転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
梅雨、生きていたのか・・・?
アーマーサウルスを倒し、逃げ遅れたドワーフや人間たちを連れ鉱山から脱出した俺。怪我人がいるので動けない人に肩を貸したり、魔物を警戒しながら移動していた為に少し時間はかかってしまったが、それでも三十分もしない内に鉱山の外へ出ることが出来た。
鉱山から出ると、入口近くに先程見掛けた炭鉱夫たち以外の人が数名増えていた。全員剣や槍などで武装していることから、彼らが討伐隊なのだろう。
「あの兄ちゃんだ!皆を助けるために一人で鉱山へ入って行ったのは!」
「見ろ、ガルムたちだ!無事だったか!」
鉱山から出てきた俺たちに気付いた彼らは驚いた様子でこちらに駆け寄って来る。仲間の炭鉱夫たちを見て、俺の後ろに付いてきていたドワーフ・・・ガルムと呼ばれた男が手を上げて答えた。
「心配かけたな皆。とりあえず、全員生きてはいるよ」
「そうか、良かった!・・・・・・そうだ、アーマーサウルスはどうした!?」
「あ、そいつなら倒しましたよ」
「なんだって!?」
俺の言葉に討伐隊の人たちが驚く。見れば討伐隊は十名程で構成されているらしい。この人数で本来挑むような相手を俺のような少年が一人で倒してしまったと言うのだから仕方ないのかもしれない。ちなみに炭鉱夫のたちは信じて送り出してくれたからか、驚きよりも喜びの方が強いらしく歓声を上げた。
「この子が言ってることは本当さ。あっという間にボコボコにしちまったよ」
「まさか、たった一人でB-ランクの魔物を倒すとは・・・!」
「大したボウズじゃねえか!見ねえ顔だが、どこの冒険者だ?」
俺がアーマーサウルスを倒す瞬間をその目で見ていたガルムさんが討伐隊へそう告げたことで彼らも信じたらしい。改めて驚いたり、笑いながら肩を叩いたり、様々な反応をされながら話し掛けられた。
しかし会話を楽しんだのはほんの一瞬。仕事で来ている為、ギルドへ報告する内容を作るからとアーマーサウルスの死骸の確認と、他にも強力な魔物がいないか見てくると言って討伐隊の人たちは鉱山の中へ入って行った。
討伐隊のリーダーらしき人物に自分も手伝った方がいいかと訊ねたが、ここからは自分たちの仕事だからと言われたので後の事は彼らに任せた。そのやり取りのあと、鉱山の中へ向かって行く討伐隊の背中を見守っていた時、炭鉱夫の一人が悲痛な声を上げた。
「ど、ドルド!?なんてこった、その腕・・・!」
「はは・・・ドジ踏んじまったよ」
驚愕する仲間の炭鉱夫にドルドと呼ばれたドワーフは小さく笑う。驚くのも無理は無い。何故なら、ドルドさんの腕は千切れかかっているのだから。
「・・・・・・すみません、俺が見つけた時にはもう・・・」
ドルドさんの怪我はアーマーサウルスを倒したあとすぐに気付いた。なんでもアーマーサウルスの爪で切り裂かれたらしい。ゲームや漫画などではこんな怪我は何度も見たが、実際にこれだけの負傷は前世では見たことなどない。生々しい傷と流れる血に俺は少し呆然としていたが、なんとか気を保ち鉱山を抜け出したのである。
「ミルド、しっかりしろ!」
「ウッ・・・ウゥ・・・!」
