響くと、再び各自のジョッキに酒が注がれテーブルに賑わいが戻る。どうやら今日はとことんやるらしい。料理の追加が必要そうだ。
「ホッホッホッ・・・・・・アクトさんが来てから一段と賑やかになった気がしますねぇ」
「そうですね・・・・・・まぁ、ガビル殿の面倒を見てくれる方が増えたのは嬉しいですけど」
ちびちびと酒を飲みながら微笑む爺さんと、やや苦笑する親衛隊長。本当にそうなのかは分からないが、ガビルにとって良いことであるなら俺も嬉しい。
「ねぇアクトくん。明日はどうしましょうか?」
「んー・・・・・・そうですね、やっぱり『飛空法』の修行かな」
隣にやってきた青娥さんへそう返す。やりたいことは他にもある、というか増えたのだが・・・・・・それはとりあえず、『飛空法』を会得してからにしよう。
楽しそうに酒を呷るガビルたちを眺めながらそう思案し、俺は果実水を味わうのだった。
リザードマンたちはゴブリンたちより裕福な暮らしをしており、彼らよりドワルゴンへ足を運ぶ機会も多く、それなりに人間について知っているので「乾杯」という文化も知っているという解釈です。
・・・・・・多分この世界の人たちも乾杯はするでしょう、多分・・・