ドルドさんから少し離れた場所で、ガルムさんが全身傷だらけのスキンヘッドなドワーフへ呼び掛ける。ミルドと言うらしいそのドワーフもアーマーサウルスによって負傷しており、とても自力で歩ける状態ではなかったのでガルムさんの肩を借りながらここまで来たのだ。ミルドさんはガルムさんの呼び掛けに、痛みからか呻くような声を返すことしか出来ないようだった。
「・・・・・・兄ちゃんが気にすることじゃねえぞ。寧ろお前のお陰でこのくらいで済んだんだ。だからそんな顔しないでくれ」
後ろから声を掛けられ振り向く。そこには鉱山に入る前に会話をした頭にタオルを巻いたドワーフが立っていて、優しい笑みを浮かべていた。
「そいつの言うとおりだ。アーマーサウルスに襲われて、重傷者がたった二人で済むなんて普通は有り得ないんだぞ。骨折してる奴もいるけど、ほとんどの連中は軽傷で済んでる。キミのお陰だよ」
そう言って、腕を抑えながらドルドさんが俺を見つめる。どうやら俺は随分と酷い顔をしていたらしい。少なくとも、大きな怪我を負った人に心配させてしまう程には。
「仲間を助けてくれて、ありがとな!」
「っ・・・・・・・・・いえ。とりあえず、全員生きて連れ帰ることができて、良かったです」
微笑むドワーフの顔を直視出来ずに俺は堪らず俯き、それでもなんとか声を絞り出す。しかし、すぐに顔を上げドワーフに訊ねた。
「そ、そうだ!この人たちの手当てをしないと・・・・・・回復魔法を使える人は・・・それか回復薬はないんですか?」
「あぁ、それなんだが・・・・・・戦争の準備とかなんとかで回復薬は今足りてないんだ。神聖魔法を使える奴なんてそもそも少ないし・・・」
俺の言葉にそう答えながら、今度はドワーフが俯く。鉱山の中では手当てなんて出来ないのでとにかく急いで外へ出た訳だが、まさか治療するアテが無いとは。このままではドルドさんの片腕が使えなくなってしまうかもしれない。
「こうなったら青娥さんを探すしかねぇな・・・・・・頼ってばかりで申し訳ないけど、それでも、この人たちを見捨てるのは・・・」
「おぉーーーいっ!!!」
最後の手段として青娥さんに頼るしかないと考え始めたその時だった。どこからか男の大声が響き、その場にいた全員がそちらへ振り向く。そこには討伐隊よりは少ないが、大きな樽を背負ったドワーフらしき男を先頭に同じ装備をした男たちがいた。
「あれは、カイドウさんじゃないか!」
「カイドウ、さん・・・知り合いですか?」
「あぁ、ここドワルゴンの警備隊隊長さ。俺たちがよく世話になってる人だよ」
俺の問いにドルドさんが答える。警備隊、ということはそのカイドウという人の後ろにいるのは部下たちなのだろう。あの兜と鎧は警備隊共通の装備なのかもしれない。
「ガルム!ドルド!ミルド!お前ら無事・・・・・・じゃねえ!?ドルド、その腕は・・・」
こちらに駆け寄ってきたカイドウさんがドルドさんやミルドさんの怪我を見て目を見開く。そんな彼にドルドさんは苦笑で返し、ガルムさんが動けないミルドさんの分まで、かは分からないがカイドウさんに声を掛けた。
「わざわざ来てくれたのかい、カイドウさん?」
「当ッたり前だろ!俺にとってお前らは兄弟同然だ!アーマーサウルスに襲われたなんて聞いちゃあ・・・・・・ん?そうだ、アーマーサウルスはどうした?お前らがもう鉱山から脱出出来てるってことは、討伐隊がもうやったのか?」
声を荒らげていたカイドウさんだが、助けに来た目的のガルムさんたちが既に救助されていることに遅れて気付き目を丸くする。そんな彼を見てガルムさんは少し笑って答えた。
「確かにアーマーサウルスは討伐されたけど、それをやったのは討伐隊じゃない。ここにいるアクトくんですよ」
「なにぃ!?まさか、アーマーサウルスを一人で倒したってのか!?」
ガルムさんの答えにカイドウさんは驚きながら俺をまじまじと見る。そんな彼に少し気圧されながらも、とりあえず俺は自己紹介をすることにした。
「あー、一応・・・・・・えっと、初めまして。アクトです」
「へぇ、若いのに大したモンだ!俺はカイドウ。この国で警備隊をやってる・・・・・・・・・って、んなこと言ってる場合じゃねぇ!ドルド、ミルド!」
笑顔で自己紹介をしてくれていたカイドウさんだが、ドルドさんたちの状態を思い出し慌てて彼らに向き直る。そして悲痛な面持ちで彼らの傷を見た。
「こりゃ酷ぇ・・・!これじゃ、もう鍛冶なんて・・・」
「はは・・・・・・いいんだカイドウさん。命があるだけ儲けもんだよ」
「・・・・・・・・・いや、まだだ。まだなんとかなるかもしれねぇ!」
まるで自分に言い聞かせるように呟きながら、カイドウさんは抱えていた樽をどすんと地面に置いた。それがなんなのか気になっていた俺やガルムさんたちの視線が樽に集まる中、カイドウさんは乱暴に樽の蓋を開けた。
「カイドウさん、これは?」
「ポーションだ!・・・・・・多分」
樽の中いっぱいに入っていたのは綺麗な色をした液体だった。それが何かガルムさんに訊ねられたカイドウさんは少し口ごもりながら答える。
「た、多分って・・・・・・大丈夫なんですか?」
「それに、それだけの量のポーションどこから手に入れたんだい?今は戦争だとかでそういうの足りてないんだろう?」
「んー・・・その、なんだ。色々あってな・・・・・・とにかく、不安がる気持ちは分かるが、今は他に手がねぇんだ。行くぞ!」
俺とガルムさんの問いにはっきりと答えず、カイドウさんはポーションらしき液体を手で掬い、それをドルドさんの腕にかけた。ポーションってかけるモノなのか?そんなことを俺が思った次の瞬間、驚くべきことが起こった。なんとドルドさんの腕に掛けられた液体が自然に弾け、傷口に降り注いだのである。そしてあっという間に千切れかけていた腕がくっ付き、傷が完全に癒えたのだ。
「・・・・・・は?えっ・・・!?」
「こ、こいつぁ・・・!」
目の前で起こった信じられない光景に、ドルドさんだけでなくカイドウさんも・・・いや、この場にいる全員が呆然とする。一瞬の内にあれだけの怪我が治るなんて、まるで魔法だ。青娥さんの神聖魔法より凄いかもしれない。
「う・・・動く・・・・・・腕が動くぞ・・・痛みも全く無い・・・!な、治ったー!」
「おぉおおお!こりゃすげえや!あのスライム、大した野郎だぜ!」
「スライム?」
腕が完全に治ったことに遅れて喜び、ドルドさんは飛び起きるように立ち上がって声を上げた。ドルドさんと同じくらい喜んでいたカイドウさんだが、彼から気になる単語が聞こえ俺は思わず繰り返す。今、スライムって言ったのか?まさか、あのポーションはスライムが作った物なのだろうか?
そんなことを俺が考えている間にカイドウさんはポーションを怪我人たちに掛けていく。するとたちまち怪我人全員の傷が治っていった。
「す、すげぇ・・・・・・さっき出来た傷どころか、持病の腰痛まで治っちまった・・・」
「ウッ!」
「大丈夫かミルド!良かった良かった!」
「ウッ!ウッー!」
怪我が治った人たちは全員ポーションの効能に驚いているようだ。切り傷だけじゃなく骨折や腰痛にまで効くなんて、流石ファンタジーだな。ちなみにミルドさんも完全に回復したのだが、どうやら元々あのようにしか喋らないらしい。
「ふぅ・・・・・・これで全員大丈夫だな」
「助かったよカイドウさん!あのポーションがなかったら俺の腕は治らなかった!ありがとう!」
「へっ!気にすんなよドルド。お前らは俺にとって弟みてぇなもんなんだ。助けるのは当然よ!」
ドルドさんに感謝されたカイドウさんは少し照れ臭そうにそう返す。他の炭鉱夫たちにも囲まれ礼を言われていた彼だが、少し離れたところから様子を伺っていた俺を見つけると笑顔を浮かべながら近寄って来た。
「おう兄ちゃん・・・アクトだったな。さっきはちゃんと話出来なかったけどよ、お前さんがアーマーサウルスを倒してくれたってことは、こいつらの命の恩人ってことだよな?礼を言うのが遅くなっちまったが、ありがとよ!」
「いや、気にしないでください。困った時はお互い様ですし」
「わはははっ、良いこと言うじゃねえか!」
カイドウさんは笑いながら俺の背中を叩く。け、結構力強いなこの人・・・いや、ドワーフだからこんなもんなのか?前世の体だったら全身バキバキにへし折れてたと思う。
「そうだ、礼と言っちゃあなんだが・・・なにか困ってたりしてないか?俺に出来ることならなんでもしてやるぞ!」
「なんでも・・・・・・あの、それじゃあ魔鉱石を頂けたりします?」
「・・・・・・魔鉱石」
魔鉱石という単語でカイドウさんの動きが止まり、その顔から笑顔が消える。それだけでなんとなく答えを察した俺だが、とりあえずカイドウさんの返事を聞くことにした。
「す、すまんアクト・・・・・・この国は今、ポーションだけじゃなく魔鉱石も足りてねぇんだ・・・」
「実は俺たちは鍛冶師なんだが、注文された武器を作る素材である魔鉱石が無くてな・・・それで、そいつを採りにこの鉱山まで来たんだが・・・」
申し訳無さそうに答えるカイドウさんに続いてガルムさんがそう言った。鉱石を扱う職業のガルムさんたちですら足りないというのだから相当なのだろう。割りと軽い気持ちで魔鉱石を探しに来たけど、手に入れるの結構苦労しそうだな、これ・・・
「そ、そうですか・・・・・・ん?ちょっと待てよ・・・今ガルムさん、鍛冶師って言いました?」
「え?あぁ、そう言ったが・・・」
「なんだアクト、鍛冶師も探してたのか?それならツイてたな。ガルムたちはこう見えて凄腕の鍛冶師なんだぜ!」
「マジですか!?よっしゃ!」
カイドウさんの言葉に思わず俺は小さくガッツポーズする。魔鉱石の入手が難しいのは残念だが、腕の良い鍛冶師が見つかったのは確かに幸運だった。魔鉱石については後回しにして、ガルムさんたちに鍛冶を教えて貰うことにしよう。
「なんだかよく分からないが・・・仕事が終わってからでいいなら喜んで力になるよ」
「とは言っても、鍛冶しか俺たちは出来ないし・・・それに、腕だってカイジンさんには劣るけどな」
「ウッ!」
ガルムさん、ドルドさん、ミルドさんたちから無事に(ミルドさんは何と言っているのか分からないけど)了承も取れた。カイジンさんという人も気になるが、今はガルムさんたちとコネが出来ただけでヨシとしよう。
さて。ガルムさんたちは仕事があるそうなので、すぐに鍛冶を教えてもらうという訳にはいかないようだ。どれくらいかかるか分からないが、それまで時間が出来てしまった。
「んー・・・・・・あ、そうだ。カイドウさん、お願いがあるんですけど」
「おっ、なんだなんだ?魔鉱石の代わりって訳じゃないが、なんでも言ってくれ」
あることを思い出しカイドウさんに話し掛けると、彼はそう言って胸を叩いた。ガルムさんたちの仕事もそうだし、魔鉱石を手に入れるのも時間がかかるかもしれない。どうせすぐには目的を果たせないだろうと思い、俺は先程から気になっていた件についてカイドウさんに訊ねることにしたのだった。
「さっき言ってたスライムについて、教えてくれませんか?」
次回、いよいよ原作主人公と遭遇です